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■夏の日の想い出・小5編(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-08-31
 
会場ロビーの奥で、相手役の男の子(6年生)と合わせてみた。1ヶ所思っていたのと相手の動きが違ってビクっとしたが、何とか辻褄を合わせて、その後は無難に踊りきった。
 
みんなから拍手をもらう。
「ほんと君うまいね〜。ほんとに2年もやってなかったの?」
「2年前も正式に習ってた訳じゃないんですけど」
 
「1ヶ所ずれた所は、うちの教室で少しアレンジした部分なんだよね」
「今ので分かりましたから、本番では合わせます。こんな感じですよね」
 
と言ってその部分だけ踊ってみせると
「そうそう。よく分かるね!」
と言われる。
 
「待って。なぜ、それ男の子に支えられてない状態で踊れるの!?」
 
「あ。ひとつ前の子たちのが始まった」
「じゃスタンバイよろしく〜」
 
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ということで慌ただしく舞台袖に入る。
 

中学生男子4人による『トレパック』が演じられていた。コサックダンスなどの動きも取り入れられていて、まるでブレイクダンスみたいに激しい踊りだ。でも楽しそうだ! 客席の反応も良く、盛り上がっている。
 
そしてそれが終わると、私と相手役の男の子が出て行って『スペインのホットチョコレートの踊り』を踊る。ちょっとフラメンコっぽい動きの踊りである。
 
通常のバレエの動きよりアップテンポでくっきりとした手足の使い方をする踊りである。さっきのロビー奥での練習でずれた部分もきちんと合わせた。パートナーに支えてもらって回るところも、うまく息が合う。(ここで身長差があるとうまく行かないので、小学校高学年の子の相手は小学校高学年の子でないと務まらないのである)
 
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拍手をもらって下がってきて、高校生ペアの『スペインのホットチョコレートの踊り』を見る。身長がある分ダイナミックな踊りになっている。わあ、格好良いなあ、と思って舞台袖で鑑賞していた。
 
そしてその次が協佳がソロで踊る『金平糖の精の踊り』である。
 
今日の公演では音楽は全部CDを使っている。CDケースを見ると何だか楽しそうな雰囲気のくるみ割り人形の絵があり、「ビシュコフ指揮ベルリンフィルハーモニー管弦楽団」と書かれていた。しかし美しい音だ。
 
「これ、高い音は何て楽器の音ですか?」
とそばにいた大学生のお姉さんに訊くと
「これチェレスタというんだよ。きれいな音だよね。それと低い音はバス・クラリネット。この高音と低音の呼び合いが凄く素敵」
 
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と教えてくれた。この時は自分が2年後にそのチェレスタとクラリネットの重奏を1人で!することになるとは思いもよらなかった。
 
私はその美しい音に酔いしれながら、協佳の力一杯の踊りを見つめていた。
 

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10月6日には地域のお祭りがあった。ちょうど1年前のお祭りの時から、私の「女の子ライフ」は始まったのである。昨年は間違って女の子の着替え場所に案内されてしまい、女の子用の甚兵衛・半タコを着たのだが、今年は最初から「冬はこっち」と奈緒たちに言われて、女子の着替え場所に行った。
 
昨年は青い衣装を着たが、今年は黄色い衣装である。
 
「なんか、そうやってると女の子の下着姿にしか見えないよねぇ」
「そうそう。だから普段の体育の着替えの時も女子更衣室に来ればいいのにさ」
「夏休みはプールの女子更衣室で着替えてたじゃん」
 
「だよね〜。裸になって水着になるのでも女子更衣室で着替えて問題無いんだから、ふつうに下着になるだけの通常の体育の時間の着替えなんて、全然問題無いはずだよね」
「全く、全く」
 
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「だいたい、冬が男子更衣室で着替えてたら、他の男子が困るんじゃない?」
「男の子たちの暗黙の了解で、冬が着替える時は、そちらを見ないようにしているらしい」
「ああ、それやはり男子たちに迷惑掛けてるよ」
「やはり冬は女子更衣室に来るべきだね」
「そうだ、そうだ」
 

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さて昨年は、1時間遅刻した他はずっと山車を担いでいたのだが、今年は途中で太鼓の演奏に加わった。言われたのは2週間ほど前である。
 
「メンバーの一人が転校することになってさ。人手が足りないんだよ」
「それで以前太鼓習ってた子を誘ったんだけど、長いことやってなくて自信無いというからさ」
「そんな話してたら『代役の天才』がいると聞いて」
 
「確かに代役の天才と言われたことはあるな」
「歌を歌う子が出られなくなった時は代わりに歌ったし、バレエでは主役がダウンしたら美事にその主役の代わりを踊ったし、病院でお医者さんが病気になった時は代わりに急患の手術をしてあげたというし」
 
「その最後のはさすがにガセネタ。いくらボクでも手術なんてできないよ」
「いや。冬ちゃんならやりかねん」
 
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「で、太鼓を叩くのね? でもそれ女太鼓なんでしょ? ボクが叩いていいの?」
「冬ちゃんは実は女の子だと聞いた」
「やれやれ」
 

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ということで練習に出ていった。大人の女の人が最初に模範演技を見せてくれる。
 
「こんな感じで打てるかな?」
とりあえずバチを渡される。
 
「これ、どのくらいの強さで打つのかな?」
と言いながら打ってみる。
「わっ」
と思わず声が出るほど大きな音が出た。
 
「強すぎたかな?」
「いや、もっと強く叩いて」
「もっとですか〜?」
 
かなり力を入れて叩いて、やっと「うん、そのくらい」と言われた。
 
それで何となくリズムで打ってみたのだが
「いい感じ、いい感じ」
と言ってもらえた。
「その調子ならすぐ覚えてくれそう」
 
「でも疲れる〜」
「毎日腕立て伏せ100回だな」
「ひぇ〜」
「でも冬ちゃん、少し筋力付けた方がいいもん」
「そうそう。その腕、細すぎる」
 
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腹筋も必要だと言われて、それから毎日腕立て伏せ100回、腹筋100回に、背筋、側筋も入れて基礎体力作りメニューをすることにした。
 
「だけど冬ちゃんに頼んでみようという話をした時には、冬ちゃん半分男の子だから、きっと腕力ならあるだろうと思ったのに、冬ちゃんリズム勘は良いけど腕力は全然無いね」
 
「ごめーん。多分ボク、腕力は女の子並みだと思う」
「それも力の弱い女の子並みだよね」
 
「冬ちゃん、その内結婚して子供産んで、子育てするようになったら、腕力必要になるから、今の内に少し鍛えておいた方が良い」
「結婚して子供産んで、という展開は無い気がするけど・・・」
「ああ、子供産んでから結婚するんだっけ?」
「最近そういうケース多いよね」
「えっと・・・」
 
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太鼓の練習の隣では、6年生の男の子たちが甚句の練習をしていた。
 
「いい雰囲気の甚句だね」
「昔は町ごとの調子があったんだけどね。伝承者が少なくて、もう今では町の区別は付かなくなってしまった。でもせめて今の調子だけでも残していきたいね」
と私たちを指導してくれている女性が言っていた。
 
何気なく、今聞いた甚句の節回しが頭の中で再生され、声に出して歌ってみた。
「冬ちゃん、さすがコピーの天才」
「君、うまいね。来年は甚句唄ってみる?」
 
「でも甚句は男の子が唄うんじゃないんですか?」
「女の子が唄う場合もあったらしいよ、昔は」
「へー」
 
「でも冬ちゃん、戸籍上は男の子だから歌ってもいい気がする」
「そうだなあ。来年までにはボクも声変わりしてるかも知れないし」
と言ったら
「それはあり得ん」
とみんなから言われた。
 
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お祭りでは最初は山車を担いだ。女子の着替え所からバスでスタート地点まで移動し、
「女子は内側に入って、男子は外側を担いで」
と言われたので外側の棒に就いたのだが・・・・・
 
「唐本、お前力無いな」
と近くに居た同級生の男子に言われる。
 
「うん、ボク腕力はあまり無い」
「こないだ体力測定で測った背筋、いくらだった?」
「25kgだったかな」
「25〜!? あり得ん。お前、内側に入れ。そこにいたら邪魔」
「ごめーん」
 
ということで私は女子の方に移動して、男子がその分散らばって支えるようにしてくれたようであった。
 
「冬ちゃん、どうしたの?」
「腕力無い奴が担いでいると邪魔だから、内側に行けと言われた」
「ああ、冬ちゃん、女子と腕相撲してもいつも負けてるよね」
「うん、勝った記憶無い」
「冬ちゃん、うちの小学2年の妹にも負けてた」
「ああ」
「もう少し身体鍛えないと。ピアノとか弾くのにも腕力必要だよ」
「だよね〜」
 
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ちなみに小学5年生の背筋は、女子で50kg,男子で60kgくらいが平均のようである。
 

お昼すぎから市役所前の広場で太鼓の競演が行われる。
 
最初の30分ほどは自由演奏で広場のあちこちで各チームがそれぞれ自由に演奏していたが、その後1チームずつステージに上がって演奏する。小学生・中学生・おとなの各々の女太鼓、それからおとなの男性の神楽太鼓と、近隣の地域から来た太鼓チームの客演演奏が行われた。
 
私は小学生の女太鼓チームで他の子と一緒にステージに上がった。太鼓は男子が手伝って持って行ってくれた。
 
叩く面を上に向けて置いた3つの太鼓を1つの太鼓に3人ずつ付いて9人で叩く。3人の息が合ってないと、バチ同士がぶつかったりするので、一緒に同じ太鼓を叩く子同士は、リズムとお互いの息を感じ取り合いながら演奏した。
 
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太鼓では1人がひとつの太鼓を叩いたり、太鼓を横置きにして両側から1人ずつ叩くものが多いようであるが、この町の女太鼓だけが3人で同じ面を叩く方式を採っている。やや珍しい方式のようで、テレビ局が来ていたが、全国ニュースで流されていたようだ。
 
(その日のニュースではおとなの女性チームの演奏は10秒近く映されていたが、小学生チームのは2秒ほどで、ニュースを見ていた父は私には気づかなかったようであった)
 
でも演奏が終わってから、
「冬ちゃん、来年も頼むね」
と言われた。あはは。
 

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お祭りが終わって少しした頃、隣の組の香坂先生が、ちょっとちょっと、と言って、私と奈緒を呼んだ。
 
「こないだの体力測定の結果なんだけどね」
「はい」
「唐本さんの計測結果が、握力が11kg/10kg, 背筋24kg, 反復横飛 20回, 垂直飛 15cm, 立位体前屈 マイナス5cm。運動苦手な小学2年生女子って感じの数値」
 
「すみませーん。ほんとに体育苦手なので」
 
「それがさ、こないだちょっと耳にしたんだけど、唐本さん、8月にバレエの発表会に出て、フラメンコみたいなの踊ったんだって?」
と先生。
 
「ええ。ちょっと怪我した子がいて、その代理だったんです。しかも冬って、パートナーに支えられてない状態でもバランス取るの難しい姿勢を取ってみせたんですよ」
と奈緒。
 
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「そう!その話を聞いたのよ。先週のお祭りでは上手に太鼓叩いてたよね?」
「ああ、頑張ってましたね」
 
「それから唐本さん、ピアノわりとうまいよね」
「ああ、あれ、音楽室で弾いてる時は『わりとうまい』ですけど、私の家のピアノ弾いてる時は『物凄く上手い』ですよ」
 
「うんうん。そういう話も聞いた」
と先生は言った。
 
「なんかうちのクラスの女子が噂してたんだけど、唐本さんって、女の子の服を着た時は能力があがるって」
 
「ええ、そうです。うちの家に来てピアノ弾いてる時は、女の子の格好してますから」
と奈緒は言う。
 
「お祭りの太鼓は、女子のお祭り衣装で叩いてたよね」
「そうですね」
「バレエを踊ったのって、たぶん・・・女子の衣装だよね?」
 
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「ええ。本当はフラメンコみたいな衣装らしいんですけど、急だったので、東堂さん(協佳)の練習用のクラシック・ボン(ボンというのはチュチュのスカート部分だけのもの。練習の時にチュチュの代わりに使用する)を付けて踊りました」
 
「それってさ、つまり女の子の衣装付けてたから上手かったとか?」
「ああ、あり得ると思います」
と奈緒。
 
「だからね。こないだの体力測定、唐本さんに女の子の服を着せて再度測ったらどうなるかなと思って」
と香坂先生。
 
「ああ、それは測定してみる価値がある気がします」
と奈緒は言った。
 

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夏の日の想い出・小5編(5)

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