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■夏の日の想い出・誕生と鳴動(6)

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「だけど今回のメンツに近藤さんが多い」
とも政子は言っていた。
 
「スターキッズの近藤嶺児・七星夫妻、スタッフの近藤詩津紅・妃美貴姉妹、それにダンサーの近藤うさぎがいるからね」
 
「近藤嶺児さん以外は女の子だ」
「まあ全体的に女子が多い」
「近藤うさぎさんも女の子になっちゃったことだし、近藤嶺児さんは女の子になったりはしないの?」
 
「それは勘弁して〜」
と本人は笑って言っている。
「私は別に嶺児が性転換して女性になってもいいけど」
と七星さん。この人も結構バイっぽい。
「あ、七星さんの許可も出たことだし、とりあえずスカート穿いて女装の練習を」
と政子。
「いや、いい」
と嶺児。
「女装したことないの?」
「寝ている間に女物の服を着せられてお化粧されていたことならある」
 
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「ああ、それはマリちゃんも常習犯だな」
と私は横から言う。
 
「女装の嶺児さん、可愛かった?」
と政子は七星さんに訊いている。
「うーん。気持ち悪かったけど、何度もやっていればその内、慣れて可愛く見えるようになるかも」
「じゃやはり女装やお化粧の練習しましょう」
「遠慮しとく」
 
「マリちゃんってみんなに女装を勧める」
と言って近くに居た鷹野さんが笑っている。
 
「『男子絶滅計画』ですね」
 

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一行は6月4日(木)の11:00のニューヨークJFK空港行き(NH10 B777-300)で旅だった。地球を約半周する10000kmの旅で、飛行時間は12時間45分。11:00に出て同日10:45に到着するが実際は日付変更線を跨いでいる。太陽の進行方向に飛ぶので、その12時間で外の景色は丸一日経過する。
 
政子はその「倍速」で変化して行く外の景色をけっこう楽しんでいたようで、『太陽と雲』『空飛ぶくじら』『翼があったら』といったタイトルの詩を書いていた。私もいくつかメロディーラインの着想があったので書き留めておいた。
 
到着後は時差ボケ解消も兼ねて仮眠を取った上で、甲斐さん・松田さんと4人でニューヨークの町に出て、外の景色が見えるカフェでお茶を飲んだ。
 
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「松田さん、きれいな英語でオーダーしてましたね」
「大学生の時1年間アメリカに留学していたんですよ。それもあって今回のツアースタッフに採用されたみたいで」
 
「すごーい。私も冬も、海外ってタイと台湾と韓国とイギリスしか行ってないよね?」
「うん。トランジットを除くとその4国かな。パスポートにはスタンプ押す欄たっぷりあるのに、ほとんど押されてないからもったいないね」
 
「町添部長のパスポートはすぐいっぱいになっちゃうらしいです」
「ああ、あの人、忙しそうだもん」
「空いてる所無いですね。いや、ここに押せるでしょ?そうですね。ちょっと重なるけど、なんて言って無理矢理隙間にスタンプ押してもらうらしいです」
「凄いなあ」
 
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「今回も同行したいとか言っていたようですが、半月もツアーに付きそうのは無理、ということで加藤が付いてくることになったんですよね。加藤も見せてもらったらパスポートがスタンプで埋まってました」
 
「加藤さんの2週間不在も、後に残されたスタッフが大変そうだ」
「あの人全く休み取らずに仕事してますからね」
「南や北川の顔がひきつってました。森元係長は悲愴な顔でした」
「ああ、そのあたりにしわ寄せが来そう」
「森元さん過労死しなきゃいいけど」
 
今回は外国のエージェントとの折衝も多いので、ある程度の権限が執行できる人が付いてまわらざるを得ないのである。
 
政子は窓の外を見ながら『Dry City』『Bath time Blues』という英語の詩を書いていた。Bath timeはきっと「ニューヨーク→入浴」だなと思って眺めていた。
 
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その日夕食をゆっくり取った後、20:00-21:30のタイムスケジュールでニューヨーク市内の大型ライブハウスで最初の公演を行った。ニューヨークはこの時期は20時頃が日没である。日本で18時くらいからライブを始めるのと似た感覚かなと私は思った。
 
このライブハウスは幕が無いので、あらかじめ機材が設置されている所に出演者全員、脇から出てきて歩いてステージにあがる。私たちが出てきた時点からたくさんの拍手がある。
 
「Hello! We are Rose plus Lily!」
とマイクの前に立ち、ふたりで挨拶すると、更に多くの拍手・歓声に迎えられる。
 
最初は『雪を割る鈴』を演奏する。リズムとダンスの緩急の変化が魅力的なナンバーだが、今回の海外公演用に前半を少し縮めるアレンジをしている。通常のスターキッズに加えて、風花がフルート、詩津紅がクラリネットで入っている。ダンサーの近藤・魚はこの日は日本髪のかつらをつけ、大奥女中のような小袖を着て躍っている。マツケンサンバの世界だ。また原曲にはバラライカとバヤン(ロシア風アコーディオン)をフィーチャーしているのだが、この日の演奏では、風帆伯母の弾く三味線と野乃さんが弾く普通のアコーディオンに置換している。
 
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この日、鈴を割る役は加賀友禅の振袖を着た七美花にやらせたが、アメリカ人の目にも彼女の着る友禅が、近藤・魚ペアが着ている小袖より豪華な服であることは分かったようで出てきた時から歓声があがっていた。もっとも女子高生の若さに反応した感もある。
 
七美花がこの日は日本刀(ソフビ製で刃の表面にアルミ箔を貼る加工をしたもの)で大きな鈴を割り、その中から大量の小鈴が飛び出すと、これもまた凄い歓声があがっていた。この小鈴を飛び出させる演出はライブハウス側が難色を示したものの確実にちゃんと掃除しますからと一筆入れて許可を得たのであるが、客席まで転がっていった鈴をお持ち帰りした客も多かったようである。この鈴は特注品で全ての鈴に『Rose+Lily』のロゴが蛍光色で入っている(実費で1個100円ほど掛かっている。これを1000個ほど封入している)。ちなみに、蛍光色を使っているのは掃除する時に見付けやすいようにするためである!
 
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七美花はそのまま篠笛(ドレミ調律)を持って演奏に参加したので、アメリカの観客にはこれも受けていたようである。鈴を割った後は、近藤・魚ペアは小袖を脱ぎ、かつらも外して、ビキニの水着で踊ったので、この変化にも男性客から「ヒュー!」という感じの歓声があがっていた。
 

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なお、今回のツアーはどのステージもMCを交えて90分の構成なので楽曲は16曲に絞り込んでいる。MCは語学に堪能な政子が各々の現地の言葉でするものの、楽曲は全て日本語歌詞で歌うことにしている。
 
『雪を割る鈴』の後は、『ファイト!白雪姫』を演奏する。元気なナンバーなので特にアメリカでは受けるだろうということで2曲目に入れている。ダンサーの2人はサーベルを持って戦うようにして踊っていた。
 
『可愛いあなた』もスイングっぽい曲なのでアメリカの観客に受け入れられるかなというので3曲目に入れた。香月さんのトランペット、詩津紅のクラリネット、野乃さんのホルン、七星さんと心亜のサックスをフィーチャーしてジャズっぽいまとめ方をしている。
 
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一転してストリングセクションを魅せる曲を演奏する。
 
『花の里』スターキッズのアコスティック版に、ヴァイオリンセクションを加え、風帆の三味線、七美花・松川・風花のフルート、七星・野乃・心亜のサックス、をフィーチャーしている。圧倒的なヴァイオリンの響きが強いインパクトを与えたようである。
 
なおヴァイオリンの6人には青系統の「ワンタッチ振袖」を着せている。着た姿は振袖に見えるが、実は上下セパレートになっていて、1分で着られる服である。今回のツアーではステージ衣装として大量のワンタッチ和服を持ってきている。
 
ちなみに七美花がこの日着た加賀友禅は本物の振袖(実は姉の三千花:槇原愛の所持品で300万円の品。念のためATAカルネを取っている)であるが、高校生にして既に民謡の師範免状を持つ彼女はこれをひとりで着ることもできる。但し今日は一応風帆伯母が着せてあげていた。
 
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その次は『アコスティック・ワールド』である。ヴァイオリンセクションに山森さんのオルガンをフィーチャーしている。今日の公演にはアメリカの主宰者が古いバロックオルガンを調達してくれたので今回はそれを使用したが、美しい音色に観客も感動していたようてある。
 
『坂道』を演奏する。胡弓が美しい曲である。この胡弓を七美花(若山鶴海)が弾き、風帆(若山鶴風)は和太鼓を入れてくれた。更に七星・風花・松川のフルートを加えている。
 
そして『花園の君』。やはりヴァイオリンセクションを使う曲だが、第1ヴァイオリンが超難度、第2ヴァイオリンもかなりの難度で、今回それを凜藤更紗と鈴木真知子が弾いてくれているのだが、生で聴いている観客の間にざわめきが起きていた。
 
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弦楽器の魅力を見せたところで今度はリズミカルな曲に行く。『影たちの夜』
『Spell on You』『恋人たちの海』と続ける。『影たちの夜』ではダンスを踊るホログラフィをライブハウスの天井近くに多数投影したのでかなり盛り上がっていた。
 
『女神の丘』では近藤・魚ペアが巫女衣装を着けて扇を持ち舞を舞う。七美花が龍笛を吹くと、その純和風の世界に、観客は魅せられていたようである。
 
その後、フォーク調の曲に転じて『あなたがいない部屋』『君待つ朝』『言葉は要らない』と演奏する。『あなたがいない部屋』のすすり泣くようなヴァイオリンは鈴木真知子ちゃんが可愛く演奏してくれた。
 
そして最後は『神様お願い』を演奏してからマリは
 
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「Well, next song is the last song of this live. Ping-Zan-Tin」
と言ったのだが、ここで私が横やりを入れる。
 
「Wait a minute, Mari. I want to introduce a new song before it」
と私が言うと、Oh! という大きな歓声が上がる。
 
「The song we are planning to include in the next album "The City".Title of the song is "Virtual Surface"」
と私は言った。
 

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これは私が高校時代に旧友のMTF、泰世に新宿で会った時に書いた曲をベースとするもので、最近その楽譜を発掘したので、大幅に手を加えて再構成した曲である。例によって政子が私からその時の状況を、蝋燭と鞭を使って聞き出した上で、新たな歌詞を書いてくれたものである。ただし私が最初に書いたフレーズ『都会はその大きな波の中に全てを飲み込んでしまう』という言葉はそのまま残してある。
 
月丘さんと山森さんのダブルキーボードをフィーチャーしている。月丘さんはいわゆるシンセサイザ音を使い、山森さんは優しいフルー管系のオルガンの音を使って、VirtualとRealを対比させている。ボーカルも私はバーチャル側を歌い、マリはリアル側を歌う、対位法的な作りである。
 
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いわゆる「ホモフォニー」か「ポリフォニー」かという問題で、ローズ+リリーの曲は一般に和音を重視したホモフォニーの構成にすることが多いのだが、この曲の場合はポリフォニー的に作っているのである。過去にローズクォーツの方で出した『雨の夜』なども似た構成だが、あの曲の場合は実験曲の色合いが強かった。今回はかなり普通に聴ける曲にまとめたつもりである。
 
ふだん和音を保ちながら歌う私とマリが別の旋律を歌っているので、観客はやや戸惑っている雰囲気ながらも大きな手拍子を打ってくれる。しかし最後の方になるとふたりのメロディーが合流してひとつの和音になるので、みんなホッとした様子である。そして最後は楽器と一緒にとても明るいG7−Cの和音進行で終止する。
 
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そして本当に最後の曲『ピンザンティン』を歌う。
 
この曲で、ステージ上の私とマリはお玉を持って歌ったのだが、客席にもお玉を振る人が1割ほども居て、私たちはびっくりした。木製のサラダスプーンなどを振っている人もいた。
 

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「拍手が鳴り止みません」
「アンコールですね」
 
それで私たちは再度出て行き、挨拶をした上で『月下会話:ムーンライト・トーク』を演奏する。ノリのいい曲なので、客席は更に盛り上がる。
 
演奏を終えていったん下がるものの、観客は興奮している。
 
そこで最後は私と政子だけで出て行き、いつものように私のピアノ伴奏に合わせて『あの夏の日』を演奏し、ステージを終えた。
 

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