【ロバの皮】(1)

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昔、青の国に、シャルルという王様とジャンヌというお妃様が居ました。お妃様はこの世で最も美しいのではという美人で、美しい金色の髪の毛の持ち主でした。ふたりの間には母親そっくりの可愛い王子ポール(Paul)が生まれました。ポールは男の子にしておくのがもったいないほど美しい容貌で、母親ゆずりの金色の髪の毛も可愛い子でした。
 
昔は西洋では7歳になるまでは男の子でもスカートを穿くのが一般的でしたが、スカートを穿いたポール王子は姫君にしか見えないので、外国からの訪問客が
 
「シャルル王にはこんなに美しい王女様がおられたのか」
「こんなに美しい姫君がおられたら、将来が楽しみですね」
などと言われていました。
 
いつか訪問してきた赤の国の王様など
「この姫君が大きくなったら、ぜひうちの息子の嫁に」
などと言い、同伴してきていた、ジル王子まで
「君可愛いね。僕のお妃になってよ」
などと言ったりする始末でした。
 
7歳になって“ブリーチング”の儀式をして、スカートを穿くのはやめてズボンを穿くようになりますが、「ポール様にはまだしばらくスカートを穿かせておきたかった」と多くの人が言ったのでした。
 

(**)『ロバの皮』(peau d'Ane / Donkey skin) はペローの童話集に掲載された話で、実際下記の物語を読んでみてもらえば分かる通り、シンデレラの類話のひとつである。但し近親相姦という重たいテーマが含まれている。
 

ポール王子が10歳の夏、母のジャンヌ王妃が亡くなってしまいました。
 
お妃様は今際の際(いまわのきわ)で王様に言いました。
 
「あなたのことを愛していました。でも私はもうあなたの妻として仕えることができません。どうか私が死んだ後は、よき女性を伴にして国を盛り立てていってください」
 
「そんなことを言わないでくれ。お前ほど美しく、そして徳と教養のある女性はこの世にはいない。だから死なないでくれ」
 
「私より美しい女性も賢い女性も、いくらでもいますよ。いい人と結婚してね」
とお妃様は微笑んで、王様の腕の中で息絶えてしまいました。
 

本当に人気のあった王妃だったゆえに、王様も国民も悲しみに沈みました。盛大な葬儀が行われましたが、その後王様はあまりに悲しく、国王としての仕事が滞りがちになってしまいます。
 
その状態が1年近く続いたので、とうとう大臣たちが苦言を呈します。
 
「どうか王様のお務めを果たして下さい。お妃様が亡くなったのは悲しいことですが、お仕事をして頂かないと国民が困ります」
 
「頼む。もうしばらくは喪に服させてくれ。10年くらい経ったらまた頑張るから」
「10年も休まれては困ります!」
 
それで大臣たちは話し合い、王様に再婚を勧めることにしました。
 
「私は再婚などしないぞ」
 
「お妃様は、王様に再婚してくださいと遺言なさったのでは?」
 
「自分より美しい者もいるから、そういう人と結婚してと言ったのだ。しかし、ジャンヌより美しい者などいるわけがない」
 
それで大臣たちは王妃が亡くなって1年と3ヶ月経った秋の日、国中の全ての13歳以上の娘を呼んでお城の大広間でパーティーを開きました。貴族の娘だけでなく、庶民の娘、貧乏でパーティーで着るような服がない者にまでドレスを入口でプレゼントして入場させます。
 
それでパーティーにはたくさんの娘たちがやってきました。
 

もっとも王様自身は沈んだ様子で玉座に座ったままぼーっとしてあらぬ方向を見ていたりするので、パーティーでは11歳になったばかりのポール王子が会場の大広間を歩き回って様々な招待客とお話をしていました。ポールは「この人、可愛い!」と思った娘がいたら、手を引いて父王の所に連れて行き、挨拶をさせたりしたのですが、王様は興味が無いようでした。
 
ポールと同様に大臣や廷臣、侍従や侍女たちもめぼしい娘を見付けると王様の所に連れて行くのですが、やはり王様はチラッと見ただけで、また沈んだ様子になってしまいます。
 
ポールも大臣たちもたくさん大広間を歩き回ったので、その内疲れてしまいました。パーティーもそろそろお開きの時間かと思う頃、歩き疲れたポールは大広間の隅のテーブルの所で座り込み、頬杖を突いていました。
 
すると突然声を掛けられます。
 
「ねえ、君美人だね。ちょっと王様に挨拶してこない?」
 
見ると若い侍女のようです。王宮に入りたてなのでしょうか?
 
「えっと、私は・・・」
とポールは自分は王子だと言おうとしたのですが、侍女は
「いいから、いいから」
とポールの手を取り、強引に王様の所に連れて行きます。
 
「でも君、なんでズボンなんか穿いてるの?スカート穿けばいいのに」
「スカート!?」
 
などと言っている内に王様の前に連れて来られます。
 
「王様、可愛い美人がいましたよ」
と侍女が言うのですが、王様はポールを見てポカーンとしています。
 
「お前、何やってんの?」
「いや、説明する間もなく連れてこられちゃって」
「あれ?王様、この娘をご存知でしたか?」
「そいつは娘ではなくて、私の息子なのだが」
 
「え?嘘!?」
と侍女は声をあげました。
 
近くに居た侍医が笑って言いました。
 
「確かに亡きジャンヌ様より美しい御方といえば、ポール王子くらいかも知れませんな」
 
「さすがにボクは父の奥さんにはなれない」
とポール。
 
「ごめんなさい!女の人とばかり思い込んでしまいました!」
 
と若い侍女が謝りましたが、王様も王子も「よいよい」と言って笑って許してあげました。彼女はコレットという名前で、田舎の町で占い師をしていた所を、将軍が目に留め、ほんの3日前にお城にあがったばかりということでした。
 
「へー。君、占いができるの?父の奥さんが見つかるかどうか占ってみてよ」
とポールは言いました。コレットは何かのカードのようなものを取り出すと1枚引きました。それは聖杯を持った若者が描かれたカードだったのですが、それを見てコレットは「見つかりますけど・・・」と言って、そのあと言葉を濁しました。
 
「見つかるけど何かあるの?」
「いえ、いづれ時が来たらお話しします」
とコレットは言いました。
「ふーん。でも見つかるならいいや」
と王子は言いました。
 
しかし結局、その日のパーティーでは王様のお妃候補になるような娘は出て来なかったのです。
 

大臣たちは話し合いました。
 
「娘では若すぎるのでは?」
「夫を亡くした女たちも集めてみよう。その方が王様と年齢の釣り合いも取れてよいかも知れない」
 
「ポール王子がおられるのだから、世継を産んでもらう必要は無い。年増の女でも構わないかも」
 
それで大臣たちは3ヶ月後の冬の日に、今度は国中の13歳以上40歳未満の女で、夫も子供も居ない者なら未婚・離別・死別によらず、招待するということにして、今度は前よりも広いお城の中庭で、パーティーを開きました。前回同様、パーティーで着るような服がない者にはドレスをプレゼントして入場させます。
 
それでパーティーにはたくさんの娘たち・寡婦たちがやってきました。中には寡婦とはいっても、物凄い美人も居て「もし王様のお目に留まらなかったら自分の後添えになってくれ」と妻を亡くした貴族から所望される女までありました。
 

しかし王様自身は前回同様、沈んだ様子で玉座に座ったままぼーっとしてあらぬ方向を見ていたりするので、パーティーでは王子、大臣・侍従・侍女たち、廷臣の奥方たちも会場の中庭を歩き回り、美人の女や賢そうな女がいたら、王様の所に連れて行き、挨拶をさせたりしました。しかし王様はやはり興味が無いようでした。
 
ポールも大臣や奥方たちも侍従や侍女たちも、たくさん中庭を歩き回ったので、その内疲れてしまいました。パーティーもそろそろお開きの時間かと思う頃、歩き疲れたポールは中庭の隅の池のほとりにあるテーブルの所で座り込み、頬杖を突いていました。
 
すると突然声を掛けられます。
 
「ねえ、あなた美人ね。ちょっと王様に挨拶してこない?」
 
見るとどこかの奥方のようです。あまり王宮には来たことがないのかも知れません。
 
「えっと、私は・・・」
とポールは自分は王子だと言おうとしたのですが、奥方は
「いいから、いいから」
とポールの手を取り、強引に王様の所に連れて行きます。
 
「でもあなた、なんでズボンなんか穿いてるの?スカート穿けばいいのに」
「スカートは穿きません」
「あら、足に怪我でもしてるの?」
 
などと言っている内に王様の前に連れて来られます。
 
「王様、美人の娘がいましたよ。ちょっと若すぎるかも知れませんが」
と奥方が言うのですが、王様はポールを見て呆れています。
 
「お前、また何やってんの?」
「いや、説明する間もなく連れてこられちゃって」
「あれ?王様、この娘をご存知でしたか?」
「そいつは娘ではなくて、私の息子なのだが」
 
「え?嘘!?」
と奥方は声をあげました。
 
近くに居た侍医が笑って言いました。
 
「王子は前回も連れてこられましたな。ジャンヌ様亡き今、ひょっとするとポール王子がこの国でいちばんの美人かも知れません。男を女に変えることもできますが、王子様、女になって王様と結婚しますか?」
 
「女になるのも父と結婚するのも嫌です」
とポールは困ったように言います。
 
「ごめんなさい!女の子とばかり思い込んでしまいました!でも王子様、凄く美しいから、親子の結婚はありえないにしても、女の人になってもいいと思いますよ。きっと結婚して欲しいという殿方がたくさん来ますよ」
 
と奥方は言いました。奥方は将軍の奥さんだったのですが、王宮に来るのは初めてだったとのことでした。
 
「それもよいかも知れん。お前、女に変えてもらって王女になるか?そしてどこぞの若君と結婚してお前が世継を産むか?」
と王様が笑って言います。
 
「勘弁してくださいよ」
とポールは言いましたが、今言った王様の言葉を近くにいたコレットがマジメな顔をして聞き入っていました。
 
しかし結局、この日のパーティーでも王様のお妃候補になるような娘も寡婦も出て来なかったのです。
 

大臣たちは話し合いました。
 
「なかなかいい女が見つからない」
「王様の所に連れてこられた者の中でいちばんの美人はポール王子だったらしい」
「さすがに父と息子では結婚できない」
 
「でも古(いにしえ)には王が娘と結婚した例もあるらしい」
「そんなのありか?」
 
「昔は女系社会だったから、王家の娘の夫でないと王になれなかったらしい。だから妻が先に死んでしまうと、娘と結婚しなかったら王の地位を失う」
「なるほどー」
「どっちみちその王が娘より先に死ぬだろうから、そしたら娘は次に王にしたい男と再婚する」
「面白い」
 
「結局、血統は女系で維持しつつ、最も有能な男を王にするという方式なんだよ」
「それは合理的かも知れんぞ」
 
「でも今は男系相続だから、逆に王と息子の結婚もありかも」
「どうやって世継を作るんだ?」
 
「でも我が国の場合は既に世継はおられるから、そんな無茶する必要はない」
「いや世継がおられるという前提であれば、ひょっとすると男の子でもいいかも」
「確かに妻にしたいくらい美人の男の子というのはいるぞ」
 
「いっそ、そういう者を集めてみるか?」
「夜の営みはどうするんだ?」
「それも巧い子がいるらしい」
「マジか?」
「女とするより気持ちいいらしいぞ」
「うーん。体験してみたいような、してみたくないような」
 
「それに男を女に変えることもできるらしいから、それで女になってもらう手もある」
「そんなことができるのなら、それでもいいな」
「要は王に元気になってもらえばよい」
 
それで大臣たちは3ヶ月後の春の日、今度は国中の13歳以上で“男女を問わず”女物のドレスを着たら女に見える者で、夫も子供も居ない者なら誰でも招待するということにして、今度は前よりも広いお城近くの公園でパーティーを開きました。前回同様、パーティーで着るような服がない者にはドレスをプレゼントして入場させますし、そもそも女物の服を持っていないという男の子たちにもドレスを着せ、必要ならウィッグなどもかぶせて中に入れます。
 
すると本当に“美人”になってしまう男の子もいて、「君、もし王様の目に留まらなかったら、男でもいいから僕と結婚して」と若い貴族などから望まれる子もあったようです。
 

しかし王様自身は前回同様、沈んだ様子で玉座に座ったままぼーっとしてあらぬ方向を見ていたりするので、パーティーでは王子のポール、大臣・侍従・侍女たち、大臣の奥方たち、スタッフを買って出た若い貴族たちも会場の中庭を歩き回り、美人がいたら、男女を問わず、王様の所に連れて行き、挨拶をさせたりしました。しかし王様はやはり興味が無いようでした。
 
ポールも大臣や奥方たちも侍従や侍女たちも若い貴族たちも、たくさん公園の中を歩き回ったので、その内疲れてしまいました。パーティーもそろそろお開きの時間かと思う頃、歩き疲れたポールは公園の隅の川のほとりに置かれたテーブルの所で座り込み、頬杖を突いていました。
 
すると突然声を掛けられます。若い貴族です。
 
「ねえ、君美人だね。でもズボン穿いてるけど、もしかして男の子?」
「えっと私は男ですが」
「だったら、きれいなドレスに着換えてごらんよ。ほら、これ可愛いよ」
「ちょっ、ちょっと待って」
とポールが抵抗するも、貴族はお付きの者に持たせていた衣裳ケースを開き、強引にポールに豪華なドレスを着せてしまいました。顔はきれいにお化粧もして、髪には銀のティアラなども付けます。それで王様の所に連れて行きました。
 
「王様、美人の子がいましたよ。見てみてください」
と貴族が言うので、王様はチラッと見たのですが、金色の髪に美しい容貌の子なので
 
「おぉ!なんと美しい」
と声をあげてしまいました。
 
「亡きジャンヌ様に似た感じですね。もしかして遠縁の娘とか?」
と王様の傍に居る侍従が言います。
 
「実は男の子らしいですけど、これだけ可愛かったら男でも構わないでしょ?」
と連れてきた貴族。
 
「そんなの些細なことだよ。男を女に変えることもできるらしいから、何なら娘になってもらってもいいし」
と侍従。
 
「王様、この子が女の子だったら、結婚してもいいでしょう?」
と別の侍従が言います。
 
「こんな美人なら、亡き妻との約束を違(たが)えないかも知れない」
と王様は言いました。
 

王様がどうも誰かに目を留めたようだというので大臣たちも集まってきます。そして口々に
 
「おお、なんと美しい!」
「亡きお妃様にも似ている」
「金色の髪が素晴らしい」
「こんな美しい娘がいたとは」
などと言います。
 
「ただ、男の子らしいです」
と侍従が言う。
 
「そんなの全然問題無い」
「必要なら女になってもらってもいいし」
「おっぱいが膨らむ薬とかもあるという話でしたね」
「ええ。その薬を飲んでいれば半年ほどで胸も大きくなります」
と侍医が答えます。
 
「王様、この子と結婚しますか?」
と大臣が訊いたのに対して
 
「うん。結婚してもいい」
と王様が答えます。
 
「よし、王様の結婚が決まったぞ!」
「楽隊、音楽を鳴らせ」
 
それで物凄い騒ぎになってしまい、ポールは自分は王子だというのを言う間もなかったのでした。
 

お妃様選びのパーティーがお妃様決定のお祝いパーティーになってしまい、夜遅くまで公園は賑やかな祝賀ムードになりました。
 
夜中の2時すぎにやっと閉会が宣言されますが、それでも騒ぎ足りない人たちが明け方まで騒いでいました。
 
ポールは万が一にも逃げられてはというので、まるで罪人ででもあるかのように拘束されて、王宮の一室に閉じ込められてしまいました。王子も朝になって落ち着いたらちゃんと説明しようと思い、取り敢えず部屋に用意されているベッドで寝ます。
 
朝目覚めると豪華な食事が運び込まれてきます。
 
「あの、王様か大臣に伝えて欲しいんだけど」
とポールが侍女に言うのですが
 
「大丈夫ですよ。何も心配せずに王様と結婚すればいいんですよ」
と、リリアと名乗った侍女が言いました。
 
「結婚式は今から半年後、ジャンヌ様が亡くなって2年と3ヶ月経った日に行いますし、それまでには女の子になってもらいますから」
とソフィと名乗った侍女も言います。
 
「それ困るよ〜。ボクは女の子になりたくないし」
「心配しなくてもいいですよ。女の子もよいものですよ」
「あなた凄い美人だもん。男の子にしておくの、もったいないもん」
 
「ボク、王子なんだけど」
「はいはい。あなたは王子様のように美しいですね。でも王子ではなく王妃になってもらいますから」
 
どうもジョークだと思われているようです。
 
「あ、そうそう。このお薬飲んでくださいということです」
と言って、リリアから、何かの薬と水を渡されたので、ポールは何の薬だろう?と思いながらも、取り敢えずその薬を飲み、水で流し込みました。
 

お昼前に侍女たちが多数来て、ポールを着換えさせます。ポールもどうも侍女たちに言ってもダメなようだが、その内、王や大臣に会える機会はあるだろうからその時に自分が王子であることを言おうと思いました。
 
「あら、あなた男の下着を着けているの?」
「ボク男ですから」
「でも王妃になっていただきますから、これからは女の下着を着けて下さいね」
といって、着せられる。
 
「このプレ(**)、前の開きが無いんだけど」
 
(**)ブレ(braie)は古代から中世頃まで使用されていたパンツで、腰と太股で留める。英語では braies ブライズ。男性用は前に開き(コックピース)がある。
 
「女は前の開きは使いようがないので」
「だったら、どうやっておしっこするの?」
「おしっこする時は腰紐を外して下着を下げて、便座に座ってして下さい」
「おしっこだけでも座らないとダメなの?」
「女はふつうにそうしてますよ」
「女の子って不便だね!」
 
ポールは女物のブレを穿かされた後、胸布(**)を巻かれます。
 
「なんでこんな所に布を巻くの?」
「女は胸が膨らんでいるので支える必要がありますので」
「ボクは胸は膨らんでないけど」
「女になればちゃんと胸は大きくなりますよ」
 
(**)胸布は古代ローマでは strophium と呼ばれ、女性が運動をする時などには着けていたことが当時の絵画から知られている。中世のお城からレースの装飾を施されたブラジャーも発見されており、西洋の女性は現代のブラジャーが発明される前から、何らかの形の胸支えを使用していたようである。
 

その後、物凄く丈の長いシュミーズ(chemise)を着せられました。当時のブレもシュミーズも男女ともに着ける下着ですが、男性用のシュミーズが腰の下程度までしかないのに対して、女性用は足首付近まであります。しかしこの日は床についてなお余っているような長いものを着せられました。
 
「これ歩くと引きずっちゃうけど」
「これは公式のものですから。普段は足首くらいまでのものですよ」
 
「公式のって、誰かと会うの?」
「はい。王様と会って頂きます」
 
良かった!父にちゃんと言えば分かってもらえるだろう、とポールは思いました。
 
ポールはこの後、豪華なドレスを着せられます。このドレスも裾が床につきます。そして髪も女性らしく結われ、髪飾りを付けられます。そして美しくお化粧されたのでした。鏡を見て王子自身が「この子と結婚したい!」と思うほど美しくなってしまいました。
 

着替えとお化粧は2時間ほども掛かりました。
 
そして侍女に連れられ、裾を持つ雑用係の娘も連れて、部屋を出ます。
 
王様の所に行くのかと思ったら、途中で大臣の部屋に寄りました。
 
「娘、そなた名前は?」
「娘というか、私、男なんですが。名前はポール(Paul)です」
「ポールか。ではこれからは女になってもらうからポリーヌ(Pauline)と名乗るがよい」
 
「あのぉ、大臣殿、私はポール王子なのですけど」
 
「おお、確かに王子と同じ名前だな。そなたは美しい王子と並んでも見劣りしない美しさだよ。ジャンヌ様が『自分より美しい人を次の王妃に』と言ったわけが分かる。そのくらいの美人でないと王子と並んだ時に、男の王子のほうが美しいではないか、いっそ王子様が王様と結婚すればよかったのに、などと国民に言われてしまう」
 
どうも大臣はポールが王子であることに気付かないようです。ポールは困ったなと思いました。
 
「そなたの父親は?どこかの貴族か?」
「えっとこの国の王、シャルルですが」
「まあ国民はみな王様の子供のようなものだ。あまり名高い血筋ではないのかな?この際、それでもよい」
「えっと」
 
「ちなみに王様には既に世継のポール様がおられるから、ポリーヌ、そなたは子供を産む必要もないから気楽に暮らせばよい。後は儀式をしたり外国からのお客様の接待をしたりだな」
 
「さすがに子供を産む自身はないです」
 
「王様の夜の営みにだけ応じればよい。よく分からなければ、されるに任せればよいから」
 
“夜の営み”って何するの〜〜?
 
(まだ11歳のポールはその付近のことがよく分かっていない)
 

大臣と2時間近く話し、ポール、あらためポリーヌは教養的なことを調べられました。大臣はポリーヌがちゃんと字の読め書きができて、ラテン語もできるし、お題を与えるとそれに沿った詩を書くこともでき、フルート(**)も吹ければクラヴサン(**)も弾けるのを知り「君は素晴らしく教養のある女性だ!ジャンヌ様にも決して劣らない」と驚いていました。
 
(**)フルート(flute)というのは現代でいうところのリコーダー(flute a bec)に近い縦笛である。後に普及した現代のフルートに近いものは flute traversiere (フルート・トラヴェルシエール−“横型フルート”という意味−、イタリア語ではフラウト・トラヴェルソ flauto traverso)と呼ばれた。
 
(**)クラヴサン(clavecin) はドイツ語ではチェンバロ(cembalo), 英語ではハープシコード(harpsichord). 日本ではドイツ語や英語で呼ばれることが多い。
 

そしてやっと、王様との会見になります。これは昼食を兼ねて行われました。
 
「王様、こちらが昨夜のパーティーで選ばれたポリーヌにございます」
と大臣が紹介します。
 
「おお、ポリーヌと申すか。本当に美しい姫だ。どうか私と一緒にこの国を盛り立てていってくれ」
と王様は上機嫌です。正直ポリーヌ(ポール)はこんな明るい父を見たのは久しぶりでした。
 
「この者はまだ11歳ですので、12歳の誕生日を迎えるのを待ち、更に少し置いて秋頃にでも結婚式を挙げたいと考えております」
「12歳か。本当は成人の年齢に1つ足りないがよいだろう。それに半年経てば、ジャンヌが亡くなってから2年以上経過するな」
「はい、そのくらいの期間を置くのがよいかと」
 
「ポリーヌ殿は、字も読み書きできますし、ラテン語もできて、フルートもクラヴサンも上手なのです。歌もうまいです」
 
「それはぜひ聴かせてほしい」
と王様が言うので、ポリーヌはやれやれと思い、グレゴリオ聖歌のひとつを歌唱します。伸びのあるボーイソプラノが美しく、王様は「ブラーヴァ!」と大きく叫んで拍手をし、ポリーヌの歌を褒め称えました。
 
「ところでそなたの父上は、どちらの公か?」
と王様が訊くので、ポリーヌは答えました。
 
「私はこんなドレスとか脱いで普通の男の服に戻りたいのですが。父上、私が分かりませんか?私はシャルル国王の王子、ポールなのですけど」
 
「ああ、そなたは本当は男だということだったな。そんなのは些細なことだ。ちゃんと女になれるということだから、女になって私の王妃になって欲しい。でもそなたはうちの王子のポールにも似ている。やはりジャンヌの遠縁ということはないか?」
 
「遠縁も何も、ジャンヌ様の息子ですが」
とポリーヌは言う。
 
「ああ、やはりジャンヌの姪か何かなのかな」
と王様。
 
大臣が
「ポリーヌの父君はどうも普通の庶民のようなのですが、ひょっとしたら、ジャンヌ様の血筋なのかも知れないという気はします」
という。
 
「うん。そうかも知れんな。だったら、表向きにはジャンヌの又従妹の娘ということにしておけばよい」
 
「はい、そういたしましょう」
 
ということで、ポールは父王に自分がポール王子本人であることを主張してみたものの、全く話が通じなかったのです。
 

王様との謁見が終わった後、ポリーヌは昨夜泊まった部屋とは比べようもないほど広い部屋に戻りました。今日からこの部屋がポリーヌの部屋だと言われ、多数の侍女たちがかしずいています。夕食も豪華なものが運ばれてきたので、ポリーヌは、さてどうしたものかと悩みながらそれを頂きました。そして夕食後には、また「この薬を飲んで下さい」と言われたものを飲んで水で流し込みました。
 
自分に付いた侍女の中に、最初の妃選びパーティーで自分を女の子と間違ったコレットがいるのに気付き、ポリーヌは彼女を呼び止め、自分はポール王子なのだけど、と言ってみました。
 
「一目で分かりましたけど、面白いからいいではないですか」
「まさかボクに、父君と結婚しろっていうの?」
「太古には王様が自分の息子と結婚した例もあるそうですよ」
「ほんとに!?」
 
「いよいよとなったら、私が手引きしますので、男の姿に戻って王様に会いにいきましょう。ちゃんと男の服も用意しておきますから。ポール様が女の姿で自分は王子だと言っても誰も信じませんよ。だってポール様って、お化粧しなくても女の子にしか見えないんだもの」
 
「分かった。その時は頼む」
 
「だからしばらく“女の子生活”を楽しまれるとよいですよ」
と言ってコレットは笑っていました。
 

ポリーヌは結局そのまま半年後の結婚式に向けて「お妃教育」を受けながら毎日昼食は王様と一緒に取るという生活を続けます。ポリーヌは何度か王様に自分は王子のポールだと訴えたのですが、コレットの言ったように、王様は冗談だと思っているようで、とりあってくれませんでした。
 
その間に、何度か外国の王様や王子様の訪問、また地方領主の結婚式などがあり、ポリーヌはまだ王様の妻にはなっていないものの、フィアンセ(fiancee **) として、王様と一緒にその応対をしたり、結婚式に出席したりしましたが、ポリーヌがそつなく優雅に振る舞うので、王様も廷臣たちも「ポリーヌ様は亡きジャンヌ様にも劣らぬ素晴らしい御方だ」とか「この御方こそ、新しい王妃にふさわしい」と評価が日々高まるのでした。
 
(**)婚約者は男性がfiance, 女性がfiancee だが、どちらも同音でフィアンセと発音する。「彼のフィアンセ」は普通は女性なので所有格女性形が使用されて"sa fiancee", 「彼女のフィアンセ」は普通は男性なので所有格男性形が使用されて "son fiance" となる。英語だと「彼のフィアンセ」が his fiance, 「彼女のフィアンセ」が her fiance となるので、英語とフランス語では男女が逆転する形になる。英語では本人の性別に合わせて his/her が使用されるが、フランス語では相手の性別に合わせて son/sa が使用される。
 

ポリーヌも最初は女の服を着て、女のように振る舞うのが恥ずかしかったものの、次第に慣れてきて、ふつうに女言葉が出るようになり、また日常生活も普通に女として送るようになってしまいました。コレットが丁寧に教えてくれたこともあり、お化粧もすっかり上手になり、2ヶ月もした頃には、自分できれいにお化粧できるようになりました。耳にピアスの穴も開けてもらったので(痛かった)、ダイヤやルビーに真珠のピアスもするようになり、王様が「可愛いよ」と言ってくれて少し照れたりしました。
 
トイレも最初はいちいちプレを脱ぐのが面倒に思えたものの、1ヶ月もしないうちにそれがふつうに思えるようになりました。
 
「こんなに女としての生活に慣れてしまったら、自分は男に戻れるだろうか」
と心配になるほどでした。
 
胸布を巻くのも最初の頃はすごく変な感じだったのですが、慣れてしまうと逆に胸布を巻かないのが不安に感じるようになりました。
 
そしてその胸布を巻いているせいでしょうか。3ヶ月もした頃にはなぜか胸が少し膨らんで来ました。
 
「なんで私、こんなに胸が膨らんできたんだろう?胸布をしているせい?」
とリリアに尋ねると
 
「だって女の人になるんですから、胸は平らでは困りますよね。赤ちゃんができた時に、赤ちゃんがお乳を吸えなくて困りますよ」
と言って笑っていました。
 
ボクが赤ちゃん産むの〜〜?だって大臣は赤ちゃんは産まなくてもいいと言ってたよ!?
 

ポール王子がポリーヌとしての生活を送るようになってから、4ヶ月ほど経った頃、大臣と王様の侍医が難しい顔をしてポリーヌの部屋にやってきて、人払いをしました。
 
「実は困ったことになっている」
と大臣は言いました。
 
「せっかく新しい王妃としてそなたが見つかったのに、実は王子のポール様が行方不明になっているのだ」
 
そりゃ行方不明でしょうね〜。ポールはここに居るんだからとポリーヌは思います。
 
「それでこのままではお世継ぎがなくて困る。そなたには子供は産まなくてもよいと言っていたのに申し訳ないのだが、やはり女になってもらって、王のお世継ぎを産んでくれないか」
 
「そんな無茶です!」
とポリーヌが言いますが
 
「女になるのは、そんなに難しい手術ではないのだよ」
と侍医は言います。
 
「手術!?手術をするんですか?」
「そなたは毎日朝晩、胸を大きくする薬を飲んでくれているから、既に10歳くらいの娘程度には胸が膨らんでいる」
 
「え?毎日飲んでいたのは、おっぱいを大きくする薬だったんですか?」
「言わなかったか?」
「聞いてません!」
 
それ絶対、わざと言わずに飲ませてたのでは?だから、こんなに胸が大きくなってきたのかとポリーヌは納得しました。
 
「あとは、お股の形をちょっと変えて子供を産めるようにするだけなのだよ」
「ちょっと変えるって?」
 
「まあ男にあるが女には無いものを取り払い、女にはあるが男には無いものを作るだけだな」
 
「あるもの?無いもの?」
 
「まあ手術を受けてみれば分かる」
「そんなぁ」
 

「まあそれで明日手術をするから」
「嫌です!私は女になんかなりたくない」
「王様との間に世継を作らなければならないから、君には悪いが女になってもらうしかない」
「女の身体になって最初は戸惑うかも知れないけど、すぐ慣れるから」
 
本当にすぐ慣れてしまいそうで怖い、とポリーヌは思いました。
 
「待って下さい、侍医殿、大臣殿、私は本当にポール王子なんです」
「またそんな冗談を言っている」
 
「この顔じゃ分かりませんよね?今お化粧を落としますから」
 
と言って、ポリーヌは隣の部屋で控えていたコレットを呼びます。彼女に手伝わせて、化粧落としの油を取り、顔に塗って、本当に化粧を落としてしまいました。コレットが布で残っているお白粉などを拭き取ってくれます。それで初めて素顔を侍医と大臣に見せました。
 

「これは何としたことか!」
「そなたが実はポール王子だったのか!」
 
「私、何度も言いましたよ」
「すっかり冗談だと思っていた」
 
「だから私が王子に戻れば、世継問題は解決です」
 
侍医と大臣は顔を見合わせました。
 
「王様とも相談しよう」
「そうしてください!」
 

それで大臣たちはコレットにこのことは誰にも他言しないよう命じ、ポリーヌ、実はポール王子を連れて王様の所に行きます。侍医・大臣・ポリーヌ(ポール)と4人で緊急の話し合いをしました。
 
「お前がポールだったのか!」
「私、最初から言っていたのに。誰も聞いてくれないんだもん」
 
王様は驚いたものの、ポール王子が無事だったことから、泣いて彼を抱きしめました。
 
「良かった。生きててくれて良かった」
 
父に抱きしめられてポールも涙が出ました。
 
「しかしどうします?」
と侍医が尋ねます。
 
「“外国に留学に行っている”ということにしていたポール王子が帰国した、ということにすれば何も問題無い」
と大臣は言います。
 
「でもそしたらポリーヌ様は?」
「ポリーヌ様は予定通り王様と結婚して頂く」
「はぁ!?」
 
「だからポール様は王子様、ポリーヌ様はお妃様、両方を兼任で」
 
「そんなぁ!じゃ、まさか私、やはり父と結婚しなければいけないの?」
と心細そうにポリーヌが言います。
 
「ポリーヌ様が王様と結婚するのであって、ポール様が父君と結婚する訳ではありません」
と大臣が言う。
 
「王様は、ポリーヌ様のことが好きになってしまわれたでしょう?」
「実はそうだ。ジャンヌ亡き後、どうすればいいか分からない日々を送ってしまったが、ポリーヌが来てくれてからは私は元気になった」
 
「この3〜4ヶ月は、王様が以前の賢王に戻ったと国民の評価も高いです。王様、ポリーヌ様と結婚したいでしょう?」
 
「したい!でも息子と結婚する訳にはいかない」
「だから、王様が結婚するのはポール王子ではなく、あくまでパーティーで見いだされた美人のお姫様・ポリーヌ様なのです」
 
「そんなことができるのか?」
 

大臣は計画を説明しました。
 
「ポリーヌ様、当面、昼の間は女の格好でポリーヌ様を演じてください」
「昼?」
「そして夜はポール様になって、何人かの娘と日替わりで夜の営みをしていただきます」
 
「その夜の営みというのがよく分からないのだけど」
「相手をする娘たちに言い含めておきますから大丈夫ですよ。されるままになさってください」
 
それって、王様との夜の営みについて訊いた時も同じこと言われたなとポリーヌは思いました。
 
「それで2人以上の娘が妊娠した所でポリーヌ様には女になる手術を受けていただきます」
 
「やはり女にならないといけないの〜〜?」
 
「王様はポリーヌ様が男でも結婚できますか?」
「できたら女のほうがよい」
「ではやはり女になって頂きましょう」
「そんなぁ!」
 
ボク結局、女になって父と結婚しないといけないの?嫌だよぉ。
 
「ポリーヌ様はもはや国民にはなくてはならない存在なのです。ですから、ポリーヌ様との婚儀が終わったら、儀式などでどうしてもポール様が必要な時だけポール様が出て、ふだんはポリーヌ様として王様のお側に」
と大臣は言う。
 
「夜もなの?」
 
「娘たちと夜の営みをすることで、女の側がどうすればいいのかも分かると思いますので」
と大臣。
 
「ああ、それはちょうどいいですね」
と侍医まで言っている。
 
「最愛の息子ポールがポリーヌとしてわが妻になってくれるのなら、私もポリーヌを末永く愛していけると思う」
などと王様は言っています。
 
ちょっと!それ絶対変だよ!とポリーヌは思いました。
 
「早速今夜からポリーヌ様のお部屋に娘たちを行かせますので」
 

そしてその晩、ポリーヌが大臣の奥方に言われて服を全部脱ぎ、裸でベッドの中で待っていますと、
 
「失礼します」
と言って聞き慣れた声がします。
 
それはコレットでした。
 
「大臣様のご命令で、王子様の愛を頂きます。よろしくお願いします」
 
「あ、うん」
 
それでコレットはその場で服を脱ぐと、裸になってベッドに潜り込んできました。
 
「ポリーヌ様、おっぱいが大きい」
と言って、そのおっぱいを撫でている。
 
「今ボクはポールだよ」
「はいはい。私がいちばんポリーヌ様に目を掛けてもらっているから、お前がいちばん最初に行って、夜の営みのことを教えろと言われました」
 
要するに本命とする前の練習台ということのようです。
 
「でも私も初めてだから、よく分からないんです。失敗したらごめんなさいね」
 
と言って、コレットは“夜の営み”を始めたのでした。
 

コレットが“王子のお手付き”となったことから、リリアがコレット付きの侍女とされました。リリアはポリーヌ本人に内容を告げずに毎日おっぱいが大きくなる薬を飲ませていたことを謝りました。
 
「いいよいいよ。命令されてやったことだから。まあおっぱいはあっても邪魔にならないし」
「ポリーヌ様、自分のおっぱいで遊んだりしない?」
「えっと・・・」
「じゃ今夜もこれ飲んでくださいね」
「まだ飲むの〜〜〜?」
 

それからの日々、ポリーヌは昼間は王様の婚約者として、賓客の応対をしたり、王様と一緒に儀式をしたり、兵隊の観閲をしたりしますが、夜になるとドレスも脱ぎ裸になって、ポール王子として、日替わりでやってくる娘たちと、とても気持ちのいいことをすることになりました。
 
ポールと夜を共にしたのは、コレットの他、大臣の娘ソフィ、フィリップ大公の娘バルバラ、将軍の娘ヴィヴィアンで、いづれも秘密を守れる“内輪”の娘たちでした。ソフィもポリーヌの侍女のひとりです。ソフィとバルバラがコレットの示唆した“本命”っぽい気がしましたが、ポールは4人の娘を分け隔てなく愛しました。
 
夜の営みは男は気持ちいいけど、女はどうなんだろう?と少し疑問に思ったので一度コレットに訊いてみたのですが、彼女によると女の側もとても気持ちいいらしいので安心しました。
 
「だからポリーヌ様が本当の女になっても気持ちよくなれると思いますよ」
とコレットは言います。
 
「それは少し気が重い」
「親子だなんて考えなければいいんです。単に男と女ですよ」
「それ、割り切れないよぉ」
 

2ヶ月後、ポリーヌが王様の婚約者として暮らし始めてから6ヶ月が経った秋の日、ポールの所に通ってきていた4人の娘が全員妊娠したことが分かりました。ポリーヌは12歳になっていました。そして胸の方はあれからますます育ち、もう13-14歳の娘くらいの大きさになっていました。
 
そこに侍医がやってきて言いました。
 
「それでは明日、女になる手術を受けて頂きます」
「明日なの〜?」
「成人年齢にはまだ1歳足りませんが、王族の場合はそれより若い年齢での結婚もございますから」
「そうかも知れないけど」
 
「手術の後、3ヶ月ほど身体を休めて、冬至の頃の結婚式ということで」
「3ヶ月も身体を休めるって、もしかしてけっこう回復に時間が掛かるものなの?」
「そうですね。痛みが取れるのに2ヶ月くらいかかりますので」
「そんなに痛いの!?」
 

憂鬱な気分で、その日からは娘たちも来なくなったので、ひとりでベッドに寝て「おちんちんとも今夜でお別れなのか」などと思っていましたら、枕元に美しい女の人が現れました。仙女でしょうか?きれいな花模様のドレスを着ています。ずっと昔会ったことがあるような懐かしい雰囲気がありました。
 
「あなたは王様と結婚したくないのに、結婚させられようとしていますね?」
 
「そうなんです。困っています。ボクはそもそも女になんかなりたくないのに」
 
「でしたら、こうしましょう。王様に言うのです。私と結婚したければ、空のように明るい青色のドレスが欲しいと。そうでなかったら結婚できないと言ってみましょう。そんなドレスは作れる訳がないですから、きっと王様も結婚を諦めるでしょう」
 
「やってみます」
 
それで翌朝、ポリーヌは王様の部屋を訪ね、自分が女になって王様の奥さんになる前に作ってほしいものがあると言ったのです。
 
「空のように青いドレスか。分かった。作ってやるから、それができたら、女になって私の花嫁になれよ」
と王様は言いました。
 
しかし取り敢えず今日の手術は延期になり、この日ポリーヌが男の印を取られてしまうことはなかったのです。
 

昔は衣服に色を付ける染料といえば、黒と赤しかなく、青い染料といえば、東洋で採れる藍とか、アフガニスタンで採れるラピスラズリを粉砕したもの(この場合は顔料)くらいしかなく、青というのは極めて貴重で高価なものだったのです。古くは同じ重さの金や銀と等価交換されたとも言います。
 
それほどの染料は手に入らないだろうとポリーヌは思ったのですが、王様は夜中城の後ろにある家畜小屋に行くと大量の黄金を持って来ました。そしてその黄金を国で一番の仕立屋の所に持ち込み、空のように青い色のドレスを作ってほしいと言ったのです。
 
これは青の染料自体を遠いアジアの地から輸入しなければならなかったので、お金も掛かりますが、日数も掛かりました。しかし3ヶ月後の冬の日、とうとうドレスができあがりました。
 
王様は仕立屋に褒美をはずむと、嬉しそうな顔をしてポリーヌの所にドレスを持って来ました。
 
ポリーヌはまさか父がそんなものを作ってしまうとは思いもよらなかったので、驚きました。だってとってもお金が掛かると思うのに。
 
しかし見ると物凄く美しいドレスです。こんな素敵な青い色は見たことがありません。ポリーヌは一瞬、このドレスを着て王様と結婚式をあげてもいいような気がしました。
 
「では明日女になる手術を受けてもらって、3ヶ月後の春分の頃に結婚を」
 
しかし女になるのは我慢するとしても、本当に自分の父親と結婚していいのか?とポリーヌは疑問を感じました。それでポリーヌは
 
「明日まで待って」
と言いました。
 

憂鬱な気分で、ひとりでベッドに寝てあの付近を触りながら「女の子になったら、どんな感じなのかなあ」などと思い、おちんちんを股の間にはさんで、まるで無いように見えるようにしたりしていましたら、枕元に美しい女の人が現れました。慌てて、おちんちんをしまいます。枕元に居たのは、やはり仙女のようですが、3ヶ月前に来た人より少し年上の感じで銀色のドレスを着ていました。この人にも会ったことがあるような気がしました。
 
「あなたは王様と結婚したくないのに、結婚させられようとしていますね?」
 
「そうなんです。困っています。女になるのは我慢しても父親と結婚するなんて」
 
「でしたら、こうしましょう。王様に言うのです。私と結婚したければ、月のように美しく輝く銀に真珠(**)がちりばめられたドレスが欲しいと。そうでなかったら結婚できないと言ってみましょう。そんなドレスは作れる訳がないですから、きっと王様も結婚を諦めるでしょう」
 
「やってみます」
 
(**)ヨーロッパの場合、真珠は時代によってはダイヤモンドより高価であった時期もある。
 
それで翌朝、ポリーヌは王様の部屋を訪ね、自分が女になって王様の奥さんになる前に作ってほしいものがあると言ったのです。
 
「月のように美しく輝く銀と真珠のドレスか。分かった。作ってやるから、それができたら、女になって私の花嫁になれよ」
と王様は言いました。
 
しかし取り敢えず今日の手術は延期になり、この日ポリーヌが男の印を失うことはなかったのです。
 

王様は夜中城の後ろにある家畜小屋に行くと2日そこに籠もった後、大量の黄金を持って出て来ました。そしてその黄金を国で一番の仕立屋の所に持ち込み、真珠がちりばめられた銀のドレスを作ってほしいと言ったのです。
 
仕立屋は銀はすぐに貴金属商から買うことができたのですが、真珠の調達に少し時間が掛かりました。当時真珠はアジア方面でしか採れない貴重なジュエリーだったのです。仕立屋は貿易商人に頼み、アラビア半島から大量の真珠を輸入し、それが到着するまでの間に頑張ってシルクのドレスに銀箔を貼っていきました。結局2ヶ月ほど経ってから真珠は到着し、それを服にきれいに縫い付けて、ドレスは完成したのです。それはポリーヌが月のドレスをねだってから3ヶ月経った春の日でした。
 
王様は仕立屋に褒美をはずむと、嬉しそうな顔をしてポリーヌの所にドレスを持って来ました。
 
ポリーヌはまさか父がそんなものを作ってしまうとは思いもよらなかったので、驚きました。だって凄まじくお金が掛かると思うのに。
 
しかし見ると物凄く美しいドレスです。こんな素敵に輝くドレスは見たことがありません。ポリーヌは一瞬、このドレスを着て王様と結婚式をあげてもいいような気がしました。
 
「では明日女になる手術を受けてもらって、3ヶ月後の夏至の頃に結婚を」
 
しかしもうここまでわがままを聞いてもらったら、女になってもいいかなあという気はするのですが、やはり自分の父親と結婚するというのに抵抗を感じます。それでポリーヌは
 
「明日まで待って」
と言いました。
 

ゆらぐ心のまま、ひとりでベッドに寝てちんちんにナイフを当て切るまねをしてみます。私って小さい頃から「女の子だったらよかったのに」とか「女の子に変えてもらいません?」とか言われていたし、女の子になってもいいのかもなどと思います。「でも女の子になっても、私ほんとにちゃんとやっていけるかなあ」などと思っていましたら、枕元に美しい女の人が現れました。慌ててナイフとおちんちんをしまいます。
 
枕元の女性はやはり仙女のようですが、3ヶ月前に来た人より更に年上の感じで金色のドレスを着ていました。この人にも会ったことがあるような気がしました。
 
「あなたは王様と結婚したくないのに、結婚させられようとしていますね?」
 
「そうなんです。困っています。女にはなってもいいけど、父親と結婚するなんて」
 
「でしたら、こうしましょう。王様に言うのです。私と結婚したければ、太陽のように美しく輝く黄金にダイヤモンドがちりばめられたドレスが欲しいと。そうでなかったら結婚できないと言ってみましょう。そんなドレスは作れる訳がないですから、きっと王様も結婚を諦めるでしょう」
 
「やってみます」
 
それで翌朝、ポリーヌは王様の部屋を訪ね、自分が女になって王様の奥さんになる前に作ってほしいものがあると言ったのです。
 
「太陽のように美しく輝く黄金とダイヤモンドのドレスか。分かった。作ってやるから、それができたら、女になって私の花嫁になれよ」
と王様は言いました。
 
しかし取り敢えず今日の手術は延期になり、この日ポリーヌが男の印を消されることはなかったのです。
 

王様は夜中城の後ろにある家畜小屋に行くとそこに3日籠もった上で、大量の黄金を持って出て来ました。そしてその黄金を国で一番の仕立屋の所に持ち込み、ダイヤモンドがちりばめられた黄金のドレスを作ってほしいと言ったのです。
 
仕立屋は金は貴金属商に頼んで金箔を作ってもらったのですが、ダイヤモンドの調達に少し時間が掛かりました。当時ダイヤモンドはインドでしか採れない貴重な石でした。仕立屋は貿易商人に頼み、インドから大量のダイヤモンドを輸入し、それが到着するまでの間に頑張ってシルクのドレスに金箔を貼っていきました。結局2ヶ月ほど経ってからダイヤモンドは到着し、それを服にきれいに縫い付けて、ドレスは完成したのです。それはポリーヌが太陽のドレスをねだってから3ヶ月近く経った夏の日、母のジャンヌが亡くなってからあと少しで3年経つという日のことでした。
 
王様は仕立屋に褒美をはずむと、嬉しそうな顔をしてポリーヌの所にドレスを持って来ました。
 
ポリーヌはまさか父がそんなものまで作ってしまうとは思いもよらなかったので、驚きました。だってとんでもなくお金が掛かると思うのに。
 
しかし見ると本当に美しいドレスです。こんな素敵できらびやかなドレスは見たことがありません。ポリーヌはもう、このドレスを着て王様と結婚式をあげてもいいような気がしました。
 
「では明日女になる手術を受けてもらって、3ヶ月後の秋分の頃に結婚を」
 
ポリーヌは答えました。
 
「分かりました。お妃になります。明日手術も受けます」
 
王様は物凄く喜んでいました。
 

ところが翌日の朝、昨年秋に妊娠したコレットが産気づき、玉のような男の子を産み落としました。ポリーヌは自分の血を継ぐ王子が生まれたことに大いに歓喜します。
 
「よくやった」
と言ってポリーヌはコレットにキスしましたが
 
「王子様、今ポリーヌ様になっているのに」
と言いました。ポリーヌは今、ポールでもポリーヌでも構わない気がしました。
 
男だろうと女だろうと、自分は自分だもん。
 
「この子の名前はあなたが付けてください」
とコレットが言うので
「それでは明け方に生まれたから太陽のような子ということでソレイユにしよう」
「まんまですね!」
「だめかな?」
「いえ、ソレイユでいいですよ。立派な名前です」
 
コレット付きの侍女リリアは徹夜でコレットを見ていたようなので、しばらく休むように言い、お昼近くまでコレットと2人で話していましたが、ポリーヌは少しずつ父親になった喜びが湧き上がってきました。
 
続いてお昼頃には大臣の娘ソフィが可愛い女の子を産みました。ポリーヌはこの子にも付いてて手を握ってあげました。名前はシエラ(“空(そら)”cielの女性形)にしました。
 
更に夕方には大公の娘バルバラがこちらも女の子を産みました。この子は月が出る頃に生まれたのでルナ、そして夜になって将軍の娘ヴィヴィアンが今度は男の子を産みました。この子にはエトワール(“星”という意味)という名前をつけました。
 
こうしてポリーヌは1日にして王子2人・王女2人の父となったのです。
 
この騒ぎで、ポリーヌが受けるはずだった女になる手術はうやむやの内に翌日に延期になってしまいました。
 

興奮した気持ちのまま、ひとりでベッドに寝て「とうとう明日には男の子とはサヨナラして、女の子になっちゃう。頑張らなきゃ」などと思っていましたら、枕元に美しい女の人が3人現れました。9ヶ月前に現れた花のドレスの人、6ヶ月前に現れた銀色のドレスの人、3ヶ月前に現れた金色のドレスの人です。やはり3人とも仙女のようです。
 
「あなたはもう女の子になってもいいの?」
「はい。覚悟を決めました。国民にはポリーヌ王妃が必要なのです」
「だったら王様と結婚してもいいの?」
「父親だというのは忘れて結婚することにします」
 
「ところで、王様がどうやってドレスを作る代金を得たと思う?」
「それは不思議に思っていました。そんなにお金が余っている訳でもないのに」
「実は王様はお城の裏の家畜小屋で、密かにロバを飼っているのです」
「ロバ?」
「そのロバは黄金の糞をするのですよ。その黄金で王様はドレスの代金を支払ったのです」
 
「そんなことが・・・」
 
「でもあのロバは本当は邪悪な存在です。王様も知らぬことですが毎夜出歩いては人を喰っています。ジャンヌ様が亡くなったのも、あのロバのせいです。あのロバは王様に黄金を与える代わりにその奥方の寿命を吸い取るのです。ですから、ポリーヌ、あなたが王様と結婚した場合、あなたはロバのせいで早々に命を落とすでしょう」
 
「うそ!?」
 
「だから、こうしましょう。王様に言うのです。私と結婚したければ、お城の裏の家畜小屋で飼っているロバの皮を欲しいと。そうすれば王様はみすみす黄金を産むロバを失いたくないからあなたとの結婚を諦め、あなたは死ななくて済みます」
 
「やってみます」
 
「それから、これもあなたにあげましょう」
と言って、花色のドレスの仙女がポリーヌに指輪を渡しました。
 
「もしあなたに本当に好きな殿方ができて、自分はその人の妻になりたいと思ったら、この指輪を使いなさい」
「この指輪は?」
「それを指に通せばあなたは女になります。痛い手術を受ける必要はありませんよ」
「へー」
と言ってポリーヌはその指輪を填めてみようとしたのですが、入りません。
 
「入らないということは、あなたが本当に好きな殿方はまだ存在しないということ」
 
ポリーヌはその言葉をゆっくりと考えてみました。
 
そして翌朝、ポリーヌは王様の部屋を訪ね、自分が女になって王様の奥さんになる前にほしいものがあると言ったのです。
 
「今度は何が欲しいのだね?」
とさすがに王様は不機嫌そうに言います。ポリーヌは言いました。
 
「王様は城の裏手の家畜小屋でロバを飼っておられますね。そのロバの皮を頂けないでしょうか?」
 
王様はしばらく考えていました。
 
「分かった。1日待ちなさい」
 
それで取り敢えず今日の手術は延期になり、この日ポリーヌが男の印を取ってもらうことはなかったのです。
 

そして夕方、王様はポリーヌの所にやってきました。
 
「ロバを殺したら、何か黒いものが多数逃げて行ったよ。あれは邪悪なものだったに違いない。私は欺されていたのかも知れない」
 
ポリーヌは父に母君が死んだのはそのロバのせいだとはとても言えませんでした。しかし同時に巨万の財産を産みだしてくれるロバを殺しても息子である自分を妻に欲しかったのかと思うと、父王の気持ちが少し怖くなってきました。
 
「取り敢えずこれはその皮だ。お前にやるが、これをどうするのだね?」
「ちょっと使い道があるのです」
 
そしてその夜遅く、ポリーヌはこの皮をかぶり、僅かな路銀だけを持ち、王宮を出たのでした。王妃が亡くなって3年経った夏の日でした。
 

翌朝、侍医が
「姫様、手術の時間です」
と言って、ポリーヌの居室に来ましたが、ポリーヌのベッドはもぬけのからでした。
 
王様は国中におふれを出してポリーヌの行方を捜そうかとも思いましたが、ポリーヌの不在が分かれば国民が動揺するのは避けられません。それで思い留まり、身近な手の者数名に命じて探索させました。しかしポリーヌの行方はようとして知れませんでした。
 
追手となった側近の幾人かが、ロバの皮をかぶった女を見たのですが、まさかそれが国中で最も美しいポリーヌであるとは思いも寄らなかったのです。
 
 
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【ロバの皮】(1)