広告:メイプル戦記 (第1巻) (白泉社文庫)
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■春一(1)

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薫はバスで病院に行ったのだが、診察を終えて病院を出ると雨が降っていた。
 
「折り畳みでも持ってくるべきだったな」
と思ったが、大したことない気がしたのでバス停まで走った。バス停には屋根があるので、雨をしのげる。
 
やがてバスが来るので整理券を取って乗り込む。座席に座りボーっと外の景色を眺めている。なんかここ1ヶ月ほどで起きたことが夢みたいだ。この後どうなるのだろうという不安はあるが、きっと何とかなると思った。
 
でも景色を眺めている内に眠ってしまったようだ。
 
「次は**町です。お降りの方はありませんか?」
という運転手さんの声で目が覚める。
 
嘘!?ひとつ乗り過ごしちゃった!?
 
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薫は慌てて降車ボタンを押した。
 
バスが停まる。急いで降りる。バスは発車して行く。
 
雨がかなり降っている。
 
やだー!この雨の中、バス停ひとつ分歩かないといけないの?
 
(田舎はバス停とバス停の間が長い)
 
しかし他に手は無いので、薫はできるだけ早歩きで自分の家まで歩いた。
 

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珠望はピンポンが鳴るので
「はーい」
と返事をしてドアを開けた。すると母がずぶ濡れになっている。
 
「お母さん!どうしたのよ?」
「傘持ってなくて」
「電話してくれたらよかったのに」
 
あっそうか。病院で娘を呼べば良かったんだ。なんでそのことを思いつかなかったのだろう。
 
薫はそのまま玄関で倒れてしまった。
 
そして薫は高熱を出して寝込んでしまった。熱が翌日になっても下がらないので病院に運ばれ入院する。
 
PCR検査を受けるが陰性である。
「単純な風邪でしょう」
とお医者さんは言ったものの、熱が下がらない。
 
薫はうなされながら、ビスクドールの夢を見ていた。
 

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これは・・・パルマちゃん?
「寒いよぉ、冷たいよぉ」
と言っている。
 
この子はドイツに留学していた時代に最初に買った子だ。名も無いメーカーの製品できっと商品的な価値はとても低いのだろうが、当時は自分が買える限界だった。
 
別の人形も姿を現す。
「辛いよぉ、寒いよぉ」
と泣いている。この子はイエロ?
 
「お母さん助けてぇ」
と言っているのは・・・カナリアちゃんだ!
 
「お前たちよしよし」
と言って、薫は人形たちを抱きしめた。
 
3人とも凄い熱だ。冷やしてあげなきゃと思うが自分自身凄い熱が出ていて、どうすればいいか分からなかった。
 
「お前たち絶対助けるからね」
と薫は自身熱にうなされながら人形たちに言った。
 
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そこで目が覚めた。
 
薫は自分の額に手を当ててみた。特に熱が出てる感じはしない。あたりを見回すが自分の部屋にいるようだ。隣の布団に夫の高が寝ている、
 
夢か!
 

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“娘”と一緒に金沢市の大学病院に来ていた母は医師から
 
「ご安心ください。お嬢さんの性別には全く疑いの余地はありませんよ。卵巣・卵管・子宮・膣が問題無く機能しています」
 
と笑顔で告げられ、思わず溜息をついた。
 

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7月22日(金).
 
H南高校の女子バスケット部は部としての練習をした。夏休み中は基本的に火曜と金曜に練習をすることになっている。
 
練習が終わった後、高田晃は、吉川日和に訊いてみた。
「ね、ひよちゃんの生徒手帳を見せてよ」
 
先日の地域リーグの時、日和は生徒手帳を見せて入場する際に性別のことで何も言われなかった。青木君と湖中君は「男子ですか?」と言われて「マネージャーです」「アシスタントコーチです」と申告して入ったのに。
 
「それ恥ずかしいー」
と日和は言いながらも自分の生徒手帳を見せてくれた。
 
女子制服姿の写真が貼られていて、性別も女と印刷されている。
 
「ひよちゃん、もう性別変更したんだっけ?」
と訊く。この子が大病院で性別検査を受けたら、きっと間違いなく女性と判定されそうな気がする。
 
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「それなんですけど実は入学説明会で生徒手帳の写真撮りまーすと言われた時、ぼくの制服まだ出来てなかったから、それ言ったら『じゃこれ着て』って女子制服渡されて、いいのかなあと思ったんですけど、それで撮影されちゃって。でもその後、何も言われないし」
 
「うーん」
 
「やはりこれマズいですかね?」
「いや、ひよちゃんの場合、これで問題無い気がする」
 

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日和と同じクラスの五月が寄ってくる。
 
「ひよちゃんは女子の生徒手帳で問題無いと思う。体育の授業でも女子のグループに入ってるし」
 
「男子と一緒に体育させるのは危険かもね」
「だと思うよー。男子と一緒にラグビーとかさせたら怪我するもん」
「むしろひよちゃんに怪我させまいと他の男子が無理して怪我しかねない」
「そそ。それ男女の体育委員で話し合ってたみたい」
「なるほどー」
 
「柔軟体操も私と組んでやってるんだよ。身体の感触が女の子の感触だから男子は女の子に触るみたいで嫌がるから」
「ああ、それはぼくも思った」
と晃が言う。
 
「春のマラソン大会でも女子のコースで5km走らせた」
「ひよちゃんの体力で男子コース10kmは無理だと思う」
と晃も言う。
「たぶん行き倒れになる」
と五月。
「ぼく女子の最下位でしたー」
と本人。
 
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「身体測定とかどうしてるの?」
「保健室の先生との話合いで個別検査にしてもらってる。女子の間では、女子と一緒でもよいのではという意見も結構ある」
「ああ、それでいいかもね」
と晃は言ったが、本人は
「女子と一緒に身体測定とか恥ずかしいですー」
などと言っている。
 

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「でも入学者説明会に制服が間に合わなかったって注文したの遅かったの?」
と晃は訊いた。
「それが頼んでた制服受け取ったら女子制服だったんですー」
と本人。
「ひよちゃんが制服を注文したらふつうに女子制服が作られる気がする」
と美奈子。
「それで改めて男子制服頼んだから」
 
「その女子制服は?」
「それはそれでちゃんと買いましたよ。だってぼくのサイズで作られてネームも入っているのにキャンセルとかできないもん」
「ひよちゃんのサイズの制服を着られる子は多分他に存在しない」
 
「男子制服は入学式の前日に出来たんですよ。もし間に合わなかったら女子制服で入学式に出ないといけなかった」
「それで問題無い気がする」
と全員の意見!
 
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「そんな女子制服で入学式に出るとか恥ずかしいですー」
 
みんな顔を見合わせる。
 
「9月からは学校に女子制服で登校しておいでよ」
「男子が女子制服で登校したら叱られますよぉ」
 
「いや絶対叱られることはない」
と全員の意見。
 
「だいたいひよちゃんは本当は女の子なのではないかという疑惑がある」
と美奈子。
 

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「ひよちゃん生理あるみたいだし」
と五月。
「え?そうなの?」
と晃は驚いた。
 
「今月初めにお股から4日くらい出血しただけですー。お母ちゃんにナプキン買ってもらいましたー」
「その時、男子トイレにナプキン捨てる所無いけどどうしよう?とか言うから、ひよちゃんなら女子トイレに入っていいよと言って連れ込んで捨てさせた」
と五月。
「女子トイレ恥ずかしかったですー」
「いやそれはさすがに嘘だ」
と晃も言った。
 
「今月初めに生理があったのなら、月末くらいに2度目が来るな」
「え〜?そうなんですかぁ?」
「ひよちゃん、生理が来た日をきちんと手帳にマーク付けといたほうがいいよ」
と弘絵が言う。
 
「出血があったのは金曜日で、月曜まで出血してた」
「月初めの金曜なら7月1日だな」
と美奈子が自分の手帳を見ながら言う。
 
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「だったら次の生理は29日かもね」
と五月。
 

この日は誰も日和に、彼女のお股の形状については尋ねなかった。
 
普段の着替えの時に日和が女子用ショーツを穿いていて、しかも男子ならあるはずの膨らみが見られないことから、日和にペニスや睾丸が無いことは、女子たちの間では“既知のこと”とみなされている!
 
それに日和は声変わりしておらず、女の子のような声で音楽の時間ではソプラノで歌っている。それもかなり高い声まで出ており、コーラス部にも誘われた。でも
 
「ぼく男子だから女子のコーラス部には入れません」
などと言って断っていた。
 
「ひよりちゃんなら女子制服着てても誰も問題にしないと思うけど。女子制服持ってはいるんでしょ?」(誘導尋問)
 
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「女子制服持ってはいるけど、そんなの着てみんなの前に出るとか恥ずかしいよぉ」
(美事に誘導に引っかかる)
 
しかし彼女の声の問題からも、睾丸が無いのは確実とみんな思っていた。
 

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千里と青葉による“願い石”の処理が終わった7月23日、『霊界探訪』の編集部にはいつものメンバーが集まっていた。
 
「青山さん、来週から産休だって」
「おおそれはレポートに行こう」
「予定日が9月26日だから、2ヶ月前の7月26日・火曜日から産休になるのが本則だけど、月曜だけ出て来て火曜日から産休ってめんどくさいから月曜は有休取って、結果的に今日から休み」
「なるほどー」(*7)
 
“彼女”はともかくも9月に出産予定であり、番組では月に1度くらい取材に行っていて、赤ちゃんが順調に育っている様子をレポートしている。
 

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「ところで、一言主神(ひとことぬしのかみ)ってどんな神様なんだっけ?」
と初海が訊く。
 
真珠は千里さんからの受け売りで説明する。
 
「雄略天皇(*1)の時代というから5世紀半ばの話なんだけど、天皇(正確には当時は大王(おおきみ)と言った)がお供を多数連れて葛城山に狩りに行ったら、山中で自分たちそっくりの一行に遭遇したんだって。それで天皇が、お前たちは誰だ?と訊いたら向こうは『吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり』と言ったんだって。それで天皇は恐れ入り、自分たちの着ていた服を全部差し上げて、拝礼したという」
 
「服をあげたら裸で帰ったの?」
「どうしたんだろうね?」
「ふんどしくらいは着けてたかも」
 
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「でも自分たちとそっくりの姿で現れるんだ?」
 
「そういう示現の仕方をするんだろうね。そもそも神霊が人間の前に姿を現す時はこちらの服装の一部を借りることが多い。でも丸ごと借りるというのは大胆だね」
と真珠は言う。これは明恵も頷いている。
 
「でも山の中で自分そっくりの者の姿を見るというのは、何かの自然現象かもと言う気もする」(*2)
と初海。
 
「そういう自然現象に乗じて何らかのメッセージをくれたのかもね」
「ああ」
 

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(*1) 雄略天皇は、中国の歴史書に出てくる“倭の五王”の中の“武”に比定されている。倭王武は、AD478年に中国南部の大国・宋と、AD479年には斉と交渉しているので、雄略天皇の時代も5世紀後半と考えられる。
 
浦島太郎が乙姫に出会って結婚したのも、雄略天皇の御代である。
 

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(*2) 筆者の祖父は若い頃大分県の奥耶馬溪に住んでいたのだが、その頃は奥耶馬溪と日田の間には交通機関が無く、大分市などに出て帰る時は、日田駅から20km近い道を歩いて往復していたという。ある日、日田から帰ってきてもう夜遅くなり、暗い中をひたすら歩いていたら、向こうから自分そっくりの人物が歩いてきたらしい。
 
よく観察すると、向こうの人物は和服の合わせが左前だった。祖父は、これはきっとキツネかタヌキの類いが自分を化かそうとしているに違い無いと思い、気をしっかり持って(←ここ大事と思う)、その人物とすれ違った。これは多分雄略天皇が遭遇したのと同類の現象と思う。一言主の話はそのエピソードに後から付加されたものではないかという気がする。
 
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神様関連の話というのは概して後から付加される。
 
私が葛城古道を歩いていた時、綏靖天皇宮跡を過ぎた所で“誰か”から言われたことば。
 
「神と出会えるのは記憶の中でだけ」
 

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