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■夏の日の想い出・空を飛びたい(3)

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その日帰宅したら、母は寝ていたが、父が何か急ぎの書類を作っているようで起きていた。
 
「お父ちゃん、今日は忙しいみたいだからやめとくけど、近い内にちょっと真剣に相談したいことがあるんだけど」
 
「そういえばそんなこと、こないだから何度か言ってたな。分かった。俺も何とか時間取るよ。ただ今年は、国土交通省関連の仕事で無茶苦茶忙しくてさ」
 
「今年何度も徹夜してるよね。何日も帰られない日が続いたり」
「お前や萌依ともちゃんと話ができなくて済まないとは思っているんだが、何人か同僚が過労からか体調不良で倒れたり、鬱病を発症して休職した奴もいてさ、残ってる元気な奴で頑張らないといかん」
 
「お姉ちゃんも就職先がまだ決まらないからね」
「不況だからなあ」
 
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「お父ちゃんも身体に気をつけて」
「うん。お前もな。お前最近、バイトの方かなり忙しいみたいだな」
 
「そうなんだよね−。こないだの週は泊まりになったけど、来月もまた泊まりが発生しそう」
「だけど母ちゃんから聞いたけど、学校の成績は落ちてないな」
「中間テストは1学期の期末テストより成績上げたよ」
「うん。学生の本分は勉強だから、それを忘れなければよい。バイトも社会勉強だろうしな」
「ありがとう」
 
「ところでさ」
「うん」
「さっきレコード会社の社長さんだかと話したけど」
「取締役さんだけどね」
 
「そうだっけ。あの人が、お嬢さんはちゃんと責任もって送り届けますとか言うから、俺は一瞬考えたぞ」
 
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あはは、それ何と説明しようかな・・・。
 
「でもお嬢さんって、政子さんの方のことだよな。後で考えて納得した」
 
うーん、無理のある解釈だけど、今日はまあいいか。
 
「母ちゃんから聞いたけど、政子さん、ひとり暮らしなんだって?」
 
「うん。御両親はタイに赴任してるんだよ。でも政子は日本の大学に進学したいからといって日本に残ったんだ。で、彼女料理が得意じゃないけど、ホカ弁やインスタント食品ばかり食べてたらタイに召喚するぞと親から言われてるんで、ボクが時々行って、シチューとかハンバーグとかカレーとかの冷凍ストックを作ってあげてるんだけどね」
 
「お前、まるで政子さんの彼女だな」
「あはは、それ他の友だちからも言われた」
 
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「お前、女の子に恋愛感情は持たないの?」
「お父ちゃんごめん。ボクたぶん女の子とは結婚できない」
「そっかー」
 
当時父は私の性的な傾向を同性愛と誤認していた雰囲気もある。以前バレンタインのチョコを手作りしている所も見られているし(実際は友人から下請けしたもの)。
 
「でも女の子の家に行ってふたりきりになってたら、ハプニング的にセックスしてしまう事態もあり得るぞ」
 
「それお母ちゃんからも言われたから、ちゃんと避妊具は常備してるよ。使うようなことするつもりはないけど、万一セックスしようという流れになっちゃったら、それを必ず使う」
 
「うん。高校生の女の子を妊娠させたら大騒動だから」
「だよねー」
 
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ところで町添さんは、プロダクション側の契約とは別にレコード会社としても契約問題を前進させたいとして、私と政子に
「近い内に君たちの御両親と話し合いの場を持ちたい」
と言って各々の父に電話してくれた。
 
「★★レコードの町添と申しますが」
と町添さんは私の父に電話で話す。
 
「ああ、先日もお電話頂きましたね」
「それで、一度冬子さんのことで、少しお話させて頂けないかと思っているのですが、どこかでお父様のお時間取れる時期がありますでしょうか?」
 
「そうですね。今ちょっと動かせない納期の仕事をずっと詰めてやっていましてその納期が1月初旬なので、可能でしたらその後で」
「分かりました。それではまた年明け頃にまた1度ご連絡させて頂いてよろしいでしょうか?」
「はい。あ、でも年明けは恐らく心の余裕がないと思うので、年末くらいに一度予定を問合せて頂けたら」
「分かりました。それでは年末頃に1度ご連絡致します」
「はい、よろしくお願いします」
 
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政子の父にも掛ける。これは私が政子のお父さんに掛けて、それから代わることにした。
「ご無沙汰しております。政子さんの友人の唐本と申しますが」
「ああ、冬彦君でしたね? いつも仲良くして頂いているようで」
 
この時期はお父さんは私を政子の新しい恋人と思っている節があった。
 
「私と政子さんが今ちょっと関わっているレコード会社があって、その取締役さんが少しお話したいと言っているのですが」
「へー。レコード会社ね」
 
それで代わって話してもらったが、政子のお父さんは、お正月に1度帰国できそうだから、その時にお話ししましょうかと言い、町添さんも了承した。
 
この時の双方の父との約束は、結果的には12月中旬の週刊誌報道で吹き飛んでしまうことになる。しかし一度町添さんが双方の父に働きかけようとして連絡を取っていたことが、あの騒動の後で、双方の父が町添さんを信頼してくれる元になったのである。
 
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しゃぶしゃぶ屋さんで上島先生たちと会った翌日、10月30日(木)、私は学校が終わってから、★★レコードにひとりで出かけて行った。来月の土日を使って敢行するローズ+リリーの全国ツアーの打ち合わせのためである。本当はもっと早く話し合っておくべきものだったのだが、当時は全ての物事が泥縄式に進行していた。しかもその日、須藤さんは他のアーティストのトラブルのため長野まで行っており、この日の打ち合わせには甲斐さんが出ることになった。しかし甲斐さんが不安そうな声で私に昼休み電話してきて色々聞いていたので「私も行きますよ」と言って出てきたのであった。
 
この日はそもそもこのコンサートをどういう演出でやるかとか、伴奏陣はどうするかとか、何の曲を演奏するかとか、わずか9日後にライブをやるとは信じられないようなレベルの話から打ち合わせた。ちなみにチケットは10月頭に発売され、既にソールドアウトし、急遽仙台公演が追加されてそれも売切れている。
 
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「じゃ、伴奏陣としてはギター、ベース、ドラムス、キーボード、にサックス、ヴァイオリン、フルートという線ですか?」
 
と加藤課長が言う。時間が迫っているので、強い権限を持つ人がさっさと決断する必要があり、加藤さんが直接この打ち合わせには参加してくれたのである。ちなみに、私たちはその日会議室が埋まっていたので、★★レコード制作部の一般フロアの加藤課長の机の所で打ち合わせしていた。
 
「販促用に配布したポスターに、そういう陣容のバンドの写真が出ているんですよね。できたらそれを踏襲したいのですが」
と秋月さんが遠慮がちに言う。
 
「そのポスターって誰が作ったんだっけ?」
「済みません。うちの須藤です。実は数年前に活動していたバンドのポスターを流用したみたいで」
と甲斐さんが申し訳なさそうに言う。
 
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「それ、権利は大丈夫だったの?」
「怪しいです。クレーム来たらやばいかも」
「適当な仕事する人だなあ」
と加藤さんが呆れた風に言う。
 
「でも、そういうアレンジにしちゃいましょう。楽曲リストはこれでいいですかね?」
「うん。それで確定しよう。秋月君、すぐこれの編曲を仕事の速いアレンジャーに依頼してくれない?」
と加藤さんが言うので、秋月さんがリストを持って自分の机の方に行く。
 
「演奏者を確保しないといけないですね」
「ギター、ベース、ドラムス、キーボードは、何とでもなると思うんですよね。スタジオミュージシャンで、そういうのできる人はあふれるくらい居るから」
 
「問題はサックス、フルートにヴァイオリンか」
 
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そんな話をしていた時、ちょうど制作部に松原珠妃が入って来た。私は手を振る。向こうもこちらを見つけて寄ってくる。
 
「おはようございます、松原珠妃さん」
と私は挨拶した。
「おはよう、洋子。おはようございます、加藤課長」
 
「珠妃ちゃん、お早う。今日はアルバムの打ち合わせだっけ?」
と加藤さん。
 
「ええ。ちょっと早く来ちゃったかなとは思ったんですけどね。で、洋子は何でこちらに来たの?」
と珠妃。
 
「ツアーの打ち合わせです」
「誰の?」
「私の」
 
「洋子、あんたデビューしたの?」
「ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。9月27日に友人の女の子とペアでローズ+リリーの名前でデビューしました」
 
「おお!だったら、私の所にCDくらい献納においでよ」
 
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「先日事務所にお伺いして、珠妃さんが留守でしたので、観世副社長に一応CDとサイン色紙をお渡ししてきたのですが・・・」
 
「ごめーん。私、ここ1ヶ月くらい事務所に顔出してなかった」
 
「この子たちのデビューCDならここにもあるよ。1枚あげるよ」
と言って加藤さんはCDを出してきて、珠妃に渡した。
 

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「でも珠妃ちゃん、この子の知り合い?」
と加藤さんは訊くが
 
「小学生の時以来の友だちだよ」
と言った上で、
「加藤ちゃんとも、既に4年近い付き合いだよ」
と悪戯っぽい笑みで言う。
 
「へ?」
「この子はヨーコージの一部」と珠妃。
「ドリームボーイズの蔵田君の?」と加藤さん。
 
「だって、ヨーコージというのは、この子の名前『洋子』と蔵田先生の名前『孝治』の合成なんだから」
とそのことを明かしちゃう。
 
「えーーー!?」
と加藤さんは驚く。
 
「じゃ、君、楽曲制作者なの?」
「私は試唱をさせて頂いているだけです。楽譜をまとめたりもしますけど」
 
「その楽譜をまとめる時に、この子が結構な補作をしてるんだよ。蔵田先生の作曲って、アバウトだから、そのままでは演奏できる譜面にならない。足りない音符を補ったり、間奏やコーダを付けたり、要するに枝葉の部分はこの子がやってるんだよね。伴奏ピアノ譜とギターコードまではこの子が書いてから、アレンジャーに渡している」
 
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「なんと」
 
「そうですね。小節の先頭にミが書いてあって最後にドが書いてあって、途中は斜線だけっなんてのがあるから、途中の音符を補ってミソラドにしたりとか、Aメロの次のA′の部分を『上と同様。最後だけ少し変える』とか書かれているのを適当にそれっぽくまとめたり程度はしてますが」
 
「結構な補作じゃん! でも多忙な有名作曲家がしばしばお弟子さんにそういう作業をさせてるケースはあるよ」
「まあ、それが蔵田先生とこの子の関係だね」
 
「へー!」
「だから、この子自身も作曲センスを無茶苦茶鍛えられているはず」
「ほぉ、それは楽しみだ」
と加藤課長は笑顔になったが、ふと
 
「蔵田君とそういう関係があるんだったら、上島君に楽曲をもらって良かったんだっけ?」
と心配そうに訊く。
 
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「叱られましたけど、面白いからそのまま上島先生の楽曲と、私の楽曲のカップリングでやっていくといいと言われました。私は代理戦争の駒なのかも」
 
「ああ、蔵田君がそう言っているなら構わないだろうね。多分上島君も気にしない」
と加藤さんは少し楽しそうに言っている。
 

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甲斐さんは想定を大きく外れた会話にポカーンとしている。
 
珠妃は会話しながらローズ+リリーのデビューCD『その時』を聴いていたが
 
「このCDは、ラストに入っている『遙かな夢』と先頭の『その時』だけでいいね。間の3つは邪魔」
などと言う。
 
「ああ、そういう意見は他でも聞きました」
と加藤さん。
 
「この『遙かな夢』のクレジット、マリ作詞・ケイ作曲と書いてあるけど、このケイってのが洋子のこと?」
 
「はい。マリが私の友人です」
「うふふ。友人だなんて。恋人と言いなさいよ。この曲を聴いたらふたりの関係が分かるよ」
「珠妃さん・・・」
 
「ケイちゃん、マリちゃんとそういう関係なの? いや確かにおふたりはレスビアンですか?という問合せが多くてさ」
 
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「その問題はマリと話し合いましたが、友だちの関係でいようと言ってます」
と私は少し困ったように言った。
 
「まあ、いいや。でもあんたもやっとデビューか。あんたは2〜3年前にデビューしておかなきゃいけなかったよ」
と珠妃。
 
「済みません」
 

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「で、ツアーやるの? いつ?」
「来月8日から1ヶ月かけて土日に全国9ヶ所です」
 
「ああ、それでその事前打ち合わせなのね。伴奏陣はどんな人たち?」
「いや。それを今誰に頼もうかと話していたところで」
 
「へ?だってもう10日前くらいじゃないの?」
「それで焦っています。実はバンドの編成をついさっき決めたばかりで」
 
「呆れた! まあ、私もデビューの年にはそんな泥縄な全国ツアーやったけど」
「あれは凄かったですね〜」
 
「ケイちゃんも、そのツアーに関わったの?」
「そうそう。中学生を1ヶ月連れ回す訳にはいかないから土日だけ演奏頼んだんだけどね」
「バンドメンバーだったんだ!」
「はい」
 
「で、どういう編成になったの?」
と珠妃が訊く。
 
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「ギター、ベース、ドラムス、キーボード、にサックス、ヴァイオリン、フルートです」
 
「標準的なロックバンドにヴァイオリンと木管を加えた構成か」
「ただ、サックスとフルートは可能なら持ち替えでもいいと思っています」
 
「サックスとフルートの名手を知ってるよ」
と珠妃は言った。
 
「いい人いますか?」
と加藤さん。
 
「私のバックバンドにこの3月までいた人でね。結婚のために辞任したんだけど、速攻で離婚しちゃって。今、取り敢えずフリーのはず」
 
「女性ですか?」
「女性だけど、凄いパワフルな演奏するよ」
「ほほぉ」
 
そういう訳で珠妃が紹介してくれたのが、宝珠七星さんだったのである。
 

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夏の日の想い出・空を飛びたい(3)

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