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■春金(11)

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春の立ち上げ段階で、技術者を集める鍵となった、八重美城さんは、どうも海浜ひまわり(本名:八重夏津美。§§プロの元歌手で、現在は§§ミュージック女子寮の雑用係!−無断宿泊者から昇格した)の親戚らしい。また美城さんは松本花子プロジェクトの中心人物のひとりでもあるらしく、彼女の“奥さん”は千里の古い知り合いでもあると聞いてケイは混乱した。
 
「奥さんがいるってレスビアン婚?」
とケイは千里に尋ねた。
 
「そうそう。子供もいるよ」
「レスビアン婚でどうして子供ができる?」
「XANFUSの2人や丸山アイと城崎綾香だってレスビアン婚で2人とも妊娠したし」
 
「丸山アイたちは噂も流れているように実態は、ふたなり婚なんだろうけど、XANFUSは純粋なレスビアンだよね。あれどうなってんの?誰か友人の男性とかから精子をもらったの?」
 
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「よく分からないんだよねー(あまりにも乱れすぎていて状況を見ていた千里3にも分からない:桃香や優子が父親の可能性さえある)。遺伝子鑑定の必要があるかも知れないけど、鑑定の値段を聞いてあの2人ビビってるから、生まれて血液型を確認するまでは父親が誰かは分からないかも(生まれてみても分からなかったりして)」
 
「なんか最近はよく分からない」
とケイが言うと
 
「他人のこと言えないと思うけど。あやめちゃんも大輝君も複雑」
などと千里は言うが、
 
「その言葉、そのまま返す。京平君のことはだいぶ分かったけど、緩菜ちゃんもかなり複雑でしょ?」
とケイは言った。
 
(この時点では千里自身、緩菜の父親を誤認している)
 
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「いや、そういう意味じゃ無いよ」
と兄の春道は、妹(元弟)の夏樹がとんでもない誤解をしたようだったので説明した。
 
「お前は子供2人作ったけど、俺の所は子供ができなくてさ」
「でもお兄ちゃん、奥さんとは仲良さそうだし、子供無くてもいいんじゃないの?」
 
「それなんだけど、実は女房の親が孫の顔を見たいと言ってさ」
「不妊治療とかした?」
「した。でも、俺の側にも、女房の側にも、どうも問題があるみたいで、色々やったけど、あまりにも金が掛かるし、女房は肉体的にも精神的にも辛いみたいだから、もう打ち切ることにした。女房も既に36歳だし」
 
「確かにあれホルモンバランスも崩れて辛いみたいね」
「そうなんだよ。見てて可哀想になってさ。お金もここ5年ほどの間に既に600万くらい使ってるし」
 
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「恐ろしい」
 

「それで女房と話し合っていたんだけど、お前と女房の妹さんとの間で子供を作って、俺たちの養子にもらえないだろうかと思って。そしたら、俺の親たちの孫でもあり、女房の親たちの孫でもあるからさ」
 
「代理母みたいなもの?」
「事実上それに近いものになると思う」
 
「でも御免。私、もう精子無いんだよ。女になっちゃったから」
 
「そりゃ、お前には精子は無いだろうけど、卵子はあるんだろ?だって子供を2人も産んだんだから」
 
あれ〜?お兄ちゃん、何か誤解してる?もしかして来紗と伊鈴は私が産んだと思ってる??だけど、多分今の自分には卵子がありそうだ。
 
「でも、向こうは奥さんの妹さんなんでしょ?精子が無いじゃん」
「いや、それが・・・実は妹さんは、今の時点ではまだ精子があるんだよ。あまり遠くない時期に無くなる予定なんだけど」
 
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それって・・・・
 
「まさか、MTFなの〜〜〜?」
 

9月9日(水).
 
§§ミュージックの17人の歌手が歌った企画CD『§§祭り2020』が発売されたが、既に予約段階で100万枚を超えていて、きっと伝説的なCDになると予想するFMのナビゲーターなどもいた。
 
「これって印税はどうなるんですかね?」
「山分けらしいですよ」
「ということは、あまり売れてない人にとっては美味しいのでは?」
「そういう意見はありますね」
 
このアルバムは CD \1800, CD+DVD \2700 という、これだけの曲数入っているにしては随分リーズナブルな価格設定になっている。仮に両者が 2:1 の比率で売れた場合、平均単価は2100円。これがもし200万枚売れた場合、歌唱印税は3780万円になり、17人で山分けすると1人あたり約220万円になる(ただしラピスラズリはこれを2人で分ける。リセエンヌ・ド・オはこれを4人で分ける)。
 
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普段のCDは2-3万枚(単価1200円として印税は20-30万円)程度しか売れてない子も多いので、その子たちにとっては夢のようなボーナスである。
 
コスモス社長はこのアルバムの売上については、マージン方式ではなく月給方式で報酬を払っている子についても、例外的に印税方式で報酬を払うと明言している。ほんとに大きなボーナスになりそうだ。
 

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各歌手(特に上位の子)のファンクラブはかなりモチベーションが高まっているようである。
 
ラピスラズリのファンクラブのメンバー(約80万人)は、ぜひラピスラズリを1位にしようというので、かなり布教して回った。これに対してアクアのファンクラブのメンバー(約200万人)も相当の危機感を持ち、万が一にも1位を奪われないように、必死の活動をしたようである。
 
しかし最も危機感を持っていたのは、高崎ひろか・品川ありさのファンクラプの会員たちである(双方とも約10万人)。彼らはこの投票は、紅白の出場者を決めるものではないかと想像していた。アクアとラピスラズリには、かなわない。となると残る指定席は1つしかない。それでひろかファンはありさに負けないように、ありさファンはひろかに負けないように、物凄く頑張った。
 
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それで両者とも物凄い勢いになったのてある。
 

9月9日発売のCDはだいたい8日夕方くらいからCDショップに並ぶ。それで投票サイトは8日朝から使えるようにしていたのだが、昼過ぎにはもう投票が開始されていた。
 
とにかく、アクア、ラピスラズリ、高崎ひろか、品川ありさ、の4人への投票がぐいぐい伸びていたが、白鳥リズム・姫路スピカの得票もかなりのものであった。
 

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「うちのファンクラブにも応援お願いって呼びかけようか?」
と、その日、松梨詩恩(高崎ひろかの実妹)は、ひろかに言った。
 
「いや、それはいい。だって、私と飛鳥(松梨詩恩の本名)が枠を争うことだってあるかも知れないし」
 
「まあそれはあるよね。この世界は仁義なき戦いだから。私も紅白なんて1度は出てみたいけど」
 
「私とあやちゃん(品川ありさの本名は佐藤絢香)は過去に何度も1つの枠を争って、ある時は私が勝ち、ある時は向こうが勝って、他方は涙を呑んでる」
 
「ライバルなんだね」
「うん。最高のライバルであり、最高の親友」
「仲がいいのかな」
 
「昨日もテレビ局で一緒になったから、一緒におやつ食べながら、おしゃべりしてたよ。寮に帰る車の中でだけど。運転してた崎山君が『仲いいんですね』と言うから、ふたりとも『うん』と言った」
 
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「なるほどねー」
 
「寮の部屋も隣同士だし」
「最初からそうだったっけ?」
「初期の頃は、私の部屋とあやちゃんの部屋の間に龍ちゃんが入っていたのよ」
「あ、そういやそうだった!」
 
松梨詩恩は、ずっと自宅から仕事に通っていたので、寮に入ったことは無いのだが、頻繁に姉を訪ねてきて、そのまま寮に泊まったりもしているので、女子寮にいる龍虎(アクア)をよく見ている。
 

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「そういえばさ」
と松梨詩恩は言った。
 
「うちの事務所(♪♪ハウス)から大型新人が近い内にデビューするらしいよ」
「へー。歌手系統?お芝居系統?」
「まず写真集を出すらしい。ちょっと見せてもらったけど、すっごく可愛い。振袖写真とか、お姫様みたいなドレス着た写真とかも、すっごく良かった」
 
「ほほぉ」
 
「『ヒカルの碁』の映画にも受験生役でゲスト出演したらしい。1月からドラマとかクイズ番組とかにも出演予定とか。レギュラーではないけど」
「プッシュしてるね!」
 
「うちの事務所から男の子タレントを売り出すのは久しぶりみたい」
 
「ちょっと待って。さっき振袖写真とかお姫様ドレスとか水着写真とか言わなかった?水着って男子水着なの?」
 
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「違うよ。女の子水着だよ」
「女子水着を男の子が着るの〜〜〜?振袖とかドレスもだけど」
 
「可愛いから、いいんじゃないの?この子も、アクア同様に性転換させてからデビューさせようかという話もあるらしいよ。本人も性転換するのは構わないと言ってるらしいし。実際学校には女子制服で通っていると言うし」
 
「アクアって、性転換してんだっけ?」
と、ひろかは改めて訊いた。
 
「龍ちゃんはたぷん元々は男の子の一卵性双生児なんだと思う」
「双子??」
 
「だから2人は体型が同じなんだよ。元々のベースが同じだし、同じ体型になるように気をつけている。でも片方は大病をして、手術跡がお腹にある。もう片方の傷跡は偽装。そして手術を受けた側は腫瘍と一緒に睾丸も取って治療のために女性ホルモンも投与されていた。だからほとんど女の子と同じ。たぶんちんちんも無い。もしかしたらデビュー前に手術して取っちゃったのかも。だから女子水着を違和感無く着られる。事実上の性転換手術だけど。お姉ちゃんも、龍ちゃんのちんちんの無いお股見てるでしょ?」
 
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「見てる見てる。だいたい花ちゃんとか、優羽(ことり)ちゃんとかが仕掛けて、寮生で龍のヌードを鑑賞してる。確かにちんちんは無かった」
 
松梨詩恩は言う。
 
「そもそも女子寮に龍ちゃんが入っていたのが、既に性転換済みだった証拠だと思う。女の子に改造された龍ちゃんは当然声変わりしないから声域が広い。歌を歌っているのは、いつもそちらだよ。龍ちゃんって、高校に男子制服で出てくる日と、女子制服で出てくる日があったけど、恐らく女子制服着てたのが、お股改造済みのほうだと思う。女子制服着てたら、女子トイレ使うのに抵抗ないし。つまりきっと2人交替で学校に来てたんだよ。男子水着になるのは、睾丸のある方。テレビ局で毎年やってた性別検査番組に出てたのも、そちら」
 
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「また新たな説を聞いた!」
と高崎ひろかは言った。
 
「だって龍ちゃんのあの猛烈なスケジュールは1人ではとてもこなせない。きっと2人で分担して仕事してるんだよ」
 
「確かに龍って2〜3人いるんじゃないの?と思ったことあるけど」
 

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風山早太は9月中旬、久しぶりに休みをもらって帰宅することにした。前回は川口市の無人の自宅に帰ってしまい、寂しい思いをしたのだが、今回は前日に妻の歩に電話し、帰宅の予告をし、場所も妻が日々寝泊まりしているという、代々木の事務所(歩の妹が設立した会社のオフィスらしい)の場所を聞いてそちらに向かった。代々木支店に行く同僚に乗せてもらって、支店から歩いて行った。
 
オフィスは雑居ビルの4階にあった。辿り着いたのが夜8時だったので、当然オフィス自体は閉まっていると思っていたのだが、灯りが点いているし、ドアも開く。
 
「いらっしゃいませ」
という声があり
 
「なんだ。あんたか」
と妻が言う。どうもスマホでゲームをしていたようだ。
 
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「久しぶりに会うんだから、もう少し嬉しそうな顔しない?」
「7年も経つと惰性だしね〜」
「そこで愛してるよとでも言って欲しいな」
「はいはい、愛してますよ、マイハニー」
「なんか適当だなあ」
 

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カウンター横の通路を鍵を開けて通れるようにし、早太を中に入れる。入口のドアをロックし、カウンター横の通路もロックする。
 
「まだオフィス開けてるの?」
「ここは芸能事務所だから、だいたい22時くらいまでは人が来ることがある」
「遅くまでやってるんだなぁ」
「まあだから私がお留守番してるんだけどね。昼間は別の子がお留守番してる」
「へー」
 
それで歩は早太をカウンター内のオフィスの内側へ通した。ここも鍵の掛かる扉を通る。通してからすぐロックする。
 
「厳重なんだな」
「昼間も夜も女1人で留守番してるからね。用心には用心をする」
 
内側の部屋では暖かいスキヤキができている。
 
「まだスキヤキの季節じゃないけど」
「いや食べる」
 
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と言って、早太はスキヤキも御飯もモリモリ食べた。冷蔵庫に早太の好きな麒麟ラガービールも冷えていて、歩が出してきたのでそれもごくごくと飲む。
 
「美味しい美味しい」
「良かった良かった」
 

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「でも。いつも留守番だけなの?」
 
「妹は三鷹のマンションに居て、だいたいそこで仕事もしちゃう。設立した事務所の唯一の社員は大阪に住んでいる。私は身分的にはバイト。昼間のお留守番をしているもうひとりのバイトさんは吉祥寺に住んでいる。ここは実は荷物を受けとったり、仕事が遅くなった時に仮眠する場所として使っているだけだよ」
 
「大阪に住んでいるならリモート勤務か」
「そうそう。今、時代はリモートだよ。私たちもリモート夫婦だし」
 
「でも今日はリアルで会えたよ」
 
「セックスもリモートでいいよね?」
「今日はリアルでしようよ」
 
と言って、早太は歩のそばに寄るとキスした。
 
「ここはオフィスなんだけど」
「オフィスラブだな」
「バレたら懲戒もんだなあ」
と言いながら、歩は早太に押し倒された。
 
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「だったらリモートでできません?」
と真珠は言った。
 
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