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■夏の日の想い出・高2の秋(3)

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「完成!」
「できたね。立ってみて」
 
ボクはその状態で立ってみた。
 
「うん。女の子の股間に見えるよ」
 
鏡に映してみる。これが自分の身体だって信じられない。ボクは記念写真を撮りたいなどと言われて上半身も脱ぎ、プレストフォームを装着したボディを顕わにした。政子がデジカメで撮影する。
 
「くれぐれも流出させないでよ」
「大丈夫。私を信じて。私パソコンには強いんだから」
 
政子は女の子にしてはそういうのに強い。ネットでの検索でも、ボクが思いつかないような巧みな方法で、ブレストフォームやタックのことも調べだしてくれたのだった。
 
「マーサって理系女子だよね」
「性格的にはそうかなって自分でも思う。でも数学が毎回赤点ギリギリだからなあ。化学とかも、元素記号ぜんぜん覚えきれないし」
 
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この最初にやったタックは、水に濡れると、すぐ外れる!という重大な欠陥が見つかってしまった。ボクたちはいろいろ調べて防水テープを使えばいけそうという情報をつかみ、午後からそれを買いに行ってきて、再度やってみた。
 
実験と称して、お風呂に入った。
「2時間くらいお風呂にいても外れなかったら大丈夫じゃない?」
「2時間も何してればいいの?」
「私も付き合ってあげるよ」
 
と言って、政子は自分も服を脱いでしまった。政子のヌードを見るのは初めてだったので、ドキっとした。
 
「ね?今欲情してる?」
「ごめん。してない。きれいな身体だなって思った。おっぱいボクのより大きいし」
「褒め言葉なのかな。ありがとう。でも私はたぶん冬にとって恋愛対象じゃないんだろうな」
「そんなことはないけど、マーサとはお友達のままでいたいから」
政子が頷く。
 
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「女の子の友達同士なんだから、お風呂場で一緒におしゃべりしてもいいよね」
「温泉ならまだしも、家庭のお風呂に一緒に入るのは少し珍しいかも」
「ま、そうかな。このワザを半月前にマスターしてたら、リュークガールズの子たちと一緒に温泉に入れたね」
「あはは」
 
などと言いながら、ボクたちは結局お風呂場で2時間一緒に過ごしたのだった。
 
「でも、このブレストフォーム、ちょっと見には本物のおっぱいに見えるよね」
などといって政子はボクの胸に触る。
「触った感覚も本物そっくり。ほら、私のに触ってみて」
などと政子はボクの手をつかんで自分の胸に触らせた。
「あ、ほんと。感触ほとんど同じだね」
 
「ね、今私の胸に触って欲情した?」
「ごめん。してない」
 
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「欲情してないって答えるのに、いちいち『ごめん』と言う必要無い」
「いやその・・・マーサが女の子として魅力的じゃないという意味じゃないから」
「へー」
「マーサは魅力的な女の子だと思うし、ボク政子のこと好きだけど、あくまで、お友達としてだから」
「私も冬のこと、好きだよ。お友達としてだけど」
「ありがと」
 
「ね、ここはキスする場面だよ」
「え?そうかな」
と言いながら、ボクは政子の唇にキスをした。
「友情のキスだよ、誤解無いように言っておくけど」
「分かってるよ。こちらもそのつもりだよ」
 
思えばその時から後、3年間にわたって、ボクたちは「自分たちはお友達」というスタンスを維持し続けた。もっとも最初にこんなことをしてしまったので、その後はお互いの身体に触っても全然平気な感覚になってしまったのだが。
 
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2時間一緒にお風呂に入り、中でけっこう悪ふざけなどしたりもしたが、それでも防水テープのタックは全くゆるまなかった。「これは行けるね」とボクたちは話し合い、実際にはこの上に水着用のアンダーショーツを付け、それから水着を着ることにした。
 
ボクらは須藤さんに電話して「見て欲しい」と言い、夕方、須藤さんに政子の家まで来てもらった。ボクの水着姿を披露する。
 
「へー。女の子のボディに見えるじゃん。これならグッド」
「冬って、喉仏はあまり目立たないからそのままでいいですよね」
「うん。喉仏は手術とかする必要無いよ。おちんちんはどうしたの。手術して取っちゃった?」
「手術してません。テープで留めて目立たないようにしてるだけです。お風呂に2時間入ってみましたが、大丈夫でした」
「なんだ残念。でもそれだけ実験してるなら大丈夫ね」
 
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政子は水着や各種小道具の領収証を見せて
「結局6万6千円ほど掛かったんですけど」
と言ったら、須藤さんは「ごめん、ごめん。あと2万渡すね」といって渡してくれた。
「端数は、御苦労様代で取っておいて」
「ありがとうございます」
 
27日の発売日には午前中、FM局に行って、全国ネットでボクらのCDを流してもらった。また都内のHNSレコード店頭でミニライブをして『その時』と『遙かな夢』
を歌った。店頭サイン会もしたが、けっこうな列が出来た。
 
「新人さんで、事前告知も水曜日からだったのに、こんなにサイン会に人が集まるのは珍しいですよ。あなたたち売れますよ」
などとレコード店の人が言っていた。プロモーション用のポスターでさえ、前日に貼ったなどという、泥縄のミニライブだった。
 
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ミニライブが終わった後で、政子と一緒に多目的トイレに入って、そこで協力してボクのタックをして、そのまま水着も着てしまった。その上にふつうの服を着て、須藤さんの車で、埼玉県の屋内プールに向かった。
 
今日出演する4組というのは、演歌の男性デュオが1組、演歌のソロの女の人が1人、女の子4人組のアイドルが1組で、ボクらは3番目の出演であった。4人組アイドルがトリである。30歳くらいの演歌の女の人、そして4人組アイドルの女の子たちと同じ控え室になり一緒に着換える。ただしボクは最初から水着を着込んでいるから、上の服を脱ぐだけである。この4人組もなかなか賑やかで、物凄い勢いでしゃべりまくっている。ボクたちふたりも、そのおしゃべりの輪の中にあっという間に取り込まれてしまった。政子は例によってこういうのが好きではないので逃げ出したそうにしていたが、先日叱られたばかりなので、今日は我慢している。
 
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「わあ。ケイさんって、魅力的な声」
「ちょっと中性的よね」
「えっと・・・こういう声も出るよ」
「わあ、トーン高い。よそ行き用の声ですね」
「そうそう」
 
「でもおふたりすごく仲良しっぽい。レズですか?」
「違うよ−。友達だよ」
「怪しいよね」「うんうん」
 
ボクたちが今日事実上のメジャーデビューだと聞くと「わあ、頑張ってね」などといって、落ち着いて歌えるようにおまじないのハグなどと称して4人が各々ボクと政子をハグしてくれた。むろん双方、水着の状態である!でも水着で抱き合ってもボクは変な気分になったりはしなかった。
 
やがてイベントが始まる。最初は演歌のソロの女の人。水しぶきの掛からない場所で、振袖を着て歌う。次に演歌の男性デュオ。こちらは黒いスーツを着て蝶ネクタイをしている。やはり水しぶきのかからない場所で歌っている。
 
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「ね、冬。自分の理想型として振袖着て歌うのと、スーツに蝶ネクタイってのと、どちらがいい?」
「うーん。演歌を歌う気はないけど、スーツより振袖かなあ」
「やっぱり、冬、女の子の意識になってるよね」
「えーっと」
「さ、出番、出番」
 
ボクたちは、演歌デュオが歌っている間にプールの左右に分かれた。その歌が終わったところで、両側からプールに飛び込む。そして中央のステージまで泳いでいくと、ピタリ同時にプールから上がってマイクの所に行った。
 
「こんにちは!ローズ+リリーです!」と叫ぶと観客から大きな歓声が上がった。
 
2日前に思いついた演出だった。ふたりで同時に上がれるように、前日近くのプールに行ってペースを合わせる練習をした。本番では相手のペースを目で確認できないからお互いを信じるしか無かったが、実際ほぼ同時にステージそばに到着し、そのまま同時に上がることができた。「えー!?」といった感じの驚いている声が観客のほうから上がっていた。これが成功したことで、観客の心をうまくつかんでしまったようだった。
 
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そのまま、ふたりで『その時』を歌う。観客から手拍子が来る。よし。いいノリだ!続けて『遙かな夢』。ポップで明るい16ビートの『その時』に比べて、『遙かな夢』
は切ない感じのスローロックのリズム。ボクらはバックバンドの人たちの情感のこもった演奏に合わせて、甘酸っぱい歌を全力で歌い上げた。観客もゆったりした手拍子。
 
やがて終曲。深々とお辞儀すると、割れるような拍手と歓声が来た。ボクと政子は手を取り、反対側の手を高くあげて、その歓声に応えた。ステージから降りてさあ次はラストの女の子4人組《ELFILIES》・・・と思ったら、進行係の人が来て拍手が凄まじいので、もう1曲歌って欲しいと言う。
 
「えー?でも何を」
 
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バックバンドのリーダーの人もステージから降りてきて話に参加する。「ふたりの愛ランド、演奏できますか?」と政子がバンドの人に訊いた。
「チャゲと石川優子?」
「そうです。私達、そのカバー歌ってるんです」
「あれなら行けると思う」
「じゃお願いします」
 
ということでバンドの人たちと一緒にステージに戻った。
 
割れるような歓声の中でボクたちは「ふたりの愛ランド」を熱唱した。歌い終わってボクは「それでは、ファンの方、お待たせしました。いよいよELFILIESです!」
と言うと、政子と頷きあって、ステージからプールに飛び込む。そして、そのまま岸に上がって手を振って下がった。また凄い拍手。そして、その拍手の中、ステージにスモークが焚かれレーザー光線が飛び交って、その中から ELFILIES が登場。彼女らのヒット曲を歌い始めた。
 
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控えスペースの方に引き返してくると、須藤さんが興奮していて、私達ふたりをハグした。こちらは水着で泳いできたばかりだったが、須藤さんは自分の服が濡れるのも構わず抱きしめる。このイベントに派遣されてきていた★★レコードの吾妻さんが
「すげー。君たち、ほんと凄いね。インパクトが凄かったし、歌もうまいし。物凄い新人が出て来たって、上司に報告しますよ」
とこちらも興奮して言ってくれた。ステージは僕たちの歌で盛り上がった聴衆がそのままノリのいい曲の多いELFILIESでもたくさん手拍子を打ってくれて、物凄い盛り上がりのまま幕を閉じた。
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夏の日の想い出・高2の秋(3)

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