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■夏の日の想い出・けいおん女子高生の夏(4)

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この中でボクたちは半年前の騒動についてあらためてファンに陳謝するとともに新しいアルバムを買ってくれたことへの感謝を述べた。そしてボクは自分の性別についても初めて
「私は少なくとも心は女の子」
と明言した。
 
ついでに政子が
「ケイと一緒にお風呂入ったけど、女の子にしか見えなかったな」
 
などと言ったもので、ネットではボクが活動休止中に既に性転換手術を受けたのでは、などという噂が広がってしまったのだが・・・・
 
更にボクたちは今後の活動についても
「マリとケイが生きている限り、そこにローズ+リリーは存在しています」
とハッキリ言った上で
「インディーズになるかも知れないけど、きっとアルバム制作はします」
ということも、ファンに約束した。
 
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このボクたちのコメントに対して、音楽雑誌が町添部長と上島先生にインタビューをして記事を載せた。その中で町添部長は
 
「彼女たちはインディーズででもとは言ってますが、彼女たちがアルバムを制作したら、必ず★★レコードで取り扱います。制作環境なども提供します」
などと言ってくれていた。
 
上島先生も「ふたりが戻ってくるのを楽しみに待ってます」と言っていた。
 
ボクたちは雑誌が出る前に町添さんから電話で「こうコメントしといたからね」
と連絡を受けた。
 

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その日ボクたちは政子の家の居間で一緒に勉強をしていたのだが「ありがたいねぇ」
などと言い合う。この日の服装はピンクのポロシャツにハーフパンツである。父との約束でスカートは穿いてないが、まず女の子にしか見えない。
 
「でも★★レコードに行くと、行く度にいろんなアーティストと遭遇するね」
と政子は言った。
 
「まあ、★★レコード所属のアーティストは3000組は居るからね」
「そんなにいるんだっけ!?」
「メジャー・アーティストなんて、ごろごろ居るんだよ。だって、この部屋の中にも2人いる」
などと言うと、政子のお母さんが笑っている。
 
「もっとも3000組の内実質稼働しているのは400組くらいだろうね」
「後は休眠中か」
「多分契約も切られている」
「ああ。。。。でも会うアーティスト、アーティストから『頑張ってね』とか『いつ復帰するの?』とか言われて何だかありがたくて」
「ほんとほんと」
 
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「結構サインも交換したね」
「うん。5月に行った時も谷崎聡子さんとか松浦紗雪さんとかと交換したし、こないだ行った時も大林亮平さんとかmap(エムエーピー)の4人とかと交換したね」
 
「でも大林亮平は嫌いだ」
「あはは、キスされそうになったね」
「だから蹴り上げてやったけど」
「うずくまってたけど、彼、男を辞めることになってなきゃいいけどね」
 
などと大林亮平のファンが聞いたら殺されそうなことを言う。
 
(10年後に政子は歌手から俳優に転じていた大林亮平と恋人になり子供まで作ることになるのだが、ふたりの初対面はこの時であった)
 
その時政子はふと思い出したように
 
「ねぇ、こないだ出たmap(エムエーピー)の新譜のイントロの所の変な声、あれどうやって作ってんの?」
と訊いた。
 
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「あれはトーキングモジュレーターだよ」
「電子的に加工したもの?」
「いや、もっと単純。ギターの音をビニールチューブで口の中に導いて口の中に響かせている。その状態で歌えば、ギターが歌っているみたいな音になる」
「ああ!」
 
「電子的に加工してるといえば、やはりPerfumeだよね」
「あれってけっこう自然な感じの声だよね」
「自然な感じに留めるのに割と苦労してると思うよ」
 
「あれはどうやってるの?」
「あれは Auto-Tune を使ってる」
「それも何かの機械?」
「声を電子的に加工するソフトだよ」
「へー! ソフトでやってるのか」
 
「でも多分Auto-Tuneだけじゃなくて、いくつかのソフトを組み合わせてるかも。声を変形するソフトは多いしね。少し用途が違うけどVoiceChangerなんてのもある。Auto-Tuneは『補正ソフト』だけど、Voice Changerは『変形ソフト』
だから、ボクたちが歌っている声の声質をVoice Changerで10歳くらいの女の子が歌っているかのようにしたり、逆に30代の女性が歌ってるかのように変えたりもできるよ」
 
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「あ、性別も変えられるんだっけ?」
「ボクの歌も随分、Voice Changerで変えてるのではとか言われたけど、実際にはそもそもかなり異性っぽい声を出せる人が、より自然な異性の声になる程度の加工までだよ。完全な男性の声を女性の声にするのは無理」
 
「ああ、やはりそんなものか」
「パラメータ変えすぎると不自然な声になるんだよ」
「そうだろうね〜」
 
「まあこの手のソフト使わなくても、ボクがふだん使ってるCubaseにもAuto-Tuneと似たPitch Correct という機能があるし、もっと色々変えられる VariAudio って機能もあるよ。あれもデモでは女性の声を男性の声っぽいのに変えたりとかしてたね」
「へー。じゃ、それ一度使ってみない?」
 
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「使ってどうするのさ?」
「ふたりで歌った声を加工して音源を作る」
「作ってどうするの?」
「CDにしてディストリビュータとかに流して売っちゃう。ダウンロードストアとかにも出しちゃう。私、もう半年歌ってないからさあ、ちょっと欲求不満で」
 
「欲求不満になるくらい歌いたくなってきたというのは、ボクとしては嬉しいけど、お父さんとの約束に反しない?」
「黙ってればバレない」
 
お母さんが吹き出した。
 
「それにボクたち★★レコードと専属契約を結んでるから勝手にディストリビュータとかで売るのは違反でもある」
「それも黙ってればバレない。だから音声加工する」
「バレると思うけどなあ」
「だからバレないくらいまで加工してよ」
「うーん・・・」
 
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お母さんが頭を抱えて笑っていた。
 
「でも、そんなに歌いたいならお父さん説得して、ローズ+リリーの新譜を出そうよ。ファンが歓喜するよ」
「どこかの事務所と契約せずにも出せるの?」
 
「ボクたちの個人事務所を作っちゃえばいいんだよ。『甘い蜜』の印税が物凄いことになってるから、それを原資に音楽出版社を作って、そこが制作費を出す形にすると、節税にもなる」
 
このあたりの仕組みは実は「ファレノプシス・プロジェクト」でかなり固めて来ている話であるが、政子にはこの件は言っていない。政子には秘密を守るなどという概念が存在しないので危険すぎる。
 
「そういう難しい話は冬に任せた。じゃできるんだ?」
「うん」
 
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すると政子は少し考えるようにした。
「あのね、あのね。私、まだ本当はね、ローズ+リリーとして歌う自信が無いの」
「ああ」
 
「だからこっそりリハビリしたいのよ」
「なるほど」
「だから、私たちが歌ってると分からない形でライブするかCD出すかって思ったんだけど、ライブじゃ、いくらなんでもバレるよね」
「まあそうだね」
「だから覆面でCDこっそり出してみたいのよ」
 
「こっそり出して声を変えても、歌い方でバレると思うけどなあ」
「だからバレないくらいまで雰囲気とかも偽装して」
「うーん・・・」
 
「ねえ、作りためた曲はあるよね?」
「ボクたちが学校に復帰する直前に一緒に過ごした2日間でマーサは詩を30個くらい書いたからね。一応全部曲は付けてある。ただし『用具室の秘密』と『積み木の城』は、いづれちゃんとローズ+リリーの名前で出したいから、使いたくないな」
 
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ボクはちょっとお母さんの顔を見た。
 
「じゃ今月末の模試、来月の模試で成績を上げていたら、目を瞑ってもいい」
とお母さんは言ってくれた。
 
「お母ちゃん、サンキュー。勉強も頑張るね」
「うん」
 

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「じゃ、取り敢えず1曲吹き込んで加工してみようか。それ使えそうなら町添さんに相談するよ。それで★★レコードとちゃんと話をした上で、別名義でこっそり出してみよう」
 
「やった。じゃ、今度の日曜にでもスタジオ借りて、とりあえず1つ歌ってよう」
「あ、ごめん。今度の日曜はボク用事がある」
「どこか行くの?」
 
「軽音楽のフェスティバルに出るんだよ」
「何それ?」
「詩津紅や風花たちと一緒に軽音楽のユニット作って練習してたんだよ、この1ヶ月」
 
「それで最近、冬をなかなか掴まえられなかったのか!」
「ふふ」
 
「・・・・ね。冬、その軽音楽のユニットって、どんな格好で参加してるの?」
「女の子ばかりのユニットだからね。みんな、うちの学校の制服だよ」
「ってことは、まさか冬も女子制服なの?」
「もちろん」
 
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「じゃ、見に行かなくちゃ!」
「ちなみに会場は撮影禁止だから」
「う・・・その前に練習とかしないの?女子制服で」
「じゃ、土曜日の練習とか見に来る? ボク次に練習出られるの土曜日だし」
「行く!」
 

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それで政子は土曜日の練習に音楽室まで様子を見に来たのであるが・・・・
 
「来た以上は何か演奏してもらおう」
と言われてしまう。
 
「えー?明日本番ってのに、今から覚えられない」
「何か楽器できないの?」
「カスタネットくらいなら」
「あ、分かった、政子ちゃん、歌えばいいのよ」
「あ、そうだそうだ」
「歌〜? 私下手だよ」
 
「何言ってんのよ、プロの歌手なのに」
「でもこの曲、歌詞あったっけ?」
「作ればいいよ」
「あ、じゃ私書く」
と言って詩津紅が5分ほどで Omens of Love の歌詞をでっちあげてしまった。何だかとっても楽しい歌詞になってる。こんな歌詞も政子には書けないよなとボクは思ってしまった。
 
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「よーし。合わせるよ〜」
 
それでみんなで演奏する。政子も渡された歌詞を見ながら頑張って歌った。
 
「おお、いい感じ、いい感じ」
「やっぱり、私たち天才ね」
「政子ちゃん、歌うまくなってる」
「そうかな? えへへ」
政子もかなり乗っていた。
 
本番前日ということで2時間ほど練習した。そのあと記念撮影をする。明日は会場内でカメラ使用禁止になっているので今日のうちに演奏している所を撮っておこうということで、交替で携帯を持ち撮影した。政子も楽しそうにボクが女子制服を着てウィンドシンセを吹いているところを撮影していた。
 

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15時半頃「ただいまあ」と言って(一応ワイシャツとズボン姿で)帰宅すると母が「お客さんだよ」と言う。
 
「雨宮先生!」
「モーリーでいいよ、ケイちゃん」
 
「なんか古くからの知り合いなんだって?」と母が訊く。
「うん。もう2年くらいになるかな」
「へー」と言ってから母は「スカウト関連じゃないわよね」と少し心細そうに訊く。
 
母もこの半年ほどの大量の芸能事務所のスカウト攻勢には結構参っていたようである。何度か顧問弁護士の先生に動いてもらって悪質な事務所を排除したこともあった。
 
「関係無い。関係ない。上島先生のお友だちだよ」
「ああ」
 
これで母は安心した感じだ。両親とも、上島先生と町添さんに対する信頼は篤い。
 
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「でも上島先生よりずっと前から知ってたんだよ」
「そうなんだ!」
 
「でも、お待たせしませんでしたでしょうか?」
「ああ大丈夫。別に約束とかしてなかったしね。それでお母さん『このお嬢さん』
を今夜少しお借りしていいですか?」と雨宮先生。
「ええ。まあ」
 
母もボクのことを「娘さん」とか「お嬢さん」と言われるのには結構慣れてきた感じだ。
 
「ケイちゃん、そんな格好は変だよ。ちゃんと女子制服を着なよ」
と雨宮先生が言うので
「あ、はい。じゃ着替えます」
と言ってボクは部屋に行って女子制服に着替えてくる。
 
「じゃ。徹夜でカラオケ対決行こうよ。もう夏休みでしょ?」
「済みません。私、明日予定が入っているので、夜10時くらいで勘弁して下さい」
「あら、何の予定?」
「軽音のフェスティバルがあるんです」
「へー、バンドやってんの?」
 
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「学校の友人同士で1ヶ月前に作って、明日のフェスティバルに向けてここの所練習してたんですよ」
「ふーん。ケイちゃん、何のパート?」
「サックスと言われたんですが、吹けないのでウィンドシンセです」
「機種は?」
「EWI4000sです」
「ああ!」
 
と言ってから、
「じゃ、教えてあげようか? 私の専門知ってるわよね?」
「ええ。モーリーさんは日本で最高のサックスプレイヤーです」
「よしよし」
と雨宮先生はボクの頭を撫でてくれる。
 
「でもモーリーさんの授業料、高そう」
「100万円くらいで勘弁しておいてあげる」
「ディスカウントしてください」
「じゃカラオケ対決でケイちゃんが勝ったらローズ+リリーのサインでいいよ」
「了解です」
 
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