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■夏の日の想い出・受験生のクリスマス(7)

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10時にチェックアウトして、私たちはタクシーに乗って麹町にあるFM局に入った。この日収録されるAYAのFM番組に出演することになっていたのである(放送は12月27日)。
 
この番組で私たちは『あの街角で』を2分半演奏したが、その歌を聴いたAYAは顔がこわばっていた。
 
放送終了後にAYAが言う。
「私頑張るよ」
私たちも答える。
「うん。頑張ってね。私たちも受験が終わったらまた頑張るから」
 
「あんたたち、受験勉強中なのに頑張ってるじゃん!」
「まあね」
「鈴蘭杏梨は好調みたいだしさぁ」
「オーノーノー、その名前を出してはいけませーん」
 
「で、性転換手術はやはり受けたの? そもそも今年ローズ+リリーが休養しているのは、ケイちゃんが性転換手術を受けたためという噂も根強いんだけど」
とAYAは追求する。
 
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「それが私もよく分からないんだよねえ」
などと政子は言う。
 
「ケイのお股に触っても女の子の感触だし、実は何度か女湯に連れ込んだし」
「女湯に入れるということは、やはり性転換済みなのでは?」
「その証拠がつかめないのよね〜」
などと政子は言っている。
 
「ねえ、ケイちゃんとマリちゃんって、実際問題として恋人なんでしょ?」
「友達だよねー」
「それだけは絶対嘘だ」
 

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結局AYAと一緒に少し早めのお昼御飯を食べた。こちらは2人だけだが、AYAはマネージャーの高崎さんが同席した。
 
「え?高崎さん、ケイちゃんと古い知り合いなの?」
とAYAは驚いたように言う。
 
「まあ某所でね」
と高崎さんは謎めいた言い方をする。
 
私と高崎さんはドリームボーイズのバックダンサー仲間である。高崎さんはそのバックダンサーを足場に歌手デビューしたかったようだが夢かなわず、それでも芸能界を去りがたいということでマネージャー業に転じて、現在はドリームボーイズと同じ事務所のAYAのマネージャーをしている。かなり規律に厳しいようでAYAが私などには不平をこぼすこともある。
 
「でもあれは私にとっても青春だったのよ。だから言わない」
と高崎さん。
「私もあれは楽しい時間でした」
と私。
「ってか、ケイちゃんは実は現役なのでは?」
「さすがに卒業させてもらいました」
「でもYの人も、卒業したはずが、しばしばひっぱり出されているみたいだし」
「まあ、あの人強引だから」
 
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と私と高崎さんは固有名詞を出さないよう(Y=鮎川ゆま)気をつけながら少し昔の話をして、AYAも政子も何だか興味津々のようであった。
 
その時、政子が唐突に言った。
 
「『スティル・ストーム』ってどうよ?」
 
私は何のことだっけ?と一瞬考えた。
 
「ああ、レディボーイの話か」
「そうそう。プラザーガールの話」
「シスターボーイでは?」
「間違った!」
「いやブラザーガールでも構わない気はする」
 
と言った上で私は言った。
 
「でも美しいじゃん。『静かな嵐』ということか」
 

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AYAたちと分かれた後、政子はクリスピー・クリーム・ドーナツを買って帰るというので放置して別れる。それで、和泉に連絡したら新宿のスタジオに居るという話だったので、結局新宿のヒルトンホテルのラウンジで会うことにした。客層の問題で、KARIONやローズ+リリーのファンはあまりこういうホテルには居ないだろうというのがあった。
 
最初に私は『恋座流星群』の件で和泉に謝る。
 
「どんな曲に仕上がったか見せて」
と和泉が言うので見せる。
 
「細かい音符の単純ミスと思われる所は直してる」
「OKOK」
 
それで和泉は譜面を読んでいたが、やがて言う。
「うん。これはそちらにあげるよ。世界観がローズ+リリーに合うと思う」
「ごめんねー」
 
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「なんかまだまだ新たな曲が書けそうな気がするのよね」
「へー、凄いね」
 
それで夕べ書き上げて、さっきまでスタジオで調整していたという曲を見せてくれる。『白猫のマンボ』と書かれている。
 
「これも歌詞付けてくれる?」
「OK。これはマリに見つからないようにやる。でも『黒猫のタンゴ』へのオマージュ?」
「そうそう。でもマンボのリズムってこんなだっけ?と自分で自信がなくなった」
 
「ややルンバ寄りかも」
「そのあたりの細かい所が実は分からない」
 
「ルンバからマンボが生まれて、マンボの派生形としてチャチャチャができてるんだよね。サルサも似た系統だから、このあたりって結構曖昧なのもある」
 
「ビギンは?」
「うーん。それがまたルンバに似てるんだよね〜。一応ビギンはマルティニーク生まれの音楽ということになっていて系統は別なはずが似ている」
「どこだっけ?」
「ドミニカ国の南」
「ドミニカってキューバの隣だっけ?」
「それはドミニカ共和国。セントクリストファー・ネイビスとアンティグア・バーブータの南にモントセラト、グアドループとあって、その南がドミニカ国で、その南がマルティニーク」
 
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「よく覚えてるな」
「昔、アンティル諸島の国の名前を連呼する歌があったんだよ」
 
「あ、そういえば。。。。あれは確か・・・・松原珠妃さんだっけ?」
「そうそう」
 
珠妃の初期の作品である。私はちょっと懐かしい気分に浸った。
 

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そんな話などもしていた時、
「おはようございます」
と声を掛ける人がいる。
 
そちらを見ると、チェリーツインの桃川さん、紅ゆたかさん、紅さやかさんの3人であった。こちらも
「おはようございます」
と挨拶する。
 
「KのユニットとRのユニットの首脳会議ですか?」
と紅ゆたかさんが訊く。
 
「ではCのユニットの首脳も入れてG3で」
と私は言った。
 
「昨日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらも楽しかったです。今までのスタイルから新しいスタイルへの遷移のステージにもなりましたし」
 
「もしかして、コーラスの2人はあのまま杉の木で固定ですか?」
「木とか岩とか、看板とか噴水とか、そんなものではないかと」
「ちょっと可愛そう」
 
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「あのコーラスの子たちってずっと同じ子なんですか?」
と和泉が尋ねる。
 
「その件については非公開ということで」
「へー」
「少し訳ありなもので」
「ふーん」
 
八雲・陽子がメテオーナを辞めた後で私と和泉が加入してKARIONが結成されているので、私たちは彼女たちのことをこの頃は知らなかったのである。
 

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「ところで旅支度ですね。ツアーか何かに出られます?」
「いや、それがよく分からないのですよね」
「というと?」
 
「実は旅の用意をしてここに来いと言われて」
と紅さやかさんが言った時、私は物凄くいやーな予感がした。
 
「和泉、今日は撤収しよう」
と言って席を立つ。
 
「え?何?何?」
と和泉は戸惑っているが、私は桃川さんたち3人に急用を思い出したので失礼しますと言って、伝票を持って席を離れ、和泉を促して会計の方に行く。ところが遅かったようである。
 
ちょうどそこに入口から、登山でもするかのような格好の雨宮先生が入ってくる。
 
「あら、おはよう。奇遇ね」
「おはようございます」
と私は諦めの境地で挨拶をした。
 
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結局席に舞い戻る。
 
「ここで会ったが百年目というし、和泉ちゃんも来なさい」
と雨宮先生は言う。
 
「私は行かなくてもいいんですか?」
と私は訊いたが
「あんたは当然来るに決まっている」
と言われる。
 
「どこに行くんですか?」
と和泉が訊くと
 
「旭岳」
と先生は言う。
 
それを聞いた時、桃川さんが「え!?」という顔をした。
 
「どこですか?」
と和泉が訊く。
 
「北海道」
「まさかこの真冬に山に登るんですか?」
「ロープーウェイがあるから大丈夫よ」
「冬山スキーでしょうか?」
「仕事が終わった後はスキーしてもいいけど。あんたたちスキーできるんだっけ?」
 
「私はボーゲンです」
と私は言う。
 
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「それじゃ無理だ。紅姉妹はクリスチャニアできるよね?」
「ええ。パラレルで滑られますよ」
「ちなみに私たち姉妹じゃないんですけど」
「女友達だっけ?」
「一応男です」
 
北海道の冬山に行くような装備が無いと言ったのだが、用意させると言われ、服と靴のサイズを答える。それでみんなでぞろぞろと新宿駅に行き、東京駅に移動して東北新幹線に乗り込んだ。
 

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20時過ぎに八戸に到着する(この時代は東北新幹線は八戸まで)。ここで雨宮先生の関係者で私も知っている新島さんという女性と合流した。新島さんが私と和泉の冬山用装備や下着の替えなどを用意してくれていたのでお礼を言って受け取る。
 
全員で特急《つがる27号》に乗り継いで野辺地へ。ここで大湊線に乗り継いで私たちは21:51に下北駅に到着した。昔の大畑線との分岐点である。
 
駅前に凄い髭の男性がいる。
 
「ケイはこいつ知らないよね?」
と雨宮先生が言う。
 
「はい。おはようございます。ローズ+リリーのケイと申します」
「おはようございます。KARIONのいづみと申します」
と挨拶すると
「あ、おはようございます。作曲家の毛利五郎です」
と彼は挨拶して名刺を渡してくれた。
 
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私たちも各々の名刺を渡したが
「毛利小五郎?」
と和泉が尋ねる。
 
「すみません。小が無い五郎です」
「あ、ほんとだ。済みません」
 
「毛利小五郎なら名探偵なんだけどね」と雨宮先生。
「俺は名作曲家です」と本人。
「毛利小五郎はむしろ迷うほうの迷探偵」と新島さん。
「毛利五郎も迷う方の迷作曲家」と雨宮先生。
 
どうもこの会話はパターン化されている雰囲気だ。
 
毛利さんがレンタカーでエスティマを借り出していたので、それに8人で乗り込む(桃川・紅ゆたか・紅さやか・私・和泉・雨宮先生・新島・毛利)。桃川さんが運転して出発する。
 
「毛利さんが運転なさるのかと思った」
と和泉が言ったが
「雪道になれてないから」
と雨宮先生。
 
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「あ、そうか。桃川さん、北海道のご出身だったんですね」
「うん。私、奥尻島で生まれて、札幌の高校・大学に進学したんですよね」
「へー」
 
雪道なので桃川さんが慎重に運転し、22時半頃に大間に到着。その日は旅館に入って休む。
 
「全員女性だから、一部屋でいいよね」
と雨宮先生が言ったが
「毛利君は別にしてください」
と新島さん。
 
「すみません。僕たちも毛利さんと同じ部屋で」
と紅ゆたか・紅さやか。
 
実際部屋は2部屋予約してあったので、毛利さんと紅紅の3人がひとつの部屋に入り、雨宮先生・新島さん・私と和泉・桃川さんの5人がもうひとつの部屋に入った。
 

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夏の日の想い出・受験生のクリスマス(7)

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