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■夏の日の想い出・種を蒔く人(10)

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和実たちに続いて3月28日には佐野君と麻央が東京工業大学の修士課程を修了した。ふたりにはお祝いに5000円のQUOカードを1枚ずつ渡した。実を言うと先日ローキューツの銅メダルのお祝いに渡したのが余ったといって戻って来たものの再利用である。
 
「君たちはいつ結婚するのさ?」
 
「今も既に実質結婚しているような気もして」
「ああ、するする」
「取り敢えず僕のアパートは年末で引き払ったんだよ。実質もう荷物がほとんど残ってなかったけど」
「もう2年近く、荷物はほとんど俺のアパートにあったもんな。親の手前別々にアパート借りてただけで」
 
ふたりのセリフは分かりにくいが「僕」と言っているのが麻央で「俺」と言っているのは佐野君である。
 
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「取り敢えず夏のボーナスでエンゲージリングを買おうかと」
「指輪くれたら、その後は生でしてもいいよと言ってある」
 
「その時点で婚姻届けは書くだけ書いて、双方の親の署名もらって、いつでも提出できる状態にするつもり。万一妊娠したら即提出」
 
「じゃ実質それがふたりの結婚だね」
「追って結婚式披露宴はするけどね」
 
「じゃ年末くらいに結婚式?」
 
「まあ1〜2年以内に結婚するつもりで僕は就職しなかったし」
と麻央。
 
彼女は卒業しても現在しているGSのバイトを継続することで、店長さんと合意しているらしい。佐野君は川崎市内の機械メーカー研究部門に就職する。
 
「政子が結婚式の司会をさせてと言っていたけど」
「あいつ、すぐ下ネタに走るからなあ」
と佐野君は言っている。
 
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「言えてる言えてる」
「まあいいよ。じゃお願いしようかな。でもちんちんとか割れ目ちゃんとかいう言葉禁止ということで。去勢とか男の娘とかも禁止で」
「了解〜言っておく」
 

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「ところでさ」
と佐野君はまじめな顔で言った。
 
「松山が4月30日に大阪で結婚式を挙げる」
「うん。本人からもメールで連絡をもらってる」
と私は答える。
 
「俺は招待されてるから行ってくるけど、何か伝えることとかある?」
「幸せになってねと言ってたと言っておいて。それは政子の気持ちでもある」
 
と言って私は祝儀袋を2つ出す。
「これ渡してくれない?女性名義だとやばいかなと思ったから、私たちの父親の名前を借りた」
と言って、私は唐本大史名義の祝儀袋と、中田晃義名義の祝儀袋を出した。佐野君はそれを手に取らずに眺めている。
 
「俺は松山は中田と結婚するのかと思ってたから、相手が違う女だったんで、びっくりしたんだよ」
と佐野君は言う。
 
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「例の熱愛報道が出た時に、その煽りで揉めて結局別れてしまったんだ」
「そうだったのか。残念だったな」
「政子はかなり落ち込んでいたけど、何とか立ち直った」
 
「大変だったな。ところで唐本は木原とどうなってんの?」
「ふつうに付き合ってるけど」
「だったらいいけど。ちゃんとデートしてるか?」
「今は無理だよ。司法修習生やってるし」
 
「唐本にしても中田にしても仕事が無茶苦茶忙しいみたいだからさ。恋人とデートする時間マジで無いだろうけど、ずっと会わずにいると次第にお互いの心は離れていくぞ。メールだけ交換していればいいというもんじゃないから」
と佐野君は言う。
 
「うん。ありがとう。司法修習が終わったら1度デートするよ」
 
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そこまで話した所で佐野君は祝儀袋をしまおうとしたが、
「わっ」
と声をあげる。
 
「どうしたの?」
「唐本、お前これ幾ら入れた?」
「え? 30万円ずつ。芸能界だと300万円くらい包むんだけど、一般では1桁小さいかなあと思ったから」
 
「お前金銭感覚がおかしくなってる」
「そうだっけ?」
「世間一般じゃ、せいぜい入れて3万円だよ」
「そんなに少なくていいんだっけ?」
「30万も入れたら松山の奥さんが仰天して、これ誰?と追及してやばいことになるぞ。悪いこと言わんから3万ずつに減らせ」
 
「分かった。うーん。私もしかしたら世間一般の相場が分からなくなってるかも」
「芸能界が異常すぎるだけだと思う」
 
それで私はその場で祝儀袋を開けて金額を3万円に減額。内袋は金参拾萬円と書いてしまっているので、麻央が持っていた祝儀袋のストックから内袋をもらい金参萬円と書き直した。
 
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「でも冬、私たちの結婚式の御祝儀に30万なら歓迎するよ」
などと麻央が言うので
「うん。じゃそうするよ」
と私は笑顔で言った。
 

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2016年4月1日(金)。
 
★★レコードで人事が行われ、鬼柳制作部次長が営業部次長に異動、加藤課長が制作部次長となり、町添制作部長のスタッフとなる。そして森元係長が課長に昇格してJPOP部門の総責任者となった。南さんと北川さんが上級係長となり森元さんを支える。氷川さんも主任から係長に昇格した。
 
2007年6月に松前さんが社長に就任、町添さんが取締役制作部長になった時に加藤さんは係長から課長に昇格した。それ以来約9年間★★レコードのJPOP部門を統括し、毎年数百億円の売上をあげて業界でも急成長を遂げた★★レコードの中核を担っていた。
 
就任早々、当時★★レコードの看板アーティストであったバンド、モンシングのリーダーでボーカル・作詞作曲をしていた弥無の独立、SRレコードへの移籍という衝撃の事件が起きるが、ここにそれまでほとんど無名であったロックシンガー堂本正登をボーカルに起用、「モンシングver2」として売り出したのが当たった。このバンドは堂本の甘いマスクが若い女性の人気を呼び、2007年夏から2010年末まで2年半活動して、初代モンシングの数倍の売上をあげた。
 
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その「モンシングver2」を実質的に主導したのが加藤さんだった。
 
加藤さんは入社して間もない頃にワンティスの担当(2代目担当)となり、妥協をなかなか許さない高岡さんをうまくなだめてCD制作を「完成」に漕ぎ着かせ、デビュー以来8連続ミリオンという歌謡史上に残る記録を打ち立て、その功績から24歳で係長に昇格している(高岡さんの事故死の責任を取って辞表を提出したものの慰留され、半年間の降格・減俸と2003冬・2004夏の賞与返上を経て、2004年秋に係長復帰)。
 
係長時代には、ポップスか演歌かかで迷走していた松原珠妃をポップス路線に方向付けたり、スイート・ヴァニラズもアイドル路線からロック路線に転換させたりしたし、課長になって早々にモンシングver2のほか、AYAやローズ+リリーのプロジェクトを主導して★★レコードの現在の中核アーティストを育てあげている。
 
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「ドライバーチーjムが解散という噂があるんです」
とその日、佐良さんは困惑したように言った。
「こういうことをケイさんに相談するのは筋が違うのは承知なのですが」
という前提を言った上での話である。
 
「やはり社内の体制が変わったからですか?」
「今ドライバーチームはドライバー10名、1ヶ月に1000万円の経費が掛かっています。これを維持することに、村上さんから異論が出ているみたいで」
 
「費用は掛かっているかも知れないけど、私は物凄く助かっています。たぶん醍醐春海にしても、後藤正俊さんにしても今このドライバーチーム無しでは活動に支障が出ますよ。1人専任のドライバーを雇うのは簡単だけどそれでは忙しい時にその人が潰れてしまうんです。チームで対応してくれるから、いいんですよ」
 
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と私は言う。実際昨年も多忙時に佐良さんがあまりにも長時間連続出勤になるので、染宮さんや鶴見さんが対応してくれたり、また千里が長期間日本代表の合宿に入っている時は矢鳴さんがこちらをカバーして佐良さんに少しまとまった休みを取らせたりもしていた。
 
「そのあたりは有用性を自負しているんですけどね」
 

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私はこの問題について千里に連絡を取ってみた。すると1度もっとも恩恵を受けている自分と私と後藤さん(タブララーサ)、田中晶星さんで会わないかと提案してきた。それで私が交流のある後藤さんに連絡し、後藤さんから田中さんにも連絡を取ってもらったのだが、後藤さんから上島さんと雨宮さんにも来て欲しいという提案があり、結局4月3日(日)の夕方に6人で密談することになった。
 
「ロンダ君や香住君にも声を掛けるべきかも知れないけど、深夜遅くまでの話し合いになったら女性には辛いだろうから」
 
などと後藤先生は言っていた。性別の怪しい雨宮先生は置いといても、私や千里の性別も無視されている??まあいいけど。
 
場所は最も多忙な上島先生に合わせて上島先生宅になった。私はその日KARIONの仙台公演をしていたのだが、打ち上げは他の人に任せてひとり新幹線で帰京、この話し合いに参加した。
 
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「このメンツは凄いよね。たぶん★★レコードの売上の7〜8割を占めているよね」
と最年長の後藤さんが言う。
 
「9割越えているかもね」
と雨宮先生が言う。
 
「★★レコードだけじゃなくて、他のレコード会社にもかなり関わっている」
と田中さん。
 
「多分◎◎レコードでも4割占めているよ」
と後藤さん。
 
「でもごめん、僕、ケイちゃんは性転換しているから男に準じてもいいかと思って、雨宮は女みたいな格好していてもチンコ付いてるからいいやと思ったけど醍醐春海さんって女性だったのね?てっきり男性と勘違いしてた。途中で寝てもいいよ」
 
などと後藤さんは言っている。
 
「大丈夫ですよ。私プロバスケット選手なので体力はありますし、日中はバスケットの練習してるから、たいてい作曲作業は夜間なんですよ」
と千里。
 
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「へー。バスケット選手か。凄いね」
 
それで千里が今回初対面になった後藤先生と田中先生に醍醐春海の名刺と一緒にレッドインパルスの選手の名刺を渡すと
 
「エンブレムが格好いい!」
などと言われていた。
 

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「新しく課長になった森元君に電話して単刀直入に訊いてみた。社内でそういう話が出ていることは認めた。ただ、森元君は町添さんとも話し合いの上、ドライバーチームの存在意義を訴えて反論するということで、その反論のための資料を加藤次長がまとめることになったらしい。僕たちにも話を聞きに来るということ」
と上島先生が説明する。
 
「村上さんはもう社長になったつもりでいるなあ」
などと田中さん。
 
「でもいっそドライバーチームを独立させて別会社にしちゃうというのは?」
と雨宮先生が言う。
 
「うん。それは私も思った」
と田中さんが言う。
 
「それはありだと思う。独立会社になるのなら、今僕が個人的に雇っている2人のドライバーもそこに合流させてもいい」
 
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上島先生は1年前にドライバーチームが発足した時、★★レコードの社員が自分のそばに張り付くことになるのを嫌がって、個人的にドライバーを雇った。しかし1人では追い込みの時に連続72時間稼働などということになった場合、人間の体力を越えるので、2人雇って負荷分散したのである。
 
「私のドライバーは全国に20人くらい居るし、全員作曲家兼任だからそこに合流させる必要は無いけど、地方でドライバーが必要な時は言ってもらえば協力するよ」
と雨宮先生。
 
「雨宮先生系のドライバーに関しては、私かアクア・シュライン社長の新島に照会してもらえばすぐ対応できます」
と千里が補足する。
 
アクア・シュラインは雨宮先生の個人事務所である。社長の新島鈴世さんは先生の1番弟子でもあり、作曲家集団《雨宮作曲製造工場》の管理人である。
 
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「それで独立会社を作って、そこが★★レコードと提携して、★★レコードの全国の支社でも対応してもらえる体制を作ればいいのではないでしょうか。都度ドライバー会社から★★レコードにいくらか払えばいいですよね?」
と千里は提案した。
 
「それは現実的だね。すると独立会社のドライバーをメインに使いつつ、地方で急に運転する人が必要になった場合は、雨宮君の系列と★★レコードの系列の双方を利用できる」
 
「今★★レコードではこのチームに月間1000万円の費用が掛かっているらしいです。それを私たちで出資すればいいことになりますかね」
と私は確認する。
 
「今優先ドライバーが付いているのが、僕と田中君、ケイちゃん・マリちゃん、醍醐ちゃん・葵ちゃん、エリゼ君・ロンダ君、香住零子君の6組、それに上島君も入るなら7組かな。それぞれたとえば毎月150万円くらい拠出すれば採算は取れるよね?」
 
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「7組で出資して会社を設立して、利用料金として毎月150万か200万円くらい払う。それで剰余金が出たら配当として分配しちゃえばいいんじゃない?」
 
「ああ、それでいいですね」
 
「じゃその件、ロンダ君や香住君にも連絡してみるよ。まあ彼女たちがこの話に乗らないなら乗らないでも何とかなるし」
と上島先生。
 
この件はそういうことで話は割と簡単にまとまった。
 
そしてその後、音楽的!?雑談がお酒を交えて夜明けまで続き、最初何度か食事などを持って来てくれていた春風アルトさんも途中で眠ってしまったようで、その後は雨宮先生に言われて千里が勝手に台所に行って色々料理を作って持って来てくれた。
 

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夏の日の想い出・種を蒔く人(10)

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