広告:ここはグリーン・ウッド (第4巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・キャンプの想い出(4)

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0時過ぎた頃、トントンとノックがある。
「はーい」と言って政子がドアのところに行き「どなたですか?」と声を掛ける。
「あ、政子か。俺だけど。唐本がこちらに来てない?」
「ああ。冬ちゃんなら今夜こちらに泊めるから」
「何〜?ちょっとここ開けろ。引っ張っていく」
「だめだよ。そんな乱暴なことしちゃ。本人をちょっと見てみて」
と言って政子はドアを開けた。
 
ボクは花見先輩にペコリと会釈をする。政子がボクの手を取り
「冬ちゃんだよ。可愛いでしょ」と言った。
「え?唐本なの?」
ボクはコクリと頷く。
「冬ちゃん、女の子には興味無いからこちらのバンガローに寝ても大丈夫だよね?」
「ええ。私、恋愛対象は男の子だから」
などとボクもノリで言う。(あれこれ突っ込まれたくないので女声は使ってない)
 
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「うん。まあ、そういうことならいいか」
と花見先輩は言い、帰って行った。その後再度谷繁部長が確認しに来たが、ボクの姿を見て「唐本って、そっち系統だったのか。了解」と言って戻っていった。ボクは何か重大な敷居を越えてしまったような気がした。
 
部長が戻っていった後、やはりそろそろ寝ようということになる。みんなで一緒にトイレにいくことになった。ぞろぞろと5人でトイレに行く。あれ?待てよ。
 
「もしかしてボクも女子トイレに入るの?」
「その格好で男子トイレには入れないよね」
「冬子、可愛いからOKだよ」
「あはは、まいっか」
 
個室が3つしか無いので、先に圭子と理桜とカオルが入り、ボクと政子が待った。「ね、女子トイレ初めてじゃないよね?」と政子が小声で言った。
「初めてだよ」
「嘘。だって、凄く落ち着いてる」
「えっと」
 
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その時、政子が突然ボクのお股に触った。
「何するの?」と小声で言う。
「やっぱりおちんちん無い」
「隠してるだけだよ」
「ほんとかなあ。ま、いいや。そのあたりはゆっくり追求していこう」
 
やがて圭子と理桜がほとんど同時に出て来たので、ボクと政子も個室に入った。ふっと息をつく。パンティを下げ、スカートをめくって便座に腰掛ける。女子トイレに入ったのは、3月に卒業式の翌日、中学の女子制服を着て町に出て、Sと会った時以来だなと思った(公式見解では)。個室で座っておしっこするのって、何だか落ち着くよなという気もした。
 
おしっこが終わってトイレットペーパーで拭き、また玉を体内に押し込み棒を下向きにしてショーツを上まできっちり上げた。スカートの乱れを直し、流してから個室を出る。圭子と理桜とカオルが待っていたので手を振る。手を洗ってハンカチで拭いた。政子も出て来て手を洗った。みんなでバンガローに戻る。
 
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「冬ちゃん、女子トイレ初体験どうだった?」と理桜。
「うん。なんか落ち着くね」
「ずっともうこちらに来ない?」と圭子。
「そうだなあ・・・それもいい気がするなあ」
「かなり女の子になりたい気分になってない?」とカオル。
「少しだけ」
とボクは笑って言った。
 

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翌朝は1年女子のバンガローで御飯を炊き、朝御飯用におにぎりを作った。2〜3年女子のバンガローの方ではお味噌汁を作ってくれている。
 
「冬子きれいに三角おにぎり作るね」
「丸いのできる?」
「こんな感じかな」
「ね、ね、俵型は?」
「それも行けるよ」
「すごーい。やっぱり冬子がいるのといないのとでは戦力が全然違う」
「うん。男子から女子にトレードしてきておいて良かったね」
「ボク、トレードされたの?」
「そうそう」
「なんなら2学期から女子制服で通学してこない?」
「あはは、いいかもね」
 
なりゆきでボクは女の子の服のまま、朝御飯の席に行った。この姿を初めて見た2-3年の女子や、1-2年の男子から「わあ、可愛い」とか「似合ってる」
などという声が掛かって、ボクは嬉しくなった。ああ、もう本当にカムアウトしちゃおうかな、という気分になってくる。
 
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御飯が終わった後はしばらく自由時間となる。谷繁部長は矢立を持ってきていて、毛筆で何か俳句のようなものを書いていた。そうか。うち書道部だったっけとボクは今更ながら思い出した。静香先輩がその傍に座って何やら話している。このふたりは昨夜の肝試しも一緒に歩いたし、カップル成立しかかっているのかな?とふと思った。花見先輩と政子は一緒にどこかに散歩に出かけた。せっかくキャンプに来たのに、あのふたり全然一緒にいる所を見なかったので、このお散歩で花見先輩の気持ちも少し満たされるかな?などとチラッと思った。圭子と理桜とカオルは2年の洋子先輩と一緒に広場でフリスビーをしていた。1年の男子2人と石川先輩は川で魚釣りをすると言っていた。3年の女子2人はバンガローに籠もっておしゃべりをしているようである。
 
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ボクはまだ女の子の服を着たままだったが、広場の隅に座り、フリスビー組と谷繁・静香ペアの様子を見ながら、ぼんやりとしていた時、突然ある衝動が込み上げてきた。
 
荷物を置いている1年女子のバンガローに戻る。荷物の中からレポート用紙と筆記具を取り出す。ああ、ここにピアノが欲しい!そう思った時、ボクはふと携帯で何かできないかなと思った。携帯のアプリ検索で「ピアノ」というのを検索してみる。幾つか引っかかる!取り敢えず使えそうな感じのするものを1個ダウンロードした。使ってみる。うんうん。何とか行ける。
 
ボクはレポート用紙の罫線の間に定規で1本線を加える感じで、3本の罫線に2本中間線を入れて簡易五線紙を作り上げた。携帯に今ダウンロードしたピアノのアプリを使って音を探しながら、五線紙にこの春に入学祝いでもらったお金で買って気に入っているボールペンを使い、音符を記入していく。
 
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おそらく30分くらいやっていたろうか。譜面は完成した。ああ、これに何か歌詞を付けたいなと思う。でも何も浮かんで来ない。ボクは気分転換にレポート用紙とボールペンを持ったまま表に出て、広場の隅の先程座っていた椅子に座った。フリスビー組はまだ遊んでいる。谷繁部長は矢立を使うのはやめて、ただ静香先輩と楽しそうに何か話していた。そこに遊歩道の方から花見先輩と政子が戻って来た。花見先輩が満足そうな顔をしている。政子が満足させて来たなと思い、つい微笑む。そのボクに政子が気付いて手を振った。瞬間また花見先輩の嫉妬する顔。もうやめてよね、ふたりの仲のダシにするのは、などとも思った。
 
その瞬間、ボクは歌詞が書ける気がした。ボールペンを取り出し、新しいレポート用紙にどんどん詩を書いていく。次から次へと言葉が浮かんでくる。こんな体験は初めてだった。書いている内に、花見先輩と政子がこちらにやってきた。
「やっほー、冬子。何書いてるの・・・ってぽえむ?」
「うん。さっき突然曲が浮かんでそれ、こちらに書いたんだけど、それに付ける歌詞が欲しくて。ぼーっとしていたら、今政子を見た瞬間、歌詞が浮かんできたんだ」
「へー。。。。。わっ、何だかこれ私が書くようなポエムだ」
「もしかしたら政子からイマジネーションの塊をもらったのかも」
 
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「ああ、割とそれあるかも。私、エネルギーの放出型なのよね」
「へー」
「オーラとか分かる友だちいない?冬子はたぶんエネルギーの吸収型だよ」
「そう?」
「それもかなり強いからさ。あまりパワーの無い人だと、冬子のそばにずっといるのは辛い。冬子に友だちができにくいのは、そのせいだよ」
「ふーん。。。そういう見方もあるんだ?」
「私はかなり放出強いから、冬子のそばにいても平気だけどね」
と政子が言った瞬間、また花見先輩の嫉妬する視線。もう。。。。
「冬子が今まで作った友だちって、どちらかというと凄い人多くない?」
「あ・・・・」
「覚えがある?」
 
「中学の時の友だちで特に仲良かったふたり、どちらも陸上部の副部長をしたし、1年先輩の人とか、インターハイでこないだ全国優勝したんだよ」
「おお、凄い。多分そういうパワフルな人しか冬子とは付き合えないんだよ」
「政子もパワフルなの?」
「私は天才だもん」
「おお、凄い」
 
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そんな話をしながらボクは歌詞を書き上げた。
「タイトルはどうするの?」
ボクは少し悩んでから『memory of that summer day』と書いた。
「なんで英語?歌詞は日本語なのに」
「うーん。日本語で書いてしまうと、自分が持っているイメージをその言葉で限定してしまう気がするの。英語で書いたほうが、その曖昧な雰囲気がそのまま残るから。日本語のタイトルは後であらためてよく考えて決めるよ」
 
「ふーん。ね。その歌詞添削していい?どうも気持ち悪い場所がいくつかあって」
「うん、いいよ。あ、この詩はこちらの曲に付ける歌詞だから、音の数とかを合わせてもらうと助かる」
「多少の増減は構わないよね」
「うん。それは音符の方を調整する」
 
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ボクは今使っていたボールペンを渡した。政子は「よし」と言ってボクの詩に加筆修正をはじめた。ボクは驚いていた。ボクが少し言い足りないと思っていたような箇所を、政子は凄くうまい表現できれいに直していく。15分ほど彼女もいろいろ悩んだりしながらも、修正は完了した。
 
この曲はボクが実質初めて本格的に作曲した曲であり(それ以前に100曲ほど習作のようなものは書いていた)、またボクと政子が共同で作った最初の作品でもある。ただしこの歌の譜面はその後行方不明になってしまい、出てきたのはボクたちが大学4年生になる春であった。(政子の両親がタイから帰国するというので、大掃除をしていた時にポッと出て来た)
 
「政子凄いよ。ボクが言いたいと思っていたことをきれいに表現してる」
「ふふふ。私は天才ですから」
「うん。天才だと認める」
「でもこのボールペン、凄く書きやすい!これ私にくれない?」
「うーん。まあ政子ならいいか」
「高いの?」
「そうだね。4000円ほどした」
「道理で書きやすい訳だ!で、もらっていいよね?」
「いいよ。詩の修正をしてもらったお礼」
「よし。もらった。代わりに今着てる服は全部冬子にあげるから」
「えーっと・・・」
 
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また花見先輩の嫉妬する目。こちらを何とかしてよ。もう。
「ふーん。セーラーなのか。インクは普通のでいいの?」
「うん。普通のセーラーの替え芯で合うし、シェーファーのでも合うよ。今入っているのもシェーファーの替え芯」
「へー。インク切れたら私もそれにしてみよう」
と言って、政子はそのボールペンを自分のバッグにしまった。
 
「だけどさ」
「うん」
「冬子、男の子の服に着替えちゃっても良かったのに、ずっと女の子の服のままでいるのは、やはりそういう格好が気に入ったのね?」
「え?だって、ずっとこの格好でいろって言われたから」
 
政子は笑ってる。
「ふつうの子なら、みんなが目を離した隙に元の服装に戻っちゃうよ。冬子って、わりと言われたことをそのまま受け入れちゃうタイプ?」
「あ、そうかも。自主性が無いとかよく言われる」
「じゃ、帰りの電車の中までその格好でいなさい」
「いつ着換えたらいいの?」
「おうちまで着ていけばいいよ。それあげたしね」
「えー!?」
 
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11時にバンガローから荷物を全部出して鍵を管理棟に返却した。それから少し早めのお昼御飯とし、バーベキューをする。このキャンプ場のバーベキュー用のスペースを使う。昨晩のカレーが1年女子の担当だったので、このバーベキューの材料を切ったりするのは、2-3年女子の担当だったのだが・・・・
「なんか料理がとってもうまい子がいると聞いたんだけど」と静香先輩が言い、「はい、ここにいます」と言ってボクは圭子から静香先輩に差し出されてしまった。そこでボクはまた材料をどんどん食べやすいサイズに切ったり、お肉とタマネギを竹串に刺したりの作業をした。
 
「うまいねー。ほんとにいい子を借りだしてきた」と静香先輩。
「何か切ったり刺したりしてる様が楽しそうに見える」と洋子先輩。
「うん。ボクこういうの大好き。何か主婦の悦びを感じちゃう」
「じゃ、お嫁さんに行かなきゃね」
「今日はこんな格好させられて、かなりその気になってる」
 
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バーベキューの準備作業をしている内に釣り組が帰ってきた。
「わあ、凄い大きな魚」
「うん。大物が釣れてびっくりした。バーベキューで焼こうよ」
「でもこんなのさばけないよ」
「あ、ボクがさばくよ」
「冬ちゃん、お魚がさばけるんだ!」
「ハマチとかサバとかいつもさばいてるよ」
「すごーい」
 
ボクはその魚(フナ)の鱗を取り三枚におろし、切り身の状態にした。
「これで焼きやすいでしょ」
「鮮やかだ」
「お魚屋さんみたいに手際が良い」
「ね。冬ちゃん、私のお嫁さんになる気無い?」と静香先輩。
「それクラスメイトの女の子にも言われた」
とボクは笑って言った。
 

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キャンプから少したった日。夏休みの補習で学校に(もちろん学生服で)出て行き、昼休みに図書館に行くのに渡り廊下を歩いていたら、政子が遠くを見るような感じで手すりに手を掛け立っていた。彼女の髪とスカートが風になびいて、美しいと思った。
 
「どうしたの?中田さん」
ボクが声を掛けると、政子はボクのほうを振り返り、こちらに優しいまなざしを送ってきた。ボクはドキっとした。
 
「あのさ、唐本君。私、この学校で可愛い女の子がいないか探してるって言ってたでしょ」
「うん」
「私、見つけちゃった。私好みの可愛い子」
「へー。それは良かったね。彼女ともうまく行くといいね」
「うん。うまく行きそうな気がする」
 
ボクたちはおしゃべりをしながら図書館の建物の中に入っていった。
 
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夏の日の想い出・キャンプの想い出(4)

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