【みずほのくにのものがたり】よみのくにに行く

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亡くなった伊邪那美命(いざなみのみこと)を伊邪那岐命(いざなぎのみこと)は出雲と伯耆の国境の比婆の山に葬りました。しかし伊邪那岐命はどうしても亡き妻のことを忘れられませんでした。そしてとうとう死者が住むという黄泉(よみ)の国まで行ってみることにしました。
 
伊邪那岐命は自分の首に縄をくくり、娘の菊理姫(くくりひめ,白山神社の御祭神)に引っ張ってもらって仮死状態になります。そして意識を愛しい妻が行ってしまったであろう方向に集中していきますと、やがて暗い闇の中に青い水が見えてきて、そこにやがて島が見えてきました。更に集中度を高めていくと、そこに山があって洞窟が見つかりました。
 
伊邪那岐命は意識をその洞窟の中に集中していきますと、やがてその奥に木でできた扉が見つかりました。その扉を開けると中は真っ暗で何も見えませんでしたが、確かにそこに亡き妻の気配がありました。
 
『愛しい妻よ。まだ国造りは完全に終わってないのだ。戻ってきてくれないものだろうか』
 
すると懐かしい妻の声が聞こえました。
 
『愛しいあなた。こんなところまで追い掛けてきてくださるなんて感激です。でも私はこの黄泉の国の食べ物をもう食べてしまいました。戻れるかどうか黄泉の国の神様に聞いてみます』
 
すると伊邪那美命が誰かと話しあっているような雰囲気が感じられました。その話し合いは随分長く続いているようです。そのうち伊邪那岐命は真っ暗でよく分からないのでちょっとだけ見てみようと思い、髪にさしていた櫛の歯を1本折ってそれに火をともしてみました。すると。。。。
 
■逃げ出す
 
そこには腐れかけて崩れ掛けた一人の女性の遺体が転がっていました。そして頭には大雷、おっばいには火雷、ウエストには黒雷、おまたには析雷、左手には若雷、右手には土雷、左足には鳴雷、右足には伏雷、と8つの雷神が成っている状況でした。伊邪那岐命はやがてそれが亡き妻の遺体であることに気が付くと、突然こわくなって逃げ出してしまいました。
 
伊邪那美命はその崩れた状態の自分の姿を見られたことが恥ずかしくて「待って」といって追い掛け始めました。しかしすぐには追いつけそうにないので、黄泉醜女(よもつしこめ)に追い掛けるよう命じました。なんだか出来の悪いオカマみたいなのが追い掛けてくると恐れた伊邪那岐命はそちらへ櫛を投げつけました。すると櫛はそれを食べると美しくなれるという伝説のヤマブドウの実となり、するとオカマちゃんのような黄泉醜女はそれを拾って食べ始めたので、その間に更に逃げました。
 
伊邪那美命はオカマちゃんはだめかと思うと、自分の身体に成っている8雷神に追い掛けるよう命じました。雷神ですので、伊邪那岐命は持っていた剣を抜き、それを避雷針代わりに振り回して更に逃げました。そしてやがて洞窟の出口の黄泉比良坂(よもつひらざか)の所に大きな岩を置き、向こうからこちらへ来れないようにしました。そこにやっと伊邪那美命本人が追いついてきました。
 
■絶縁
 
「どうして愛するあなたが、わたしにこんな仕打ちをするの?」
 
「すまん。ぼくはもうメゲたんだ。悪いけど別れよう」
 
「私の恥ずかしい所を見た上に、なんてひどい人なの?いいわ。この怨みに私はあなたと一緒に造ったあの国の人を毎日1000人は取り殺してあげるから」
 
「だったらぼくはあの国に毎日1500人の子供が生まれるようにしよう」
 
ということで、お二人は絶縁してしまわれたのでした。
 
この時、伊邪那岐命を仮死状態にしたまま様子を見ておられた菊理姫(くくりひめ)は伊邪那岐命に何かをささやかれました。すると伊邪那岐命はちょっと微笑みました。
 
■みそぎ
 
ここで伊邪那岐命(いざなぎのみこと)は意識を回復して現世に戻りました。そして日向の橘の小門の阿波岐原というところで水に入り、黄泉の国の汚れをおとすことにしました。
 
まず持っていた杖を水に投げ入れると衝立船戸神、帯を投げ入れると道之長乳歯神、カバンを投げ入れると時量師神、上着を投げ入れると和豆良比能宇斯能神、ハカマを投げ入れると道俣神、冠を投げ入れると飽咋之宇斯能神、左の手袋を投げ入れると奥疎神・奥津那芸佐毘古神・奥津甲斐弁羅神、右の手袋を投げ入れると、辺疎神・辺津那芸佐毘古神・辺津甲斐弁羅神が生まれました。
 
それから伊邪那岐命が上流は水流が速すぎる、下流は遅すぎるとおっしゃって中流に入られますと身の穢れから八十禍津日神・大禍津日神が生まれ、それを直そうと神直毘神・大直毘神・伊豆能売が生まれました。
 
そして水中に深く沈んでいる時に底津綿津見神・底筒之男命、少し浮かびあがってきた時に中津綿津見神・中筒之男命、そして水面まで出てきた時に上津綿津見神・上筒之男命、が生まれました。底津綿津見神・中津綿津見神・上津綿津見神は安曇一族の神、底筒之男命・中筒之男命・上筒之男命は住吉の神様です。
 
そして最後に左目を洗った時に天照大神(あまてらすおおみかみ)、右目を洗った時に月読命(つくよみのみこと)、鼻を洗った時に須佐之男命(すさのおのみこと)がお生まれになりました。
 
実は菊理姫はあの時「みそぎをすると最後に素晴らしい子供が三人生まれますよ。それはお父様とお母様の最後の子供です」とおっしゃっていたのでした。
 
伊邪那岐命は「ほんとに良い子供たちが生まれた」と喜び、天照大神には高天原(たかまがはら)、月読命には夜の世界、須佐之男命には海を支配するようお命じになり、自らは淡海の多賀(滋賀県の多賀大社)に引退なさいました。
 
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