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■夏の日の想い出・神は来ませり(12)

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30分ほど走って白兎海岸に到達する。
 
「わあ、うさぎさんだ!」
と政子が声をあげた。
 
目の前に淤岐島(おきのしま)という島があるのだが、この島がウサギの形をしているのである。もっとも、ゆまは
 
「私にはカピバラに見える」
と言っていた。
 
ここの道の駅で「因幡の白うさぎ」を調達して更に先に行く。これもまた博多の「ひよこ」に似たお菓子である。
 
「かもめ伝説・ひよこ・どじょう掬い饅頭・因幡の白うさぎを並べて味わってみたい」
と政子は言うが
「東京に着くまでに全部無くなるから無理だね」
と私は言っておいた。
 
今日は境港までをゆま、境港から羽合(はわい)までを千里、白兎海岸までをゆま、と細かく交代しながら運転している。この後、鳥取市内で新鮮な松葉蟹の茹でたのを3杯調達して氷ももらって発泡スチロールの箱に入れ荷室に積む。更に9号線を走っていき京都に向かう。福知山ICまでの山越え・急坂の道は千里が運転する。
 
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「この長い長い下り坂でアクセル踏み込んでみたいなあ」
などとゆまが言っていたが
「それ行き先は天国だよ」
と運転している千里は言っている。
 
「ここは千里に運転してもらって良かったようだ」
と私は言った。
 
この道にはフェード現象などを起こしてブレーキが効かなくなった車のために非常減速用の「緊急避難所」が多数設けられている。
 

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福知山ICそばのコンビニに駐める。
 
「じゃ、次はゆまで」
「OKOK」
 
私たちはトイレを借りて、おやつや飲み物を調達した。
 
「ここまで来ればもう東京はすぐだね。18時頃着くかなあ」
などとゆまは言っている。
 
「それは無茶すぎる。確実に免停になる」
と私は言う。
 
「う、それはやばいな」
 
「まあ今夜11頃までには着くと思うよ」
と千里も言っている。
 
「ただルートを選ぶよね」
とゆま。
「うん。渋滞時間を避けられるかどうかに掛かっている」
と千里。
 
「提案。その渋滞する時間はどこかで休憩して晩ご飯食べよう」
と私は言った。
 
「うーん。まあそれでもいいか」
 

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「で福知山ICからどっちに行く?」
とゆま。
 
「常識的には中国道方面だよね」
と千里。
 
「じゃ舞鶴に行こう」
とゆま。
「その方が楽しいよね」
と千里。
「たぶん渋滞も避けられる」
とゆま。
 
それで車は福知山ICから舞鶴若狭道に乗り、北へ進路を取る。やがて小浜ICで降りる。小浜と敦賀の間が開通するのは翌年7月である。ただし小浜−敦賀間のR27は、その距離の大半で最近出来た快適なバイパスを走ることが出来る。私たちは16時頃には敦賀市内まで到達した。市街地の道路を通過するが、うまい具合に混雑時間帯の前である。
 
「さて、敦賀から北に行く?南に行く?」
と運転しているゆまが訊く。
 
「常識的には南・米原方面だよね」
「じゃ北・福井方面で」
 
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「え〜〜〜!?」
と私は声を挙げた。
 
車は敦賀ICから北陸道の下り・新潟方面に乗った。
 
(北陸自動車道も北陸本線も、大阪方面が上りで、新潟方面が下りである。東京から北陸道を通って金沢に行くと「上り」に乗るので不思議な感じになる。)
 
約2時間で石川県の徳光PAに到達する。ここはハイウェイオアシスが併設されており、シャワーや宿泊施設などまである。
 
「じゃ晩ご飯でも食べよう」
「これから1時間くらいはどっちみち混むもんね」
 
それで施設内のお店に入り、海鮮丼を食べたが、これがなかなか美味しかった。
 
「今回の旅は美味しいものにばかりありつけて満足満足。可愛い男の娘にも会えたし」
と政子も笑顔であった。
 
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19時すぎ、徳光PAを出発する。運転するのは千里である。
 
「みなさん疲れたでしょ?寝ててください」
と千里は言っている。
 
実際、疲れも溜まっていたし、美味しい晩ご飯を食べた後で、政子はすぐ寝たし、私もいつの間にか眠ってしまっていた。
 
目が覚めたのは22時半くらいであった。
 
運転しているのは、ゆまである。
 
「今どのあたり?」
「さっき練馬ICを通った。もうすぐおうちに着くよ」
「もう!?」
 
「ねえ?かなりスピード超過してない?」
というより、あり得ない時間という気がした。
 
「そんことない。ねぇ、千里?」
とゆまが言う。
 
「うん。私もゆまも安全運転だったよ。ふたりとも100km/h以上出してない」
と助手席の千里。
 
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物凄く怪しい!
 
「うんうん。110くらいまで行っちゃったらエンジンブレーキで減速してたから」
とゆま。
 
ほんとか!??
 
結局23時前にマンションに着いてしまった。ゆまにも千里にも疲れているから今夜は泊まっていくといいと言い、充分寝ていた私が松葉蟹の発泡スチロールの箱を3つフィールダーに積んで、七星さんたちが音源制作をしているスタジオにデリバリーしてきた。
 
蟹はお昼までにはきれいさっぱり無くなったらしい。
 
音源製作はこの日がもうタイムリミットだったのだが(実は12月4日発売予定で「ある事情」により絶対に延期もできなかった)、この蟹を食べたパワーで何とか夕方までに録音作業を終了し、技術者さんが徹夜でマスタリング作業をしてくれて、翌朝工場に持ち込んでプレスを始めることができた。
 
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信子が東京に戻ってきたのは15日の夕方であった。出雲まで行く時は彼女の姿に車を停めてくれた人が声を聞いた時点で「何だオカマか」と言って乗せてくれないということが多かったこともあり8日朝から12日昼まで4日も掛かったものの、帰りは14日昼に羽合で冬子たちと別れた後、1度も断られることなくスムーズにヒッチハイクが進み、1日ちょっとで戻って来ることができた。
 
まず羽合から鳥取までガラス屋さんの車に乗せてもらった後、ホモの夫婦?っぽい30代の男性2人のプレマシーに乗せてもらい、京都まで出て、高速のPAの片隅で1泊した。15日の朝には九州旅行してきたあと名古屋まで戻る所という女子大生2人組のタントに乗せてもらったが「運転免許持ってるのなら、ちょっと運転代わって」などと言われて、信子自身が運転しながら楽しいおしゃべりの時を過ごした。彼女たちからはお化粧のことやファッションのことを随分教えてもらい「やっぱり女の子っていいなあ」と思ってしまう。彼女たちとはノリでアドレスを交換した。
 
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その後、静岡に行く老夫婦のスズキ・エリオに乗せてもらったが、これも主として自分が運転した。この人たちには浜松でうなぎまでごちそうになった。この老夫婦は自分のことを女の子だと信じていた雰囲気もあった。そして最後には出張先から東京に戻る所という上品な雰囲気の30代男性が運転するレクサスGS450hに乗せてもらう。彼は「もしよかったらHしない?ホテル代は僕が出すし、ちんちん付いてても僕は気にしないよ」などと誘惑してきたものの、丁寧にお断りすると、それで気を悪くした様子もなく、色々会話をして、何だかデートでもしている感じで楽しい時を過ごすことができた。男性との恋愛はさすがに考えられないものの「彼女扱い」されるのもそう悪くないかもという気もした。彼とも勢いに負けてアドレスを交換した。
 
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しかし・・・と信子は思う。
 
今朝はヒゲを処理する必要が無かった。実は昨日14日の朝もヒゲを処理する必要が無かった。
 
女装している時のヒゲの処理というのは面倒で、きちんと抜いて処理しておかないと化粧だけでは隠すことができない。1日中女装している場合、その処理を朝お化粧をするまでにやる必要がある。しかし夜の蛍光灯の灯りだけでは暗くてよく見えない。つまり、朝太陽が昇ってすぐくらいの時間に処理する必要があって、これをしておかないと、トイレにも行けない。
 
それで東京を出てから出雲までの間、これが本当に大変だったのだが、冬子たちと会った翌日の13日朝はあまり伸びていなくて簡単に済んだ。そして14,15日は全く処理の必要がなかったのである。
 
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旅の疲れでヒゲも伸びてないのかな?でも伸びないのは便利で助かる、などと信子は思っていた。
 

罰ゲームで出雲までの女装旅行に行っていた信一から、都内に入ったという連絡を受けた正隆は「都内まで来たらもう電車で移動していいよ」と連絡し、自分のアパートに来るように言った。三郎と清史に連絡した所、三郎はすぐ行くといい、清史はバイトが入っているので今日は行けないということだった。
 
やがて三郎が来るので、お茶を入れて飲みながら信一の帰りを待つ。
 
「ところでさあ、ここだけの話。あのカードは誰か書いたのかね?」
と三郎が言う。
 
正隆は少し考えていたものの
「じゃ、ここだけの話」
と言って、机の中から数枚の紙を取り出す。
 
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「俺が外した紙だよ」
と言って見せる。
「うっ」
と三郎は声を挙げた。
 
《女装して18きっぷで鹿児島まで往復し、宮島と山笠と鹿児島の西郷さんの写真を撮ってこい》
《女装してヒッチハイクで岩手まで行き、伊達政宗と宮沢賢治の銅像の写真を撮ってこい》
《女装して普通列車の乗り継ぎで金沢まで行き、碓氷峠の眼鏡橋と射水市の海王丸と金沢の兼六園の写真を撮ってこい》
《裸で山手線一周》
《**にリンゴを1個入れろ》
《濡れた手で電線にぶらさがる》
《スマホ初期化》
 
「内容がかぶっているのと、さすがに酷すぎるのを外した」
「あははは」
 
「正直言うと、出雲は俺が書いた」
と正隆は言う。
 
「そうだったんだ! 実は俺が書いたのが鹿児島だ」
と三郎。
 
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「ということは、金沢と岩手は、清史と信一が書いたことになる」
「つまり全員“誰か”を女装させてみたかったんだ?」
「そう。“全員”がね」
 
と言うと、ふたりは大笑いした。
 

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18時すぎ、ピンポンが鳴るので、正隆がドアを開けた。
 
「ただいまあ。戻ったよ」
と言って、女装の信一が入ってくる。
 
「おお、お疲れ様!」
と正隆も三郎も笑顔で迎える。
 
さっき電話で話した時は「服も着替えていいよ」と言っておいたのだが、女装のまま彼が戻ってきたことに、半分は驚き、半分は納得した。
 
「清史はバイト行ってるんだよ」
と正隆は言う。
「うちの姉ちゃんも後で寄ると言ってた」
と三郎。
 
「でもさすがに疲れたぁ。でもあちこちで親切な人に会って助かったよ。それでこれ神迎祭の写真、これ神在祭の巫女舞、出雲大社のあちこちの写真」
 
などと言って信一は女装のまま“お姉さん座り”して、多数の写真を見せる。彼が付けている化粧品の香りが正隆をドキッとさせた。
 
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男だと知らなかったら、デートに誘いたくなるじゃないか。こいつ、こんなに可愛かったっけ??
 
「ついでにこれお土産で買った、どじょう掬い饅頭ね」
「おお」
 
それでみんなで摘まむ。後で来るという三郎の姉のために少し取っておく。
 

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「しかし何だかすっかり女装が板に付いている」
と三郎が言う。
「うん。女の子の雰囲気が凄く出てる」
と正隆も言った。
 
「そう?何かハマッちゃった気がする。これからも時々女装してみようかなあとか思っちゃった」
と信一は言っている。
 
正隆と三郎は一瞬顔を見合わせたものの
「まあ、それもいいんじゃない?」
と言う。
 
「クリスマスのライブでさあ、ぼく女装で歌ってもいい?」
と信一が言うと
 
「いいよ!その方が人気出たりして」
と正隆は笑顔で言った。
 
「まあ女の子ボーカルのバンドって多いもんなあ」
と三郎も言う。
 
「でもだったら、お前、女の声で歌えるように練習しろよ」
と正隆。
 
「うん。女の子の声の練習頑張ってみる」
と信一は明るく答えた。
 
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夏の日の想い出・神は来ませり(12)

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