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■春変(20)

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貴司は戸惑いながらも、その後は自分でナプキンを買って(物凄く恥ずかしかった:メモを手に持ち奥さんに頼まれたような振りをして買った)、自分で処理するようにしたものの、生理があることを美映に知られたらと思うとヒヤヒヤであった。(使用済みのナプキンは会社の多目的トイレや、コンビニのトイレなとで処分していた)
 
その生理は8/19に来た後、9/16, 10/14 と正確に28日おきに来ている。
 
ちなみに一度千里に電話してみたのだが
「あら?生理が来たの?30歳で初潮というのは珍しいね。お赤飯炊いた?」
と言われた。千里(千里2)は、きっと眷属の誰かの悪戯だろうと思っている。
 
貴司は本当に困っていた。もっとも幸いにも?この時期、貴司は会社の混乱に対応するのに多忙で、チーム練習の参加も少なかったので、何とかなっていた感もある。
 
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ジャージを着ていたらバストは隠しようもない。
 

その日、観光タクシー運転手の神崎光恵(かんざき・てるさと)は、午前中にフルムーンの夫婦を市内観光に連れて行った後、特に予約は入っていなかったので、普通のタクシーとして市内を1時間流していた。午後2時すぎ、会社から
「今空いてる?」
と連絡が入るので戻ると、新婚さんの市内観光を頼まれた。
 
名刺をそのカップルに渡すと、いつも起きているようなやりとりがある。
 
「みつえさん?」
「よく誤読されますが、実は“てるさと”なんです」
「いっそ“みつえ”か“てるえ”に改名して、性転換して女の人になりません?」
 
性転換しませんか?というのは実は毎週のように名刺を渡したお客さんに言われて・・・実は快感を感じていた!
 
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今日案内したのはとても若いカップルで昨日結婚式をあげたばかりということだった。自分たちの車で四国を回っていて、鳴門の渦とこんぴらさんを見てきて、この後は佐田岬・道後温泉・足摺岬・はりまや橋・室戸岬と回っていく予定だが、思いつきでコースを変えるかもということだった。この日は自分たちの車を置いて、ガイドさんに案内してもらおうということだったようである。
 
高屋神社、一方宮と案内してから、琴弾の道の駅に車を駐め、歩いて案内する。琴弾八幡宮、観音寺・神恵院を案内してから、ちょうど日没の時間になるように、砂絵の展望台に案内した。
 
それで新婚さんに砂絵の由来やメンテ体制などを説明し、また寛永通宝1枚は現在のお金にするといくらくらいだったのかというのも尋ねられた(これはよく尋ねられる)ので説明した。
 
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この時、近くに若い女性のお遍路さんがいた。お遍路衣装を着ているが、お遍路さんにありがちな頭陀袋(ずだぶくろ)ではなく登山にでも使うようなしっかりしたリュックを背負っている。また靴が物凄くしっかりしたウォーキングシューズだ。それでこの人は、歩きお遍路なのたろうと判断した。
 
「そちらはひょっとして歩きお遍路さんですか?」
ち神崎が声を掛ける。
「そうですよ。南無大師遍照金剛。そちらは新婚さんですか?」
とお遍路さん。
「昨日結婚したんですぅ」
とカップルの奥さんの方が言った。
 
それでしばらく話していたら、お遍路さんはバスケット選手ということである。そして実際に霊山寺からずっとここまで順打ちで歩いて来たらしい。
 
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「凄いですね。そこまで歩いている人なら、握手でもしてもらったら、御利益(ごりやく)とかありそう」
と神崎。
 
「あ、だったら握手してもいいですか?」
とカップルの奥さんのほう。
 
「いいですよ」
とお遍路さん。
 
それでお遍路さんは、若いカップルのふたりと握手し、ついでに?神崎とも握手したのである。お遍路さんは厳しい行程を歩くためか、軍手をしていたが(普通のお遍路さんなら手甲だが実用性は軍手より低い)、握手の時はそれを外して、素手で握手してくれた。
 

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夕日が沈んでしまってからもしばらく解説を続けた。西の空に明るい星が2つ見えた。尋ねられたので、答える。
 
「上の方に見えるのが木星、水平線近くに見えるのが金星ですよ」
「金星って愛の星ですよね?」
「そうです。そうです。新婚カップルにふさわしいですね」
「わーい」
「ついでに木星は幸運の星だから、おふたり、きっといいことがありますよ」
「楽しみにしておこう」
 
この2人にこの夜本当に“素敵なこと”が起きたのを、神崎は知らない。
 

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駐車場に戻り、2人を近くの温泉施設・琴弾廻廊で降ろして、神崎は会社に戻った。明日の朝、迎えが必要だが、それは手が空いている人が行くことになり、このカップルに関する仕事はこれで終了である。
 
神崎はその後は、流しで夜間の仕事をし、夜1時すぎに仕事を終え、車を洗車して、そのまま自宅に乗り付けて帰宅した。
 
タクシーに乗車しているとトイレもままならない。新婚夫婦を乗せてから一度営業所に戻った時にトイレに行き、その後9時頃にGSでトイレを借りてからその後は行ってなかったので、妻に「ただいま」を言って
家の中に入ったら、すぐトイレに直行した。
 
そして、おしっこをしようとして、ズボンとパンツを降ろして便器に座り、おしっこを始めた所で
 
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え!?
 
と思った。
 

神崎光恵の妻・弥法(みのり)は、夫が帰宅してからトイレに入ったまま、なかなか出て来ないので心配になった。トイレの前に行き、声を掛ける。
 
「てるちゃん、お腹の調子でも悪いの?」
「どうしよう?」
「どうかしたの?」
「ボク、女になっちゃった」
「へ?」
と声を挙げてから、弥法は
「ここを開けて」
と言った。
 
光恵がドアを開ける。
「これ見てよ」
 
夫の股間はすっかり形が変わっていて、(少なくとも1週間前には確かに存在していた)ペニスも睾丸の入った袋も見当たらない。縦に割れ目の線が見えていて、まるで女の股間である。
 
「嘘?てるちゃん、性転換手術しちゃったの?」
「そんなのしてない。少なくとも10時頃にトイレ休憩した時には、確かに、ちんちんがあったのに、今見たら無いんだよ」
 
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「ふーん」
と言ってから、弥法は考えた。
 
「別に問題無いんじゃない?」
 
「そうだっけ?」
「だって、てるちゃん、女の子になりたかったんでしょ?」
「それはなりたいけど、ボクはみっちゃんとの結婚を優先したいから、性転換とかするつもりは無かった」
 
「私はビアンでもいいよというのはずっと言ってたよ。法的な性別を変更されたら困るけど、変更せずに私との結婚を維持してくれるなら、女になってもいいよ」
 
「ほんとにボクが女になってもいいの?」
「中身がてるちゃんなら、問題無い。お風呂行って、そのあたり洗ってきなよ」
「うん」
 

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それで頭の中が大混乱しているものの、光恵(てるさと)はお風呂場に行き、服を脱いで、いつの間にかできていてこれも仰天した豊かなバスト!と、本当にどうしてこういうことにと戸惑いながらも。女の形のお股をきれいに洗った。女の性器についてはよく研究しているので、洗い方で戸惑うことは無かった。
 
お風呂場から出てくると、弥法(みのり)も裸である。
 
そして“あれ”を装着している。
 
「なんか、それ大きくない?」
「お誕生日だから入れておげようと思って、新しいのを買った所だったのよね。さあさあ、お嬢ちゃん、いいことしようぜ。足を開きな」
 
そう言って、弥法は“いつものように”光恵を押し倒した。
 
「名前はもう“てるえ”でいいよね?」
と弥法は夫にインサートしながら言った。
 
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翌日の朝、自宅に駐めていた会社のタクシーを運転して、光恵は出社した。そして社長に言った。
 
「すみません。実は私、昨夜突然女になってしまったのですが」
「へー。それはまた突然だね。でもそれがどうかした?」
「自分でもなぜ女になってしまったのか、さっぱり分からないのですが」
「うちは男女同賃金だから、君が男でも女でも給料は変わらないよ。そうだ。性別変更届け出しておいて」
 
「あのぉ、私が女でも構いませんか?」
「中身が神崎君なら全く問題無い。そもそも神崎君、本当は女になりたいとか言ってなかった?」
「それはなりたかったんですが」
「だったら、女になれて全然問題無いじゃん。そうだ。観光案内は、だいたい女性のガイドさんを希望するお客さんが多いから、うちも助かるよ。女性ドライバーはこれまで2人しかいなかったから3人になると、吉野君たちの負荷も減るし。神崎君はお仕事、今までより増えるかもね」
 
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「はあ」
「吉野君からは、大変だから、せめてあと1人女性ドライバーを雇ってくれと言われていたんだけど、なかなかいい人がいなかったから、神崎君が女になってくれたら本当に助かる」
 
「そうですか」
「そうだ。女になったのなら、女性用制服を着てよ。伊賀屋君!」
と言って、社長は事務の女性を呼ぶ。
 
「神崎君が性転換して女になったらしいから、女性用制服を出してあげて」
「分かりました。神崎さん、女性になられたんですか?おめでとうございます。神崎さんならいいと思いますよ。制服はMでいいかな?神崎さん、細いし。あ、下の名前はどうするんですか?」
と伊賀屋さんが訊くと、本人が答える前に社長が言った。
 
「これまで通りの名前で、読み方を“てるえ”に変えて」
「あ、それでいいですね」
と伊賀屋さんは言い、女子制服のMを出してきてくれた。
 
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女子更衣室でそれに着替えてきた神崎は、スカートの制服を着て人前に出たので、恥ずかしがっている。
 
「でもこれまでも女装で出歩いたりしてたんでしょ?」
「やったことはありますが」
「だったら、なにもそれで問題無いね。じゃ、今日からはその制服で乗車してね」
「はい」
「そうだ。今日は中原君が生理休暇なんだよ。それで女性のガイドさんを希望する予約が2件あったのをどちらも吉野君にこなしてもらおうかと思っていたんだけど、予約時間が微妙でさ。3時からのを神崎君、女性ガイドとしての初仕事になるけど頼むよ」
「分かりました」
 
それで神崎はごく普通に日常の業務に就いた。
 
なお、性別変更届なんて用紙が無いと言ったら、伊賀屋さんが速攻で作ってくれたので、神崎はそれを書いて社長に提出した。
 
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性別変更届
2019年10月13日
 
氏名:神崎光恵
 
旧性別:男
新性別:女
 
旧氏名:神崎光恵(かんざきてるさと)
新氏名:神崎光恵(かんざきてるえ)
 
伊賀屋さんは「せっかく作ったからこの用紙5枚くらい届用紙入れに入れておこう」なんて言っていたが、そんなに性別の変わる社員が頻発するようには思えない!
 
しかし神崎はこんなに安易に自分の性別変更を受け入れてもらえるって、この会社はもしかしたら、物凄くいい会社なのでは?という気がした。
 
 
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