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■春眠(4)

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結局、その晩はちゃんと服を着てから、一緒に並んで寝ることにした。ベッドはふたりで寝るには少し狭いけど、上段と下段に別れては寝たくない気分だった。
 
「高校生のセックス経験率って30%くらいなんだって」と彪志。
「ほんとかなあ。。。。みんな、そんなにやってるんだろうか」と青葉。
「ちなみに中学生は確か5%くらい」
「うーん。中学生はもう少しあるかも。でも高校生だって15%くらいじゃないのかなあ・・・・」
「俺もそんなに経験してる奴がいるというのが信じられない。周囲の友達とかでも、経験したことのある奴なんて全然いないもん。ま、隠してるだけという可能性はあるけど。俺も青葉としたこと多分友達には言わないだろうし」
 
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「でも姉ちゃんもしてたからなあ・・・・・」
「田中と付き合ってたんだろ?未雨ちゃん」
「うん。ふたりで一緒に津波にのみ込まれちゃったみたい。お腹の中の赤ちゃんも一緒に」
「俺、中学生や高校生がセックスするの別に悪いとは思わないけど、って俺も青葉と今やっちゃったけどさ、ちゃんと避妊はしないとダメだよ。今度から俺、常備しとく」
「ありがと」
 
「デートする時だけなんて思ってたら多分ダメ。青葉ってけっこう神出鬼没で、意外な場所で遭遇することあるからなあ」
「大船渡に一緒にいた時代もけっこうそんなことあったね」
「うん。短い期間だったけど、え?なぜここに青葉がいるのさ?っての何度かあった」
「私もびっくりしてたよ」
「でも今回の遭遇は、まさに驚きだね」
「うんうん」
 
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「原理的には青葉は妊娠しないのかも知れないけど、青葉ならひょっとしたら妊娠しちゃうかもみたいな気もするから、俺する時は必ず付けるよ」
「ありがとう。私もその方が安心。アレの表面に潤滑剤塗ってあって、その分やりやすいのもあるし」
「確かにね。寝具も汚さなくて済むし」
「うん」
 
「あ、青葉、出生時刻っていつだったっけ?」
「何?占星術でも始めたの?」
「うん。少し興味持ってる。でも占星術は青葉のほうが詳しそうだなあ」
「1997年5月22日 3時17分 埼玉県大宮市。今はさいたま市になっちゃったけど。生まれた場所は大宮の氷川神社のすぐ近くだよ」
「あっ?埼玉の生まれだったんだ?」
「当時、うちの両親大宮に住んでいたから。佐賀出身と岩手出身が東京で出会って結婚したのよ」
「ロマンティックだね」
「新婚当初は凄くアツアツだったみたい。一度母ちゃんが飲んだくれながらこぼしてたし」
「へー」
 
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「それで苗字も、父ちゃんはぜんぜんこだわらないからっていって、母ちゃんの苗字に合わせたんだよね。それ実家に何も言わずにやっちゃったから、そのあたりで実家と揉めたのが、父ちゃんとじいちゃんとの揉め事の始まりだったみたい」
「なるほどね」
「でもそんなにアツアツだったのに、青葉が小学校に入る頃にはもうひどい状態になってたんだろ?」
「そうなのよね〜。何があったんだろうね。そのあたりの話はしないままふたりとも逝っちゃったし」
 
「私のホロスコープ見る?」
といって、青葉はベッドから置きだし、鞄の中に入れていた自分のパソコンを取り出して占星術支援ソフトを起動し、自分のホロスコープを表示させた。彪志も起き出して肩をくっつけたままチャートを見る。
 
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「うーん。。。。。。」
「どう?」
「あれ?青葉の月ってさ」
「彪志の太陽とピッタンコの位置にあるんだよね」
「占星術的には、俺の方が青葉の奥さんなんだ」
「そうなの」といって青葉は微笑む。
 
「彪志のチャートも重ねて表示しようか?出生時刻は何時だっけ?」
「1993年11月15日 15時13分 岩手県盛岡市」
青葉はデータを入力し、ふたりのチャートを二重円で表示する。
 
「私の月が蠍座23度5分、彪志の太陽が22度54分。その差11分。太陽の視半径より小さい。完全に重なって強め合う配置」
 
「俺も青葉も海王星MCなんだね」
「霊的な力を示唆してるよね。私は菊枝から霊能者になるために生まれてきたようなホロスコープだって言われたけど、彪志もけっこう霊感あるもんね」
「俺のチャートのハンドルの位置に青葉の水星・太陽・金星があるのか。だから俺は青葉と電話した後とか物事がうまく行くんだな」
 
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「逆に私は彪志からパワーをもらってる感じ。ここ2年くらいの私のパワーアップはけっこう彪志のおかげだったのかも」
「俺が井戸で、青葉がつるべだよね、これ。つるべがあって初めて井戸は役に立つ。青葉も井戸の水があってこそ仕事が出来る。俺達はやはり離れられないんだよ」
「そうかも」
 
「だけど、青葉って、太陽が双子座な上に水星アセンダントだから、しゃべる仕事とかも合ってるんじゃない?」
 
「うん。実はね、最近将来アナウンサーになれないかな?なんて思ってるんだ。表の仕事としては」
「青葉、外国語得意だし、有利なんじゃない?それにそういう世界はたぶん普通の企業よりは青葉の性別のことを受容してくれるよ」
「うん。それはそうかもという気はする」
 
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「金星が2室にあるから、青葉お金持ちになるね」
「ははは、なれたらいいね」
「テレビに出てるおばちゃんみたいにあくどい商売して御殿建てたり」
「私にそうなって欲しい?」
「絶対嫌」
 
「そうだ!これ彪志にだけ見せてあげる」
といって青葉は1枚の紙を取り出した。
「何これ?」
 
「菊枝が、こないだ誕生日祝いにって送ってきた。高野山の師匠の所まで行って私の分までいっしょにもらってきたらしい。師匠の庵に行くには道無き道を半日くらい歩かないといけないから、私は放っておいたんだけど」
「凄いところに住んでるな」
 
「でもこれ、字が達筆すぎて読めないや」
「印可状。ひらたくいえば、住職になる資格の認定状だね」
「え?青葉、お寺の和尚さんになるの?」
 
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「『お寺』という形でなくても、これがある以上、いつでも宗教施設の主宰者になれるけど、まだこれは行使しない。これが印可状であることも誰にも言ってない。幸いにも、よほど書道の知識ある人でないと、これ読めないし」
「ふーん」
「そもそも私、宗教とかいう柄じゃないから」
「大船渡で祭壇一度見たけど、そもそも神道と仏教がミックスした感じだったね」
「うん。ひいばあちゃん自体がアバウトな人だったからね。ありがたいものは、天照大神様でも、大日如来様でも拝みなさい、なんて言われて育ったし、私」
と青葉は笑って言った。
 
その夜は朝まで下の段でくっついたまま寝て、朝5時に起きて、買っていた朝食を一緒に食べた。
「少し前から起きてるなとは思ったけど、眠たかったから寝てた」
「私、いつも朝4時に起きてジョギングしてるんだよね。だから目が覚めちゃって。列車の中ではさすがに走れないしな」
「通路走ってたら迷惑だしね」
 
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「俺・・・・今夜青葉と一緒に過ごしたってこと、親にはとても言えないと思ってたけど・・・・」
「けど?」
「親父に言っちゃおう」
「えー!?」
「既成事実作り」
「もう・・・・・。でも私もお母ちゃんに言っちゃいそう」
 
「青葉とこの2年間、ずっとやりとりしてきたこと。この5月以降、3回、青葉と会って食事したり散歩したりしたことはその都度言ってある」
「何か言われてる?」
「最初の頃はやめとけとか普通の女の子にすれば?って言われてたけど、最近はまあ恋人として付き合う分にはいいんじゃない?みたいな感じかな。結婚宣言したら反対されるかも知れないけど」
 
「どっちみち、まだ私達結婚できないもんね」
「ま、ずっと先だよね。籍を入れられるの。最短でも青葉が20歳になってから」
「ね・・・・どうせたくさん待つんだから、もう少し待ってもらってもいい?」
「うん」
 
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「大学出て、『表の仕事』に就いて、2-3年はしてから結婚したい」
「いいよ。じゃ・・・・青葉が25歳くらいの時?」
「うん、そんなものかな・・・」
「俺、できたら自分が30歳になる前に結婚したい」
「じゃ、やはり11年後かな・・・・・」
「それまで、ずっと仲良くしていきたいね」
「仲良くしていこうね」
 
ふたりはまた熱いキスをした。
 
6時27分。サンライズが岡山駅に到着する。彪志が降りていくのを青葉は手を振って見送った。
「じゃ、また。たぶん今月中に会うだろうけど」
「うん。またどこかで」
この時は、お互いにまた中旬くらいに一ノ関かな・・・・くらいに思っていた。実際にはまた偶然の遭遇が用意されていたのだが。
 
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お互いに手を振りながら、電車は発車していく。青葉はドアのガラスに顔をくっつけてホームを見ていたが、やがて彪志の姿は見えなくなった。
 
出雲市には定刻の9:58に着いた。タクシーに乗り、住所を見せてそこに行ってもらう。「このあたりと思うんですが」という運転手さんのことばに「あとは自分で探します」と言って、車を降りた。
 
うーんと。。。。。青葉はあたりを見回しながらそれらしき『波動』を探す。
「あ、こっちだ」
 
その家はすぐに見つけられた。ベルを鳴らす前にドアが開き
「いらっしゃーい」と声を掛けられた。
「お邪魔します。ご無沙汰してました」と挨拶して中に入る。
 
居間に座ってお茶を頂く。
「これ、東京のお土産です」
「おお、東京ばな奈だ!これ大好き!」
と直美さん。
「あれ。今日は東京経由で来たの?」と直美さんの旦那様の民雄さん。
 
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「ええ。東京に用事があって出て来て、帰りが本来は木曜日になる予定だったんだけど、どうせ遠出してきたからと金曜日は学校をサボって、週末にこちらに足を伸ばすことにしたんです」
「でも久しぶりね」
「はい。2年ぶりくらいですよね」
 
「だけどここ看板とか出してないんですね」
「菊枝も看板出してないでしょ?」
「うん。ごく普通の民家だった。以前画家のアトリエだったらしくて、その画家の人が亡くなった後放置されていたのを買い取って若干改造したらしい」
「あ、先々月高知に行ったんだったね。以前は菊枝はごく普通のアパートにいたんだよ。本の収納の仕方が芸術的だった。3次元空間をフル活用してる感じで。これって、地震が来たら確実に本に埋もれて死ぬなと思った」
「なるほど。今は本で3部屋あるから」
 
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「青葉も当然看板出してないよね」
「うん。でも私の場合、慶子さんがいるから」
「そこからじゃんじゃん仕事が入ってくるわけか」
「うん。だけどようやく震災の遺体探しの仕事は一段落した」
「たいへんだったね」
「ここ3ヶ月ほどで250人くらい見つけた」
「わあ」
「大船渡、陸前高田、釜石、気仙沼、南三陸、この5地区にずっと気を飛ばし続けてたけど、2時間も気を飛ばしているとそれだけで体重1kg減るの」
「消耗するだろうね」
「うん。しかも、それやる時はとても食事とかできないし」
 
「・・・・しんどかったでしょ?対面する時」
「うん。遺体を見つける瞬間は実際にその遺体と至近距離で御対面する感覚になるからね」
「なかなか辛いね」
「何度吐いたか分からない。でも、家族を亡くした人たちは私より辛いから」
「青葉だってたいへんだったのに」
「ようやく最近泣かなくなった。最初の頃はもう悲しくて。特にお姉ちゃんだけでもね。。。。自分が全力出してたら何とか助けられなかったろうかって悔いが残っちゃって」
「仕方ないよ。青葉だってスーパーマンじゃないんだから」
「うん」
 
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「だけど、今度の中学では青葉、ちゃんと女の子として扱ってもらってるんでしょ?」
「うん。去年も最初の1ヶ月は完璧な女子中学生してたんだけどなあ。担任の先生が小学校の時の担任の先生と電話したのでバレちゃったんだよね。でも今年は最初から私の性別のこと理解してもらった上で女子中学生できてるから」
「戸籍だけの問題だもんね」と直美。
「あれ?もう手術も終わってるんだっけ?」と民雄。
 
「まだ。GIDの診断書は2枚取れてるんだけど。タイはもちろん、アメリカとかドイツとかフランスとか探してみたんだけど、どこも16歳にならないと手術してくれないんだよね。ロシアで年齢制限無いとこ見つけて、念のため電話掛けてちょっと話してみて私の年齢でも手術してくれると確認は取れたんだけど、技術がよく分からない。どういうテクニックで手術してるのか?って聞いても何か要領得なかったし、私が自分で手術した方がマシみたいなところだったら嫌だし」
 
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「それはちょっと怪しいね。ある程度まともな所に行った方がいいよ。しかし今の状態の青葉ちゃんにあと2年手術を待てというのは酷な気がするな」と民雄。
「俺、ちょっと国内の医療関係の友人と、あとアメリカの方の知り合いにも当たってみるよ。青葉ちゃんの場合、色々状況が特殊だから、それなら手術してもいいという所、ひょっとしたら見つかるかも知れない」
 
そんな病院が見つかったらいいな。。。と思う青葉であった。
 
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