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■春会(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-03-28
 
「ATMの怪ってのがあるらしいよ」
と純美礼は言った。
 
「すーちゃん、もう怪談の季節は終わったよ」
と日香理は言うが、純美礼は話をやめない。
 
それは10月も下旬の頃であった。
 
「何も無い山道の途中に小さなお店があってその端にATMがあるんだって。ある男性ドライバーが、雨の夜、その道を走っていて、ちょうど財布の中身が心細くなっていたので、ここでお金降ろしておこうと思って車を停めてそこに入ったんだけど、故障しているみたいで、カードは吸い込まれたまま出て来なくなる。お金も出て来ない」
 
「なるほど」
「それで管理会社に電話しようとするんだけど、ATMの中の電話はつながらない。携帯は圏外。でもカードが吸い込まれているから、放置もできない」
 
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「話の先が読めてきた」
「そこに美女が出てくるんじゃないの?」
「何で分かるの!?」
「やっぱり」
 
「困っていたら、お店の中からきれいなドレスを着た美女が出て来て、うちから管理会社に電話しますよ。ちょっと休んでいてくださいと言ってお店の中に招き入れられる」
「ああ、だいたい分かった」
 
「それでお茶も頂いて座って休んでいたんだけど、いつの間にか眠ってしまってるのよ」
「ふむふむ」
「深夜の怪談ドラマなら、その美女とセックスして眠っちゃう所だよね」
 
「それでふと目を覚ますと、もう朝なのよね」
「そこは廃墟なんでしょ?」
「なんで分かるの〜?」
 
「よくある話」
「廃墟の中で寝ていたのでびっくりして起きる。そしてもっと驚くことに昨夜美女が着ていたドレスを自分が着ていたという」
 
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「女装させられるのか!?」
「それは新しいパターンかも知れん」
 
「そして一説によると、身体も女の身体になってしまっていたという」
「そこまで行くと出来の悪いネット小説」
 
「それで、その人がそこの店をやるようになるわけ?」
「いや、廃墟だから無理だと思うな」
 

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「でも、そんな感じの廃墟のATMってさ、**から**に抜ける農道の途中にあるよね」
「ああ、あそこちょっと気持ち悪い」
 
「よし、そこを探訪しよう」
 
「誰が?」
「このメンツでだよ」
「でもあそこ歩いては行けないよ」
「すずちゃんのお姉さん、車持ってたよね。借りられない?」
と純美礼が訊く。
 
「土日なら、いいと思うよ」と凉乃。
「じゃ、行くのは4人か」
「車の定員からそうなるね」
「私とすずちゃんは行くし、青葉には当然来てもらうけど」
 
「なんで〜〜!?」
「だって危ないことがあっても青葉がいたら安心」
「相手次第では守り切れないこともあるよ」
 
「あと1人誰が行く?」
「はいはいはい!」
と美由紀が言った。
 
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「何か幽霊でも出そうな場所なんだけどね」
と彪志は電話で言った。
 
「不動産屋さんが管理してる物件だから、抵当権とか面倒なものは大丈夫だと思う。でもこないだは夕方行ったから、昼間1度、自分で行って見てみようかと思うんだよね。ただバス路線とかから外れてる場所だし、足をどうしようかと思ってるんだよ」
 
「あ、だったら、ちー姉に頼んでみようか?こないだ車買ったんだよ」
と青葉は答える。
 
「へー、それは凄い。何買ったの?」
「ミラだって。3万円だったらしい」
「3万?30万じゃなくて?」
「ちー姉って貧乏性だもん。スクーターも2万円で買ったと言ってたし」
「2万円のスクーターも凄いけど、3万円のミラはちょっと怖い」
「走行距離がルート5だったって」
「国道5号線??」
「あ、そっちじゃなくて平方根。22万3606km。富士山麓オーム。きれいな数値だったので思わず気に入って買ったと言ってた」
「ミラで20万kmも走ってるって、もうガタガタだと思うけど」
 
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「知り合いの巫女さんにお祓いしてもらったから大丈夫だとか言ってたけどね」
「へ。へー」
 

図らずも青葉たちが山道のATMを探訪しに行く日と、彪志たちが不動産を見に行く日が同じ日になった。
 
その日青葉たちは高岡駅に集合して、凉乃のお姉さんのヴィッツに乗って、その農道へと入っていった。凉乃が前に乗って、後ろに純美礼・美由紀・青葉と乗り込んだが、ヴィッツは狭いので身体が接触する。そして美由紀は重心移動なんてことは何も考えていないので、カーブになる度に純美礼にもたれ掛かったり、青葉にもたれかかったりして「重い重い!」と言われていた。
 
けっこうなヘアピンカーブの連続、そしてすれ違いが困難な細い部分なども通って、たんぼが広がる所を走っていた途中に、そのATMは唐突にあった。
 
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駐車できるような場所もないので路上に車を駐めてみんなで降りてみる。
 
「これは何でこんな場所にATMを立てようと思ったんだ?というのが疑問だな」
「誰も使わなかったんじゃない?」
 
「私もATMができてるなというのは思ったけどさ。人通りがあまりにも無いじゃん。車が1時間に数台通る程度の道。怖くてここに車駐めてATMに入ろうとは思わなかったよ。そのうち潰れてしまったみたいね」
と凉乃のお姉さんが言う。
 
「ここ圏外ですね」
と青葉は自分の携帯を見て言う。
 
「ここで何かあっても助けも呼べないわけか」
 
「青葉、ここ何か居る?」
「そうだね。居たね、さっきまでは」
「へ?」
「掃除しちゃったから、今はもうきれいだよ」
 
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「いつの間に!?」
「つまんなーい。じゃ怪談とか起きなくなっちゃった?」
「怪談になるようなものじゃないよ。せいぜい幽霊を見る程度」
「充分怪談じゃん」
 
「もっともこのまま1年くらい放置してたら、また雑多な霊がたまるかもね」
「すると1年後くらいにまた来たら幽霊が出たり?」
「こういう《入れ物》を使わないまま放置すると、浮遊霊とかが溜まりやすいんだよ。廃墟に幽霊が出るのはだいたいそういう仕組み」
 
「じゃ女装させちゃう美女もその手の類い?」
「あの話は幽霊より狸か狐って感じがするなあ」
「ああ。昔話に原形がありそうな気もするね」
「たぬきじゃなくて、たのきゅーだったりして」
「ああ。女装する話があったね」
 
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その日、彪志は自宅アパート前で千里・桃香に拾ってもらった。千里が行く以上当然桃香も一緒である。千里が運転し、桃香が助手席で、彪志は後部座席に乗るが、ミラの後部座席は狭いので、なかなか窮屈である。
 
携帯のカーナビに目的地をセットして出発する。車は千葉市郊外の坂道をごく低速で登っていった。
 
「なんかスピードが落ちてるね」
と桃香が言う。
 
「この車ターボ付いてないから、上り坂はこんなもの。急な坂だと私ひとりしか乗ってなくても時速10kmくらいまで落ちることある」
「4人乗ってたら?」
「途中で停まって、押して登るハメになったりして」
「雨の日は大変だな」
「雨の夜はライトやワイパーにパワー取られてもっとスピード落ちやすい。当然エアコンは切る」
 
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「しかし10kmまで落ちても停まらない限りは自分の足で歩くよりは楽だ」
「確かにこの坂は歩いては登りたくないですね」
 

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やがて、その場所に来る。車から降りてみる。千里はその場所の10mくらい手前の路上に駐めた。3人で歩いてそこに行く。
 
「これはまた荒れ果ててるなあ」
と桃香が言う。
 
「20年くらい放置してた感じですね」
と彪志。
 
千里は無言でその荒廃した家屋を眺めていた。そしてやがて言う。
 
「この家の裏手に回ってみない?」
「うん」
 
家と林との間の狭い通路を通り向こう側に出る。裏側も4-5mくらいの奥行きの雑木林である。3人はそれを通り抜ける。
 
「ここ、手摺りか何か設置しないと怖いね」
「この崖から落ちたら大怪我しそうだね」
「でも見晴らしが良い」
「あそこ、私たちの大学だね」
 
「ああ、ちょうどきれいに見えますね。地図で見てたぶん見えるだろうとは思ったのですが、こないだ来た時は夜だったから、ここまで入ってみなかった。ロケーションとしては良いなあ。でもここ、幽霊とか出ませんかね?」
と彪志は言ったのだが
 
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「ここ何も居ないよ。きれいにしてる。幽霊は出ないと思うよ。ちょっと山の形を眺めていたんだけど、ここ、個人の家を建てるのにも、商売をするのにも風水的に問題があるけど、神社を建てるのなら、全然問題無い。むしろここに神社を建てることによって、この場所がとても良い場所になると思うよ」
と千里は言った。
 
「その風水とか家相とかいうのはさっぱり分からんな」
と桃香は言うが、分からないというより信じていないというのが正しい。
 
今、千里とふたりで住んでいるアパートも、元々は大学に入った時に、自殺者が出て安くなっていた所を敢えて借りたものであるが、幽霊なんて見たことないし、だいたいそんなもの居るわけないと豪語する。お陰で千葉市内中心部にあるにも関わらず、家賃が異様に安い。そして千里は「安いの大好き」な子であり、千里も生まれてこの方幽霊は見たことないと言う。但し千里は「幽霊はいるよ。でもうちのアパートには居ないね」という言い方をする。
 
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「時々思いますけど、千里さんって、少し霊感ありますよね」
と彪志が言う。
 
「そうかな?まあ、テストの山勘は当たるよ」
と千里。
「そういう勘は私も欲しいな」
と桃香。
 
「でもここに決めていいと思うよ。絶好のロケーションだし」
と千里は笑顔で言った。
 

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彪志からの連絡で、11月9日(土)、青葉は富山から千葉に出て来た。千里のミラに4人乗りしてその場所に行く。彪志は4人で乗ったら、ほんとに車が途中で停まったりしないか?と不安になったが、何とか停まったりはせずに、車は廃墟の所まで到達した。
 
「まあ青葉は軽いからね。大丈夫とは思った」
などと桃香は言う。
 
今回、千里は廃墟の真ん前に車を駐めた。
 
「土地の広さとしては30坪くらいだよね。裏の雑木林まで含めてひとつの筆になっているみたい。左右の林は市の所有になっているみたいだけど、ここだけ個人の家があったのは、元々のこの付近の大地主だった人の分家さんがここに家を建てたからではないかと不動産屋さんは言ってた。それが所有者を転々として、最終的に住んでいた人が亡くなって、そのあと10年以上放置と聞いたけど、20年近く放置されてんじゃないのかなあ、これ」
と彪志は説明する。
 
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青葉は首をひねっている。
 
「どうしたの?青葉」
と桃香が訊く。
 
「いや、ここがあまりにもきれいなもので」
「へ?」
「こんな場所に廃墟があれば、ふつう雑多な霊が溜まっていてもおかしくないと思うんだけど、何にも居ないんだよ」
と青葉。
 
「何も居なければ問題無いのでは?」
「でもなぜこうなったのかが分からない」
 
青葉は幾つかの可能性を考えてみた。
「とんでもない大物がいる場合、一定の時間あるいは特定の季節に特殊な風が吹いてここをクリーンにしてしまう場合、誰か別の霊能者がここに手を入れた場合」
 
「ここ、ネットで調べてみたら、ローカルの心霊番組で何度か取り上げられたことあるみたいだから、その時、引っ張り出された霊能者が処理しちゃったのかも知れないね」
と彪志。
 
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「ああ、その可能性が高いかな。確かにそもそもあまり大した霊は集まらないとは思うんだよね。怨みとか悔いとかネガティブな念は感じられない。集まっても小物ばかりだろうね。でもここを霊能者さんが処理したとしたら、凄く筋のいい霊能者さんだと思う。変な跡が残ってない」
 
「じゃ、ここにする?」
「うん」
 

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それで不動産屋さんを呼び出し、更に色々説明を受けた。
 
「ここに祠を建てる場合、都市計画法とかそこら辺の規制にはひっかかりませんかね?」
と桃香が心配して尋ねる。
 
「建築確認は出さないといけませんが、問題無いと思います。市街化調整区域ではありませんので」
と不動産屋さん。
 
「ここの崖側に手摺りを付けたいんですが、安全のため、この土地の部分だけじゃなくて市の土地にまで手摺りを伸ばしたいのですが可能でしょうか?工事費は全部こちらで出します」
と青葉が訊く。
 
「それは市と交渉しなければいけないけど、お金をこちらが出すのであれぱ応じてくれる可能性高いと思いますね」
と不動産屋さん。
 
「じゃ、そのあたりは弁護士に交渉させようか?」
と桃香が言う。
 
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千葉市内には、青葉が震災で両親と姉を失った時以来、何度かその青葉の法的な扱いや財産の管理について相談した弁護士さんがいる。父親の所有していた土地にまつわる面倒な債権者との交渉もうまくやってくれた。
 
「うん。それがいいと思う。建築確認も含めて、そのあたりの手続きも代行してもらおう」
 
「そもそも青葉は未成年だから、青葉が役場に行っても、お母さん連れてきなさいと言われるだけだし」
 
「面倒くさいなあ」
「まあ20歳になったら好きなようにするといい」
 

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