広告:まりあ†ほりっく2(MFコミックス)
[携帯Top] [文字サイズ]

■夏の日の想い出・受験生の秋(2)

[*前p 0目次 8時間索引 #次p]
1  2  3  4 
前頁 次頁 時間索引目次

↓ ↑ Bottom Top

出番が終わった後、そのまま自然解散し、客席にいた政子を見つけ、一緒に面談室に行って、服を交換した。ボクはいったん学生服に戻る。また明日もよろしく、などと言ってボクは少し校内を散策した。
 
今日は校外から外部の人もたくさん来ている。ボクは普段は学生服着てるのに女子トイレを使っていたが、他の人がびっくりするので、今日明日は職員玄関の近くにある男女共用の多目的トイレを使ってくれるよう、先生から言われていた。元々そこを使うように言われていたのが、女子の友人達に連れ込まれて、実質的にいつも女子トイレを使っているので、ここはめったに使っていなかった。
 
ちょっとそのトイレに寄った後、校庭を歩きながら太陽の光をいっぱい全身に受け止める。これって気持ちいいよなあ、と思う。ただ、こういう時、どちらかというと女の子の服を着ているほうが、気持ち良さが上だ。女の子の服は開放的で、自然とそのまま接触できる感じ。ボクはこの時期、月に十数曲程度のペースで曲を書いていたのだけど、女の子の服を着ている時の方が良い発想が得られるのを感じていた。自然の刺激がそのまま身体の中に入ってきて、曲が生まれるような感覚があった。
 
↓ ↑ Bottom Top

政子見つけて五線紙もらおうかな。このイメージで曲が書ける・・・・などと思った時、少し先の方の木の陰に男女の姿があるのに気付いた。女の子の方は琴絵だ! 一緒にいる学生服の男の子は兄弟?彼氏?琴絵には弟がいた筈だが、まだ小学生だった筈。そしたら彼氏だろうか。
 
邪魔してはいけないと思って戻ろう、と思った時のことであった。琴絵がボクに気付いた。そして、何と!ボクの方に向かって走ってきた。え?その後を彼氏?が追いかけてくる。彼氏も最初は虚を突かれた感じだったものの、琴絵より足は速いので追いつかれそうだ。ボクは琴絵を保護した方が良さそうだと思い琴絵の方に走り寄った。
 
琴絵はボクの胸に飛び込んでくるかのようにぶつかってきた。がっしりと受け止める。「どうしたの?」
 
↓ ↑ Bottom Top

「おい、誰だお前?」
と追いかけてきた男の子が言った。
 
「私のボーイフレンドよ」と琴絵はボクの胸の中から首だけ振り返って言った。うーん……確かに嘘ではない。琴絵とは友達だし、一応ボクは男の子でもある。
 
「なんだ、お前?長髪で。女みたいな奴だな」
うむむ。ボクは本人自覚的には確かに女なんだけどね。
 
「いいじゃん。私、この人ともうキスしてるんだから」などと琴絵。
それは嘘だ!琴絵とキスしたことはないぞ。
 
「ほんとにか?おい、お前、琴絵を賭けて喧嘩しないか?」
なんなんだ〜?それって。漫画とかじゃあるまいし。
 
「そんな必要は無いよ」とボクは最近ではめったに使わない男声で言った。
「ボクはコトを愛してるし、コトはボクを愛してる。それで充分。君は帰ったら?」
琴絵が『へー』という感じでボクを見ている。ボクはその男の子をしっかりと見つめ、視線を逸らさない。
 
↓ ↑ Bottom Top

「気安く愛してるとか言うな。。。お前、本当に琴絵の彼氏なのか?証拠はあるか?」
「証拠はこれだ」
とボクは言うと、抱き合っている形になっている琴絵を再度しっかり抱きしめると、その唇にキスをした。琴絵がギョッとしたのは感じだが特に抵抗はしない。
 
気配で相手が呆然としているのを感じる。ボクは琴絵に10秒ほどキスをした。そして唇を離す。
 
「そういう訳だから、帰りなよ」とボクは男の子に言った。
「分かった。覚えてろよ」と彼は捨て台詞を吐いて、去って行った。
 
「大丈夫?」とボクは(女声に切り替えて)琴絵に言った。
「うん。ありがとう」と琴絵は言ったが、その時、ボクも琴絵も、抱き合っていることを思い出した。
 
↓ ↑ Bottom Top

「ご、ごめん」
といって身体を離す。
 
「ううん。私の方から冬の胸に飛び込んだんだもん」
「キスまでしちゃった。もし琴絵のファーストキスだったら、マジごめん」
「大丈夫だよ。私、ファーストキスは小学生の時に経験済み」
「それならよかった」
「でも、冬ってさすがキスうまいね」
「え?『さすが』って・・・」
 
「政子とはキスしてるんでしょ?」
「うん、まあ・・・・誰もいない所で会えば必ずキスする程度の関係かな」
「だよね。このキスは内緒にしとこ。政子に嫉妬されるから」
「あはは。確かにマーサに嫉妬されるかもと思いながらキスした。御免ね」
 
「でも助かった」
「たまたま学生服着てて良かった。さっきまでコーラス部の出番で女子制服を着てたのに」
「女子制服じゃ、今のはできなかったね。でもごめんね、男の子みたいなことさせちゃって」
 
↓ ↑ Bottom Top

琴絵らしい言い方だなと思った。普通の子なら「冬ちゃんって意外に男らしい面もあるのね」なんて言われて、ボクとしては少し傷ついたかも知れない。
 
「ううん。ちょっとお芝居でもしてる気持ちになってしたから」
「なるほど」
「それでここはキスする場面だと思ったんだ」
「そっか!」
 
ボクたちはそのまま少し散歩しながら話していた。
 
「元彼?」
「うん。1年生の時に恋人だったんだよね。他の高校の子だよ。塾で席が近くて少し親しくなったんだけど。でも彼とは実はキスもしていない」
「へー」
「私が忘れられなくてとか言って。よく言うわ。他に彼女作って私を振った癖に」
「へー。じゃそちらと別れちゃって、前の恋人の琴絵を思い出したとか?」
「たぶんそんなもの」
「恋愛って何か難しい」
 
↓ ↑ Bottom Top

「恋愛中の人からそう言われてもな」
「恋愛中って?」
「え?だから政子とは恋人だよね?」
「うーん。そのつもりはないけどなあ・・・・」
「恋人のつもりでもないのにキスするの?」
「親愛のキスって、ボクも政子も言ってるけど」
「そんなの聞いたことない!」
 
ボクたちはそのあと、文化祭のことや、他のことなどで会話しながら校舎まで戻った。くっついてると政子に嫉妬されそうだからなどと言って、琴絵はボクと違う方向に歩いて行った。
 
翌日もボクは政子から借りた女子制服でステージに立った。今日も部長の来美の指揮(指揮しながらしっかり自分でも歌っている)で、2曲演奏した。やはりステージに立って歌うのは快感だ。このあとは12月にクリスマスコンサートで歌うので最後だけど、ボクはまた歌手として大勢の前で歌いたいという思いをまた新たにした。
 
↓ ↑ Bottom Top

ステージが終わってから今日はいったんみんなで部室に戻り、お疲れ様でしたと言い合った。3年生ではもう今日が最後という子も多い。手を取り合って涙を流している子もいる、と思ったらボクも何人かと手を取り合って、お互い頑張ろうねなどという言葉を交わしたりした。
 
その後で政子を見つけて、一緒に面談室に行き、着替える。
「12月にクリスマスコンサートに出る時にも貸して」
「いいよ」
その時政子がふと思いついたように言った。
 
「・・・・ね、冬、学生服に戻らないで、今日はこの女子高生風の服、着ない?」
「えー!?」
「だって文化祭だもん。わりと適当だからさ、今日は」
「うーん。そうだね」
 
政子が制服、ボクが女子高生風の服を着て、しばらく校内を散歩した。
 
↓ ↑ Bottom Top

「久しぶりだね。こんな感じで一緒に歩くのは」
と政子から言われて、昨日琴絵と少し散歩したことにボクは後ろめたさを感じた。
 
「うん。でも去年の今頃は殺人的なスケジュールだったから、あれこれ考えてる暇も無かったよ」
「でもさ昨日はコーラス部の出番終わった後で学生服に戻ったでしょ?トイレどうしてたの?」
 
「それなのよ。ふだんのように女子トイレ使ってたら、同じ学年でボクのこと知ってる子ならいいけど、外部の人が女子トイレでボクを見たら、悲鳴上げちゃう」
「で、悲鳴あげられて警察に捕まったとか?」
 
「まさか。職員室のそばの多目的トイレ使ってたよ」
「そういえば、冬って、元々そこ使うように言われてたんだっけ」
「そうそう。ほとんど使ってないけど」
 
↓ ↑ Bottom Top

(本来の自分たちの所属である)書道部をのぞく。ボクと政子が書いた作品も張り出してある。政子は「長恨歌」を書いている。かなりの面積を取る大作だ。「よくこんなに書く時間あったね」と言ったら「勉強の合間の気分転換」などと言っていたが、これを書いている合間に勉強していたのでは?と思った。ボクは百人一首にも採られている紫式部の歌を書いていた。政子が「女性的な字を書くよね。1年生の時から思ってたけど」などとボクの書を見て言った。
 
2年生の新部長・翠(みどり)が寄ってきたので
「ごめーん。全然こちらに顔出してなくて」
と政子の方から声を掛ける。
「いえ、どうせふだんの日でも誰も部室にいないから」
と彼女。部屋にいるのは彼女と顧問の秋田先生だけで、客の姿も無いが部員の姿も全く無い。
 
↓ ↑ Bottom Top

「そちら、お友達ですか?」
「冬だよ」
「え?あ!気付かなかった。冬子先輩だったのか!」
「頑張ってね」
 
「ローズ+リリー御来店、とかいってサイン色紙を貼りだしたい感じだ」
「ラーメン屋さんじゃあるまいし!」
「サイン書けないんですよね」
「あ、えーっと、秋田先生、携帯をお持ちですか?」
「うん」
「ちょっとだけ借りられます?」
「いいよ」
 
ボクは先生から携帯を借りると、★★レコードの秋月さんに電話して、高校の文化祭なのだけど、自分達が所属している書道部のためにローズ+リリーのサインを書いてもいいか?と尋ね、快諾をもらった。
 
「OK」と言って指で○印を作る。先生に御礼を言って携帯を返した。「わーい。色紙、あったはず」と言って翠が色紙を取り出してきたので、ボクと政子は一緒にその色紙にサインを書いた。
「目立つ所に貼ろう」などと言って、入り口のそばに張り出していた。
 
↓ ↑ Bottom Top

「一応、秋月さんに個別許可をもらったら書いてもいいことになってるんだ」
「へー」
「6月にはアルバムの発売に合わせて300枚限定で書いて、イベントで抽選で配ったけどね。東京と大阪で100枚ずつ、仙台と福岡で50枚ずつ」
「300枚書くのはけっこうしんどかったね」
 
「ほんとに自分たちで書くんだ!スタッフの人の代筆とかじゃないのね」
「アイドルとかほどじゃないからね」
「300枚書いてお金いくらかもらえるんですか?」
「無料」
「サインはサービス」
「えー!?」
「でもボクたちは印税でお金はもらってるから」
 
「こないだあのサイン、ヤフオク見たら2万円で落札されてたよ」と政子。
「ぎゃー」
「今回のサインは去年使ってたサインから少しだけ変えたのよね」
「それで逆にプレミアム付いたみたい。数も少ないし」
「わあ」
「去年のサインも1万円の値が付いてたよ」
「駅に貼ってたポスターが大量に盗まれたらしいね」
↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁 時間索引目次

[*前p 0目次 8時間索引 #次p]
1  2  3  4 
夏の日の想い出・受験生の秋(2)

広告:放浪息子(3)-BEAM-COMIX-志村貴子