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■夏の日の想い出・雪が鳥に変わる(5)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-07-26
 
2019年7月21日(日)午後、東京新宿文化ホール。
 
第6回ロックギャルコンテスト本選(非公開)が開かれた。
 
全国12ブロックの予選で2位以上の人(特に惜しい人がいる場合は3位まで)が全国大会出場の権利を得たが、その27人の中で、ブロック予選を通過後に家族の反対があったり、親の同意書を偽造していたことがバレたり!、また他のオーディションで合格して辞退した人もあり、合計6人の辞退者が出たが、次点の人で連絡したら参加したいと言った人が4人あり、結局25人で争うことになった。
 
コンテスト本選は、3ステップで行われる。第1ステップでは1人ずつ別室の審査員の前で自己アピールをする。第2ステップでは小ホールに全員水着で集合し、その場で先生が踊ってみせたダンスをするというもの。ここまでの成績で足切りすることはない(建前)。
 
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第3ステップが歌唱審査で、過去3年以内に国内で商業的に発売された楽曲の中から3曲を予め届けておき、そのどれかをその場で指定されてロックバンドをバックに歌うというものである。自分が用意した伴奏音源ではなく、生バンドの伴奏で歌わなければならないのが、予選より厳しい所だ。
 
採点はこの歌唱審査が70%(公称)なので、第1ステップや第2ステップで失敗した人も挽回のチャンスがある。
 

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私は7月16日までにローズ+リリーのシングル『Atoll-愛の調べ』の制作作業が終わっており、25日には苗場ロックフェスティバルのために新潟県に移動する必要があったが、この日は何とかなったので審査員として参加した。
 
実際問題として審査員長を拝命している!
 
私が§§ミュージックのオーナーになってから最初のロックギャルコンテストである。
 
審査員は、私、コスモス、ゆりこ、立川ピアノ、日野ソナタ、シックスティーンの羽鳥編集長、ロックシンガーの堂本正登、新人漫画家の樋元端午(てっきり女性と思っていたら男子高校生だった!)、作曲家の東郷誠一、の9人の予定だったが、東郷先生が風邪を引いてしまったらしく、代りに醍醐春海を行かせたいがよいか?という連絡があり、私は快諾した。それで醍醐春海つまり千里はコンテスト開始の1時間ほど前にやってきた。髪が短いので1番と判断する。立川ピアノ・日野ソナタ・堂本正登は千里が髪を切ったことを知らなかったようで驚いていた。
 
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「へー!自分がなまっていると思ったから鍛え直すために髪を切ったのか。凄い」
と堂本さんは言い
「その覚悟に握手」
と言って握手していた。それで結局、立川さん、日野さんとも握手し、ノリで私も千里と握手した。
 
「握手しなくてもしょっちゅう会っている気がするけど」
「それはそうだけどね」
と千里も笑っていた。
 

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オーディション参加者の友人や家族(必ず親権者を含み1人につき最大6人)をホールの座席に待機させたまま、第1ステップの自己アピール審査を始める。これはさすがブロック大会を勝ち抜いてきただけあり、全員甲乙付けがたい成績だった。
 
第2ステップのダンス審査では、けっこう差が付く。このコンテストは歌唱力絶対重視なので、ダンスは必ずしも得意ではないという参加者も多い。しかし実はこれは、よほど酷くない限り、次の歌唱が僅差の場合の優劣付けに使うだけである。
 
そして第3ステップの歌唱審査になる。
 
このコンテストでは有力候補者を“分散”させている。私・コスモス・ゆりこの3人で参加者25人の予選での歌唱をビデオで見た上で、有力なのは北陸で1位と2位になった子、九州1位の子、東京1位の子の4人とみた。それで北陸1位の子を最後の25番、2位の子を14番、九州1位の子を21番、東京1位の子を9番に置いたのである。
 
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このコンテストはこの場では優勝者を発表しない。結果は1週間以内に郵便で連絡するという建前である。これは優勝した子が辞退したような場合に備えたもので、コンテスト終了後に、成績上位の子から順に呼び出して契約の話をすることになっている。実は過去に1度だけ優勝したのに辞退した子があった。
 

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さて第3ステップの歌唱審査は参加者の家族・友人たちだけが見守る中、進んでいく。トップバッターで出てきたのは、北陸3位の子だが、この子は最も緊張するだろうトップで出てきたにも関わらず、堂々とした歌唱をして、度胸の良さを感じさせた。私は彼女には10点を付けたが、他の審査員もかなり高い点数を付けたようだ。
 
その後は1番の子からはやや見劣りする子が続く。しかし優勝候補のひとり9番の子はさすが凄かった。この時点でこの子が1位、1番の子が2位である。
 
その後、14番で出てきた北陸2位の子が東京の子を上回る歌唱を見せた。この子がこの時点でトップ、9番が2位、1番が3位となる。
 
優勝候補のひとりだった21番の九州の子はどうも生バンドに慣れていなかったようで、いきなり出だしのタイミングを誤り、その後はボロボロになってしまった。才能豊かな子と思っていたので惜しい気がしたが、失敗した後のフォローにやや問題があったようだ。残念ながらこの子は落選である。泣き出してしまったのを、ゆりこが出て行って「また頑張ろうね」と肩を抱いて言ってあげたら「ありがとうございます。また頑張ります」と答えた。
 
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そしてとうとう最後の25番の子になる。彼女は予選ではかなり難易度のある曲を歌っているのだが、彼女は本選には比較的易しい曲を3つ挙げていた。それで指定されたのは北里ナナ『ナナの海』である。音域は2オクターブあるものの、スローな曲で、声さえ出れば歌うのにそんなに困難のある曲ではない。最終審査でこういう平易な曲というのは不利ではないかと思ったのだが・・・
 
審査員は全員彼女の歌に魅了されてしまった。物凄く情緒にあふれた歌い方であった。この子、中学2年生ということだけど、この年でこんなに情緒ある歌い方ができるのは末恐ろしいと思った。私は自分の足元を揺るがされるほどの思いであった。
 
むろん私は10点をつけた。
 
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歌唱が全員終わったあと、別室で待機させておいた高崎ひろかに1曲歌ってもらってから、オーディションは終了し、参加者・観客ともに退場となる。審査員9人はひろかが歌っている間に、近くの新宿Pホテルに移動して、食事をしながら審議をした。
 
歌唱を聴きながら付けた点数の集計では、1位25番、2位14番、3位9番、4位1番、5位23番である。
 
「この点数のままでいいですかね?」
と私は審査員にはかった。
 
「3位と4位の点差は僅差ですよね。1番の子は最初に出てきて不利な条件の中、あれだけ歌ったのは凄いと思うので、ここは逆でもいい気がします」
と堂本さんが言った。
 
頷いている審査員が多い。
 
「ダンスの成績でも1番の子は良かったね」
「ダンスは1番・21番(九州代表)・23番(東北代表)の3人が特に良かった」
「だったらダンスの成績を加味して入れ替えてもいいかもね」
 
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「すると1位25番、2位14番、3位1番、4位9番、5位23番かな」
 
「それでいいと思います」
と多くの人からの声があった。
 
「しかしそうすると北陸の1−3位がそのまま本選の1−3位ですね」
 
「ほんとだ!それは凄い」
「北陸が表彰台を独占かな」
 

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それで私たちは1位の子の親御さんの携帯に電話し、Pホテルまで来てもらって契約の話をした。ここに臨席したのは、主催者側では、私とコスモス、ゆりこ、羽鳥編集長、醍醐春海の5人である。
 
契約の際、両親は6月にゆりこが会った時も出てきた懸念点を言ったのだが、それは全く問題ありませんと私は言った。
 
それで彼女はやや不安げな表情だったものの、私が問題無いと断言したことから、笑顔になって私と握手した。ついでにコスモス、ゆりこ、編集長、千里とも握手した。
 
両親はその場で契約書にサインし、彼女のデビューが決まった。
 
私たちは準優勝の子の親御さんの携帯にも電話して来てもらい、彼女に、優勝者と僅差の2位だったので、来春一緒にデビューしないかと勧誘した。ご両親は乗り気だったのだが、本人は自分は1位を目指していたので、2位では嫌だと言い、他のオーディションに出るか、あるいは来年またこのオーディションを受けたいと言った。私たちはそれでは来年待ってますよと言って、私が笑顔で握手して送り出した。来年また受けてくれたら、きっと凄い歌い手に成長しているだろう。
 
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3〜5位の子、そして歌唱審査で失敗した九州の子の4人も順次呼び出して、優勝はならなかったものの、研修生になって歌とダンスのレッスンを受け、数年後のデビューを目指さないかと勧誘した。
 
3位の子(北陸3位)は
「月乃は優勝しましたか?」
と尋ねた。
 
「もちろん」
「デビューします?」
「1月から3月の間にデビューさせる方向でこれから調整するよ」
「だったら、彼女は東京の中学に転校しますよね?」
「うん」
 
「それなら私も研修生になって彼女と同じ中学に転校したいです」
「ああ、お友だちだったね。いいよ、それで」
 
レッスンのために東京の学校に転校したいという話に、両親は驚いていたようだが、彼女の意志を尊重した。
 
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「だって、月乃は私が付いていないと、危なくて」
「けっこう不安そうな顔してるね。でも芯はかなり強いと見た」
 
「そうなんですよ。あの子、実力あるし、大胆だし、決断は速いのに不安そうな顔をするんです」
 
「ああ、覚悟が足りないタイプだ」
 
「そうなんですよ!」
 
それで落合さんも月乃さんと一緒に東京に出てきて、§§ミュージックの寮に住み、同じ中学に通うということになったのである。
 
4位の東京代表、5位の宮城代表、そして順位としては10位だったものの、明らかに有望な九州代表の3人も研修生になることが決まった。
 

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ロックギャルコンテストの本選が行われた21日の夜。私は最後の面談を22時近くに終えると帰宅しようとしたのだが、急に気分が悪くなった。
 
私が座り込んだので、コスモスが寄ってくる。
 
「どうしたの?」
「何か急に気分が悪くなって」
「病院に行こう。私、車を持ってきているから、それで病院まで連れて行くよ」
 
「いや、そこまでしなくても大丈夫だと思う。少し寝てれば治ると思う」
「やはり過労じゃない?あれこれやりすぎだもん。だったらこのホテルに部屋を取って寝てる?」
「そうしようかな」
 
それでコスモスが部屋を取ってくれたので、私はその部屋に入って眠った。やはりコスモスが言ったように疲れが溜まりすぎかなという気もした。
 
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朝起きた時にはもう気分の悪いのは治っていた。むしろ自分の身体にエネルギーが満ちてくるような気がした。コスモスがポカリスエットとお茶を置いておいてくれたので、私はポカリを一気飲みした。
 
「爽快!!よし、頑張るぞ!」
と私は声に出して言った。
 

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