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■春拳(7)

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その6月8日の夜、桃香は夕方繁華街でナンパに成功した女の子と楽しくおしゃべりをし、ホテルに行かない?と誘う。桃香にとっては半年ぶりの浮気である。向こうも嫌がってはいないものの、どうも女の子とHなことするのは初体験のようで、少し怖がっている感じだ。
 
「処女は傷つけないからさ」
と桃香が言うと、
「それならいいかなあ」
などと言っている。
 
しかし、ついにこの日は口説き落とすことができず
「だったら、うちのアパートに来て、お茶でも飲んでから帰らない?終電にはちゃんと乗せるから」
と言って、とうとう自宅まで同伴することができた。
 
アパートまで来るが灯りがついていないので、千里はまだ帰ってないようだと踏む。千里からは6日に帰国したというメールは入っていたものの、どうも国内でいろいろ用事を片付けているようで、まだ顔を見ていない。
 
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それで、まあ入って入ってと言って連れ込み、キッチンに置いているテーブルの椅子を勧めて、お茶を入れる。
 
「あれっ。これ何語?」
と彼女が言うのを見てギクッとする。
 
何だかキリル文字がたくさん書かれた、クッキーか何かのような感じの箱がテーブルに置かれている。
 
まさか千里いったん帰宅したのか?
 
とドキドキする。
 
「あ、えっと友達の海外旅行のお土産で」
「へー。これってロシア語か何か?」
 
「あ、えっとベラルーシかな」
「どこだっけ?」
「えっと、確かポーランドの隣」
「ポーランドってスペインのそば?」
「それはポルトガル」
「あっそうか!」
 
「ポーランドはキュリー夫人とかショパンとかの出身国だよ」
「あ、なんかノーベル賞2回取った人だっけ」
「そうそう」
 
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そんなことを言っていた時のことであった。
 
「あれぇ、桃香帰ってた? ごめーん。ひたすら寝てた」
と言って、千里が起きてきた。
 
が千里はまっ裸である。
 
「誰?」
と千里。
「誰?」
と桃香が連れ込んだ女の子。
 
「こんな格好で済みません。桃香の妻です」
と千里が笑顔で言う。
 
女の子は「えーっと・・・」と一瞬考えたものの
 
「私、帰りますね」
と曖昧な笑顔で言うと、そそくさと靴を履くと帰ってしまった。
 
「あぁぁ」
と桃香が声を漏らす。
 
「私、デートの邪魔したかな?」
と千里が訊くが
 
「あ、いや、お帰り、千里」
と言って桃香は千里にキスする。
 
「うん。桃香もお帰り」
と言って千里も桃香にキスをした。
 
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千里はこのあと14日まで約1週間、日中は(主としてレッドインパルスの練習に出るため)外出するものの、夜は桃香と一緒にすごすという日々を送った。
 
その間に11日にはクロスリーグの第3戦を千葉市内の体育館で行った。ここは千里が大学に入って間もない頃、いったん「やめよう」と思ったバスケットが忘れられず、ひとりで練習を始めた体育館である。そこでローキューツの浩子たちと出会ったことが、今の自分につながっている。あの時期は実は性転換手術を受けてしばらく身体を休めていた後の、リハビリの時期でもあった。
 
今回の相手はそのローキューツである。当時のローキューツのメンバーで残っているのはキャプテンの愛沢国香くらいである。その他、歌子薫がアシスタントコーチとしてベンチに座っている。彼女の場合はむしろマネージャー的な役割のようであった。
 
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この試合はレッドインパルスとしても1軍半の子を鍛えようというので、千里や広川主将などはベンチに座ってはいるもののコートには出ず、もっぱら声援を掛けるのに徹していた。
 
「千里さん出ないの〜?」
とローキューツの副主将・原口揚羽が声を掛けてきたものの
 
「そちらが20点リードしたら出るよ」
と千里は答える。
 
「じゃ引きずり出します」
と揚羽。
 
それでかなり頑張っていたようだが、結局30点差でレッドインパルスが勝った。
 
「やはりプロのトップチームは違う」
「40 minutesやJoyful Goldには善戦したのに」
 
と彼女らは試合後言っていた。
 

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6月12日(日)は千里と桃香の2人で久しぶりの「デート」をした。アテンザに乗って中央道を走り富士急ハイランドに行き、1日遊んだ。千里は西武遊園地を提案したのだが、ジェットコースター大好きの桃香が富士急ハイランドに行こうと主張し、千里もしばらく桃香を放置していたのでサービスしておこうかと思ったのである。
 
おかげで、千里も付き合ってジェットコースターに乗るハメになる。桃香は童心に返って大はしゃぎしていたが千里は
 
「待って、今、地球の重力の方向を確認してるから」
と言って座り込んだりしていた。
 
「玉のある人は、玉がジャイロスコープ化して苦しいらしいけど、玉なんか無いんだから、しっかりしろよ」
 
などと桃香は言っている。
 
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「ジャイロスコープになったら苦しいだろうね」
「ジェットコースターの回転が玉の回転に変換されるんだよ。ニュートンの運動量保存の法則だよ」
 
「それおかしい。運動量保存の法則の発見者はデカルトだし、ジャイロスコープは運動量保存の法則ではなくて、角運動量保存の法則で動作している」
 
「運動量と角運動量って違うんだっけ?」
「大雑把にいえば、運動量の特殊なもの。運動量保存の法則から数理的に角運動量保存の法則を導くことができる」
 
「うーん。そのあたりがよく分かってない」
「理学修士の言葉とは思えん」
 
桃香はこういう理論的な話をほとんど理解していないのである。その代わり千里は理屈は分かっていても現実の様々な機械や道具を使いこなせないという困った問題がある。
 
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「じゃ角運動量保存の法則を発見したのは誰?」
「その内容自体は古くから知られていたんだよ。ケプラーの第2法則って、要するに角運動量保存の法則だもん」
 
「じゃケプラーが発見者?」
「面積速度保存の法則という形ではね。角運動量を正確に定義したのはウィリアム・ランキンだよ」
 
「誰だっけ?」
「ランキン温度の提唱者」
「ランキン温度って?」
「絶対零度を0にして、1度の間隔はファーレンハイト温度の1度にしたもの」
「使ったことない」
 
「日本じゃそもそも普通の温度をファーレンハイトじゃなくてセルシウスで測るから全然なじみが無いよね」
 
こういう与太話をしている内に、千里も何とか重力の方向を再確認する。
 
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「よし、ではランキン君に敬意を表して、ええじゃないかに行くぞ」
「え〜〜〜!? あれは絶対いや。桃香1人で行ってきて」
「ふたりでデートしてるんだから、千里も乗ろう」
「やだやだやだ。あれに乗るくらいならもう一回性転換手術受けた方がマシ」
「もう一回性転換手術受けたら、男になってしまうではないか」
「私は何回性転換手術受けても女になる」
「それでは転換になってない。しかし食わず嫌いは良くない。あれ過去5回乗ったけど、物凄く楽しいぞ」
 
「食わず嫌いじゃないよぉ。大学1年の時に乗せられて死ぬ目に遭った」
「なんだ。乗ってるのなら平気じゃん。さあ、行くぞ」
 
「え〜〜〜〜〜!!?」
 
それで結局千里は桃香に強引に引っ張って行かれて、6年ぶりにええじゃないかに乗るハメになった。
 
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千里が「いやだ、いやだ」と言っているので、係員さんが「やめますか?」と訊く。しかし桃香が隣で「ああ、大丈夫です。しっかり締めといてください」と言って、千里は器具で身体の上半身を固定された。
 
このコースター?の怖いところは下半身がぶらぶらしていることなのである。
 
スタートでいきなり上下逆になり、少し進むと仰向け状態で巻き上げられる。再度上下逆になって落下。その瞬間、千里はふわっと意識が無くなった。
 

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「千里、千里」
と桃香の呼ぶ声で意識を取り戻す。
 
既に上半身の拘束具は外されている。
 
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない。怖かったよぉ」
「気を失っていたのなら怖いも何も無かったのでは」
 
千里が大丈夫そうなので、係の人は他の人の所に行く。
 
「漏らしてない?」
「大丈夫みたい」
「立てる?」
「うん。何とか。でも30分くらい休ませて」
 
「じゃベンチにでも座っているといいよ」
「そうする!」
 
結局千里が放心状態で座り込んでいる間に、桃香はもう一度ええじゃないかに並んで乗ってきたようである。
 

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千里がまだ放心状態で座っていた時、右足首に何かが触る感触がある。
 
『何したいの?』
と千里は問いかけた。
 
『じゃんけんしようよ』
と何かが言ってくる。
 
『いいよ。じゃんけん』
と言って千里はチョキを出す。
 
『僕はパーだ。負けたぁ。じゃ消えるね』
と言って、何者かは消えた。
 

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この日は結局閉園時刻の18時まで遊び、そのあと《ほうとう不動》でほうとうと麦飯を食べてから東京に帰還した。
 
ところで千里は6月9日から14日まで(富士急に行った12日を除く)毎日川崎の舞通工場内にある体育館に出かけては朝から夕方まで練習をしていたのだが、実はこれは千里がこのチームに正式加入してから、初めてのまともな練習日程となった。
 
4月1日に入ったものの、そのあと日本代表の合宿、クロスリーグ、その他高知に行ったりもあったので、ほとんど川崎に顔を出していなかったのである。それは同じく日本代表に選ばれている広川主将や江美子も同様である。先月何度か顔を出しているものも短時間である。
 
9日の朝、千里が練習場に出て行き、ウォーミングアップをしてシュート練習を始めた時、旭川N高校の後輩でもあった黒木不二子、そして札幌P高校出身の久保田希望が出てくる。
 
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「あ、シュート練習ですか? 私球拾いしますよ」
と希望が言う。
 
「いや、そんなのいいから自分の練習して」
と千里は言うものの
 
「日本代表シューターのシュートをこの目で見たいし」
と希望は言う。
 
希望は千里より3つ下の学年なので、高校時代は対戦したことが無いのである。
 

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それで希望がゴール下に立ってくれて、千里がシュートする。不二子はウォーミングアップで体育館の中を走っている。
 
千里がシュートする。きれいに決まる。ボールがゴール下に落ちてくるので、それを取って希望が返してくれる。
 
またシュートする。また入る。希望が返す。
 
これを10回繰り返して
「全然外れませんね!」
と希望が驚いたように言う。
 
「じゃ外れるようなことしましょう」
と不二子が言って寄ってきた。
 
「私がディフェンスします」
「OK。よろしく〜。後で役割交代しよう」
 
それで不二子が千里の前に立ってディフェンスしている状態で千里がシュートする。それでも1回目・2回目は入ったが、3回目は外れた。少し上すぎて、バックボードで跳ね返る。ボールはちょうど千里の所まで戻ってくるので、それを持ってシュートする。
 
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7回目、不二子が指を当てて軌道を変え、ボールは大きく左に外れてバックボードにも当たらず、壁まで飛んでいった。壁に当たって跳ね返り、千里の足下まで戻って来る。それでまた千里がシュートする。
 
10回目、不二子の強烈なチェックで千里の手元が狂い、ボールはゴールより右側の方に飛んでいき、後ろの壁に当たった後、今度は横の壁に当たり、千里の足下まで転がってくる。
 

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こんな感じのことを30回くらい繰り返した所で
 
「あれ?」
と希望が言った。
 
「どうしたの?」
と不二子が訊く。
 
「私さ、ゴールに入ったボールしか返球してないなと思って」
「ん?」
 
「いや、ほとんどのボールがゴールに入っちゃうんだけど、バックボードとか壁に当たったのは、そのまま千里さんの所に戻っていくような気がして」
と希望。
 
「ああ!」
と思い出したように不二子が声をあげる。
 
千里はキョトンとしている。
「だって壁に当たったボールは作用反作用の法則で投げた側に戻ってくるんじゃないの?」
と千里。
 
「いや、それはおかしいです。壁で反射した場合、運動量は保存されますけど角度的には反対方向に行きますよ」
と希望。
 
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「千里さんのシュートって壁に当たっても、そこから横の壁に当たったりして結局千里さんの所に戻るんだよね」
と不二子がニヤニヤしながら言う。
 
「なんで!?」
 
「単純に後ろの壁に当たった場合でもスピンが掛かってて、結局元の場所に戻るんだ」
 
「嘘!?」
 
「千里さんのシュートは高校の時からそうだったよ。旭川N高校七不思議のひとつだった」
 
「だってそれみんなそうならない?」
と千里は言うが
 
「そんなおかしなボールの軌跡になるのは、千里さんだけです」
と不二子は言い切る。
 
希望は悩むようにしていた。
 

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