広告:ここはグリーン・ウッド (第1巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・高校進学編(6)

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そういう訳でボクは、ホームルームの後、本館屋上へ出かけて行った。
 
行くなり
「おい、ここは女は立入禁止だぞ」
と言われてから
「あれ?すまん。男だったか。一瞬なんでか女に見えた」
と言われる。はははは。
 
1年生が揃ったところで一列に並ばされ、所属組と名前を叫ばされる。
「こらぁ、お前声が足りん。もっと怒鳴るように叫べ!」
などと注意されている。
 
その内ボクの所に順番が回ってきたので
「1年5組、唐本冬彦です」
とバリトンボイスで言うと
「そんなきれいな声で言ったらいかん。こんな感じで喉潰したような声で叫べ」
などと言われる。
 
冗談じゃない。この声をクリアに保つのにどれだけ日々苦労していると思ってるんだ、というのでボクは完全に応援団をやる気が無くなった。
 
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その日はとにかく自分の喉を守ること第一優先で、どんなに怒鳴られてもできない振りして押し通した。これ一昔前の応援団なら、きっと竹刀でぶん殴られてそうだという気がする。
 

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1時間ほどの応援団練習が終わった所でボクは職員室に行き、担任の前田先生に
「済みません。ボクには応援団は無理です。辞めさせてください」
と言った。
 
「ああ、無理だったか。運動部経験者みたいなので、行けるかなと思ったんだけどなあ」
と担任の反応はあっさりしている。これって、結構な確率で辞める子が出ること前提で指名しているのでは、という感じだ。しかし
「でももう一回くらい練習に行ってみない?」などと言う。
 
「申し訳ありませんが。チアガールならやってもいいですけど」
とボクが答えると冗談だと思ったようで先生は笑っていた。
 
そんなやりとりをしていたら、高田先生が寄ってきた。
「前田先生、もしかして唐本に応援団をさせようとしたんですか?」
「あ、はい?」
「この子には無理ですよ。この子、男の子の格好はしてるけど、女性的な性格の子なんで」
 
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「へー。じゃ、あらためて他の子で考えようかなあ。でも辞めるなら明日のホームルームで、それ自分で言ってくれる?」
「分かりました」
 
ボクは翌日の朝のホームルームで発言を求めて、自分の性格では応援団は無理なので辞めさせて欲しいと言った。あちこちから「ああ、唐本君には無理だと思った」という声が掛かり、少し同情してもらえた雰囲気だった。
 
それであらためて候補者を募るものの誰も立候補しないので、また担任が指名した。しかし指名された子がまた翌日朝のホームルームで「ごめんなさい。僕には無理です」と言って辞任。これを繰り返して、5人目に指名された子がやっと応援団に定着した。
 
ボクを含めて辞任した4人は、彼に「悪いね。押しつけちゃって」と言ったが「うん。まあ何とか頑張るよ」と彼は言っていた。
 
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帰り道、ちょうど奈緒と一緒になったので、歩きながら応援団の件を話したら大笑いしていた。
「まあ、冬には絶対無理だろうね。でもほんとにチアガール立候補すればよかったのに」
「やれと言われたらするけどね」
「チアは経験者だもんね」
「まあね」
 
「ところで入るクラブ決めた?」
「私は弓道部に入ろうかなと」
「おお、凄い。運動部じゃん」
「なんか格好いいじゃん。あの弓矢を射る様って」
「凛々しい感じでいいね」
 
「冬は?」
「うーん。まだ決めてない。月曜日のクラブ紹介を見てから決めるかな」
「コーラス部は?」
「ここのコーラス部は女子だけなんだよね〜」
「冬、小学校でも中学校でも女子だけの合唱部に入ってたじゃん」
「確かにそうだけど」
「そもそも、冬は女子高生のハズ」
「うん。確かに」
 
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「あ、定期券は結局どうしたの?」
「買いに行ったよ」
「学生服で?」
「まさか」
「どんな格好で行ったの?」
「えっと・・・・」
「恥ずかしがることないじゃん」
「うん。結局中学の女子制服着て買いに行った」
 
「その定期券を見せなさい」
「もう・・・・」
 
ボクは「唐本冬彦、15歳・女」と記された通学定期券を奈緒に見せた。
 
「ふふふ。名前は冬彦でも女なんだ」
「男に丸付けてたのに勝手に修正された」
「あはは」
 
「でもこの定期を学生服を着て使っていたら、他人の定期を使っていると思われないかなと不安で。自動改札通る時に赤いランプが点くんだよね」
「それなら、女子制服を着てこの定期を使えばいいのよ」
「えっと・・・」
 
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「でも多分大丈夫だよ」
「何が?」
「冬は学生服を着ていても、女の子の雰囲気持ってるから、性別で咎められることは無いと思う」
「そうだろうか?」
「私が学生服着てて、男子学生に見えると思う?」
「それは見えない。奈緒は女の子だもん」
「それと同じよ。冬は女の子だもん」
「うーん・・・」
 
「冬の持っている雰囲気がね、例の失恋の後で明らかに変わったんだよ。それまでは中性的な魅力ってのがあったのに、あの後で完全に女の子になっちゃったんだよね。冬はもう実質的に性転換しちゃったんだと思う」
 
そして実際奈緒の予言通り、ボクは高校時代に性別・女の定期で何か言われたことは一度も無かった。
 
「ところでさ、ここだけの話」
「ん?」
「有咲とはHしたの?」
「・・・・・それ、ボク記憶が無いんだよ。有咲にそれとなく聞いても笑ってるし」
「私も何か怪しい気がしたから有咲に聞いたら笑ってた」
「ボク・・・しちゃったのかな」
 
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「どうだろうね。でも、もししちゃったとしても、冬と有咲の関係は変わらないと思うよ。だから冬に記憶が無いのなら、気にすることないんじゃない?有咲なら、もし冬としていたとしたら、多分ちゃんと避妊具付けさせてるだろうし。冬も意識が飛んでたとしても、付けるの嫌がったりしないよね」
「うん。そうだと思う」
「じゃ、問題無し。何なら、私とも一度してみる?」
「なぜそうなる!?」
 
「だって、冬となら純粋に快楽目的でセックスできそうだもん。有咲もそうだけど、私と冬の関係にも恋愛要素って全く無いでしょ。だからセックスしちゃっても.ちゃんと友だちのままでいられるし、変なわだかまりは残らないよ」
「でも奈緒はバージンじゃないの?」
 
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「バージンじゃないよ。有咲もね。私は中2の時、有咲は中1の時に経験してる」
「うーん。みんな経験してるんだなあ・・・・」
ボクはSが他の男の子とセックスしたことでボクと彼女の関係が破綻したことを思い出してしまった。
 
「冬も恋人作って1度経験しておけばいいよ。彼氏でも彼女でもいいし。冬は男の子との愛し合い方も分かるよね?」
「経験は無いけど想像してみたことはある」
「たぶん想像してみた感じでしてあげればいいよ。それに私としてみたい気がしたら言ってね。避妊具は用意してよ」
「うーん。。。。」
 
「あ。私や有咲はいいけど、若葉にだけはセックスさせてって言っちゃダメよ」
「いや別にセックスはいいけど。そもそもボク男性機能を使いたくないし。女の子に対して性欲を感じないし。でも若葉、何かあるの?」
 
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「あの子さ・・・色々トラウマあるみたいで極端な男嫌いなんだよ。女子高に行ったのも共学での男子との接触に疲れたからだと思う。若葉が冬と友だちでいられるのは、冬を女の子と思っているからだよ」
 
「・・・・ボク、若葉がボクのこと性転換済みと信じている感じだったから1度触らせたことある。Hなことはしてないけど」
「そのくらいはいいんじゃない?私も何度も触ってるし。でも若葉の冬に対する態度それで変わった?」
 
「全然。ボクの見てるところで平気で裸になって着替えたりするし。ボクも若葉の前で平気で着換えるけど」
「付いてても、そんなの形だけで、実質冬は女の子だと思ってるのよ」
「そっかぁ」
「ね、今度の日曜の昼間にうちに来ない?両親出かけてるし」
 
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「・・・・・でもボクたちもセックスとかの話をする年齢になっちゃったんだね〜」
「そうだね〜。けっこうおとなになったよね」
「ボクが子供すぎるのかなあ」
 
「たぶん『男』じゃないから、私にしても有咲や若葉にしても接しやすい面はあるね」
「ボクが『男』になっちゃったら、今みたいな付き合い方できなくなるのかな?」
 
「冬はたぶん『女』になっちゃうから、ずっと友達でいられるよ」
「・・・なんか最近、自分がどんどん社会的に女に分類されて行きつつあるような気がして」
「だって、おとなになる以上『男』か『女』になるしかない。冬は『男』にはなる気が無いんでしょ? だったら覚悟決めて『女』になるしかないよ」
 
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「ああ、それ愛知の友だちにも昔言われた」
「リナちゃんね」
「うん。ボクには女の子として生きる道しか無いって」
「リナちゃんの意見に賛成」
 

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木曜日、朝のホームルームが終わった後で、しばらくボーっとしていてから「あ、トイレに行っておかなくちゃ」と思い、教室を出ようとした所でひとりの女の子とぶつかりそうになった。 というか軽く接触した。
「あ、ごめんなさい」と言った時、うっかり女声が出た。
彼女は「え?」という顔をした。
 
これが仁恵とのファーストコンタクトだった。
 
1時間目が終わった後、2時間目との休み時間にボクが頭の中をリセットするのに廊下の窓から外を眺めていたら、仁恵が話しかけてきた。
 
「ね、ね、唐本君。唐本君、よく9組の横沢さんと話してるみたいね」
「うん。小学校の時の同級生だから」とボクはバリトンボイスで答える。
「恋人なの?」
「ああ。奈緒とはそういう要素は全く無いよ。純粋な親友。そもそもボク、女の子には恋愛的な興味無いし」
ボクはそれを宣言しておいた方が面倒が無いと思って最初から仁恵にはそう言った。
 
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「ああ、やはりそんな感じがした。唐本君は男の子が好きとか?」
「うーん。そもそも恋愛にあまり興味が無いというか。でも、ボク小さい頃から友だちって女の子ばかりだったから、女の子には友情しか感じないんだよね〜」
「ああ、なるほど」
 
「中学の時とかも、仲の良い女の子数人で町でよく遊んでたよ」
「あ、分かる分かる。唐本君って、そういうタイプか。雰囲気が何となく女の子っぽい気がしてた」
「うん。ボク、女の子っぽいとか、女の子みたい、って言われ慣れてる」
 

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その日の4時間目は音楽の時間だった。音楽室へ歩いていく途中、仁恵、それにそこに寄ってきた紀美香と3人で会話していたので、何となくそのまま3人で隣り合う席に座った。仁恵と紀美香が並んで、その後ろにボクが座る形になった。
 
最初なのでパート分けをしますと言われ、混声四部合唱曲『春に』のCDを流した後、各パートをピアノで弾きながら「歌えそうなパートを歌ってみてください」
と言われた。
 
「私はたぶんアルトだな」と紀美香。
「私は中学の時はソプラノだった」と仁恵。
「唐本君は、深みのある声だよね。バス?」
「ボクの声域はバリトンなんだよね。音楽の時間にやる曲なら、テノールでもバスでも出ると思うな。でもね。ボク小学校と中学校で合唱部に入ってて、アルトを歌ってたんだよね」
「えー!?」
「そして実はソプラノも出る」
「なに〜!?」
 
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実際、その後先生のピアノに合わせて各パートを流した時、ボクはソプラノ、アルト、テノール、バス、と四つのパートを全部歌ってみせた。
「すごーい」
「アルトはちょっと中性的な声だけど、ソプラノは女の子の声にしか聞こえない」
 
この日はボクは本来のアルトボイスの方は使わずに、中性的な声の方を使っていた。音楽の時間に歌う程度の曲なら、中性ボイスで、アルトもテノールも歌えるので、あまり最初から手の内を見せたくないという気分でこの時期はあまり人前ではアルトボイスは使っていなかった。
 
「ねね、今歌った声ってふつうに話すのにも使えるの?」
「しゃべれるよ」とボクはソプラノボイスで言ったあと
「こんな感じかな」と中性的な声で言った。
 
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「おぉ!」と仁恵はとても喜んでいた。
「朝ぶつかりそうになった時に聞いた声は今の声だね?」
「うんうん」
 

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この日の音楽の時間に、ボクはこのふたりとすっかり仲良くなってしまい、お昼のお弁当も一緒に食べた。
 
「へー。そのお弁当自分で作ってきたんだ?」
「うん。ボク料理は得意だから」
「いいお嫁さんになれそう」
「ああ。それボク小さい頃からよく言われてた」
「結構お嫁さんに行く気あったりして」
「うん。実はある」
「おお!」
 
彼女たちと仲良くなるのに、やはり声の問題というのは大きかったようである。この日、お弁当を食べながらボクは中性ボイスで話していた。彼女たちと仲良くなれた、もうひとつの要素は「感触」だった。
 
「でも唐本君ってさ、触った感触がまるで女の子みたいなのよ」と仁恵。「へー、どれどれ」と言って紀美香がボクの肩に触る。
「あ、ほんとだ。これって女の子の身体の感触だよ」
 
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「ボク、脂肪の付き方が女の子っぽいんだよね。昔から言われてて、それでよく女の子の友達と触りっこしてたよ」
「触りっこってどこ触るの」
「え?女の子同士触るっていったら、決まってるじゃん」
「おお。おっぱいか」と紀美香が楽しそうに言う。
 

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夏の日の想い出・高校進学編(6)

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