広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■春慶(7)

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冬子が深く眠ったのを見て意識を戻す。冬子に毛布を掛けてやり、青葉は部屋を出てロビーに行き、政子に電話をした。政子は2時間ほど掛けてのんびりとお風呂に入った後、どうもDVDの映画を見ていたようである。
 
「おはようございます。川上青葉です。ちょっといいですか?」
「あと1時間待って〜。今『二代目はニューハーフ』見てた。いやあ、大笑いしてたよ。でもこのベルちゃんって子、可愛いなあ。全然男の子には見えない」
 
「政子さん、論文は大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。23時になったら始めるから」
「今もう1時ですけど」
「え?  ぎゃー、やばい! 論文書かなきゃ!」
 
「じゃ、その論文に取りかかる前にちょっと詩をひとつ頂けませんか?」
「ん?」
 
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青葉が冬子の心のリハビリのために、過去に名曲を書けた場所に来ているのでここで名曲を書かせたいということを伝えると、政子は、だったらこれに曲を付けてもらって、と言って『柔らかい時計』という詩をその場で書いてメールしてくれた。即興で書いたにもかかわらず、美しい詩だ。とてもコミカルな映画を見ながら書いたとは思えない。
 
しかし和泉は詩のストックの中からメールしてくれたようだったが、政子はその場で書いた。このあたりはふたりの性格の違いだよなと青葉は思った。もっとも、政子は、冬子がいないと自分が過去に書いた詩がどこにあるか分からないかも知れないが!? 政子はひとりだけだと生活能力ゼロである。
 
青葉は政子に御礼を言い電話を切ると、それをホテルの便箋に書き写してから自分も寝た。
 
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朝起きると、冬子はもう起きていて、五線紙にボールペンを走らせていた。
 
「青葉、私、書けたよ」
 
青葉は冬子が書いていた譜面を借りて読んでみた。凄い!美しい!
 
「凄くいい曲ですね」
「うん」
「創作の泉が復活したんですね」
「復活したかどうかは分からない。でもこの感覚は久々に感じた」
 
「その感覚を忘れないようにするために、今日東京に戻るまでにこれに曲を付けてみましょう」
 
と言って青葉は詩を書いた紙を取り出して冬子に渡した。
 
「ぶっ。これは政子の詩か!」
「はい。頑張りましょう」
 

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一緒に朝御飯に行く。バイキングなので適当に料理を取るが、青葉はおにぎりとお味噌汁(昆布だしだと判断した)だけ取る。冬子はウィンナーとかハムエッグとかを取っていた。
 
「この件、私青葉にいくら払えばいい?」
「じゃ経費込みで1000万円で」
「了解」
 
「驚かないんですか? 私がこんな金額要求するのはとてもレアです」
「ううん。1億円でも払う価値がある気がしたから」
「ああ。じゃ3000万くらい言っておけば良かったかな」
「青葉も結構気が弱いね」
「えへへ」
 
「じゃ3000万円払うよ」
と冬子は笑顔で言った。
 
「えー!? いいんですか?」
「遠慮せずにもらっておきなよ」
「そうします!」
 
「ところでさ。さっき渡された政子の詩には私が飛行機の中で曲を付けるけどさ」
「はい」
「青葉、ちょっと頼まれてくれない?」
「なんですか?」
「これにちょっと曲を付けてくれないかなあ」
「へ?」
 
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冬子は詩を書いた紙の束を青葉に渡した。
 
話を聞くと、スイート・ヴァニラズのEliseさんが妊娠しているのだが、妊娠したら詩が書けなくなってしまったらしい。それでアルバムを作るのに曲が6つほど足りないので、それを政子と冬子に代わりに書いて欲しいと頼まれたのだそうだ。
 
「それで11月いっぱいまででいいから、この詩6篇に青葉が曲を付けてくれないかと」
 
「私が書いていいんですか? だって人には頼めないのが作曲だと言っておられたのに」
「『下手な人には頼めない』けど青葉には頼めるよ。それに他の人でできることはどんどん投げた方がいいと青葉は言ったよね」
「あはは、確かに」
 
姫様が言った。
『青葉、あそこで作曲家の泉の水を飲んだだろ?だから青葉も作曲ができるはず』
 
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なるほどー。
 

冬子が東京行きの便に乗るのを福岡空港で見送る。そして広島に移動するのに博多駅に行こうと思ったのだが、ふと考え直してANAのカウンターに行った。
 
「仙台行き、次は何時ですかね?」
「11時ちょうどでございます」
「それ1枚ください。それから・・・仙台から伊丹に夕方くらいに着く便はありますか?」
「仙台発16:25・伊丹到着17:55の便ではいかがでしょうか?」
「それでいいです。お願いします」
 
それで青葉は仙台行きANA 797便B737-800機に乗った。仙台空港で降りて空港鉄道に乗り、仙台駅まで来たのが13:39である。仙台空港発16:25に乗るためには仙台駅を14:48にできたら乗りたい。時間は1時間ほどだ。
 
青葉は仙台駅そばの**デパートに行った。ところが入口の所に「店休日・特別お得意様招待会」などという看板が出ている。あぁ、休みだったか。まあいいや。もしかしたら、その方がすんなり行くかも、と思って入口の所に進む。
 
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青葉はこの時何か自分でもよく分からない力に動かされていた。竹田さんは私の霊媒的な才能が高いとか言ってたけど、確かに私って霊媒的な部分が結構あるかも知れないなと思った。
 
「招待状をお持ちですか?」
と入口のスタッフに訊かれる。
 
「持ってませんけど、これで入れません?」
と言って、青葉は1枚のカードを見せた。
 
「はい、もちろん! 少々お待ちください。今案内係を呼びます」
 
これは北海道の越智さんの顔で発行してもらっている、このデパートチェーンの上客カードである。発行店は札幌店だが、どこの店でも利くはずだ。
 
すぐに50代くらいの男性がやってきて、青葉に「ご案内します」と言って、店内に入れてくれる。外商の課長の名刺をもらった。ついでに招待会の客用のプレゼントの紙袋ももらう。
 
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「今日は何かお目当てのものはありますか?」
「そうですね。お皿でも見ようかな」
「食卓用のお皿でございますか?」
「うん。27-28cmくらいのがいいかな。数人で囲んで、焼きそばやスパゲティを盛れるようなもの」
「かなり大きなものでございますね」
 
という感じで、陶磁器売場に連れて行かれる。
 
「これなどは如何でしょう?」
と見せられたのはマイセンのブルーオニオンの大皿。価格は3万円である。恐らく若い人には洋皿の方が好まれるかなというので勧められたのかも知れない。
 
「そうだなあ。日本の皿の方がいいかな」
「では、こちらは如何でしょう?」
「うーん。源右衛門か。もう少し伝統的な柄のものありますかね」
 
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「なるほど、ではこちらなどは?」
 
どうも青葉が割と目が良さそうだと感じたのだろうか。いきなり柿右衛門を見せられる。9寸(27.27cm)で29万8000円の価格が付いている。青葉はちょっと心の中で焦りながら数字の桁を数えた。
 
「ああ、素敵ですね。この牡丹と鳥の絵が割と可愛いかな」
と取り敢えず言ってみる。
 
「この赤い色の素朴な出方が、柿右衛門の特長ですね」
 
その時、青葉に付いてきている《姫様》が『その皿程度で手を打っても良いぞ』
と言った。あははは。ま、いっか。
 
「じゃ、これにします」
と青葉は笑顔で言う。
 
「はい。ありがとうございます。お支払いは?」
「このカードで」
と入口で見せたこのデパートの上客カードを出す。
 
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「かしこまりました。お持ち帰りでしょうか?」
「私この後ちょっと広島に行くから、配送お願いできます?」
「はい。どちらでしょうか?北海道でしょうか?」
 
青葉の持っているカードが札幌店のものであるので、北海道に配送かと考えたのだろう。
 
「いえ。友人の住んでいる千葉へ」
「かしこまりました。配送料はサービスさせて頂きます。今配送伝票をお持ちします」
「ありがとうございます。あ、そうそう。中田店長は今日は御在店ですか?」
 
「はい。おりましたはずです」
「ちょっと挨拶してから帰ろうかな」
 
「ではご案内します。伝票もそちらにお持ちします」
 

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ということで、青葉は店長室に連れて行かれた。実際には店長は店内に出ていたようで放送で呼び戻されてくる。
 
青葉が少し待っていた所に中田店長が配送伝票と青葉のカードを持って入ってくる。
 
「この度はお買い上げ頂きありがとうございます。店長の中田です」
「こんにちは。私、政子さんの友人で川上青葉と申します」
 
「おお、娘のお友だちでしたか」
とにこやかに応じてくれるが、全然信用していないのが分かる。芸能人の娘を持つと、しばしば知り合いと称した変な人も来ているだろう。
 
青葉は素早く配送伝票に千葉の彪志のアパートの住所を書く。そしておもむろにバッグから、今朝冬子から渡された政子が書いた詩の束を取り出す。
 
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「ちょっと政子さんの書かれた詩を預かってきたんですけどね。政子さん本当に絶好調ですね。とても可愛い詩を書いておられる」
 
「おお、これは政子の字ですね」
これで半分くらい信じた感じだ。
 
「私、時々政子さんの詩に曲を付けているのですが、2年前より1年前より半年前よりパワーが上昇して来ていますね」
「おや、作曲をなさるんですか」
 
「ええ。以前書いた『聖少女』は思わず大きなヒットになりましたが、あの時期はまだ色々悩んでおられた感じでしたね」
 
と青葉は言うが、こういう具体的な曲名を出しても、中田店長は分かってないようだ。しかし80%くらいまでこちらのことを信用したかなという感じ。
 
「今年出した『花園の君』は凄い曲です。あれは冬子さんの曲ですが、たぶん今年の年末年始の大きな賞のどれか取るんじゃないでしょうか」
 
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「そんなに!?」
 
「レコード会社もセールスには力を入れてますよね。何しろ今年に入ってからシングルだけでも『夜間飛行』『言葉は要らない』『100%ピュアガール』
『花の女王』と4作連続ミリオン。これだけでも売上額は50億円。アルバムの売上まで入れると200億円になりますからね」
 
「200億!? 娘たちって、そんなに売れてるんでしたっけ? うちの店の半年間の売上より多いですよ、それ」
 
青葉が思った通り、この人の周囲にはこういう情報をきちんと流してくれる人がいないようだ。おそらく政子さんのお母さんも、お父さんが娘の芸能活動にあまり賛成していないことから、敢えて情報を流していないのだろう。
 
「ローズ+リリーはあまりライブをしないから、総売上では国内のアーティストの中で10位くらいになるかと思いますが、CDとダウンロードの純粋な売上でいえば事実上のトップでしょうね。某アイドルグループのCD売上はもっとありますけど、あれは1人で何枚も買っているだけですから」
 
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「そうか・・・・ライブあまりしてないですよね」
「どっちみち、今は卒論を頑張って書いておられるから、11月まではライブをする時間は無いでしょうけどね」
 
「娘は・・・まじめに卒論書いてますかね」
「冬子さんがいれば大丈夫みたいですよ。でもいない日はサボったりもしているみたいですね。昨夜も電話したら映画に夢中になって忘れていたみたいで、私が卒論進んでますか?と聞いたら慌ててました」
「あはは」
 
「でも着実に進行はしているみたいだから、きっと予定通りのスケジュールで書きあげられますよ」
「それは良かった」
 
「政子さん、集中力があるから、気合い入っているとふつうの人の10倍くらいのスピードで書きますからね」
「確かに集中していると、周囲の音とかも聞こえないみたいですね」
「ええ。だから冬子さんがそばに付いていないと危ないんですけどね」
「確かに確かに」
 
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「娘は・・・・冬子さんとずっと共同生活するつもりでしょうかね」
 
と中田店長は少し悩むように言った。
 
青葉は少し考えてみた。
 
「たぶん男の人と結婚しますけど、生活は今のままですね」
「ありゃ」
「冬子さんも同様で、たぶんどちらも通い婚ですよ。だってあのふたり離れていては仕事できないですから」
「なるほどー」
 
「それに冬子さんがいないと、政子さん御飯食べられないし、政子さんの旦那さんも困りますよ」
「なるほど!!!」
 
「今、政子さん2人彼氏がいるみたいですけど、その片方と結婚すると思います」
「へー!」
 

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