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■夏の日の想い出・鈴の音(8)

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「私に合うバイトって何だと思う?」
「そうだなあ。旅行番組のレポーターとか。美味しい御飯食べられるよ。政子って食べてる時、ほんとに美味しそうな顔して食べてるから行けると思う」
 
「ああ。そういうタレントさんもいいな」
「政子、美人だし」
 
「冬も美人だよね」
「男の子はあまり美人と言わないかも」
「今日みたいに女の子の格好してればいいんだよ」
「そうだなあ。でもこういうの嫌いじゃないよ」
「やはりね。また女装しようよ」
「それもいいけどね」
 
「冬も女装で、音楽番組の司会とかしたらどうだろ。冬って気配りがいいから司会とかできると思うよ」
「でもストレス多そう」
「かもねー」
 
実際には次に私が女の子の格好で政子と会うのは、翌月中旬、植物園に行った時である(『花園の君』を書いた時)。
 
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その時、政子の携帯が鳴る。政子はバッグから携帯を取り出して「はい」と返事した。
 
「あ、お母さん? うん。学校が終わってから少し友だちと遊んでた。もう少ししたら帰るよ。うん。何かお総菜でも買って帰る」
 
私は彼女が通話している時、そのストラップに取り付けてある鈴に注目した。私の携帯に付けているのと同じタイプかな? 但し付いている鈴は1個だけである。
 
通話が終わった所で
「政子の携帯に付けてる鈴、私のと同じタイプだね」
と言って、自分の携帯も見せる。
 
「あ、ほんとだ。お揃い、お揃い」
「もしかしたら同じお店で買ったんだったりして」
 
「あ、この鈴、実はこないだのキャンプの時、バンガローの床に落ちてたんだよ。それで可愛いから、理桜ちゃんに頼んで取り付けてもらった」
 
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なるほどー。まあ確かに政子にこういう工作ができるとは思えん。しかし床に落ちてたってことは・・・・。
 
「床に落ちてたっていつ?」
「バンガローを引き払う時」
「私の携帯から落ちてたんだったりして」
「あ、そうかも! だったら返した方がいい?」
 
「ううん。お揃いになるから、それでいい」
「うん。じゃ、このままで」
 
7つあった内2個が落ちて、その1個は政子が持っていたのか。残り1個はどこで落としたんだろう。
 
「何かいい音するよね、この鈴」
と言って、政子は鈴を振る。
 
その音を聴いた瞬間、私の頭の中に突然メロディーが浮かんだ。
 

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「政子、五線紙とか持ってないよね?」
 
「あ、これ代用品にならないかな?」
と言って政子が出したのは、グラフ用紙だ!
 
たしかに、いっぱい線が引いてあるから使えるかも!?
 
それで私は政子にもらったグラフ用紙を五線紙に見立てて、今浮かんできたメロディーを書き留めて行った。
 
「スイスイ書いてるね」
「政子が詩を書いている時と似たような状態だと思う。曲が流れてくるんだよ。だからそれを急いで書き留めないといけないんだ」
「へー。でもボールペンを使うのはなぜ? 鉛筆の方が修正しやすいのに」
 
「修正しにくいボールペンで書くからイメージが定まるんだよ。あやふやなものをあやふやに書き留めたらダメ。明確に書き留めることで、自分のものになる」
 
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「なるほど。その感覚は分かる気がする。私も《赤い旋風》を使わない時でもボールペンで詩を書こうかな」
 
私は15分ほどでそのメロディをほぼ全部書き留めた。
 
「なんかそれ楽しい感じの曲だよね」
と政子が言う。
 
「あれ?政子、楽譜が読めるんだっけ?」
「全然。でも冬が書いたのを見ると、その雰囲気は分かるよ」
「へー」
「それに歌詞を書いてあげようか?」
「うん。よろしく」
 
「でも道路で書くのはね〜」
「じゃどこかカフェにでも入ろうか? ここ確か少し行った所にサンマルクがあったよ」
 
「そうだなあ。カフェより焼肉屋さんがいいなあ」
「ラーメン10杯も食べたのに焼肉が入るの〜?」
 
私はさすがに政子のお腹は日本海溝より底が知れないと思った。
 
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その時、クラクションの音がする。見るとルビーブラック色の巨大なベンツが停まっていて、運転席から50代くらいの男性が顔を出して
 
「冬ちゃん、冬ちゃんだよね?」
と声を掛けてくる。
 
「兼岩会長!」
 
それは松原珠妃が所属しているζζプロの兼岩源蔵会長であった。
 
「おはようございます。どうもご無沙汰しておりまして済みません」
「おはよう。今日は何だか可愛い格好してるね」
 
ここで兼岩さんは、私が政子に着せられた超キュートな服を着ていることを言ったのだが、政子には私が女装していることを指摘されたように聞こえたと思った。
 
「ちょっと友だちに上手く乗せられてしまって」
「君はそういうのも似合うなあ。今高校2年くらいになったっけ?」
「まだ高校1年です」
「だったら、君、女の子のアイドル歌手としてデビューしたりしない?どこか事務所紹介するよ」
 
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「それは勘弁してください」
 
ここで私は「アイドル歌手」というのは勘弁して欲しいと言っているのだが、政子には「女の子歌手」としてというのは勘弁してくれと聞こえたかなと私は思った。
 
政子が
「どなた?」
と訊くので
 
「ボクの小学校の時の先輩が歌手やっててさ。そこの事務所の会長さん」
と凄く簡単な紹介をする。
 
「へー。冬ってそんな知り合いがいたんだ?」
「君も何だか雰囲気いいね」
 
「10年後は年間100億稼ぐ歌手になっている予定の中田政子と申します」
と政子は言う。
「おお、それは凄い。僕もそういうのには一口乗りたいな」
と兼岩さんは楽しそうに言う。
 
「そうだ。立ち話も何だし、どこかに入らない?」
「実はどこか屋根のある所に行きたいねと言ってた所でした」
 
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「だったら、ちょっと僕と一緒に来ない?」
「はい、ご一緒します。いいよね?政子」
「うん」
 

それで会長のベンツのリアシートにふたりで乗り込む。とってもゆとりのある快適なシートだ。テレビも付いているし、なにより座席の座り心地が素敵だ。しかし政子はそれを特に物珍しがることもなく、当然のような顔をして座っている。この子は大物だぞ、と私は思った。
 
兼岩会長が私と政子を連れて行ったのは、国立市郊外にある料亭であった。私はこんな高い店に政子を連れてきて大丈夫だろうかと不安になったが、さっきラーメン10杯食べたしいいかなと思い直す。
 
「実は詩を書きたかったんです。書いてていいですか」
と政子が言うので兼岩さんは
「うんうん」
と言って楽しそうな顔をしている。
 
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それで政子がさきほど私が書いた曲につける歌詞を書いている間、私は兼岩さんとお話をする。
 
「実は君たちに会う前に、元ビリーブの天見信子ちゃんに会ったんだよ。あっこれオフレコね」
「もちろんです」
 
「天見さん、昨年の『遙かなる旅程』では大熱演でしたね」
「うん。あれで随分賞ももらったからね。もっとも本人はさすがにあの映画の撮影で消耗して、つい最近まで、芸能活動を一切停止していたんだよ」
 
「消耗するでしょう!あれは」
 
「ところがやっと活動再開するというので、テレビドラマの出演が決まっていたんだけどね」
「何かトラブルでも?」
 
「これ、明日にも報道されると思うけど、あそこの事務所が倒産したんだよ」
「あらら。全然知りませんでした」
「それで、事務所が倒産しちゃうと、彼女のドラマの仕事も飛んでしまう」
「うーん・・・」
 
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「それで、彼女をうちで引き受けてくれないかというのをテレビ局から内々に打診されて、僕が取り敢えず会ってきたんだよ」
 
「そういうことでしたか」
「まあそれで話していたら結構昔話が出てね」
「はい」
 
「結局は○○プロに居た頃が一番良かったなんて言うんだよね」
「まあ、この世界は寄らば大樹の陰です」
「それが分かってるなら、冬ちゃんもぜひうちに」
「あははは」
 
「それと○○プロに居た時のマネージャーさんがやりやすかったと言うんだよね」
「へー」
 
「マネージャーにもいろんなタイプが居るでしょ。黒子型、プロデューサー型、パートナー型」
「ええ」
 
「その人は触媒だったというんだ」
 
「触媒?」
 
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「マネージャーの仕事自体としてはどちらかというとマネージャー失格的な人だったらしい。でも、その人が自分たちのマネージャーとして存在していることで、物凄く日々の活力が生まれたし、自分たちの音楽も生まれていたというんだよね」
 
「へー!」
 
「当時ビリーブの音源制作は実質2人だけでやってたらしい。だからというので、○○プロ辞めた後、一時期ふたりだけで音源作りしようとした時、なんか思うように行かなくて結果的には歌手を辞めることになったらしいんだよね」
「ふーん」
 
「でも○○プロ時代、そのマネージャーさんと音源制作していると酷い音源になってしまうから、いったん向こうの言う通りにして完成ということにした後、マネージャーが帰ってから夜中にふたりだけで音源を作り直していたらしい」
 
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「あはははは」
「でも修正されていても気付かない」
 
「不思議なマネージャーさんですね。無為の為ですか?」
「近いと思う。存在しているだけでいい。仕事をさせないのがベスト」
「でもそれ合う人と合わない人がいますよ」
 
「うん。それはあったみたい。あと売れる人を見分ける目が確かだったらしい」
「へー」
「だからスカウトとしても優秀」
 
「その不思議マネージャーさんは、今もまだ○○プロに居るんですか?」
「ああ、もう辞めたと聞いたよ」
「へー」
「あそこで10年近くマネーージャー業していたらしいから、疲れたんじゃないかな」
「かもしれないですね。何て名前の人です?」
「あれ? 何だったかな。名前出て来ないや。最近固有名詞の記憶が全然ダメで。僕も年かなあ」
「会長、まだ50代じゃないですか」
「うん。もっと頭を鍛えないといかん」
 
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そんなことを話している内に、お料理が出てくる。
 
「これ美味しそう!」
と政子が声をあげる。
 
「ここのは美味しいよ」
「頂きます!」
と言って、張り切って食べている。よく入る!と私はもう感心して見ていた。
 
そして最初に出て来たお料理をきれいに食べてしまった頃、政子の詩は完成した。
 
「冬、歌ってみせてよ」
と言う。
 
「ああ、歌の歌詞を書いてたの?」
「そうなんですよ。でも歌っても大丈夫かな?」
「平気、平気。ここは防音性もいいから」
 
それで私はさきほど書いた曲のメロディーで政子の書き立ての歌詞を歌った。
 
「いい曲だね」
と兼岩会長が褒めてくれた。
 
「政子君と言った? 君は天才詩人だ。ちょっと普通思いつかないような言葉の使い方をしている」
 
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「はい、私天才ですから」
「うんうん」
と兼岩さんは楽しそうである。
 
「ミリオン行きますかね?」
と政子が訊く。
「えっと・・・」
と兼岩さんが言葉を選んでいたので私は言う。
 
「これだとどんなに売れても3−4万枚」
「えーー!? そんなもの?」
 
「何かが足りないんだよ。ボクはその何かをまだ見つけないといけない」
と私は半ば独り言のように言ったのだが、兼岩さんは頷いていた。
 

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その時、次の料理が運び込まれてきたが、一緒にこの料亭の女将が来て、
 
「兼岩様、いつもお世話になっております」
と挨拶した。
 
「いやいや、ここは居心地がいいから、つい仕事を忘れてきちゃうよ」
と兼岩さん。
 
「今日は可愛いお嬢様お二方で。歌手のオーラを持ってますね」
「うん。女将はそういうのがよく分かるよね。この子たちは5年後には年間50億売る歌手になってるから」
 
と兼岩さんが予言する。さっき政子は10年後に100億と言ったのだが、兼岩さんも政子にスター性のようなものを感じ取ったのだろう。
 
「それは凄いですね。あ、こちらお嬢様方に」
 
と言って、女将は持って来たスズランの花を1輪ずつ、私と政子の前に置いた。
 
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「今の時期にスズランって珍しいですね」
「ええ。高原のハウス栽培らしいですよ。頂き物なのですが」
 
「きれーい!」
と言って、政子が花を手に取る。豪華な料理を前にして、政子が花の方に興味を持つというのは、珍しいシーンかも知れないと私は思っていた。
 
「そうだ。冬、この曲のタイトルを決めたよ」
「うん?」
「雪割り鈴」
「へー!」
 
「雪に閉ざされた世界が、鈴の音が響くことで明るい世界に変貌する」
「春を告げる歌か」
「そんな感じでしょ? 恋の始まりを歌った歌だもん」
「確かに」
 
「スズランも元々は春の花ですよね?」
と政子が女将に訊く。
 
「はい。本来は4月くらいに咲く花のようですね」
と女将も笑顔で答えた。
 
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そしてその時、スズランの花が私に何かを教えてくれたような気がした。
 

「あ、そうか」
と私は唐突に言った。
 
「どうしたの?」
と政子が訊く。
 
「この曲をミリオンセラーにする方法が分かっちゃった」
「ふーん。だったら、楽曲を修正したまえ」
と政子。
 
「会長、五線紙持っておられませんよね?」
「あ、ちょっと」
 
すると女将が言う。
「五線紙でしたらございます。ここで曲を書かれる作曲家の先生が時々おられるものですから。今お持ちしますね」
「済みません」
 
女将が持って来てくれた五線紙を使って、私はその時「気がついた」やり方で、楽曲を再構成し始めた。お姉さん座りしていたのを気合いを入れるため正座に直した時、スカートのポケットに入れていた携帯が滑り落ちて、取り付けている鈴がチリーンと鳴った。
 
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そしてその曲を書き上げた所で私は兼岩さんに断って蔵田さんに電話を掛けた。
 
「おはようございます。例の音源できましたか?」
「明日の午前中くらいで完成すると思う。盆明けにプレスさせる」
「ちょっと例の曲を修正したいのですが」
「えーーー!?」
「明日の朝までにスタジオにFAXします」
「自信がありそうだな」
「雪が割れたんですよ」
「何それ?」
「取り敢えず見て頂けますか?」
「うん。待ってる」
 
 
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夏の日の想い出・鈴の音(8)

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