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■春演(8)

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「元々どちらもオスだったんですか?」
「ええ。どちらにもおちんちん付いてましたよ。子供の頃、このシーサーのおちんちんにタッチして帰ってくるなんて遊びしてましたから」
 
すると木ノ下先生が言う。
「でもシーサーって普通、オスとメスとも言うよね。いっそこの黄色い子はもうこのままメスってことにしちゃったらどうかね? この欠けて穴が開いているところは女の子の割れ目ちゃんってことで」
 
すると青葉の後ろでシーサーのお兄ちゃんの方が言う。
『お前、女の子になる?僕の妹ということでもいいよ』
『え〜?僕、女の子になるの? いやだぁ』
と弟(妹?)君。
 
千里が言う。
「白い子のおちんちんが無事だから、その子のおちんちんを3Dスキャナーで取り込んで、対称にして黄色い子用のおちんちんを3Dプリンターで作ることができると思いますよ」
 
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「ああ、なるほど」
「あるいは女の子の形の部品を作って填め込む手もありますけど」
「あ、それもいいな」
 
「じゃ、男の子として復元するか、女の子にしちゃうか、挙手で決めよう」
などと木ノ下さんが言い出す。
 
「あ、それもいいですねー」
と復元作業をしていた女の子たち。この部屋には5人の女子高生がいる。
 
「じゃ女の子にしちゃおうという人?」
2人手を挙げる。
「じゃ男の子に戻してあげようという人?」
3人手を挙げた。
 
「じゃ3対2で男の子にするということで」
と木ノ下先生。
 
青葉の後ろで黄色い子が『助かったぁ』と言っている。
『お前が妹になっても、可愛がってあげたのに』
とお兄ちゃんは弟が妹にはならないことになって少し残念そうだ。
 
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「じゃ、那覇市に私の知り合いでそのあたりに慣れている人がいますので連絡しましょう。女性がいいですよね?」
「ええ。その方がいいです」
 
それで千里が連絡していた。
 

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「きれいな香炉がありますね」
「それは多分200年くらい経っていると思う」
「それは凄い」
「その香炉だけは鉄製だったのでほぼ無傷だった。その香炉を乗せていた台は破片は回収したんだけど、それを復元したのでは強度が足りないから、ウタキの祭祀に詳しい人に頼んで、香炉台は新たに作ったんだよ」
 
「なるほどー。でもきれいな台ですね」
「うん。できるだけ昔風に作ってもらった」
 
「ここにある板の破片は?」
 
「板絵のはずなんだけど、なかなか復元できなくてね。かなり色合いが薄くなっている上に元々の絵柄を覚えている人が誰もいないんだよ」
と木ノ下先生。
 
「これ、できると思わない?」
と千里が言う。
「うん。復元できそうな気がする」
と青葉も言う。
 
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「ほんとですか?」
 
それで千里と青葉がその破片を並べて組み合わせていく。ふたりが物凄い速度で破片を揃えていくので、女子高生たちが「すごっ」と言って様子を見ていた。ふたりの復元作業は20分ほどで終了した。
 
「こういう絵だったのか!」
「海を渡って来訪するマンタか・・・」
「木目もきれいに合っているみたい」
 
「だって、木の板は元の形に戻りたがっているから」
と千里。
「うん。その木たちが求めている通りに並べてあげたらいい」
と青葉。
 
「君たち凄いね!」
と木ノ下先生は驚いている。
 
「この形で問題無ければ接着しますよ」
「お願いします!」
 
それで青葉と千里は新しい合板の上にその破片を並べて美術品用の接着剤で接着していく。ふたりは用意されている接着剤の薄いものも作り、板の下の方は濃いもので接着し、表の方は薄いもので接着していく。実はふたりとも1月に秋田で美術品修復の専門家・柳田さんの作業を見ていたので、そのやり方を真似しているのである。むろんさすがに柳田さんのようにうまくはつなげない。
 
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接合作業は3時間に及んだ。正午を越したので、一度木ノ下先生の奥さんが作業をしている女子高生に
「お昼御飯、いかがですか?」
と呼びに来たのだが、青葉と千里の2人だけは
「作業中で中断できないので、あとで頂きます」
と言って作業を続けた。
 
午後2時すぎ、
 
「できました」
という青葉の声に、他の作業をしていた女子高生5人が寄ってくる。
 
「すごーい」
「きれーい」
「繋ぎ目が目立たないようにうまく修復されてる」
「なんかお手本にしたい感じだね」
 
奥の部屋で文献を見ていた木ノ下先生も出てきて修復された板絵を見て
「凄い。君たち、ずっと修復作業に加わってもらいたいくらいだ」
などと言っていた。
 
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居間に行って、遅い昼ご飯を頂きながら、青葉たちは先生の奥さんと話した。20歳くらいの女性が食卓にいた。娘さんということであった。
 
「マロングラッセ頂いてます。これ凄く美味しい!」
と娘さん。
 
奥さんに勧め似られて青葉と千里も1粒頂いたが、ほんとに美味しい!!
 
「木ノ下先生がノロの役割を代行することになったのは、恐らく本来の後継者に引き継ぐために先生がとても好都合だったからではないかと思います。多分本来の引き受け手は先生と繋がる誰かなんですよ」
と千里が言う。
 
「ではノロが宿ったというのは、あの人の妄想ではないのですか?」
「先生が神がかりになった時に口走った言葉を奥様が記録してくださっているんでしょう?」
「そうなんです。書き留めろなんて言われたものですから。もしあの人が・・・」
と言って奥さんは言いよどむ。
 
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「その筋の病院に掛かった方がいいということになった場合でも、この記録が重要になるかも知れないと思って」
 
『その筋の病院』というのを青葉は一瞬性転換病院?と思ったが、精神科のことだとすぐに思い直した。
 
「その筋の病院にかかる必要はないと思いますよ」
と青葉もにこやかに言う。
 
「あの人のその・・・女装はその誰かに引き継いだら直るのでしょうか?」
「うーん。それはなんともいえません。もしかしたら元々女装に興味があったのかも知れませんけどね」
「でもあの人、性転換手術を受けようかとか言い出して」
「この問題が解決したら、そこまでの気持ちは無くなると思いますよ」
 
「良かった。でもそれどのくらいかかるのでしょう」
「そうですね・・・」
 
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青葉は言いよどんだのだが、千里が明快に答えた。
「今月中には解決すると思います」
「ほんとですか!」
 
「今月中ってあと半月しかないですけど」
と娘さんもびっくりしている。
 
「ええ、多分あと数日以内に何とかなります。まあ余波はしばらく残ると思いますが。先生、けっこう女装に味をしめた感じもあるので、女装癖はひょっとしたら残るかも。さすがにおっぱい大きくしようとか、おちんちん切ろうとかまでは考えないと思いますが」
と千里は笑顔で答えた。
 
「余波ですか・・・」
と奥さん。
「ただの女装ならいいんじゃない?」
と娘さん。
 
「何十年も物凄いペースでお仕事してこられた方ですし、あと少し好きなようにさせてあげましょうよ」
 
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「そうですね。それはそう思っていたのですが。。。でもあの人、去勢とかしちゃったらどうしようかと気が気じゃ無かったんですよ」
 
「私たちが、それは停めておきましたし、当面大丈夫だと思いますよ」
「だといいのですが」
 
「お母さん、お父さんが睾丸くらい取っちゃったって、別にこれから子作りしようとかいう訳でもなければいいんじゃない?」
などと娘さんが言う。
 
「さすがにこの年で私も子供産むつもりはないけど」
と奥さん。
 
「お母さん、まだあがってないんだっけ?」
「かなり怪しいけど、取り敢えずまだ私は女だよ」
「お母さん、身体が若いもんねー」
 
「でも私はあの人が本当に女になっちゃったら、さすがに一緒に居られる自信がないよ」
「その時はレスビアン覚えればいいじゃない」
「え〜!?」
「お母さん、興味無い?」
「うーん。それはさすがに考えたこと無かった」
 
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「これはこのケースの判断上必要なのでお聞きしたいのですが、先生と奥さんは現在、夜の生活はなさっているのでしょうか?」
と千里が訊いた。
 
「してません。実は2月4日に突然自分はノロになった、とあの人が言って以来、自分は清浄を保たなければならないからセックスもできないと言って」
 
「なるほどですね」
「実はもうあの人長いこと立たなくなっていたんです。でも立たないなりに撫であったりしていたんですよ。でもそういうのもしなくなったんです」
と奥さん。
 
「なーんだ。その状態なら、睾丸くらい無くなってもいいし、おちんちんも無くなっても問題無いんじゃない?」
と娘さんが言う。
 
「え〜?」
「だって撫で合うだけなら、女同士の身体でも同じことできるはず」
「そうかも知れないけど・・・」
 
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「お母さん、今度百合の本とか買って来てあげようか? 図解付きで解説してある本とかもあるよ」
 
「ちょっと待って」
 

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青葉と千里は15時すぎに先生の自宅を辞した。取り敢えずその別荘地の開発予定地に行ってみる。
 
「こういう所の別荘って誰が買うんだろう」
と青葉がつぶやく。
 
「空気の読めないヤマトンチューの金持ちだろうね。誰か芸能人とかでも買いそうだよ」
と千里。
 
「数年ずれてたら木ノ下先生が買ってたりして」
「あり得る、あり得る」
 
そんなことを言っていたら、高そうなスーツを着た30代の男性が近づいてくる。
 
「あんたたち、反対派?」
 
青葉はこの人がもしかしたらここの開発を進めようとしている会社の責任者ではと思った。
 
「ただの通りがかりのものですが」
と千里がにこやかに言う。
 
「あ、そうでしたか。済みません。最近ここの開発の反対派の人たちの悪質な妨害にあっているものですから」
とその人は突然にこやかな笑顔になる。
 
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「別荘でも作られるんですか?」
「そうそう。あなたたち内地の人みたいね」
 
「ええ。東京に住んでいますが」
「あなたたちもどう?1軒」
「お幾らくらいですか?」
「80坪の別荘が8000万円の予定なんですけど」
「あら、安いですね」
と千里が言う。
 
すると向こうはこれは思いがけないお客さんかもと思ったようである。
 
「あ、もし良かったら検討してくださいよ。これパンフレット差し上げます。こちら私の名刺です」
 
と言って、その人は名刺と分厚いパンフレットを千里に渡した。XX開発株式会社・代表取締役と名刺には書かれている。
 
「あ、私の携帯の番号も書いておきますね」
と言って彼は名刺に電話番号を書き加えた。
 
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「じゃパンフレット見てみますね」
と千里は笑顔で言い、青葉を促して車に戻った。
 

車をスタートさせた千里が苦しそうに笑っている。
 
「ちー姉、もしかして呪具を手に入れたのでは・・・・」
と青葉は言ってみる。
 
「私、そんな《おいた》はしないよぉ」
と言いつつ千里はとても楽しそうであった。
 
本人が直接渡してくれた名刺である。しかも本人の字で書き加えられている。その気になれば、呪いの道具にするのは簡単だ。
 

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しかしふたりは帰りの車の中で、かなり悩んだ。
 
「でも木ノ下先生については、結局、今私たちにできることって何も無かった気がしない?」
と青葉は言う。
 
「まあ絵の修復をしたのと、シーサーちゃんのおちんちんの修復のメドが立ったくらいかな」
と千里も運転しながら言う。
 
「シーサーちゃんにとっては大事なことだったみたいね」
と青葉は自分の後ろの方に意識をやりながら言った。
 
「あれ?、もしかしてシーサーちゃんたち、あそこに置いてこなかったの?」
と千里が尋ねた。
 
「うん。あの状態では中に入れないとこの子たちは言った」
と青葉。
 
「へー」
「あるべき場所にあの身体が無いと、戻れないんだって」
「なるほどー」
 
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青葉と千里はレンタカーで那覇空港まで行くと、車を空港の駐車場に駐め、空港内で夕食を取った後、18時半の飛行機で宮古島に飛んだ。青葉が沖縄に行くという話を聞き込んだ冬子から、頼まれた案件があったのである。
 
「こんにちは、照屋清子(てるや・さやこ)さん」
と青葉はキャンバスに向かって絵を描いている少女に語りかけた。
 
「あなたはどなたですか?」
と明智ヒバリは絵筆を休めて訊いた。その表情は、噂に聞いていた鬱病を発症して気力を喪失し薬の副作用でボーっとした状態の少女のものではなく、どこにでもいる普通の明るい少女の表情に思えた。
 
 
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