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■夏の日の想い出・ゆうとぴあの(4)

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「美佳、道に迷ってたりして」
 
その内、隊列は取り敢えず出発することになるが、剛田先生と深山先生、それに教頭先生の3人が逆に下の方に向かって降りて行った。
 
「やはり美佳ちゃん迷子になっちゃったのかも」
「いや、意外に実はもう頂上の広場まで行ってたりして」
 
その時、私たちのグループより少し前の方にいた小山内さんがふと立ち止まる。
 
「どうしたの?小山内さん」
「宮国さん、ちょっとまずい状況にある気がする」
「ああ、小山内さんって、霊感あるよね」
 
彼女は少し風変わりな少女で、少し近寄りがたい壁のようなものがあり、それで、みんな彼女とは苗字で呼び合っていた。
 
「誰か、宮国さんの持ち物とか持ってないよね?」
と彼女が言った。するとリナが
 
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「あ、このもんきちのストラップ使えないかな。美佳ちゃんが使ってたのを可愛い、可愛いと私が言ってたら、そんなに気に入ったらあげると言われてもらったんだよね」
 
「ちょっと貸して」
と言って小山内さんはそれを手に取り目を瞑って額の所に当てた。やがて向き直り、ある方向を指す。
 
「宮国さんはこの方角に居る」
「先生に言う?」
「いや、先生に言っても信じてくれない気がする」
 
「ねえ、私たちで探しに行こうか?」
「それやばくない?」
「だって友だちだもん。助けなきゃ」
 
それで、小山内さんとリナ、私の3人で、美佳が居ると小山内さんが言う方角に行くことにした。
「冬ちゃん半分は男の子だから少しは頼りになるでしょ」
などと言われる。私は結構、その時の都合で女の子とみなされたり男の子とみなされたりしていた。
 
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「でも今から30分。それまでに彼女が見つからなかったら、そのまま下山して先生に電話して。いい?」
 
と学級委員でもある帆華から念を押されて、私たちは出発した。木の陰に隠れて、隊列のしんがりを歩いている2年生の先生をやり過ごしてから、私たちは坂を下っていった。
 
時々分かれ道に来ると、小山内さんはもんきちのストラップを額に当てて、「こっち」と言って道を選んで歩いて行く。私たちは次第に谷川の音が聞こえる所まで降りてきた。
 
「かなり近くだと思う」
「呼んでみようか?」
「うん」
 
「美佳ちゃーん!」「宮国さーん!」
と3人で叫ぶ。
 
すると
「助けて−!」
という声の反応があった。
 
私たちはその声のする方角に行った。
 
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「あ、いたいた」
 
美佳はどうも崖から滑り落ちたようで、崖の途中の木の枝に引っかかっている。私たちはその崖の下から美佳を見上げる形になったのだが、美佳はどうも背中が引っかかっている感じで自分ではどうにもできないようだ。
 
「ボクが助けに行く」
と体育が大得意の小山内さんが言い、崖を登っていった。そして背中に引っかかっている木の枝を外し、彼女の身体を支えるようにして一緒に降りてきた。
 
「ありがとう!助かった」
「怪我してない?」
「どこも痛くないから大丈夫だと思う」
 
「ああ、でも服が完全に裂けてるね」
「うん。足を滑らせて落ちちゃって。服が引っかかったら一気に下まで落ちずに済んだけど、私の体重を支えていたから」
 
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「着替えとか持ってないよね?」
などと言っていたら
 
「私、替えの服持ってるけど、私のじゃ入らないよね?」
とリナが言う。
 
「うーん。見ただけで無理って気がするよ」
「リナが来てる服はサイズいくつ?」
「私、まだ100を着てる」
「美佳の着ている服は?」
「120」
「まあ無理だね」
 
と言っていた時、小山内さんが「あ!」と声をあげる。
 
「ね、ね、唐本さんが着てる服、けっこう大きいよね」
「うん。これ男の子サイズの服だから。私には実際かなり大きいんだけど」
「ズボンはウェスト、ゴムだね」
「うん」
 
「宮国さん、唐本さんの服だったら着れない?」と小山内さん。
「あ、着れそうだけど、冬ちゃんは裸で歩くの?」と美佳。
「青井さんの着替えを唐本さんに着てもらえばいいのよ」と小山内さん。
 
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「あ、確かに私の服、冬は着れるよ。うちに着た時、よく着せてるもん」とリナ。
 
ということで、私が着ていた服を美佳が着て、私がリナの着替えを着ることになった。でもリナの着替えのボトムはスカートみたいに見える裾の広がったショートパンツである。
 
「まあ、冬は多分スカート穿いても全然問題ないからね」
「このくらいの服装は大丈夫だね」
「あはは」
 

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「さあ、戻ろう。私たちがいないことを先生たちに気付かれない内に戻りたい」
「よし、急いで追いつこう」
 
と言って歩き始めたのだが・・・
 
分かれ道で小山内さんが迷う。
 
「どっちだっけ?」
「小山内さん、美佳を見つけられたんだから、みんなのいる場所も分かるでしょ?」
「うーんと。誰かの持ち物とかでもあれば」
「えー!? だったら帆華の持ち物でも借りておくべきだったな」
 
などと言って困っていたのだが、私は
「こちらの道だと思う」
と言った。
 
「ほんとに?」
「なんかさっきから凄く勘が働くの。こちらを行けばみんなに追いつける」
 
「よし、そちらに行ってみよう」
 
そういう訳で、帰り道は私がリードする形で坂道を登っていった。
 
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「こんな所通ったっけ?」
「うーん。近道かも」
「何だかこの道、凄く急だよぉ」
 
などということを言っていたが、それは本当に近道(旧道)だったようで、美佳を探しに降りてきた時の時間より随分早く、みんなに追いつくことができた。
 
「おお、戻って来た」
「美佳ちゃんも一緒だ!」
 
「せんせーい! 美佳ちゃん、追いついて来ました」
と帆華が少し離れた所にいた3組の先生に告げた。
 
それでその先生から美佳を探しに行った先生たちに連絡が行き、お昼近く、頂上に到着しようという頃に、剛田先生・深山先生・教頭先生も戻ってきた。
 
「宮国さん、どこに行ってたの?」と深山先生が訊く。
「ごめんなさい。道に迷ってしまって。でも何とか元の道に戻れました」
 
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私たちが探しに行って見つけたことを言ってしまうと、私たちが叱られるのは確実なので、自力で戻って来たことにしたのである。
 
「気をつけてね。怪我とかしてない?」
「はい、大丈夫です」
 

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お昼のお弁当は、私とリナ、美佳、帆華、小山内さん、の5人で食べた。
 
「ところで冬が女の子の服を着ていることに先生たち誰も突っ込まなかったね」
「クラスの子たちも誰も変に思ってないと思う」
「うーん・・・」
 
「ねえねえ、今日のことは私たちの秘密にしよう」
「うんうん。言ったら先生にもお母ちゃんとかにも叱られる」
「私、服は歩いている最中に木の枝にひっかけて破れたことにする」
 
「でもさ、これを機会に小山内さんも私たちと名前で呼び合わない?」
「うん。いいよ。というか、ボク、男の兄弟ばかりの中で育ったから、女の子とどんな話していいか分からなくてさ」
 
「あ、だったら平気だよ。ここには半分男の子かも知れない冬もいるし」
「じゃ、名前で呼んじゃうね」
と言ってひとりずつ名前を呼びながら握手する。
 
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「リナ、よろしく」「麻央、よろしく」
「美佳、よろしく」「麻央、よろしく」
「帆華、よろしく」「麻央、よろしく」
「冬・・・冬彦って言っていいの?」
 
「ああ、みんな『冬』にしてるよ。冬彦って言ったら、まるで男の子の名前みたいなんだもん」
「冬は女の子だからね。時々冬子って呼んじゃうけど」
「じゃ、ボクも『冬』で。冬、よろしく」
「うん、よろしく、麻央」
 
ということで、この後、麻央は私たちともよく話すようになり、お互いに名前で呼び合うようになったのであった。また美佳も私やリナと親密度が上がり、親友という感じになっていく。
 
「だけど、帰り道は冬のおかげでショートカットできたみたい」
「冬って、あんなに勘が良かったっけ?」
「私、元々はどちらかというと方向音痴なんだけど、さっきのはなぜか道が分かった」
 
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「もしかしたら、女の子の服を着たからかもね」
などと帆華が言い、その時はみんな『まさかー』と言った。
 

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そしてそれは、祖母の一周忌の法要を連休を使って前倒しで行った直後だったことを覚えているので、1998年11月24日(火)と断定できる。
 
私はいつものように放課後、音楽準備室でピアノを弾いていて、いつものように途中で深山先生が来て、指導をしてくれていた。
 
その日はたまにはポップスも弾いてみようということで、ブラックビスケッツの『Timing』を弾いていた。深山先生が弾きやすくアレンジしてくれた譜面を立てて弾いていたのだが、この校舎は古いものですきま風などが吹いてくる。それで譜面が飛んで行ってしまった。
 
「あっ」と言って身体を半分曲げて取ろうとするが譜面は更に向こうに行ってしまう。仕方無いのでピアノの椅子から降りて、屈んで手を伸ばして取ろうとした時、近くにあった板を倒してしまった。
 
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ガラガラと音を立ててその付近の物が崩れる。どうも微妙なバランスで積み重ねられていたようであった。そして、長い棒が古くなっている教室の天井を突き破る。
 
と、なんと天井から水が落ちてきた。古い校舎なので雨漏りして、その水が溜まっていたようであった。
 
「わ、たいへん。楽器を拭かなくちゃ」
と私は言ったが、
「いや、それより先に冬ちゃんを拭かなくちゃ」
と先生は言う。
 
ともかくも掃除道具を取って来て、私が濡れた所を拭いている間に、先生はバスタオルと、学校に在庫している着替えを持って来てくれた。小学生の特に低学年の子はあれこれ失敗して服を汚すことがあるので、着替えが用意してある。
 
「ありがとうございます、先生」
と言って、着ている服を脱ぎ、身体を拭いてからそれに着替えようとしたのだが・・・
 
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「これ、女の子の服ですか?」
「うん。君、これが似合いそうな気がしたから」
 
私は一瞬考えたが
「じゃ、着ちゃいます」
 
と言い、先生に背中を向けてトランクスを脱ぐと、ズロースという感じのゆったりした感じの女の子パンティを穿く。それからレースの付いたシャツを着て、スカートを穿いて可愛いトレーナーを着た。
 
「うん、やっぱり可愛い!」
と深山先生は言う。
 
「そうですか?」
「あとでトイレかどこかで鏡に映してみてごらんよ。凄く可愛いから」
 
自分でも、こういう格好をするのは悪くないので、ちょっと嬉しい気分がした。
 
「この服を着ている時は女子トイレを使っていいよ」
「あ、はい」
「・・・冬ちゃん、もしかして普段も女子トイレ使ってたりする?」
「あ・・・えっと・・・」
「うん、まあいいよ。練習に戻ろう」
 
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ということで練習を再開したのだが・・・
 
「あら、そこの所、引っかからなくなったね」
「ええ。何だか弾ける気がしたんです」
「へー」
 
この曲はとにかく同音連打の多い曲で、かなり指を鍛えられたのだが、特にBメロの最後の所、サビに行く直前の細かい音符の所がどうしてもちゃんとしたテンポで弾けず、そこを集中的に練習していたのである。
 
ところが、雨漏り騒動で中断した後、弾いてみると、そこがすんなり弾けたし、それ以外の同音連打の所も音符の長さが乱れずに正確に弾くことができた。
 
「ちょっと中断したので、気分転換になったのかもね〜」
とその日は言っていた。
 

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ところが翌日。また音楽準備室で『Timing』を弾くと、昨日はスムーズに弾けた所が全然弾けないのである!
 
なお、昨日借りた女の子の服は家に帰ってからすぐ洗濯して、夜中の内に乾いたので、畳んで紙袋に入れて持って来ていた。この日はふつうに男の子の服を着ていた。
 
先生が悩む。
「変ねえ。昨日は何だか余裕で上手に弾けていたのに」
と言ってから、
 
「ねえ、冬ちゃん、ちょっとそこに持って来ている昨日着た服をもう一度着てみない?」
「え?」
 
「女の子の服を着るのは嫌?」
「いえ、むしろ着たいです」
「じゃ、着てみよう」
「はい」
 
ということで私はまた下着から全部女の子の服に交換した。
 
そしてその服を着て『Timing』を弾くと、きれいに弾けるのである。自分でもびっくりする。さっきまでとはまるで別人だ。
 
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「やっぱりそうだ! 冬ちゃんって女の子の服を着ると、ピアノが上手になるんだ」
「えー? そんなことってあるんでしょうか」
 
「あるある。だからさ、これからは毎日ここでは女の子の服を着て練習しよう」
「えー!?」
「嫌?」
「いえ、とってもやりたいです」
「よし、決まった」
 
そういうことで、音楽準備室での深山先生の個人レッスンは、この後2年生の終わりに深山先生が他校に転任になってしまうまで、私が女の子の服を身につけた状態で続いていくことになるのである。
 
その音楽準備室でのひとときは、男の子としての生活を余儀なくされていた小学校生活の中で私が自分自身を解放できて、女の子の服も着られて、好きなピアノをたっぷり弾ける理想の時間、まさにユートピア、いや「ゆうとぴあの」であった。
 
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夏の日の想い出・ゆうとぴあの(4)

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