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■春心(12)

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その時、唐突に空帆が言った。
 
「ね。吉田。あんた参加しなさいよ」
「は?」
「ゲームくらいどうでもいいじゃん。部活に青春燃やすのって素敵だよ」
 
「ちょっと待て。お前ら女声合唱じゃねーのかよ?」
「女声合唱であれば、本人の性別は問わない。大会ルール」
「何それ?」
「ちゃんと大会規約に書かれているよ」
 
「ああ。中学の時も、男の子が混じっている女声合唱の学校あった」
「でも俺、女の声なんて出ないぞ」
「構わない、構わない。口パクでいい」
 
「でも俺部員じゃないぞ」
 
なんかとんでもないことをさせられそうなので必死に抵抗している感じだ。
 
「部員でなくても、うちの高校の生徒なら参加して問題ないですよね?」
「うん。確かに。参加者の名簿を提出している訳ではないし。提出しているのは、部長の茶山さんとピアニストの田村さんだけ」
 
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「でも制服じゃないといけないのでは?」
「制服ね〜。あ、紡希ちゃーん」
と空帆が呼び掛ける。
 
「はい?」
 
「紡希ちゃんさ、その制服貸してくれない?」
「え!?」
「紡希ちゃんはピアニストだから制服を着てなくても大丈夫ですよね?」
「それは確かに」
 
「私の服を吉田君に着せるの?」
 
紡希は自分の服を男の子に着られるのを嫌がっている感じだ。そこで青葉が言う。
 
「紡希、その制服、私に貸してくれない? それで私の制服を吉田君に貸すよ」
「ああ。それなら良いよ」
と紡希。
 
「待て、俺、女の制服を着るのかよ?」
「めったに着られるもんじゃないから貴重な体験」
 
「だけど吉田君を入れても24人ですよ」
「後1人は美由紀だね」
と青葉が言う。
 
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「え?」
「紡希、悪いけど譜めくりは自分でやってくれない?」
「いいよ。譜面はどっちみち暗譜してるし」
 
「だけど、私音痴だよ」
と美由紀。
「だから口パクで」
 

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ということで、多目的トイレに紡希と青葉と吉田君で行き、青葉が持っていた私服を紡希が着て、紡希の女子制服を青葉が着て、青葉の女子制服を吉田君が着た。むろん紡希と青葉が着替える時は、吉田君には目を瞑っているように要求した。
 
「足の毛はソックスをしっかり上まで上げていれば、目立たないね」
「毛の濃い女の子もいるから平気だよ」
 
「でも、吉田君、女子制服着たら、けっこう女の子に見えるじゃん」
「吉田君身長は168cmくらい?」
「うん、そんなものかな」
「その程度の背の高さの女子はいるからね」
 
「でも変じゃないか?」
「可愛いよ。ね?」
「うんうん。美少女女子高生」
「これを機会に女装始めてみない?」
 
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「でも俺、あそこ立ってしまいそう」
と吉田君は言っているが
「慣れれば平気になる」
と青葉は言う。
 
「吉田邦生(よしだ・ほうせい)の《邦生》を《くにお》と読むことにして今日は《くにちゃん》だね」
「あ、くにちゃん、可愛いかも」
と紡希も言っている。
 

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それで、急遽徴用した吉田君と、譜めくり係から合唱の列に入れられることになった美由紀を含めて、25人+紡希+今鏡先生、という態勢で8:03の富山行きに乗った。
 
「くにちゃん、その制服着ている間は女子トイレ使ってよね」
「えーー?」
「だってその服を着て男子トイレに入ったら痴漢だよね」
「でも女子トイレの中で声は出さないように気をつけなよ」
「男声出して男とバレたら痴漢で捕まるから」
「足の毛が濃いのも気付かれないようにしなきゃね」
 
「どっちに入っても痴漢になるならトイレ行けないじゃん!」
 

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富山駅に着き、バスで会場の所まで行く。参加高校は15校である。大会は10時から始まって13時くらいまで演奏が続き、そのあと結果発表があって解散である。みんなお弁当を持って来ているが吉田君は持って来ていないので青葉が「私のをそのままあげるよ」と言った。
 
「私1週間くらい何も食べなくても平気だし」と青葉。
「いや、私のお弁当を少し分けてあげるよ」と日香理。
「私のも少しあげるね」と美由紀。
 
大会が始まる前、会場そばの公園で軽く声を出して練習する。
 
アルトの列に入れられた吉田君が何だかもじもじしている。
 
「どうしたの?」
「いや、女の臭いが強烈で」
「臭い?」
 
「ああ、女の子が集まっている所に行くと、強烈に甘い香りがするんだよ」
とヒロミが言う。
 
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「感じる?」
「ううん」
と女子同士で言い合っているが
 
「私も男の子だった頃は感じてたけど、今はもう分からなくなった。たぶんホルモンの関係じゃないのかなあ」
とヒロミ。
 
「ああ、ヒロミって女性ホルモン飲んでるんだっけ?」
「中3の秋頃から飲んでたよ」
「なるほどー」
 
「じゃ、くにちゃんも女性ホルモンを飲むと気にならなくなるよ」
「嫌だ!そんなの飲みたくない!」
「おっぱい大きくなるよ。自分のおっぱいなら触りたい放題」
「いやだぁ! それにチンコ立たなくなるのでは?」
「別に無くてもいいんじゃない?そんなの」
 
「ヒロミはもう取っちゃったんだよね?」
「まだ取ってないよー」
「その内取るんでしょ?」
「うん、その内」
「くにちゃんも、その内取っちゃえばいい」
「嫌だ、絶対嫌だ」
 
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「だけど25人の女声合唱団の中に戸籍上男というのが3人も混ざっているというのは凄いな」
「3人?」
「誰だっけ?」
「え?くにちゃんとヒロミと青葉」
「あ、青葉忘れてた!」
「青葉のこと男の子とは思えないもんなあ」
 
「青葉、戸籍の性別、変更できないの?」
「20歳になるまでは無理」
「面倒だね〜」
 

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やがて大会が始まり、5番目が青葉たちの学校であった。舞台袖の所で待機する。その時、大会の係員さんが声を掛ける。
 
「あれ、君?」
というので、一瞬、青葉達の視線が吉田君に集中する。
 
「君、制服着てないけど、同じ学校の子?」
と係員さんが声を掛けたのは紡希であった。
 
「はい、T高校の生徒です。私はピアニストなので私服でもいいと言われたので」
「ああ、了解」
 
ということで係員さんは紡希の隣に並んでいた吉田君には何も違和感を感じなかった雰囲気であった。
 

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やがて前の学校が終わり、青葉たちの学校がステージに入る。アルトを先頭に、メゾ2、メゾ1、ソプラノの順に入って行き、整列する。紡希がピアノの所に就く。美由紀はメゾ1、吉田君はアルトの各々最後列に並んでいる。ソプラノ8人、メゾ1が6人、メゾ2が5人、アルト6人という並びだが、実際には美由紀と吉田君は口パクして歌わないので、本当はソプラノ8人、メゾ1が5人、メゾ2が5人、アルト5人である。
 
青葉は
「ソプラノには美滝もいるし、私、手薄なアルトに回りましょうか?」
とも部長に訊いてみたのだが、
「いや。メロディーを担当するソプラノが弱かったらどうにもならないから、青葉ちゃんはソプラノに居て。アルトは日香理ちゃん・立花ちゃんに頑張ってもらおう」
と言っていた。
 
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ソプラノの青葉・美滝、メゾ1の美津穂、メゾ2の公子、アルトの立花といった「中核メンバー」は、1人で5人分くらいの声量を持っている。日香理も3人分くらいの声量を持っている。だから25人より少ない23人で歌っても、実際には40人近い合唱団くらいのパワーがある。
 
紡希のピアノ前奏に続き、まずは課題曲『ここにいる』を歌う。
 
春からずっと練習してきた曲だ。この曲はどちらかというと語るように歌う曲である。メロディアスな曲を得意とする青葉や美滝には、やや苦手な曲であるが、しっかりと言葉を明瞭に発音し歌い上げていく。
 
曲は静かに始まり、静かに終わった。
 
続いて自由曲『海を渡りて君の元へ』を歌う。
 
こちらは歌唱力をしっかり魅せる曲である。元々KARIONの美しいハーモニーを前提に作られた曲で、S1,S2,M,A → S,M1,M2,A にパート割が変更されていても美しいハーモニーが保たれている。ここは青葉も美滝も目一杯の声量で歌う。他のパートの子もしっかりと歌う。それで美しいハーモニーが演出される。
 
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美由紀も吉田君も、まるで本当に歌っているかのように口パクで結構入魂歌唱していた。
 
4:30の演奏が終わった時、思わず会場から拍手が起きた。青葉は美滝と顔を見合わせて微笑んだ。
 

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吉田君がトイレに行きたいというので、青葉が付いて行ってあげた。
 
「やはり女子トイレに入るの〜?」
「その方が問題起きにくい。でも中では何もしゃべるなよ」
「うん」
 
それで吉田君の手を引いて女子トイレの中に入ると、案の定列ができている。それで手を繋いだまま待つ。やがて個室が空いたので、中に入るよう促した。青葉も続いて空いた個室に入り・・・・吉田君の入った個室の音に集中する。そして向こうが個室を出た音を聞いて、青葉もそのまま個室を出た。
 
「くにちゃん、服が乱れてる」
と言って、スカートの後ろがめくれていたのを直してあげた。女装に慣れてないと、こういうのに気付きにくいんだよね〜。
 
それでまた手洗い場で並び、吉田君、そして自分と手を洗って外に出た。
 
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「疲れた〜」
と小さな声で吉田君が言う。
「何だかスパイにでもなった気分だった」
 
「頻繁に女装してたらその内平気になるよ」
「俺、そんな平気になりたくない!」
 
「でも女子トイレなんて普通体験できないから、興奮しなかった?」
「とてもそんな心の余裕無いよ!」
 

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やがて15校全部の歌唱が終わった。青葉たちは
「ああ、やはりうまい学校あるね〜」
などと言いながら聴いていた。
 
15校の内、実際には5校は人数不足で「参考参加」扱いになるようであった。つまり実質10校の争いである。
 
しばらくの休憩の後、審査員長が壇上に上がる。
「1位 W高校」
拍手が起きるが、代表者は騒がずにステージに行く。
 
「あそこ常連だもん」
と青葉たちの後ろに座っている部長さんが小さな声で言う。
 
「2位 Y高校」
こちらは凄い騒ぎである。富山市の公立高校だ。
「凄いね。去年は10位くらいだったよ」
と部長。青葉は頷く。10位というのは実質最下位のようなものだろう。そこから1年で入賞する所まで持って行ったというのは凄い。
 
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「3位 C高校」
高岡の公立高校で奈々美が行っている高校である。おぉ、凄いと思う。こちらも何だか凄い騒ぎになって、代表者が凄く嬉しそうにしてステージに行った。
 
それぞれ審査員長から賞状をもらう。上位3校は中部大会に進出する。青葉は今年はさすがにダメだったけど、来年は行きたいなという気持ちで壇上の3校の代表を見ていた。
 
成績表を、今鏡先生がもらってきた。
「5位だったよ。頑張ったね」
と先生が言う。
 
「真ん中より上ですね」
「健闘、健闘」
「来年また頑張ろう」
「その前に来週の軽音の大会よろしく」
 
「だけど、くにちゃんほんとに違和感無いね」
「ねぇ、このままコーラス部に入らない?そのまま来年も参加」
「勘弁してくれよう」
「じゃ軽音部なら?」
「ああ。それなら入ってもいいかなあ」
 
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「くにちゃん、何か楽器できる?」
「くにちゃんは中学1年の時、吹奏楽部でチューバ吹いてたね」
「チューバってホルンのでかい奴?」
「そんなの吹けるならトランペットかテナーサックス吹けない?」
「触ったことない」
 
「すぐ吹けるようになるよ」
「大会は来週だから」
「ちょっと待て」
「また女子制服着させてあげるよ」
「女子制服着たいんだよね?」
 
「俺は女装趣味は無ぇよ」
と吉田君は焦ったように言った。
 
「でも軽音部に入るともれなくコーラス部にも参加だから、来年も女子制服で大会参加だね」
「えーーーー!?」
 
 
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