【桜色の日々・高校進学編】(2)

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私とみちるが令子の所に行き、おしゃべりを始めたが、そこに数人の生徒が近寄ってくる。
「ね、ね、状況があまり飲み込めてないんだけど、もしかして吉岡さんって男の子なの?」
「うん、そうだよ、戸籍上はね」と私は明るく答える。
「でも本人の実態はこの通り、ほとんど女の子だよ」と令子。
「すごーい! なんかテレビで見るニューハーフさんとかとは全然違う」
「女の子にしか見えないのにね」
「声も女の子の声にしか聞こえない」
 
「一応、男子の制服着ても、女子の制服着てもいいって言われたんだけどなあ」
「どちらを着てもいい、というのは、本来戸籍上の性別に従えば学生服を着なければいけない所を、女子制服でもいいですよ、というだけの意味だよ」と令子。「そうそう、ハルが男子の制服を着ることは想定されてないよ」とみちる。
 
「いや、最初吉岡さん見た時、なんでこの子は男子の制服着てるんだろ?って思っちゃった」
「本人はあまり自覚してないけど、この子、男の服を着ても女にしか見えないもんね」
 
「で、なぜ今日みたいな日にわざわざ男子制服を着て出てきたか、説明してもらおうか?」と令子。
「いや、お父ちゃんが学校まで送っていくなんて言い出して」と私。
「ああ」
 
「いつもは7時に出て行くお父ちゃんが今日は9時半出勤だったんだよ」
「なるほど」
 
「この春休みの間に何度かお父ちゃんに自分の性別のこと話そうとしたんだけどね、どうしてもタイミングが合わなくって、結局カムアウトできなかった」
 
「じゃ、もしかしてお父さんは、吉岡さんが女の子になっちゃってることに気付いてないの?」
「そうなのよ!」
 
「ああ、でも父親の注意力ってそんなものかもね」
「母親はすぐ気付くだろうけどね」
 
「入学式の朝にその件を話して、揉めたくなかったから、今日は仕方無く男子制服で学校まで来た」
「でも、できるだけ早くちゃんとカムアウトした方がいいね」
「そうなんだよねー」
 
この時は私もそのカムアウトが更に4年半後になるとは思ってもいなかった。
 

その日は11時半から12時半まで、食堂を新入生とその保護者専用にして一緒に御飯を食べながら、その間、学校生活のビデオが流されていた。(4時間目の授業は12:30に終わるので、ちょうど2〜3年生の昼休みと入れ替えになる)
 
学校の校舎を映した映像から、窓の外から教室を映したもの、そして授業風景。先生が数学の図形を板書して説明している所、そして生徒が質問している所。試験の時なのか、みんなが一所懸命何かを書いている様子、お弁当を食べている所。教室の掃除をしている所。通学している女子のグループ、男子のグループ。図書館・視聴覚教室・化学実験室・物理実験室・音楽室・美術室・武道場。
 
クラブ活動の様子。ブラスバンド部の演奏。バレー部・バスケット部の試合の様子、いつも全国上位に入っている強豪のバドミントン部、何度か甲子園に出たことのある野球部、そしてコーラス部、パソコン部、茶道部。理数科の生徒が島根大学に行って特別講義を受けている様子(うちの学校はSSH-Super Science Highschool-には指定されていないものの、結構SSH的な活動はしているらしい)。
 
文化祭の様子、体育祭の様子、入学式・始業式・終業式・卒業式。歩行大会、球技大会、水泳大会、そして大学受験のセンター試験の様子、大学での面接の様子なども映されていた。最後に在校生の男女(あとで生徒会長さんと副会長さんと確認)から新入生へのメッセージがあってビデオは終わっていた。
 
「いかにも学園生活は楽しいですよ、という雰囲気のビデオだったけど・・・」
と近くのテーブルにいた子(恵令奈と名乗り、私たちとすぐ仲良くなった)。
 
「実際は私たちは3年間ひたすら受験勉強だよなあ」と令子。
「0時間目から8時間目まで授業があって、毎日けっこうな宿題も出る中で、クラブ活動するのは事実上無理だもん」
と、教室でも私の前の席にいた子(純子。この子ともすぐ仲良くなる)。
 
「部によっては、放課後より昼休みの練習をメインにしてる所もあるみたいね。コーラス部とかソフトテニス部とか。理数科の子はそういう部にしか入れない」
と恵令奈。
 
「でも、理数科って、普通科の子との交流機会が少ないから、部活に入った方が友だちはできやすいみたいね」
と純子。
「ああ、自分もそうだけど、そもそもあまりべったりした付き合いを好まない子が多い雰囲気だよね、理数科の子は」
と令子。
「あまり女子らしくない女子だよね」
「私なんか、女子らしさではそこにいるハルに負けるとずっと言われ続けてたよ」
と令子。
「ああ、私も負けそう」と純子。
 
突然自分のことが話題にされ、私は頭を掻いた。うちの母と令子の母は笑っていた。
 

お昼の後は、保護者も一緒に各教室に入り、生徒手帳が渡される。朝撮影した写真が、身分証明書欄に転写されている。
「わあ、こんな顔して写ってる」
「えーん、これ撮り直して欲しい」
などという声があちこちから出ている。
 
「ハルちゃん、どんな顔になってる?」と純子。
「こんな感じ」と見せると「あ、わりとまともじゃん」と言われる。
「純子ちゃんは?」
「これ。フラッシュに驚いて目をつぶりかけって感じ」
「わあ。目が細くなってる」
「私、フラッシュが苦手なのよねー」
「それは写真撮るのに苦労するね」
 
しかしともかくも、私の高校1年の生徒手帳の写真は、最初からしっかり女子制服を着て写ることができたのである。
 

翌10日から新入生は2泊3日で、新入生合宿に入った。
 
場所は島根半島の日本海側海岸にある合宿施設である。最大500人収容できる大きな合宿所で、うちの市内の公立普通高校4校はみなここを新入生合宿に使う。今年は6〜8日にC高、10〜12日がうちの学校、そしてこの後13〜15日が女子校、16〜18日がH高ということだった(日程は4校のローテーションらしい)。
 
私たちは早朝からバスに乗って合宿所に行き、初日の午前中は主として勉強の仕方、授業の聴き方や、ノートの取り方などに関しての指導を受けた。
 
お昼を食べた後、午後からは体操服に着替え、いきなり3km走と言われる。「えー!?」とみんな言うが、「今『えー!?』と言った人は、合宿所の中庭を1周してから3km」などと言われた。
 
私はチアリーダーで鍛えた分、反射神経や身のこなしは割と自信があるものの体力には全然自信が無い。それで3km走ではみごとに他の子よりたっぷり遅れてしまった。
 
途中何度か歩いたりしながらも、何とかコースを最後まで走り、合宿所の門の所まで戻って来たら、どうも中庭にみんな集合しているようである。
 
「すみません、遅くなりました」
と言って、そこに行くが、ちょうど近くにいた同じ中学出身の中島君が
「まだ先生は来てないけど、吉岡こっちでいいの?」
と訊いた。
「へ?」
「こっち男子が集合してるんだけど。吉岡、今日は男子の方に参加するんだっけ?」
「え?」
 
と言って、よく見回すと、ほんとに男子だけ集合しているようである。
「わあ、ごめーん。女子はどこに集合してるか知ってる?」
 
などと言っていたら、建物の方から、みちると令子がやってきた。
「ああ、ハルやっぱりこっちに居た!」
「なんで男子の方にいるのよ?」
「今先生から『吉岡さん知らない?』と言われたから『多分いる所知ってます』
と言って連行しに来た」
 
「ちゃんと女子の方に来なきゃダメじゃん」
「もっと女の子としての自覚を持とうね」
などと言って私の両腕をつかみ、拉致していく。
 
「いや、私、今3km走から戻って来たばかりで、女子の集合場所を訊いてた所で」
などというが
「言い訳見苦しい」
「後でくすぐりの刑に処す」
などと言われる。
 
「あれは勘弁して〜」
「ハルがちゃんと女の子しないからよ」
「やはり、おちんちん切断の刑だね、これはもう」
「いや、それ刑にならない。本人喜ぶから」
「あっそうか」
「えーっと・・・」
 

そういう訳で、その日の午後、私は無事?、女子の方に参加することができた。
 
その日の午後の女子に対して行われたのは、やはりまず性教育であった。最初にビデオを上映する。小学校・中学校での性教育の内容が、学校によって様々なので、とにかくも男女の性器の構造から、精子の生産・男性器の勃起と射精、男性の自慰(ほんとにしている所の映像を見せられた)、卵子の成熟と排卵、卵胞期・排卵期・黄体期といった生理周期のこと、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの働き、受精と妊娠の仕組み、実際にセックスしている所の映像に続いて、出産シーンの映像まで見せられる。上映中あちこちで小さな悲鳴があがっていた。
 
とにかく濃厚というか過激な内容のビデオだった。令子がやたらと私の身体に接触する。不覚にも興奮してしまったのだろう。これ、同じ学年の中に彼氏がいる子は、今夜密かにやりたくなったのではないか、と私は余計な心配をした。
 
その後、やはり避妊の問題についてしっかりと教えられる。バナナをペニスに見立てて、コンドームを付ける練習を、各クラスごとに1人ずつ代表ですることになった。
 
「誰かやったことある子?」
「やったことの無い子がした方がいいよ」
「じゃ、私やってみる」とひとりの子が言うと
「慣れてない?」などと、同じ中学の子?からツッコミが入る。
「私、バージンだよぉ」と言って彼女はコンドームの封を開け、表裏に気をつけて取り出すと、バナナの先端にかぶせ、くるくると回しながらかぶせていった。
 
「あれ? 途中までで終わっちゃった」
「バナナ大きすぎるから」
「ふつうはちゃんと根元まで辿り着くよ」
 
「じゃ、これで間違いない?」
「合ってる、合ってる」
 
「でも、私、こんなことしたら、この先バナナ見る度におちんちんに見えちゃうかも」
「ああ。バナナって、そり具合がおちんちんに似てるかもね」
 
「先生、このバナナこのあと、どうすればいいんですか?」と質問が飛ぶ。「食べていいですよ」と先生。
 
「おちんちんを食べるって意味深」
「あれ、舐めたりするんでしょ?」
「フェラチオって言うんだよ」
「えー?あれを舐められるものなの?」
「舐めてもいいくらい、その人のことが好きなんじゃない?」
「きゃー」
 
みんな性に関する知識の水準がバラバラなので、結構面白い会話が成立する。
 
「よし、私これ食べちゃう」
と先ほどコンドームをかぶせた子。
「頑張れ、よっちゃん」と声が掛かった。
 
「男の子のおちんちん、頂きまーす」と言って、その子、頼子はバナナを美味しそうに食べた。
 

避妊のことについてかなりしつこく言われた後、妊娠した場合の対処についてもしっかり指導があった。
 
「とにかく独りで悩まないこと。友だちでもお母さんでも、あるいは保健室の先生でも他の女の先生でも、誰でもいいから相談すること。妊娠中絶する場合、できるだけ早く中絶する必要があります」
と先生は説明する。
 
「まず23週目以降はもう中絶は禁止されます。ここまで来ると、その中の子は立派な赤ちゃんです。それを中絶するのは赤ちゃんを殺すのと同じ。ですから、そこまで行ってしまうともう産むしかなくなってしまいます」
みんな真剣な顔で聞いている。
 
「12週目以降でも、実際問題として出産させるのと同じ方法で赤ちゃんを取り出します。取り出した後の処置は敢えて言いません。想像してみてください。母体側も出産するのに近い負荷が掛かります」
 
「基本的に中絶は10週目くらいが限界と思ってください。できたら6〜8週目までにする必要があります」
 
ここでひとりの生徒が手を挙げ「先生」と言って質問を求める。
 
「何週目という言い方って、実際にセックスした時からの数え方じゃないですよね?」
 
これは本人は知っていて、他のみんなにも知って欲しくて発言を求めたという感じの質問である。
 
「はい、そうです。妊娠何週目というのは、最終月経のあと何週たったかというのを表しています。排卵、結果的に受精は月経の2週間後に起きていますから、妊娠6週目というのは、セックスしてから4週間後、妊娠8週目というのは、セックスしてから6週間後です。ですから、避妊せずにセックスしてしまった場合に、次の月経が来なかったら、即産婦人科に飛び込んですぐに中絶してもらわないと、間に合わないんです」
 
生徒の間から思わず「わあ・・・」という声が漏れた。
 
「ですから、そういう思いをしなくてもいいように、セックスする時は何がどうあろうと。絶対コンドームです」
と先生は力説した。
 
その後、先生は緊急避妊薬についても説明し、万一避妊せずにセックスしてしまった場合は、妊娠の恐怖におびえる前に産婦人科に飛び込み処置をしてもらうよう言う。しかしこれはあくまでも非常手段であり、基本的にはちゃんと避妊をしっかりしなければならないと再度強調した。
 
最後に先生は「コンドーム、念のため何箱か持って来てるから、使う必要が出てくる可能性のある人にはあげるから、私の所に取りに来るように」
と言った。
 
一番前の席に座っていた子が「2枚ください」と言って、もらっていた。(ホントに欲しい子が来やすくなるように、わざと言ったように見えた)
 

少し休憩をはさんで、今度は恋愛に関するビデオを上映する。高校生が多数出演している。告白するシーンも、告白して成功するもの、撃沈するものを見せ、思いが叶わず泣いている子を友人がカラオケに誘って一緒に騒いだりする展開なども見せられる。内心好きな男の子がいるのに、他の男の子から告白されて悩んでしまう子。二股を掛けていてバレてしまい、双方の恋人を失ってしまうパターン。彼女がいる男の子に猛烈なアタックを掛けて略奪してしまうパターン。そしてその彼氏を奪われた女の子が泣いているシーン。
 
「恋愛には何が正しいとか、どっちが悪いとか、何が本来のやり方だとか、そういうのはありません。それぞれが各々の場面で、自分ならここでどう行動したいかというのを考えてみてください」
と先生は言った。
 
性教育の方のビデオはみんなが真剣なまなざしで見ていた感じだったが、こちらの恋愛の方のビデオは、かなり見ながら泣いている子がいた。失恋の経験をしている子には、いろいろ自分の心の傷をえぐられてしまうようなビデオだという気はした。でもこういう様々なシチュエーションを疑似体験しておくことは、絶対に後で役に立つ。私はそう思った。
 
でも恋人を奪われた場合か・・・・あの時、自分はどうすれば良かったんだろう・・・私自身も心の傷が痛むのを感じていた。
 

やがて夕食の場で男女合同となる。私と令子・みちるが話していると荻野君も寄ってきたので、一緒にあれこれおしゃべりした。令子は男の子と話したことで少し気持ちが落ち着いたように見えた。(つまり私には「男子の友人」
という機能は無いんだな、というのも再自覚する)
 
夕食後、一度自分たちの泊まる部屋に入ることになる。部屋割は4人部屋で1クラスの女子20人が5部屋、男子20人が5部屋である。私は令子・カオリともうひとり隠岐から出てきたという、市香という子と同室になった。
 
「よろしくお願いしまーす」
「よろしくお願いしまーす」
と挨拶する。
 
「でも昨日もちょっと教室で注目の的になってたけど、吉岡さん、ほんとに男の子なんですか?」
「ほんとだよ。何なら解剖してアレ見せてあげようか?」と令子。
「そういうのはやめようよぉ」と私は言った。
 
「でも、苗字呼びは堅苦しいよ。同室になったよしみで、名前で呼び合おうよ。敬語も無し」とみちる。
 
「そうだよね。じゃ、私は市香(いちか)あるいは『いっちゃん』で」
「晴音(はるね)なので『ハル』で」
「みちる、なので『みーちゃん』で」
「えっと、特に決まった愛称は無いけど、令子(れいこ)です」
 
「いや、実は先週、先生からうちに電話があって訊かれたのよ。新入生合宿で同室にしたい子で、心は女の子だけど、身体は男の子って子がいるんだけど、いいかって」
 
「私はそんなの聞かれなかったな」と令子。
「私も聞かれてない」とみちる。
「でもそもそも、ハルの身体は男の子じゃないよね」
「そうそう。ほら、胸に触ってごらん」
と、みちるが市香の手を取って私の胸に触らせる。
 
「わあ、結構バストある」と市香。
「ハルは私より胸あるんだもん」と令子。
 

やがてR組の入浴の時間になる。お風呂は各階に男女用浴室各1ずつがあるが、収容人数の問題があるので、入浴はクラス単位で1時間以内という指定になっている。R組は1組と一緒に1階の部屋を使っていたが、入浴はR組が19-20時、1組が20-21時という時間帯であった。
 
「R組って要するに0組として処理されてる感じだよね」
「ああ、学校システムの内部では0になってる感じがする」
 
体育の授業も、R組と1組合同で男女別の授業になることが説明されている。
 
入浴ということで、お風呂セットを持ち、一緒に浴室に行く。今日はお互いにあまり話す時間が無かったものの、同室になった子の間で会話が成立していたので、ややザワザワした感じで、みんな浴室に向かう。しかし何人か目立つ感じの子がいる。
 
昨日の入学式の日から何か騒がしい感じであった恵令奈、バナナガールなどという「二つ名」を自ら喧伝している頼子、あまり言葉は発しないもののクールにみんなを見つめている感じの水鈴(みれい)。妊娠の週数のことを質問した子だ。
 
その水玲は「令子ちゃんも一際目立つよね」などといって、早速令子をライバル視している感じである。
「いや。目立つのは何と言っても晴音(はるね)ちゃんでしょ?」
と、横からバナナカール頼子が口を出してくる。
「まあ、いろいろな意味で注目されやすいよね」と言ったのは、逆に控えめな雰囲気が優しい感じの弘海(ひろみ)だ。
 
「でも、晴音(はるね)なんて、女の子っぽい名前でよかったね。私なんか、しょっちゅう男と間違えられてたよ」と弘海は言う。
「あ、私の名前、本当は『はると』と読むんだけど、『はるね』と誤読されて女子の方に入れられてることが多かったのよ」
「へー」
「でも、中学の学籍簿は3年間『はるね』のままだったね」
「元はといえば小学6年の時の担任の間違いがそのまま継続してきてるんだよね」
「性別も結局そうだよね」
「うんうん」
 

やがて浴室に到着し、脱衣場でみんな服を脱ぐが、やはり私に視線が集中している感じだ。でもこういう視線には慣れている。全然気にせずに令子たちとおしゃべりしながら服を脱いで行く。体操服の上下を脱ぎ、下着姿になると緊張感が和らぐのを感じる。このあたりもいつもながら快感。
 
そしてブラを取ってBカップのバストを露出させると、「胸、大きいね」と頼子が言って触りたそうにしているので
「触っていいよ」と言って触らせる。
 
「これ、フェイクじゃなくて、本物だよね?」
「うん。本物」
「やっぱりホルモン?」
「そうだよ。もう4年くらい飲んでるよ」
「へー」
「でも、頼子ちゃんも胸大きいじゃん」
「うん。バストでバナナをはさむのが目標」
などと言って「おぉ」とあちこちから声が上がる。
 
更に私がショーツまで脱ぐと「えー!?」という声があちこちから上がる。「何も無いね」と頼子。
「何かあるのに女湯にいたら、即通報ものだよ」と私が笑って言う。
「もう手術して取っちゃったの?」
「まだ取ってません。偽装工作してますが、大目に見てください、お代官様」と私。「よし、今度山吹色のものを持って参れば見逃してやろう」と頼子。
「へへい。山吹色というとバナナでございますね?」
「うむ。そうだな」
などというやりとりに周囲から笑いが漏れる。
 
「ちなみに、タマは本当にもう無いよ」と令子が言う。
「へー!」
 
「だけど、そもそも女湯に場慣れしてる感じだよね」と水鈴。
「ああ、この子何度も女湯には入ってるからね。もう今更だよ。私ハルとは5〜6回一緒に入ってる」と令子。
 
「小学校の修学旅行でも、中学校の修学旅行でも、女湯に入ったよね」とみちる。
「おお」
「実はこないだ家族で温泉に行った時もお母ちゃんと一緒に女湯に入った」
「おお!」
 

結局その後はふつうの感じでおしゃべりしながら、浴室に移動し、各自身体を洗って浴槽につかり、また話に花が咲く。
 
「この中でクラス委員とか学級委員とか委員長とかしたことのある人?」
と浴槽の中で私は訊いた。
みちる、水鈴、頼子、市香、の4人が手を挙げた。
 
「あれ、令子ちゃん、したことないの?」と水鈴。
「ああ。なんか縁が無かったね。私、あまり人の面倒見が良くないし。交渉事も好きじゃないし」と令子。
「そのあたりが好きな、みちるがいたこともあるかもね」と私。
「結構同じクラスだったよね」とみちる。
 
「面倒見良くないのはよっちゃんもだなあ」
と頼子と同じ中学出身の信枝が言う。
「それはノンノ任せ。私は君臨すれども統治せず」
「象徴なの?」
「カリスマと言ってくれ」
「おぉ」
「面倒見は私も自信無い」と水鈴が言う。
 
「うちは少人数で、同じ顔ぶれで9年間やってきたから、面倒見も何も無かった」
と市香。
「9年間クラスが変わらないと、仲良くなれるけど、適応できない子は辛いね」
「うん、それはある」
「この理数組も当然3年間固定だからね」
「まあ、仲良くやっていきたいね」
 
「ハルはずっと図書委員やってたね」
「なんだか最初1度やったら、その後は経験者ということで」
「ありがち、ありがち」
「あ、私も同様でずっと保健委員」と信枝。
 
「私も美化委員ひとすじ」と純子。
「なんか、その付近の委員って、専門職化しやすいよね」
「私、放送委員」と恵令奈。
「ああ、完全な専門職」
「放送委員って事実上の部活動だったね」と恵令奈は言う。
「ほとんど『放送部』だよね」
 

「ね・・・・ひょっとして、これ誰を何委員に推薦するかの話し合い?」と弘海。
「談合だよね」
「結構固まった気がしない?」
 
「図書委員、保健委員、美化委員、放送委員はもう確定ね」
「えー!?」
 
「クラス委員もだいたい決まったと思わない?」と水鈴が令子を見て言う。
「うん。バナナガールだよね」
「え?え?」と頼子が左右を見回している。
 
「いつ決まったの?」と頼子。
「私と水鈴ちゃんとの今の話し合いで」と令子。
「そのふたりで決めるの?」
「そう。私と令子ちゃんは、委員長選出委員会」と水鈴。
「おお、すごい!」
「いつの間に!?」
 
水鈴は自分が強引に委員長になってもクラス全体の支持は得られないと踏んで反対派が支持しそうな令子とバランスを取る形で、無害っぽく人望のありそうな頼子を委員長に就けた方がいいと判断した、と私は読んだ。ふたりは穏やかに話しているものの、視線の火花が散っているのを感じる。
 
「水鈴ちゃんは生活委員かな?」と令子。
「令子ちゃんは環境委員とか?」と水鈴。
「あ、それはみちるに譲る」と令子。
「へ?」
「じゃ、令子ちゃん、学習委員やんなよ」
「OK」
「あと残りは・・・体育委員かな?」
「市香ちゃんでいいんじゃない?」
「え?」
 
「よし、決まったね」と言って、令子と水鈴が笑顔で握手した。
「これが密室談合政治か!?」
 

お風呂の後は、部屋に戻って、夕方渡された「中学5教科スピード復習」というソフトがセットされた電子タブレットの問題をみんなでやる。私たちの部屋の4人は、隣の部屋に行き、そちらの水鈴・頼子・信枝・恵令奈と一緒に8人で問題を解いていった。問題が読み上げられるのでタッチペンで選択肢をタッチする。頼子のタブレットに読ませて、残り7人はサイレントモードにして一緒に解答していった。
 
英数国理社、各100問ある。ひとつひとつは瞬間的に解ける問題ばかりなので問題文を読む時間の方がよほど掛かる。それでも1教科20分ずつで仕上げることができて、5教科を22時までに終わらせることができた。まだ昼間のビデオの興奮が完全には冷めてないのか、令子は私に身体をくっつけて問題を解いていた。時々勝手に私の胸を揉んだりする。
 
「だいたいみんな同じくらいの時間で反応してたね」と令子。
「やはり、この8人はレベルそんなに差が無い気がする」と水鈴。
「みんな間違ったのは各教科1〜2問だよね」と頼子。
 
「この8人で勉強会しない? 1年生の内は7時間目までで16時半に授業終わるから、その後18時くらいまで、一緒に勉強しようよ」と令子。
「いいね」と信枝。
 
「でも私、みんなより少し遅れぎみだった」とみちる・恵令奈が言うが
「このメンツと一緒にやってたら、鍛えられてレベルアップするよ」
と水鈴が言う。
 

「でもハルちゃんって、中学ではずっと女子で通したの?」と頼子。
「なんかセーラー服着たり、学生服着たりしてたね」とみちる。
「でも、学生服を着ても女の子が男装しているようにしか見えなかったね」
と令子。
 
「私、小学校の間はけっこう曖昧な服装してたし、髪も伸ばしてたから中学に入るのに、髪も切らないといけないし、学生服着ないといけないというので、物凄く憂鬱な気分だったんだけどね」
「学生服を着て、学校に出てきて最初のホームルームで先生から『君何ふざけて学生服なんか着てるの?お兄さんから借りたの?』って言われたんだって」
とみちる。
 
「ああ」
「私も昨日の朝、ハルちゃんの学生服姿見て、この子なぜ男子制服を・・・と思ったよ。男の子かもという発想は全然湧かなかった」と恵令奈。
 
「それで先生から『着替えて来なさい』と言われたら、ハル『着替えて来ます』
と言って出ていって、ちゃんとセーラー服着て戻って来たから、びっくりしたって、ハルと同じクラスになった子が言ってた」とみちる。
「へー」
 
「我慢できなくなって、おばさんとかからもらったお祝いのお金使って自分で買っちゃったのよね。遅れて頼んだから、できたのが入学式の前日。ギリギリだった」
「ああ」
 
「それでずっと女子制服で通学するのかと思ったら」
「先生に男だってバレたから、学生服で通学しまーすとか言って、学生服で出てきたかと思えば」
「途中で着替えてセーラー服になってたり」
 
「やはり心理的に不安定だったのね?」
「それはあるけど、先生ごとの温度差もあってね」
「なるほど」
「どっちかってっと『今日はどうしてセーラー服じゃないの?』とか言ってくれる先生もいるけど『男ならちゃんと学生服着ろ。女の服とか着て気持ち悪い』
みたいな感じの先生もいてさ」
 
「まあ、そういうのはどうしてもあるだろうね。みんなが理解してくれるわけじゃない」
「問題は、うちのお父ちゃんがどう考えても、その理解してくれないタイプって気がするのよね」
 

「結局、カムアウトできなかったんだよね?」
「そうなのよ。この春休みの間にカムアウトして、少し喧嘩してでも、女子高生することを認めてもらいたかったんだけど・・・なんか全然ゆっくり話す時間が取れなくて」
 
「だけど、そもそも父親とゆっくり話す時間なんて取れないのかもね。特に私たちの親の世代って会社でも中核で、いちばん忙しい世代だもん」
「確かにそうなのよね〜。私も中学生の3年間に父親とちゃんと話をした記憶がほとんど無い」
 
「まあ、そんなだから、息子が毎日スカート穿いて学校に通っていても、そのこと自体に全く気付かなかったんだろうね」
「うん。私も途中でかなり大胆になって、自分のセーラー服を衣装部屋の壁に掛けっぱなしにしてたし、ブラとかを居間に吊ったタコ足に干してたりしてたけど気付かれなかった。うち、女のきょうだい居ないのに」
 
「お母さんにはすぐ気付かれたでしょ?」
「連休明けにバレた」
「1ヶ月もバレなかったんだ?」
「でもちょうど良かったんだよ。それで、夏服のお金はお母さんが出してくれたから」
「ああ」
 
「私、断言する」と水鈴。
「たぶん、ハルちゃんのお父さんは、ハルちゃんがこの高校卒業するまで、ハルちゃんが女の子していることに気付かない」
「実はそんな気もしてならないの!」
 

合宿の2日目は朝から抜き打ちテストであった。朝食後、通常(?)授業の0時限目にあたる7:20からまずは国語、1時限目社会、小休憩をはさんで、2時限目数学、3時限目英語、4時限目社会、と5教科のテストが50分(+休憩10)で行われ、昼休みの休憩をはさんで、午後からは短縮時間モードで、40分(+休憩10)で各教科の答案返却と解説が行われたのである。「短縮10時限目」が終わったのは18:10であった。みんなクタクタになり、夕食では放心状態で食べている子が多かった。もうお風呂パスして寝る、などと言っている子もいた。
 
「しかし、いきなり鍛えられるね〜」
と昨日より明らかに人数の少ない浴室の中で、湯船につかりながら水鈴は言った。「みちるが頭がパンクしたと言ってもう寝てる」と令子。
「パンクするよね〜」と、こちらも疲れ切った表情の信枝。
 
「しかし先生達も気合い入ってるね。1時間目にやったテストの採点して6時間目で解答解説やるって、かなりの重労働って気がするよ」
「高校生も教師も体力勝負だね」
 
「このテスト、たぶん補習のクラス分けに使うんだと思うな」
「ああ」
「普通科の方の補習は、実力別クラス編成になるみたいだもんね」
 
「だけど内容的には昨日の『スピード復習』をちゃんとやってれば解答できる内容がかなりあったと思わない?」
「でもあれちゃんと終わらせてた子は少ないと思うよ。昨夜、全員あれを仕上げていた部屋は、女子では私たち2部屋だけだったみたいだし、男子では赤星君たちの部屋だけだったみたい」
 
「あの部屋は理数科の男子トップ4人だよね」
「そんな感じ。赤星、荻野、瀬崎、田上」
「東大理3狙うコースって感じでしょ?」
「そうそう。なんかあの4人のオーラが凄いもん」
「天才系の瀬崎君、秀才系の赤星君、キラリと光る荻野君、努力家っぽい田上君」
「ああ、凄い分析」
 
「佐藤・松川あたりもなんか雰囲気凄いよ」
「マジメ人間・佐藤君、磨かれてない原石・松川君」
 
「トップ争いに食い込んで来るだろうね。特に松川君、ホント磨かれてない原石だと思う。市香と同じで伸び代が凄くありそうだもん」
 
「え?え?」と突然名前が出て焦る市香。
 
「女子の入試成績トップは間違いなく市香だよね」と水鈴。
「私もそう思う」と令子。
「えー!?」
「そして更に伸び代があるよね」と頼子。
「市香は東大理3行けるよ。行くつもりで勉強するといいよ」と水鈴が言う。
 
「私、血見るのが苦手だから、お医者さんは無理」
「うーん。惜しいなあ」
「文転して文1を狙うとかは?」
「文1って何だっけ?」
「弁護士とかのコース」
 
「弁護士か・・・・私まだ将来のこと何も考えてないなあ・・・。理数科を選んだのも数学が好きだからってだけで」と市香。
「ああ、そういう子は理数科多いと思う」
 
「水鈴はやはりどこかの医学部?」
「私はロケットに関わりたいのよ。だから東大理1から宇宙工学を目指す」
と水鈴。
「わぁ、かっこいー!」
 
「令子こそ医学部でしょ?」
「うん。阪大の医学部志望」
「きゃー」
「何か凄い子ばかりだなあ」と頼子が言うが
「あんたも充分凄い」とツッコミが入る。
 
「私、志望校に東大理科4類と書いたら、そんな類は無いと言われた」と頼子。
「どこから理科4類なんてのが?」
「いや、よく分からないから適当に書いた」
 
「でも医学部行くなら絶対国立だよね」
「ああ、それうちの親からも言われた」
 
「私立の医学部に行くには納入金が1500万円とかだもん」
「ひぇー!_ いったいどういう人がそんなの払えるのよ?」
「国立なら他の学部と同じで80万で済むからね」
「そりゃ、親としては医学部行くつもりなら、国立って言うね」
 
「しかし将来のことか・・・私、そもそも男として生きるか女として生きるかも決めてない」
と私が言うと
「ハルは女として生きる道しか無い」
とみんなから言われた。
 
「だいたい、さんざん女子トイレ、女子更衣室、に女湯まで使っておいて、自分は男かも、なんて言ったら、痴漢行為で死刑だよね」
「その時は、クラス全員から10回ずつくらい刺されてもいいよね」
 

合宿の3日目は、午前中バスケット大会であった。各クラス、男女10人ずつくらいで2チーム作り、合宿所のグラウンドに白線を引き、リングを設置してコートを8つ作っていた。試合時間は10分、交替その他に掛かる時間を5分として、朝8時から12時までの間に合計128試合、各チーム4試合ずつできる計算である。組合せはランダムにパソコンで決めていたようであった。
 
試合時間は短いものの4回も試合ができるというのは楽しかった。もっとも10人ずつのチーム同士で戦うと、コート上に人がうようよいる感じだったし、土の上でドリブルなどしていると、石などに当たって思わぬ方向にボールが飛んで行くこともあったが、そのハプニングがまた面白かった。
 
かえって元々バスケの得意な人には不満の残る試合だったかも知れないが、みんな、和気藹々としていて、親睦を高めるにはなかなか良い企画だった。
 
成績は勝ち点(勝ち:3 引分け:1 負け:0)順の、得失点差順で付けられた。理数科は男子Aチーム12位、Bチーム5位、女子Aチーム4位、Bチーム10位という成績だった。男子Bチームと女子Aチームにバスケの経験者がいて、その子がひたすら点数を取ってくれたので、この2チームは良い成績をあげた。
 
私は女子Bチームで出たのだが。。。
「半分男子だし、期待したのに」
「ごめーん。私、運動神経悪いから」
 
ということで、私はバスケではあまり役立たずであった。ただ、背が163cmと女子の中では高いので、けっこうリバウンドは取ることができて、それをボール運びのうまい子にパスしていたが、やはりドリブルがイレギュラーする問題は、彼女を悩ませていたようであった。
 
「でも運動神経悪いって言うけど、中学のチアリーダーでは宙返りとかしてたよね?」
「私、瞬発力はあるし、身体は柔らかいから、筋力とかなくても要領だけでできる後転・側転とかは行ける」
「へー」
「ではここでバク転してみよう」
「ちょっと待って」
と言って、私は足首の筋を伸ばす準備運動をした上で、身体を丸めるタイプのバク転、それから身体を伸ばしたままの後転・側転をしてみせた」
 
周囲の女子から拍手をもらう。
 
「すごーい!」
「それ出来て運動神経が悪いってのは無いと思うけどなあ」と信枝。
「えー?これは運動神経とはあまり関係無いと思うけど」と私。
 

合宿明けの金曜日。ホームルームで各委員を決めることになる。男子はまともに無記名投票をして各委員を選出したのだが、女子の方は最初に水鈴が発言を求め「女子の各委員のリストを提案します」と言って、読み上げるとともにマグネットシートに書いてきたものを黒板に貼り付けた。そして
「これで良いですか?」と言って、女子一同の拍手があり、委員が確定した。
 
「決め方もいろいろあるもんだね」と担任が感心?していた。
 
男子の方は、入学式で新入生代表もした赤星君がクラス委員、荻野君が生活委員、三田君が図書委員などになる。
 
「最後にあとひとつ、男子の方から応援団リーダーをひとり決めて欲しいのですが」と先生が言うと、男子たちが顔を見合わせている。やはり誰もやりたがらない役だ。
 
「誰もやりたがらないよね」と前の席の純子と話していたら隣の席の山科君が「なんなら、お前らやる?」などと言う。
「えー、男子でしょ?」
「男子だけって男女差別だ」
 
などと言っていたら「こら、そこうるさい」と先生から注意される。
「意見があるなら、手を挙げて発言しなさい」
「はい、山科君がやりたいそうです」と純子。
慌てて山科君が「いや、吉岡さんがやりたいそうですよ」と言う。
私は吹き出したが「面白そうだから、やってもいいですよ」と言った。
 
「えー!?」という声が広がるが
「私、学生服も着れるし」と付け加える。
 
「うーん。。。まあ、本人がやりたいというのなら、ちょっと練習に行ってみる?」
と担任は言った。
 

その日の昼休み、私は学生服に着替えて本館の屋上に行く。
 
「なんだ、なんだ、お前は?」
と言われるので
「押忍(おす)! 1年R組代表、吉岡晴音(はるね)です!」
と両腕を横腹に当てて低い声で言う。
 
「えっと・・・・」
「チアリーダーやってたので、大きい声を出すのは得意です。押忍!」
「あ。。そう? じゃ、とりあえず一緒に練習してみる?」
 
ということで、練習に参加した。
 
「フリャー、フリャー、N高!」
と両手を斜め上に広げて叫んだり、また三三七拍子で、その合いの手に「そりゃ!」とか声を出したりといったパターンを練習する。また、手を肩に付け、左右に広げ、肩に付け、前に伸ばしという四拍子で動かしながら校歌や応援歌を歌う練習などをしたのだが・・・・
 
練習が終わったところで応援団長が
「えーっと、吉岡。ちょっと君の担任と話がしたいのだけど」
と言って一緒に職員室に行く。
 
「先生、申し訳ないです。吉岡は凄く優秀な応援団員で、声も出るし、侠気もあって、我々も力付けれるところがあるのですが、やはり女が混じっていると団員の気持ちが乱れるので、本人、チアガールしていたというし、チアチームに異動とかいうことにさせてもらえないでしょうか?」と団長。
 
「ああ」と言って中村先生は笑っている。
「じゃ、チアリーダー部を創設する?」などと言っていたら、応援団顧問の飯田先生が近づいてきた。
 
「そちらの組、女子が応援団リーダーに出てきたんですか?」
「あ、すみません。なんか成り行きで立候補しました」と私が言う。
「君、チアしてたの?」
「はい。小学校でも中学校でもしてました。3組の西本さんもずっと一緒です」
 
「へー。じゃ、ホントに、やりたい生徒に呼びかけて、チアチームを作るのもいいかもね」と中村先生。
「じゃ、その一緒にやってた子も誘って、月曜日の全体集会の時に声を掛けてみない?」と飯田先生。
「はい」
 

「しかし、学生服は誰か他の生徒から借りてきたの?」と飯田先生。
「あ、自前です」と私。
「へー。趣味?」
「あ、私実は戸籍上は男なので、学生服と女子制服のどちらを着てもいいという許可をもらっています」と私が言うと
「えー!?」と飯田先生と応援団長が驚いている。
 
「吉岡、男なの?」と団長。
「そうですよ」
「でも声は女だよな?」
「えっと、もっと男っぽい声も出るはずなんですが、長らく使ってなかったので、今日はうまく出ませんでした。そもそも私、声変わり来てないので」
「ああ」
 
「この子、小学生の頃から女性ホルモン飲んでいたそうです。胸がふつうの女の子のように発達していますし、既に去勢手術済みで、20歳前後までには性転換手術も受けるつもりだそうです」と先生が説明する。
 
「へー。でも女装男子には見えないよね」と飯田先生。
「というか、今学生服を着ていても男装女子にしか見えないのですが」と応援団長。
 

翌週の月曜日、私とカオリは体育館のステージの上にチアの衣装を着けて並ぶ。そして、ダンスアクションやタンブリング(後転や側転などの技)を見せたり、カオリが私の肩に乗って上で空中宙返りをするスタンツをしたりして模範演技を披露した上で
 
「私たちと一緒にチアリーダーやりたい人いませんか? 1年生でも2年生の先輩でも歓迎です」と言った。(N高は特別扱いの野球部とバドミントン部を除いてクラブ活動は2年生まで)
 
その結果、昼休みに全校から経験者を中心に10人ほどの女子が集まり、そのメンバーで「応援団・チアリーダー部」が誕生した。取り敢えず5月の高体連までは週3回昼休みに練習することにする。部長は2年生の人にお願いした。
 
応援団同様の学校の公的な活動ということで、チアのユニフォームは学校の予算で揃えてくれた。また実際の応援ではチアの衣装での応援のほか、学生服を着て白い手袋を付けて応援団と一緒にアクションしたりもしていた。このため応援団との合同練習も月に1度していた。(学生服は応援団員たちが中学生の時に着ていて小さくなったのを分けてくれた)
 

この時期、私はほとんど女子制服で学校に通っていたのだが、この応援団の活動に参加するという理由で、しばしば校内で学生服も着ていた。
 
私は学生服と女子制服のチェンジは女子トイレでしていたのだが、ある日、私が学生服のまま女子トイレに入って行くと、一瞬ギョッとしたような空気。入ってきたのが私だと分かると、それはホッとした空気に変わるのであるが、その時、個室に入るのに列に並んでいた水鈴が
 
「あ・の・ねー。ハルが女の子というのは分かってはいるけど、その格好でここに入ってくるの勘弁してくれないかなあ」
と言う。
 
「えー?でも他に着替える場所無いし」
と言うと、恵令奈が
「やはり、あれだよね。こんな格好でここに来たというのは、女子トイレ覗き罪で逮捕だ」
と言う。
「え?ハルを逮捕するの?」
と楽しそうに反応した純子とふたりで私を押さえつける。
「ねーねー。ノンノ、ハルを縛り付けておくから、椅子か何か持って来て」
「OK」
 
などというやりとりで、私は学生服のまま、女子トイレの中で椅子に縛り付けられてしまった。
 
「えーん。ほどいてよー」
「しばらくそれで反省してなさい」
 
水鈴にしても私を縛り付けた恵令奈や純子・信枝などにしてもそのまま出て行ってしまう。その後入ってきた子たちは「ハルちゃん、ここで学生服着て、何やってんの?」などとは言うが縄をほどいてはくれない。そのうち令子が来たので
 
「ねー、令子、この縄をほどいて」と言うものの
「ああ、水鈴から聞いたよ。女子トイレ不法侵入で逮捕されたんだってね」
などと言って、やはり放置である。
 
「これ結構痛いんだよ。縄が肌に食い込んで」
「そのくらいきつく縛らないと外れちゃうでしょ?」
「もう」
 
「あんまり男子の格好してたら、罰として、おちんちんくっつけちゃうぞ」
「既に付いてるけど・・・」
「じゃ、もう1本付けて2本にする」
「2本あったら、どっちからおしっこすればいいんだろ??」
「おちんちん同士でじゃんけんだね」
「じゃんけん出来るの〜?」
 
「縮んでる状態がグー、伸びてきた所がパー、反り返った所がチョキ」
「私のおちんちんは大きくなったりしないもん」
「役に立たないおちんちんだね」
「そのことは知ってるくせに」
「役に立たないおちんちんは、さっさと切り落としちゃいなよ」
 
そういう訳で、結局私は1時間ほど、縛られていた。
 

私はこの時、「男子制服で女子トイレに縛られて放置」されたのだが、なぜか男子達には「私が男子制服を着ていたので、無理矢理女子制服に着替えさせられて女子トイレに放置」されたと伝わっていた。どこかで情報が混乱したようであったが、女子達はその件については特にわざわざ訂正しなかった。
 
なお、私の着替え場所については、水鈴と令子が一緒に担任の所に行き、教室内にロッカーのようなものがあると助かると提案。すると、近くに居た技術の原田先生が「ああ、そのくらい僕が作ってあげるよ」と言い。その辺に転がっていた材料を使って、1年R組の教室内に1人用個室着替えロッカーを設置してくれた。出入口のカーテンは私が自宅から余ってるカーテンを持って来て取り付けた。
 
おかげで、私は朝から父がずっといたりして女子制服で出てこれず学生服で登校してきた日もすぐにそこで女子制服にチェンジできて助かったし、私以外でも、運動部に入っている子が、更衣室までわざわざ行かなくても、そこで着替えられるというので、好評だった。
 

4月の中旬。私は7時限目が終わって、水鈴たちと一緒に勉強会をした後、町に出て、制服のままスーパーで晩御飯の買物をしていた。その時、バッタリと懐かしい人物に出会った。
 
「吉岡さん!」
「森平先生!」
 
それは小学6年の時の担任の先生であった。
 
「先生も夕食のお買物ですか?」
「うん。吉岡さんも?」
「ええ。今日は夕御飯、私の当番だから」
「へー! あ、そうだ。お母さんと1日交替で晩御飯を作るって言ってたわね」
「ええ。その交代制がずっと続いてます」
「偉いなあ!」
 
私と先生は、お肉売場で、今日の晩御飯のメニューを考えながら、安いお肉を物色していた。
 
「その制服はN高校か。今年新入生?」
「はい」
「普通科?」
「いえ、理数科です」
「すごっ! エリートなんだ!」
「そんなこと無いと思いますが。本当に頭の良い子は広島の高校に行っちゃうもん」
「ああ。それはあるかもね」
 
「でも、ちゃんと女の子してるんだね。ずっともう女子の制服で通ってるの?」
「ええ。一応、学校からは、男子の制服でも女子の制服でも、好きな方を着ていいよ、と言われているのですが、今の所女子制服率100%です」
「おお、すごい」
 
「私の学籍簿が小6の時、女子になってたでしょ」
「うん」
「それを引き継がれて中学でもずっと女子のままだったんですよね」
「へー」
「それで中学から高校へもその書類がリレーされてるから、私の書類は最初から女子だったんです」
「なるほど」
「だから、私がスムーズに女子高生になれたのは、森平先生のお陰ですよ」
「ふふふ」
「普通なら、学籍簿上の性別を修正するって、けっこう大変らしいです」
 
「私ね、何度かあなたの性別を修正すべきかって思ったことあったんだけどね」
「はい」
「だって、あなたって女の子なんだもん。女の子なのに、男だなんて嘘は書けないと思って」
「・・・」
「それで、ずっと女子のままにしといたのよ」
「ありがとうございます」
 
「書類って不思議よね」
「はい?」
「きちんと訂正しようとすると、あちこちに許可取ったり、規則だなんだの制約も受けて、ほんとに大変なのに」
「そうですね」
「間違いってものは、全ての理由を超越して存在する」
 
「面白いですね」
「ふふ」
「そういえば、私のパスポートも性別が F なんですよ」
「ほほお」
「それもどうも係の人の間違いみたいで」
「あはは、それは運が良いね。だって性別 F のパスポートが欲しいMTFの人って、日本中にたくさんいると思うのに、その人たちがどうしても得られないものをあなたは『間違い』で持ってるなんて」
 
「ほんと、そう思います。この先、行使するつもりは無くて、ただ持っているだけの《お宝》ですけど」
先生は頷く。
 
「吉岡さんって、たぶん凄く運の強い子だよ」
「えへへ」
「だからね。たぶん、あなたちゃんと男の人と結婚できるし、子供もできると思うよ」
「子供もですか!?」
 
「世の中には『間違い』以外にも『偶然』とか『幸運』というのもあるのよ」
 
森平先生は楽しそうに私に言った。
 
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【桜色の日々・高校進学編】(2)