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■受験生に****は不要!!・転(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2002.03.12
 
2学期が始まった。補講の最後に行われた実力テストの成績は18位だった。これは補講を受けていない子まで入れると80位程度の成績だと言われた。ボクは着実に力を付けていることを感じていた。
 
この学校は進学を優先しているので文化祭や体育祭は無い。2学期、2年生たちはもう自分の進学先を絞りに掛かっていた、3年生は最後の追い込みに掛かっていた。1年生も授業から体育と芸術、それに家庭科が外され、受験用の科目一色になってくる。みんな気合いが入ってくるその中で、ボクはテストの度に順位を上げていった。10月の中間試験は84位、11月の実力試験は65位(全国523位)、12月の期末試験で53位、そして3学期に入って2月の期末試験は38位。
 
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2年生からは進路・成績別のクラス編成になる。ボクは国立大学上位の文系を志望にしていたが、期末試験が終わった所で担任から呼び出された。
 
「2年生は就職希望の生徒で1クラス、理系の志望者で3クラス、文系の志望者で4クラス編成する。キミは文系を志望しているが、少なくとも2年の間は理系のクラスに入らないかね」「どうしてですか?」ボクは意味が分からずに尋ねる。
 
「うん。キミは正直な話、入試では合格スレスレくらいの所で入ってきている。しかしテストの度にどんどん上位に上がってきた。キミはもっと伸びると思うんだよ」
「ボクももっと伸ばすつもりです」
「だったら理系に行きなさい。その方が生徒のレベルが高い。キミはレベルの高い生徒の中でもまれればもっと成績を上げられる」
 
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あぁ、なるほど。ボクは先生の意図がだいたい分かってきた。できるだけいい大学の難しい学部にたくさん生徒を放り込めば、学校自体の評価が上がるということだろう。この学校のドライさは最初から分かっていたからボクはあっさり承知した。
 
「じゃ、志望校は東大の理3にしておきます」
「よし。キミは充分そこまで行ける可能性があるよ。頑張りたまえ。あ、それからキミ女の子なんだからさ、いつも気になっているけど『ボク』というのはやめて、ワタシとかアタシとか言いなさい」
「はーい」
ボクは空返事をして、職員室を出た。
 
その頃ボクはとうとうブラジャーをCカップに変えた。桜木先生はボクの身体がとても女性ホルモンを受け入れやすい素質があるんだと言っていた。ホルモンを幾ら投与しても、あまり胸が大きくならない人もあるらしい。女性ホルモンの「レセプター」というものが、元々存在しているんだと言われた。ところでその頃、ボクと『貧乳連合』を組んでいた西川さんはなんとDカップを付け始めていた。彼女のオッパイはボクよりもずっと凄い勢いで成長していったのであった。ボクらはしばしばオッパイの触りっこをして「あ、すごい」「そっちこそ」とやっていた。クラスの女子16名の中でもCカップ以上を付けているのは4人しかいない。ボクらはいつの間にか『巨乳連合』になっていた。もちろん西川さんとはずっと仲良しだ。彼女も勉強を頑張っていて、東北大学の理学部を受けたいと言っていた。同じ理系ということにはなるがしかし2月の期末試験の成績は52位で、ボクと同じクラスになれるかどうかは微妙な線だった。
 
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終業式が終わってボクは美夏と一緒に帰省した。新学年が始まるまでは3週間あるが、当然その間にもたくさん勉強するつもりだ。ボクは数学と英語と現国の問題集を1冊ずつ仕上げるつもりで、美夏にみつくろってもらった。美夏の方も来年からは進学希望の人で1クラス作られ、そこに入れられることになったといって張り切っていた。
 
ボクの成績の上昇度には美夏も正直感心してくれていた。内容的な問題では、もう美夏に教わらなくても、かなり解けるようになってきていたが、ただ現国や英語で別の意味での少し壁を感じ始めていた。自分が絶対これで正解と思う解答を書いてもそれが間違いとされてしまい、しかも先生の説明に納得の行かないことがしばしばあったのだった。
 
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そのことを美夏に言うと「春紀はそろそろ今まで私がやめときなさい、と言っていた受験技術を付けるべき時期に来ているみたいね」と言った。「数学や化学などは問題の正解はひとつしか無い。でも国語や英語は個人の解釈の問題が出てくるのよ」と美夏は言った。
 
「例えば、You have some information. これを疑問形にしたらどうなる?」
ボクは即答した「Do you have some information?」すると美夏は言う「うん、それが英語がしゃべれる人の答。でもそれは不正解にされるよ」「そうか、Do you have any information? が正解だね」「そういうこと。つまり疑問形になったらsomeはanyに変えなければならない、ということを知っているか、というのがこの質問の本意なのよ。でも、ここでanyを使うのは本当は変だよね」
「うん。まるでお前が知っているわけ無いよな、という感じになっちゃう」
 
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「つまり、英語にしても、現国にしても、自分がそれが正解と思う答えを書くんじゃなくて、出題者がどんな答えを欲しがっているか、というのを推測して答えを書く。これができないと、英語や現国で満点は出ないのよ」
 
「なるほど....でも、それ、やはり変な気がする」
「変だけど、点数を取るにはそうするしかない。春紀が英語を操る能力があるかとか、文章を読解する力があるかというのは関係ない。自分の実力は自分が一番分かっているんだから、わざわざ試験官にまで認めてもらう必要はない。受験というのは、出題者の意図を読みとるゲームであって、それ以外の何物でもないよ」
 
「そうか、ゲームか」
「そういうこと」
「じゃ、割り切ってやっちゃえばいいんだ」
「そういうこと」
 
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「ボクが女の子の振りしているのと同様だね」
「うん、春紀は女の子の格好していて、身体も女の子であっても、確かに中身は男の子だよ。それは私が知っている」
ボクは美夏にキスをした。
 

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帰省している間は健診を受けながら注射で女性ホルモンを補給してもらう。病院には母が付いていくと言ったが、ボクは支払いだけ後でお願いと言って、美夏と待ち合わせて一緒に病院に行った。
 
ボクの身体は美夏の目にもかなり高校生の女の子らしくなってきているが、先生の見立ても同様だった。先生は「ホルモンのタイプと量を変えるかな」と悩んでいるようだった。
 
3日後に病院を訪れた時、先生が突然言った。
「ちょうど良かった。今連絡しようと思っていた所」
「何かあったんですか?」
「あんたのママにさ、あんたの身体に適合する女性器のドナーがあったら確保してくれるように、以前から言われていたのだけど」
 
え?何それ?
「5時間前に大阪で一酸化炭素中毒で亡くなった女子中生がいてね、その子が全ての臓器を提供するというドナーカードを持っていたのよ」
だから何なの?
 
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「既に、心臓・肺・腎臓・肝臓は行き先が決まって、摘出も終わり、もう全国各地で移植手術に入っている。腸の一部を今取っている最中で、その次には角膜を取る所なんだけど、その後、女性器を摘出してもらう」
何かそれがボクに関係あるの?
 
「その子が春紀クンと組織適合性がものすごくいいんだな。これは数万分の1の確率なのよ。私も依頼は受けたけど、多分無理だよと言ってたんだけど」
え?まさか。
 
「1時間以内にここに届くから、あんたに移植するよ」
どうしてー?ボクは言葉にならない言葉を出した。付いてきてくれていた美夏もびっくりしている。ボクは思考回路が働かず「どうしよう?」と美夏に聞いてしまった。すると美夏は「うーん」と一瞬悩んだような声を出したが、すぐ「折角だから、もらっちゃうといいよ」と言った。
 
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「じゃ、話が決まったね。手術、手術。準備始めるよ」
ボクはどうなるんだろう?突然のことで充分に事の重大性を考える暇もなく、ボクは浣腸を掛けられ剃毛され、ベッドに固定されてしまった。まもなく母も駆けつけてきて、何やら誓約書にサインしていた。ボクは上半身に口と鼻の付近だけ空いた布を掛けられ、外からは誰か分からないようにされた。そしてしばらくして何か箱のようなものを持った白衣の人達がやってきて、ほぼ同時にボクは麻酔を打たれて深い眠りの中に落ちた。
 

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意識が戻った時、最初に飛び込んできたのは美夏の顔だった。
 
「付いててくれたの?ありがとう」
「行きがかり上だよ」
「ボク、未だによく事態が飲み込めない」
「私も実の所、よく分からないんだけどさ、先生呼ぶよ。ちょっと待っててね」
美夏はインターホンを取って、先生を呼びだしていた。ここは前にも入っていた個室のようだ。
 
桜木先生がやってきた。
「手術は成功。拒絶反応はほとんど出ていないね。移植した組織はみごとに定着し始めているみたい。念のため1週間入院してもらうよ」
「先生、結局ボクは何を移植されたんですか?」
 
「卵巣、子宮、膣、およびその周辺の組織一式。これをセットで移植することが定着率を高めるコツだということは、この分野の医師の間では知られているんだよね」
「それって、ボク、完全に女の子になったということですか」
「そう。冷凍保存しているきみの男性器を素材に使って人工の膣を作ったりしなくても、これでちゃんと本物の女性器が使える。卵巣があるからホルモンの補給も人工的に行う必要はなくなるね。あ、それからプライバシー重視の立場から女性器がドナーから摘出され、移植に回されたこと自体が秘密になっているから、マスコミなどの心配をする必要はありません。ドナーの家族には膣欠損症の女性に移植すると説明しています」
 
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「しかし腎臓や心臓の移植手術は聞いたことあるけど....」
「アメリカに居た時に、私はこの症例は20回以上経験あるよ」
「先生ってそんな名医だったの?」
「失礼ね。ヤブ医者だと思った?」
「いや、少しアバンギャルドな女医さんかな、と」
「うん。私はアバンギャルドでアグレッシブだよ。それは褒め言葉と受け取っとくよ。とにかく、これできみはすっかり女の子になった。それをあなたの心の中で受け入れなさい、覚悟を決めて」
「はい」
ボクは迷いはあったけど、先生の勢いに負けてつい返事をしてしまった。
 
しかし先生が去るとボクは突然不安になってきた。
「美夏、どうしよう。ここまで女の子化してしまったら、もう男の子に戻れないかも」
「不安がる必要は無いと思うよ。私だってずっと女の子してるんだから、春紀にもちゃんと女の子できるって。実際この1年外見的に女の子を演じ続けられたでしょ?」
「うん」
 
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「私の気持ちは変わらないよ。私は春紀が中身的に男の子であればいいの。だから、安心して完全な女の子になった自分の身体を受け入れなさい」
「ありがとう。あ、何だか美夏の言葉で安心したら眠くなってきた」
「まだ麻酔が残っているんだよ。寝るといいよ。明日も私来るから」
ボクは美夏に手を握ってもらいながら眠った。
 

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//美夏は春紀が眠ったあと、そっとその手を布団の中に戻し、一人で病院を出た。そして帰りのバスに乗って座席に腰を落としてから「ちょっと私も参ったな」と珍しく弱音を吐いた。//
 

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