【夏の日の想い出・つながり】(1)

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2017年のローズ+リリーのアルバムは当初無茶すぎる日程を押しつけられてしまったため、どうにも制作が間に合わず、品質的に悲惨な状態になりかけていた所を、アクアの新マネージャー山村勾美さんが、★★レコードの村上社長と交渉(?)してくれて、発売日を春以降に延ばすことになり、11月から作り直すことになった。
 
ただアルバム『郷愁』の発売が春になってしまった場合、ローズ+リリーは2017年は全く新譜が出ないことになってしまう。それでシングルでもいいから出してもらえないかと佐田副社長から要請され、私たちは『青い豚の伝説』というシングルを出すことにした。一方で、ローズ+リリーのベストアルバムもリリースすることにした。
 
それで10月の下旬は、私とマリ、スターキッズは『青い豚の伝説』の制作を進めることにし、ベストアルバムはKARIONとトラベリングベルズにお願いして編集してもらうことにした。
 
実際には和泉もアクアの作業で多忙であったため、小風と美空、それに黒木さんが中心になって作業を進めてくれた。
 
彼女たちがしてくれたのは、まず選曲!そしてDVDに収録するPVの編集である。ローズ+リリーのPVは多くの場合、テレビや動画サイトに流すCFとして作成したバージョンと異なるバージョンを、ライブの背景に流していたので、今回のベストアルバムに収録したものは、そちらをベースに長さを調整したものとなったが、この調整も3人を中心にやってもらっている。
 
このアルバムのデータの編集が10月29日に仕上がったので見て欲しいと言われ、私はシングルの制作現場から抜け出して見に行った。内容はとてもしっかりできていたので「これでお願いします」と言い、彼女らに感謝した。
 

この日はアクアの作業で多忙な和泉、博士論文の作業で多忙な海香さんも来ており、KARIONの事務所社長・畠山さんも来ていた。それで1月に行う予定のKARIONデビュー10周年ツアーに関する打合せもした。
 
その打合せが一段落した所で、畠山社長が、KARIONの4人、トラベリングベルズの5人に“カリヨン”の模型を配った。
 
「KARIONの10周年記念でこれを制作した」
「わあ、きれーい」
 
樫の木製の土台に 冂 のような形の金属製の棒が立っていて、その上のバーに鐘が4個並び、実際に個別に鳴らすことができるように下から立ち上がった打棒も付いている。打棒はボタンを押すとテコの原理で鐘を打つ。
 
カリヨンというのは元々「4つの鐘」という意味である。
 
(現在はcarillonと綴るが、元はquadrillonと書いていて、語源的にフランス語の4を表すquatreと同ルーツ。なおMacintosh QuadraのQuadraも4の意味。そちらはそれまでのCPU 68030に代えて新型の68040を搭載していたことに由来する)。
 

「すごい。ちゃんとドミソドになってる」
と和泉は鐘を打ってみて言う。
 
「音が澄んでる」
と私。
 
「鐘はスターリング・シルバー、支柱と打棒はステンレス」
と畠山さん。
 
「高そー」
と小風が言っている。
 
「まあ値段は考えない方がいい」
と畠山さん。
 
「これの鐘を洋銀で作ったものをお世話になった人たちに配ろうと思う」
「ああ、いいですね」
 
「スターリング・シルバーと洋銀ってどう違うんだっけ?」
と美空が訊く。
 
「スターリング・シルバーは本当の銀。正確には純度92.5%の銀。純銀は柔らかすぎるから、普通銀のアクセサリーは92.5%で作るんだよ」
 
「へー」
 
「洋銀は銅とニッケルと亜鉛の合金。銀は含まれていない」
 
「じゃかなり値段が違いますね」
「まあ、さすがに銀製のものを大量に配るほどのお金は無い」
と畠山さんは笑って言っていた。
 

「そうそう、海香(みか)ちゃん、これ会う機会があった時でいいから、お兄さんにも1個渡しておいて」と言って畠山さんはもう1つ箱を海香に渡している。トラベリングベルズの前任ギタリストで海香の兄である孝郎(たかお)用である。
 
「分かりました。ありがとうございます」
 
「旅館はかなり改修が進んだみたいね」
と畠山さんは言う。
 
「はい。新館が2016年夏にオープンしましたが、今年(2017年)春にはコテージ型の《熊野の風》をオープンさせて、秋には更に新しい《弁天館》を建てたんですよ。それがオープンしたところで老朽化が酷かった旧館は解体しました。弁天館に対して2016年に建てた新館は《大黒館》と呼んでいます」
 
「かなりの投資をしてるね」
 
「ええ。投資額は50億円ほどになっています」
「恐ろしい金額だ」
 
「まあこれで絶対に辞められなくなったね、と兄は笑ってましたけど」
「確かに辞められない」
 
「でも例の事件(*1)で名前が売れたから、一昨年の夏も昨年の夏もフル稼働だったんですよ。だからこの1年半で売上げが7億円ほどになっていて、健治兄がやっていた頃の3倍以上のペースなんですよ」
 
「孝郎君、頑張ってるね!」
「今はバブルかも知れないけど、これをできるだけ定着させたいと兄は言ってました」
 
(*1)2016年2月27日、大雪で道路が不通になり、KARIONや片原元祐さんが電気もなく、携帯電話も通じない中で3日間、閉じ込められた事件。偶然テレビ局の中継車が来ていて、その様子が全国に放送された。そのテレビ局スタッフが持っていた衛星通信設備だけが外部との連絡手段であった。ローズ+リリーの公演があった私と、試合があった千里の2人はスノーモービルで脱出した。
 

「その《熊野の風》だっけ?写真で見たけど、雰囲気がいいね」
と和泉が言う。
 
「最近のホテルも旅館も大型のビルばかりですからね。土地がいくらでもある場所だから、敢えて平屋建てのコテージタイプにして、渡り廊下で結んでいるんですよね。雨の日や冬季でも濡れたり寒くならないように、渡り廊下は総ガラス張りにして、換気を兼ねた温風パイプも通しています」
 
「除雪が大変そうだ」
 
「そうなんです! 一応コテージと渡り廊下の屋根は滑雪加工しているので、屋根の雪下ろしは不要なんですけど、積雪が視界を遮るので、これは除雪車で人が作業しないといけません」
 
「滑雪加工なんてのがあるのか」
「超撥水シートとか言ってました」
 
「外観も景観に溶け込んでいるよね」
「はい。今はエコの時代ですし。この景色を写真に撮ってネットにあげたい!と思うようなものにすべきだと兄は言ってました。少なくともホテルの外観が景色をそこなってはいけないと」
 
「そのあたりがやはり都会で感覚を鍛えられた人の発想だよ」
「うん。田舎にずっと居た人にはこの手の発想がなかなか無い」
 

「こういう分散型は配膳が大変なんですが、自動で各コテージの前までワゴンごと運ばれていくシステムを導入しましたから」
「自動倉庫の原理だよね」
「そうなんです。だから仲居さんは部屋の前から部屋の中へ、お運びすればいいんです」
「労働負荷を下げるのは大事なことだよ。料理も冷めずに済むし」
 
「それも大きかったみたいです。このコテージを20個作ったんですが、予約がずっといっぱいなんですよ。だから今年の夏はあと20個、今度はメゾネットタイプのものを作ろうかと言っているんです。今工務店の人と設計打合せ中です」
 
「ああ、メゾネットだと、平屋の方に1度泊まったお客さんが今度はそちらに泊まりたいと思うかもね」
 
「ええ。評価が高かったからといって、同じものを量産しても価値を落とすだけですから」
 
「そのあたりの感覚を持っている経営者というのは意外に少ないんだよ」
「普通、売れたら似たようなものをまた作ってしまいますね」
 
「温泉もかなり広いものを作ったみたいね」
「ええ。2階建てで、1階が岩風呂的な玄武、2階が木の香りのする朱雀なんですが、午前0時になる度に男女を入れ替えるんです。それで1泊で両方楽しめるんですよね」
 
「その方式、いいよね」
「両方に入るのに、性転換しなくても済むからね」
 

「そうだ。今年の復興支援ライブどうすんの?」
と小風が訊いた。
 
「やりたいんだけど、今私の頭の中に余裕が無い」
と私は答える。
 
「だったら、私と美空で企画してもいい?」
と小風が言う。
 
私はローズ+リリーで忙しいし、和泉はアクアのディレクターとして多忙である。しかし、私はその組合せには、すごーく不安を感じた。
 
「だったら、信司さんと3人で」
「おっ」
突然指名された黒木さんがびっくりしていた。
 
しかしともかくも今年の復興イベントは、小風・美空・黒木の3人が中心になって企画を立てることになったのである。私はTKRの松前社長、§§プロの紅川会長あたりとも連絡を取りながら進めて欲しいと言っておいた。
 
そういう訳で、今年の震災復興支援イベントは決まったのである。
 

これまでのイベントは次のようにやっていた。
 
2013.03.11(月) 突発福島ライブ 福島奏楽堂(1000)
 
2014.03.11(火) 都内のホール(1800)。 KARION, XANFUSと相乗りで復興イベント(08年組)
 
2015.03.07(土) 宮城県みちのくスタジアム(50000)
(前座)アクア with Golden Six
篠崎マイ/遠上笑美子/南藤由梨奈/山村星歌/坂井真紅/富士宮ノエル/小野寺イルザ/貝瀬日南/桜野みちる/川崎ゆりこ/秋風コスモス/
ハイライトセブンスターズ/Rainbow Flute Bands/KARION /XANFUS /AYA /Rose+Lily
 
2016.02.28-3.06 福島市みどり総合体育館・球場
2.28(日) アクア/ローズ+リリー
3.05(土) 桜野みちる/高崎ひろか/品川ありさ/川崎ゆりこ/森風夕子/北野天子/松梨詩恩/春野キエ/七浜宇菜/上月宝/篠崎マイ/遠上笑美子/南藤由梨奈/鈴鹿美里/ 3.06(日)/Golden Six/Flower Four/チェリーツイン/坂井真紅/富士宮ノエル/槇原愛/ステラジオ/貝瀬日南/KARION/XANFUS/AYA
 
2017.03.11-12(土日) 宮城ハイパーアリーナ(7000)
11日(AM) アクア
11日(PM) 白鳥リズム・姫路スピカ・高崎ひろか・西宮ネオン・品川ありさ・秋風コスモス・川崎ゆりこ・桜野みちる
12日(AM) アクア
12日(PM) Golden Six, XANFUS, KARION, Rose+Lily
 

今年は3.10-11(土日)の日程でおこなう。
 
会場はこれまで2014年を除き、福島・宮城を交互で使ってきたのだが、今年はこれまで使っていなかった岩手で行うことになった。
 
会場については結局、紅川さんが探してくれて、岩手県滝沢市の岩手県文化センター“アポロ”を使おうということになった。定員8000人で、宮城ハイパーアリーナよりもキャパが大きい。
 
アクセスに関しては、滝沢駅から約2.5km離れており、滝沢駅との間に無料のシャトルバス、また盛岡駅・新花巻空港からも有料のバスを運行することにした。盛岡駅からは14km 25分、新花巻空港からは53km 40-50分である。
 
出演者は昨年同様、§§プロのタレントさんとローズ+リリーと特に親しい幾つかのアーティストである。
 
3月10日(土) AM 10:00-11:30 アクア with 信濃町ガールズ
PM 13:00-19:00 石川ポルカ・桜木ワルツ・花咲ロンド・白鳥リズム・姫路スピカ・西宮ネオン・高崎ひろか・今井葉月・品川ありさ・川崎ゆりこ・秋風コスモス・桜野みちる
 
3月11日(日) AM 10:00-11:30 アクア with 信濃町ガールズ
PM 13 Golden Six 14 Olive Lemon 15 Flower Four 16 KARION 17 XANFUS 18 Rose+Lily
 

今回出てくれることになった、Olive Lemon というのは、丸山アイ・フェイ・中村信子(リダン♂♀)・ヒロシ(ハイライトセブンスターズ)の仲良し4人組のユニットである。要するにCBF(女湯に入る会)のメンバーだ!
 
全員女装で演奏する!
 
担当楽器は、アイがギター、フェイがキーボード、信子がベース、ヒロシがドラムスだが、実はフェイとヒロシはどんな楽器でも演奏してしまう。
 
彼女たちは所属プロダクションもバラバラであまり表だった演奏活動はしにくいのだが、今回は無報酬のイベントということで、映像商品化はしないという条件で、出演が可能になった。
 
なお、今回は信子が出産後まだ3ヶ月なので欠席し、同年代でもあり、彼女たちと交流のある谷崎聡子が代理を務めることになった。谷崎聡子は普段はあまり披露していないが、実はギターとピアノが弾ける。それで聡子がキーボードを弾いてフェイがベースに回る構成となった。信子は出演はしないものの岩手まで来て、自分の赤ちゃんと一緒にフェイの子供(昨年3月3日生でちょうど1歳)も一緒に面倒を見るということであった。
 
Olive Lemonが出演することになった経緯については後述する。
 

Flower FourはWooden Fourの亮平・准太・道雄・真樹によく似た顔!の4人の女子、亮子・准子・道子・真樹によるユニットということになっている。ちなみにwooden fourの真樹は「まさき」と読むが、Flower fourの真樹は「まき」と読む。わざわざホームページまで作られている! 2016年の震災イベントに出てきて以来、時々この手のお祭り的なイベントに出演している。
 
Flower Fourはマリが直接亮平(亮子)に電話して「ギャラ無し・アゴアシ自腹だけど出ない?」と言って、出ることになった。
 
政子は亮平と別れたはずなのだが、どうも“友人として”の交流は続いているようである。1度セックスもした!?と言っていたので、この2人の関係は本当によく分からない。
 
「ところで、Flower Fourは女の子のユニットだから、楽屋は他の女子の出演者と一緒でいいよね?」
と政子は言ったが
 
「着換えるのに困るから分けて!」
と亮平は言っていた。
 
「女の子同士、恥ずかしがることないのに」
「いや、諸事情があるから」
 
「トイレはどっち使うの?」
「男子トイレ使わせてください」
「女の子が男子トイレに入るのは不法侵入だよ」
「そのあたりも、諸事情があるので」
 

今回のイベントでは、例によってギャラは払わないし、アゴ・アシ・マクラ(食費・交通費・宿泊費)も出演者の自腹である。売上代金は、ぴあに支払うチケット販売手数料を除いて全額、岩手県・宮城県・福島県の3県に寄付する。そういう趣旨であることから、紅川さんが県と交渉してくれて、入場料無料のイベントに準じた会場使用料で使わせてもらえることになった。
 
写真集・CDなどのグッズの販売に関しては原価や郵送費などを除いた“粗利”の半額を被災地への寄付に加える。
 
会場のスタッフも基本的にボランティアだが、お弁当だけは支給する。ただし、アクア・ライブの警備は警備会社とイベンター推薦の選抜チーム(報酬を払う)にお願いする。
 
この費用や普通のボランティアのお弁当代、それに会場代などの諸費用は昨年同様、サマーガールズ出版(私とマリの会社)、フェニックストライン(千里の会社)、§§ホールディングが2:1:1の比率で負担する。
 
なお、清涼飲料水の大手メーカーが、出演者・ボランティアのために無料ドリンクサービスをしてくれることになった。このあたりの話も紅川さんがまとめてくれた。同社は協賛に名前を連ねることになる。
 
また§§プロのタレントさん・スタッフの交通費・食費は、アクア・コスモスの2人が個人的に!負担する。またXANFUS(+Purple Cats)の交通費と宿泊費は私が個人的に、小風と美空およびトラベリングベルズの交通費・宿泊費は和泉が個人的に、Golden Sixのメンバーの交通費・宿泊費は千里が個人的に負担する。
 

ローズ+リリーの演奏には色々と追加演奏者が必要なのだが、ギャラを払えない上に交通費なども自腹という条件なので、頼める人が限られる。スターキッズと私の親族の和楽器奏者は問題無いのだが、他の楽器演奏者については悩んだ。取り敢えず、ストリングセクションを大々的に使っている曲はセットリストから外して、ストリングセクション無しで行くことにした。
 
その上で私はまず千里(千里2)に電話してみる。
 
「試合が日本時間で3月11日の朝4時から5時半くらいにあるんだよ。その後、仮眠してからそちらに行く。実はゴールデンシックスにもカウントされてる」
と彼女は言っていた。
 
どうも出てもらえるようである。今回のゴールデンシックスは、花野子(KB)・梨乃(G)のほか、美空(B)、千里(Fl)、長尾泰華(Vn)、黒井由妃(Dr)というメンツらしい。美空はKARIONと兼任、由妃(yuki)はXANFUSと兼任である。
 
私はその話を聞き、泰華に電話してみた。
 
「泰華さん、3月11日にゴールデンシックスで出るんだって?」
「もう知ってるの!?昨日その話、頼まれたばっかりなのに」
「だったら、ローズ+リリーにも出てくれない?」
「まあ、いいよ。ついでだし。楽器はキーボード?ヴァイオリン?」
「ヴァイオリンでよろしく。ただひょっとしたら1〜2曲キーボードに回ってもらうかも」
「OKOK。じゃスコアできたら送ってね」
 
この他、風花(Fl)と詩津紅(Cla)にも電話して出演の了承を取る。ふたりともキーボードも弾けるので、色々と融通が効く。
 

私は静花(松原珠妃)に電話してみた。
 
「こないだうちのPV(硝子の階段)に出演してくれた榎村アケミちゃんだけどさ、3月11日に岩手でやる震災復興支援ライブに出演してもらえないかな?彼女、フルートが吹けるんだよね?」
 
「それはいいけど、それってギャラとか交通費が出ないんだよね?」
「うん。だからそれは静花さんが負担してくれるということで」
「そういう趣旨か!」
 
静花は笑っていたが、そのくらいはいいよと言ってくれた。それで、今年の夏にデビュー予定の彼女に、前宣伝を兼ねてフルート奏者として出演してもらうことにした。
 
(ギャラを払わないという趣旨なので、事務所からもお手当などを出してもらっては困るのである。それで静花に個人的に出してあげて欲しいという話であった)
 

私は最後に青葉に電話した。
 
「今年も復興支援イベントに出てもらえないかと思って。例によって、アゴ・アシ・マクラは自腹でギャラも払えないんだけど」
 
「日付はいつですか?」
「3月11日・日曜日の夕方なんだけど。だから多分後泊が必要」
「場所はどこでしたっけ?」
「岩手県の滝沢市」
「ああ。だったら盛岡の彪志の実家に泊まります」
「なるほどー!」
 
結局青葉はこのライブの後、13日まで彪志の実家(盛岡:彪志は不在)に滞在し、14日に東京に出てきてアクアのCD発売記者会見に出席、その後17-18日には千里と信次の結婚式、信次の兄・太一の結婚式に出席。その後、上島先生のトラブルへの対応で春休み中、ずっと浦和の彪志のアパートに滞在することになる。
 

毎年恒例になった復興支援イベントについて、2013年と2014年は本当に自分たちだけで手作りでやった感じであった。2015年と2016年は★★レコードが全面的にバックアップしてくれた。昨年2017年は★★レコードの社長交代で支援が得られなくなったものの、松前さんが社長をしているTKRが、社員に呼びかけてボランティアを多数派遣してくれることになった。しかし昨年の場合は、やはりスタッフの人数不足で、参加者の負荷がけっこう大変だったようである。
 
しかし今年は★★レコードの佐田副社長が「もし東京から応援に行く社員がいたら、往復の貸切バスを私が個人の費用でチャーターする」と2月の定例のアナウンスで言ったおかげで、★★レコードからも、かなりのボランティア参加者が出て、これは本当に助かった。この件については自分は表に出ないまま色々協力してくれていた町添専務もびっくりしたらしい。
 
佐田さんとしては、町添さんがそういうのをするのは面白くないものの、自分の実績になるのであれば、こういう活動に協力するのはやぶさかではない、ということのようである。
 

この時期、私とマリは難産となったアルバム『郷愁』の海外版歌唱録音をずっとやっていたが、それと並行して『郷愁』の制作で中断していた Simple Collection の方も制作を再開した。
 
美野里が弾くピアノ演奏のみで、私とマリが歌うという趣旨の音源である。
 
前回(2017.1発売)が2008-2009年に発売した曲を取り上げていたので、今回はその後2010-2011年の楽曲14曲を選んだ。
 
恋座流星群、私にもいつか、Spell on You、神様お願い、帰郷、あの街角で、夏の日の想い出、キュピパラ・ペポリカ、聖少女、Long Vacation、Anastasia、涙のピアス、花模様、恋の間違い探し
 
英語のタイトルはこのようになった。
 
Amorids, Me too One day, Spell on You, Please God, Returning Home, On the Corner of Town, Memories of the Summer Days, Cupi para Peporica, Saint Girl, Long Vacatiom, Anastasia, Earrings with Tears, Flower Pattern, Spot the Difference of Love
 
「あなたに呪文」というのは英語的には「Spell to you」が正しいが、過去にSpell on You で海外にも随分紹介されているので、そのままにした。
 
流星群の名前は例えばペルセウス座流星群はPerseids、獅子座流星群はLeonidsのように、一般に発生する星座名の所有格に ids を付ける形で作られる。しかし「恋座」というものがそもそも存在しないので、ラテン語で「恋」を表すAmorの所有格Amorisから、Amoridsという単語をでっちあげた。
 
『涙のピアス』の“ピアス”というのは和製英語である。英語のpierceは穴を開けるという動詞であり、耳に付ける装身具そのものは英語では、日本語のイヤリング、ピアスともにearringと言う。それでこの曲はEarrings with Tearsということになった。
 
『夏の日の想い出』の英訳については類似の曲名『あの夏の日(の想い出)』との違いを含めて政子と2人で検討し、前者(上島作)を Memories of the Summer Days, 後者(マリ&ケイ作)を That Summer Day Memory とすることを決めた。
 
キュピパラ・ペポリカのスペルは青葉が書いたものによる!彼女はこの曲のタイトルを聞いた時、それは cupi para peporica, cupi para celusica というスペイン語の定型句だと言った。peporica と celusica はいづれも香辛料の名前で cupi は cupido(キューピッド)の略であり、これは恋に効くおまじないとしてスペイン語圏では昔から知られているというのである。
 
それを聞いて驚いて「本当?」と私が訊いたら「嘘です」と彼女が平然とした表情で答えたので私は絶句した。しかし、その後、実際に調べてみると、青葉が出まかせで言った peporica, celusica という名前の香辛料がどうも実在するようであることが分かった。そこで青葉に敬意を表して、このスペルを使うことにしたのである。
 

こちらの音源製作は、私とマリにとって気分転換と精神的休養の時間にもなるので、実際には12月から始めて2月まで掛けておこなった。
 
『郷愁』の外国語版は新宿のXスタジオ分室で主として有咲の担当で収録しているのだが、Simple Collectionの方は同じXスタジオでも祐天寺の本店で、麻布先生(Xスタジオ常務)が担当して収録していた。麻布先生もこういう単純な音作りを楽しんでいたようである。
 
「女の子ばかりで製作しているのに、僕だけ男が居たらやりにくいかも知れないけどね」
などと麻布先生は笑いながら言う。
 
「何でしたら、先生も女装なさいます?お化粧とか教えますよ」
「いや、それは女房に離婚されそうだから、やめとく」
 
麻布先生以外で、この音源製作に同席したのは、私とマリ、ピアニストの美野里、プロデューサーの七星さん、そして発売元となるFMIの担当者、井手季節さんだけである。他には氷川さんが時々陣中見舞いに来ては、井手さんと、いろいろと意見交換(おしゃべり)していたようである。
 
こちらは『郷愁』に少し遅れて3月23日(金)にFMIから発売されることになった。前回と同様、日本国内での発売は無いが、通販大手のArtemisでは“逆輸入版”を購入することができる。ただし、ArtemisとFMIの話し合いで、実際にはこれも前回同様、日本国内の工場でプレスした製品をArtemisが日本国内の購入者に発送することになった(通常配送料無料)。これは輸送費用と関税を節約する意味もある!
 

私の母は五人姉妹のいちばん下で、母を除く姉4人は全員民謡の先生になっている。母も実は名取り(若山鶴絵)ではあるのだが、もう民謡を辞めて久しい。母の姉たちの住んでいる場所は、乙女:高山、風帆:名古屋、清香:富山、里美:福岡である。清香伯母の夫は転勤族で、結婚した時の名古屋を振り出しに最後富山で定年になるまで、全国あちこち移動しており、その度に清香の民謡教室も移動を重ねている。
 
子供たちもあちこちで結婚しており、鹿鳴は島根、千鳥は大阪、歌衣と佳楽は富山で結婚した。但し鹿鳴は広島に、千鳥は金沢に、歌衣は京都に、佳楽は高崎に各々夫の仕事の都合で移動している。清香の子供の中で唯一未婚の薙彦(1988)は現在、名古屋市内の会社に勤めている。
 
一方私の父は4人きょうだいの一番下で、上に兄2人と姉1人がいる。住んでいる場所は、光紀:江南市、久子:海津市、福子:碧南市、とだいたい岐阜県・愛知県の付近である。父方の従兄姉は4人いて、このようになっている。
 
唐本光紀(1951) 和信(1982)
水谷久子(1954) 広康(1980)
川瀬福子(1956) 夏世(1986)、秋恵(1988)
唐本大史(1958) 萌依(1986)、冬子(1991)
 
夏世は8月生まれ、秋恵は10月生まれなので、各々その季節を取って名付けられた。それで私の予定日が12月でお医者さんの診断では「お股に紅葉が見えるから女の子のようですね」ということだったので、私に冬子という名前を付ければ(私の母が春絵なので)「四季が揃うね」と言っていたらしい。
 
ところが私は予定日より2ヶ月も早く生まれてしまい、しかも女の子とばかり思っていたのに、お股に変なのが付いていた!?というので、一時は秋男という名前にしようかとも検討したらしいが「それでは秋ちゃんがダブる」ということから、最初の予定通り、冬子という名前を付けることにして、その名前で出生届をいったん書いた。
 
ところが出す直前になって
「ちょっと待て。この子、男の子だった!」
 
ということになり、慌てて、冬子を少し変えて冬彦の名前で出生届を書き直し、それで役場に提出したのである(「ふゆお」は発音しにくいと言って「ふゆひこ」にしたらしい)。
 
その最初に書いた出生届は母もどこに行ったのか分からず、多分捨てたんじゃないかなあと言っていたのだが、実は福子伯母が持っていたのを、政子が譲り受け、現在、政子のコレクションの中に入っている。
 

私の姉・萌依は1986年生で、夏世と同い年なので小さい頃から仲が良かった。そして私も秋恵とは仲が良く、私も江南市に住んでいた頃は、よく4人で遊んだりしていたものである。
 
その時、誰もが
「あら、女の子4人で仲よさそうね」
などと言っていた。
 
初期の頃は私は男の子の服を着ていたらしいのだが、秋恵が自分のお古などを私に着せ、だいたい私もスカートを穿いていることが多かったらしい。
 
「だって冬ちゃんって、スカート穿かせると喜んでいたんだもん」
などと秋恵は言っていた。
 
そしてその秋恵は実は2011-12年頃、薙彦と付き合っていた。
 
ふたりは同い年(1988生)で、仕事の上での関わりがあったらしい。むろん、ふたりの間には血縁関係は全く無い。薙彦は私の母方の従兄、秋恵は父方の従姉である。しかしふたりが結婚すると、なんか親族関係がややこしくなりそうだなと私は思っていた。
 
ところがその後ふたりは別れてしまい、2014年に秋恵は別の男性・中田友紀(なかた・とものり)と結婚してしまった。その中田友紀というのが、実は政子の従兄だった。
 

政子の母・恵美は4人きょうだいの一番下、父・晃義は3人きょうだいの2番目である。それぞれのいとこはこのようになっている。
 
楠本真弓(1954)長崎市 美子(1981) 祥子(1983) 彩子(1985) 桜子(1988)
大原飛翔(1956)大村市 翼(1986) 竜(1988) 光(1990)
瀬川志織(1960)東京都 子供無し
中田恵美(1962)東京都 政子(1991)
 
遠山悠奈(1953)静岡市 マミ(1978) ヒナ(1980) ルカ(1982)
中田晃義(1955)仙台市 政子(1991)
中田邦博(1958)浜松市 友紀(1987) 君歌(1990)
 
政子の両親がタイに行っていた時期、ひとり暮らしの政子の監視役をしていたのが瀬川志織さんである。また2009年の夏に政子を静岡に連れて行き、その途中で政子が私と伊豆の恋人岬で遭遇することになる(結果的に伊豆のフェスで歌うことになる)きっかけを作ったのが遠山悠奈さんである。
 
政子は年が近いこともあり、君歌とは、わりと仲が良い。それでその兄の友紀が秋恵と結婚したことから
 
「秋恵さん、冬子の小さい頃のこと、色々知りませんか?」
 
などと言って、あれこれ情報を引き出したようである。秋恵もあることないこと!話して、それで秋恵の母・福子が持っていた私の出生届の性別を書き間違ったものを入手したということのようであった。
 
しかしまあ、そういう訳で、秋恵と友紀の結婚で、私と政子は2014年春に親戚になったのである。(政子は私の従姉の夫の従妹になる)
 

一方、秋恵に振られてしまった薙彦の方は、その後、ずっと女性と付き合うこともなく、ひとりで過ごしていたのだが、とうとう昨年、恋人が出来た。
 
薙彦に関しては、いとこ間では同性愛疑惑もささやかれていたので、彼に恋人ができたと聞いた時、みんな
 
「相手は男の子?女の子?男の娘?」
などと聞いたものだが、
 
「たぶん女の子だと思う」
と薙彦は言っていた。
 
「寝て確認した?」
「それはもちろん確認してるけど、最近はセックスしたくらいでは分からない子もいるから」
「と、ナギちゃんが言ってたと彼女に言っていい?」
「やめてー!!」
 

それでふたりは秋に結納も済ませ、2018年2月3日(土)大安に結婚式を挙げることになった。その招待状が12月に届いたのだが・・・
 
「マーサ、私、2月3日に従兄の結婚式に行ってくるから」
と私が言うと
「あ、私も同じ日に従姉の結婚式」
と政子も言う。
 
「へー。偶然だね。マーサはどこ?」
「私は名古屋」
「え?私も名古屋だよ」
「すごーい。じゃ新幹線で一緒に名古屋まで行けるね」
 
「そちらは会場は何てとこ?」
と私は訊く。
「ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋、と書いてある。これって、名古屋に公演とかで行った時、いつも泊まってるホテルだっけ?」
 
「・・・そうだけど、私もそのANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋なんだよね」
 
「・・・冬は何時?」
「結婚式は熱田神宮で10時半から。披露宴はこのANAホテルで13時から」
「私も同じ!」
 
「じゃもしかして同じ結婚式に招待されている訳?」
 

それでお互いの招待状を見せ合うと、私は新郎の和代薙彦から、政子は新婦の楠本桜子から招待状が来ていたのであった。
 
「じゃ、また私たち、親戚になるのか」
「既に親戚だけどね」
 
これまでは政子は私の従姉の夫の従妹(私の父系と政子の父系の姻戚関係)だったが、今回の結婚で、私の従兄の妻の従妹(私の母系と政子の母系の姻戚関係)にもなることになる。
 
ちなみに、秋恵の夫である友紀は政子の父方の従兄で、薙彦の結婚相手の桜子は政子の母方の従姉だから、薙彦と秋恵が親戚の集まりでかち合う可能性があるとしたら、それは政子の結婚式くらいであろう。それに別れてから6年ほど経つから、ふたりは顔を合わせても、もうわだかまりは無いであろう。
 
むろん今回秋恵は薙彦の結婚式には出席しない。
 

それで私と政子は忙しい中、2月2日の最終新幹線で名古屋に入り、披露宴の行われるANAホテルに前泊した(同じ部屋にしてもらった)。
 
3日は朝なかなか起きない政子を何とか起こして着換えさせる。事前の打合せで、私や政子など、新郎・新婦の従姉妹は色留袖を着ることにしている。その服も用意されているので、渡されていたものをまずは政子に着せてあげてから自分でも着た。
 
朝御飯に出て行ったら、純奈・明奈とばったり会う。純奈の旦那さんの暢彦さんも一緒で、ふたりの間に生まれた弓佳ちゃんを抱いている。
 
「これでとうとう未婚は私と冬だけになっちゃったよ」
と明奈が言う。
「私も思った。ちょっとやばいよね」
と私も言う。
 
「今回従姉妹の中で、未婚の子は色留袖でなく振袖でもいいのでは、という話もあったんだけど、目立っちゃうからみんなと一緒でいいと言った」
「確かに、確かに。このシチュエーションで振袖はプレッシャーを感じるだけ」
 
などと言っていると、
 
「誰かお母さんのお弟子さんとかでいい人居ないの?」
と政子が訊く。
 
「そういう話になるとヤバいから、何とか民謡と関係無い人を見つけたい」
などと明奈は言っている。
 

「でも赤ちゃん可愛い。何ヶ月ですか?」
と政子は訊いた。
 
「昨年5月に生まれたから今月で10ヶ月になるかな」
と純奈は言う。
 
「あの時期、立て続けだったんだよね。桃香の早月ちゃん、純奈の弓佳ちゃん、XANFUSの黒井由妃の藤香ちゃん、みんな去年の5月生まれ」
と私が言うと
 
「そうか。さほりもあの月だった」
と政子が言う。
 
「さほりって、どこの子だっけ?」
「あ、いやいい」
と政子は慌てるように言った。
 
「政子ちゃんの隠し子だったりして?」
「うーん。。。私も隠し子しようかなあ」
 

今回結婚式・披露宴に集まったのはこういうメンツである。
 
新郎(薙彦)側
 両親と姉妹 和代清香&和孝、入野鹿鳴、浜田千鳥、横越歌衣、染井佳楽、および配偶者と子供
 おば・いとこ(清香系)
  水野乙女&夢人、子供の友見、俊郎、聖見、およびその配偶者と子供
  田淵風帆&繁樹、子供の恵麻、美耶、晃太、およびその配偶者と子供
  琴岡里美&忠吉、子供の純奈、明奈★、およびその配偶者と子供
  唐本春絵&大史、子供の萌依、冬子★、およびその配偶者と子供
 おば・いとこ(和孝系)
  西田泰子&義光、その子供の秀文、隆子、直紀、およびその配偶者と子供
  森川寛子&政則、その子供の京子、姫子、法子、およびその配偶者と子供
 総勢80名くらい(数え切れなかった!)なお、★は未婚
 友人(サッカー部関係が多い)や会社の関係者 30名ほど
 
新婦(桜子)側
  両親と姉 楠本真弓&龍太、美子、祥子、彩子、およびその配偶者と子供
  おじ・おば・いとこ(真弓系)
   大原飛翔&園子、子供の翼、竜、光、およびその配偶者と子供
   瀬川志織&謙信
   中田恵美&晃義、子供の政子★
  おじ・おば・いとこ(龍太系)
   楠本玄司&光子、子供の純代、京華★、およびその配偶者と子供
   原田朱美&正治、子供の清孝、敏子、文代、およびその配偶者と子供
   久保虎世&空生、子供の宏香、朋佳★、洋子★、早紀★、およびその配偶者と子供
  総勢50名くらい
  友人(サッカー部関係が多い)や会社の関係者 30名ほど
 
新郎・新婦ともにアマチュアのサッカー・クラブに入っており、その縁で親しくなったということであった。
 
来ているのは全部で200人ほどだが、小学生以下は披露宴には出ないので、披露宴の間、その子たちの世話をしてくれる人を10人ほど頼んでいるらしい。披露宴に出る人だけでもたぶん160-170人くらい居る。披露宴のメニューには新郎新婦の親兄弟以外は名前が印刷されていなかった。おそらく直前まで出るかどうかわからない人が結構あったのだろう。
 
今回は結婚式・披露宴の費用が凄まじいことになったはずだが、むろんご祝儀も相当なものなので、赤字は出ないであろう。
 
こんなに多人数になってしまったのは、風帆伯母が「いとこは全員配偶者と子供を連れてくるように」と号令を掛けて若山一派が膨らんでしまったので、他の親族もバランス上、いとこまでの全員に招集が掛かったためらしい。
 
約200人分の交通費・宿泊費は結婚式・披露宴が終わった後で払う約束にしたのだが、数百万円に及ぶので、旅行会社から保証人を求められ私が署名しておいた!
 

挙式は熱田神宮で10時半から行われたのだが、参列できる人数が限られているので私たち、いとこは新郎新婦が神前にお参りする行列だけに並び、結婚式は式場の外側から見学していた(壁が無いので、中庭から見学することができる)。固めの杯だけは見学した全員に配られた。
 
バス2台で2往復して全員をホテルまで運ぶ。友人関係の人たちは大半がこのホテルに直接来ており、熱田神宮まで来たのはほぼ親族のみである。
 
披露宴は清香伯母の知人のアナウンサーの人が司会をし、新婦・桜子さんの友人がエレクトーンを弾いて進められた。どうも新婦の友人や、新婦のお父さん系統に音楽関係に造詣の深い人が多いようで、音楽の先生とかスタジオミュージシャンとかもいるようである(新婦のお母さん系統にも政子がいるわけで)。
 
そういう訳で、披露宴では、新郎の母系統の民謡関係者と、新婦の父系統の音楽関係者が、交互にパフォーマンスをするという、凄いことになった。様々な民謡が演奏されるし、クラシック曲やロックなども演奏される。ちゃんとドラムスセットやアンプなども用意されている。このほかにサッカー関係者のパフォーマンスも行われたのだが、民謡・音楽関係がボリューム的に圧倒していた感じである。
 
例によって、風帆伯母がしっかりと計画表を作っており、私も何か出し物をしてと言われたので、政子とふたりで『愛のデュエット』を歌うことにした。
 
それで私は政子と2人で出て行き、エレクトーンを自分で弾くつもりでそのエレクトーンを貸して下さいと言ったのだが、
 
「その曲を自分で伴奏しながら歌うのは難しいですよ。私に伴奏させて下さい」
と声を掛けてきた女性が居る。
 
「アイちゃん!?」
 
「いやあ、ふたりがいるの見てびっくりした」
とピンクの色留袖を着た丸山アイが言っている。
 
「親戚?お友達?」
「私は新婦のお父さんの妹の子供。だから、私政子ちゃんとは元々親戚だったんだけどね」
「そうだっけ!?」
と政子が驚いていた。
 
ともかくも丸山アイがエレクトーン伴奏をしてくれて私たちは『愛のデュエット』を歌ったのである。これは楽曲を制作した時は、フェイとヒロシがPVに出演してくれた作品である。
 
フェイ・ヒロシ・丸山アイが"CBF"の中核メンバーである。
 

演奏が終わってから、系図を書いてみて分かった。
 
新婦のお父さん・楠本龍太の妹・久保虎世の子供が久保早紀、つまり丸山アイになるという関係である。政子は楠本龍太の妻・真弓の妹・恵美の子供なので、楠本龍太・真弓夫妻をブリッジにして、政子と丸山アイは元々親族だったようである。
 
「ちなみに龍太の弟・楠本玄司の子供が私のマネージャーしてくれている京華さん。どっかその付近にいると思うけど」
 
「じゃ取り敢えず私たちみんな親戚ということになるのね」
「なんか親戚の数が膨大になってきている気がする」
 
「最近はきょうだいの数も2人くらいの家庭が多いけど、今回の結婚に関わっている家は4人とか5人とか、数の多い所がたくさんあったみたいね」
 

「そういえば今年の震災復興支援イベントって、出演者調整中ということになっていたけど、微妙な人がいるの?」
とアイは訊いた。
 
「まあAYAがね〜。事務所の方針で難しいみたいで」
 
「事務所の方針?」
「つまりAYAをノーギャラで全ての売上げを寄付するというイベントに出した場合、ふつうにギャラをもらえるチャリティーイベントに出る同じ事務所の他のタレントさんとのバランスが取れないので、AYAにも控えて欲しいということなんだよね」
 
「難しいなあ。そもそもチャリティーでギャラをもらえる日本の風習がおかしいと思うんだけどね」
とアイは嘆くように言う。
 
「あそこの社長個人は私たちのイベントの趣旨に理解を示してくれているんだけど、あの事務所は“社長”というのもひとつの管理職にすぎないから」
 
「伝統のある事務所はやっかいだね〜」
 
「それで代わりに誰か出られる人がいないかと思っているんだけど、今言ったようにギャラが払えないし、アゴ・アシ・マクラが自腹というイベントだから、ある程度経済的な余力がある人でないと気の毒だし」
と私。
 
「それなら私たち出ようか?」
とアイは言った。
 
「ホント?」
「でも私たちというと?」
 
「私と、フェイと信子とヒロシかな」
「女湯に入る会だ!」
「その名前はあまり大きな声では言わないで」
「じゃCBFで」
「それそれ。バンド名はOlive Lemonね」
「随分可愛い名前を」
「女性志向のある子の集まりだから、可愛いのが好きなんだよ」
「なるほど〜」
 

「でも女性志向ってアイちゃん、女の子じゃないの?」
と政子が訊く。
 
「丸山アイは女の子で高倉竜は男の子だから」
と本人は言う。
 
「そのあたりがどうも謎なんだけど」
 
「ヒロシも女の子になりたいんだっけ?」
「女装に味をしめてるよね」
「ああ。ローズクォーツのタカと似た状態か」
「ヒロシは基本が男の子だから、ちんちんは無くしたくないはず。ボクやフェイは無くなったらその時と思ってる。だからアクアにも近い」
「アイちゃん、おちんちんあるんだっけ?」
「内緒」
 
「今井葉月(ようげつ)ちゃんもヒロシに近い気がする」
とアイは言う。
 
「ああ、なんとなくそんな感じはする」
「あの子もCBFに勧誘しようかなあ」
「アクアは結局入会したんだっけ?」
「会員証は1年くらい前に送りつけた。返送されてこないから入会に同意したと考えている」
 
「返送しないと同意したことになるんだ!」
「よし。葉月ちゃんにも送りつけちゃおう」
 
「でも実際アクアは女湯に頻繁に入っている気がする」
「ああ、するする。結構な数の女性タレントとも遭遇しているみたいだけど、全く騒ぎにならない」
 
「谷崎潤子・聡子姉妹とも遭遇したらしい」
「貝瀬日南も遭遇したらしい」
「城崎綾香とは数回会っているらしい」
 

ともかくも、アイの提案でアイ・ヒロシ・フェイ・信子の4人で出ることにしたものの、やはり信子は出産からあまり日が経っておらず、リダン♂♀の活動も再開していないので自粛して、代わりに谷崎聡子に出てもらうことにしたのである。
 
Olive Lemonのメンバーの事務所だが、アイとヒロシが鈴木社長の∞∞プロ、フェイは野坂社長の@@エージェンシー、信子は兼岩会長のζζプロである。ζζプロは兼岩さんさえOKを出せばたいていのことは通るし、@@エージェンシーは若い事務所で柔軟な対応をしてくれる。鈴木社長は芸能界のドンの1人であるが、逆に細かいことは気にしない性格である。
 
私はこの話がまとまった後、実際に鈴木さん、兼岩さん、野坂さんに直接会って、無料出演に関するOKを取った。
 
その時、信子に関しては、リダンリダンの活動も再開させていないので、その前に出すのは問題があるということで、同じ事務所の聡子が代理を務めるというのもその場で、兼岩さんと信子・聡子との電話でまとまったのである。
 
谷崎聡子はCBFのメンバーではないものの(実際、女の子は「女湯に入る会」に参加する必要は無いはず)、メンバーの複数と(性行為を伴わない清純な)交流があるらしい。
 
谷崎潤子・聡子の姉妹は、潤子が私たちより1つ上(ゴールデンシックスのカノンたちと同学年)、聡子は私たちより2つ下の1993年度生まれで、CBFの主要メンバーと似た世代である。
 
この姉妹には今まで恋愛関係の噂も立ったことがない。ζζプロは恋愛関係には厳しいので、実際恋愛をしたことがないのかも知れないと思っている。
 
(さすがに潤子は既に恋愛禁止の適用は外れていると思うが)
 

今回の震災復興支援イベントの出演者はこのアイたちの参加で出演者が確定し、2月10日(土)に発売され、即日完売した。なお、アクアのライブチケットだけは前週3日(土)に発売され10:00から18:00まで受け付けて抽選方式で19:00に当選結果が発表された。キャンセルの連絡のあったものや振り込みの無かった人の分の枠を木曜日に追加当選通知。最終的に浮いた分は、被災者の人などを対象にFM局が募集した招待券で処理した。
 

そういう訳で私たちは3月9日の夕方、滝沢市に入った。盛岡と滝沢の間は、いわて銀河鉄道で15分ほどである。私たちはこの日は会場の下見をしただけで盛岡に戻って、市内のホテルに宿泊する。
 
この日盛岡に来ているのは、私たち2人とアクア、コスモスだけである。七星さんを含むスターキッズは日曜日の朝出てくることになっている。私たちは4人で一緒に夕食をとった。
 
「え?葉月(ようげつ)ちゃん、まだ進学する高校が決まってないの?」
と私は驚いて言った。
 
都立高校の合格発表が3月1日に行われたのをニュースで聞いていたが、さすがに彼は公立ということはないだろう。私立はもっと早く合格発表があっていたはずである。
 
「受けた私立、全部落としてしまったみたいで」
とコスモスが心配そうに言う。
 
「わあ」
 
(実際には女子高のS学園だけ合格しているのだが、この時点ではコスモスもまさかそこに行くことになるとは思いもしなかった)
 
「どうするんですか?」
と私は訊いた。
 
「2次募集のある学校があるので、それを受けるみたいです。実は明日もその試験なんですよ」
「だったら、明日の演奏はキャンセルですか?」
 
「いえ。少数でも自分の歌を聞きに来る人がいるかも知れないし、出ると発表した以上は出るということで。試験は2時くらいまでらしいんです。場所は船橋市で。ですからそれから来るので滝沢到着が18時すぎになるので、ラストの桜野みちるの直前に入れることにしたいのですが」
 
「ええ、それは構いませんよ。進行係の小風にも伝えておきますね」
 
10日の進行係は小風、11日の進行係は川崎ゆりこがしてくれることになっている。
 

3月10日。
 
アクアのライブは10時からなのだが、会場には朝早くからファンが詰めかけて列が出来ていた(座席は指定席である)。岩手の3月はとっても寒い。それで長時間屋外に並ぶのは健康上問題があるという判断から会場の管理者とも話し合って、予定より1時間早い8時には開場して、ロビーで待っていてもらうようにした。
 
アクアのライブは例によって興奮しすぎて失神したり、裸になって走り回るなど異常行動を取る子なども出る騒ぎで、途中で退場することになった観客が10人も出た。
 
11:30までの予定だったが、セカンドアンコールまでしても観客が興奮して危険な感じだったので、特別にサードアンコールで『アクア・ウィタエ』を歌った。静かな曲なので、これでやっと観客が落ち着き、公演の終了を告げて退場させられる状態になった。
 
「ありささん、済みません。これありささんの歌なのに」
とアクアは公演終了後、品川ありさに謝ったが
 
「いや、その曲は元々アクアちゃんと醍醐先生の曲だからね。私はまた自分なりの歌で歌うから大丈夫」
と、ありさは笑顔で言う。
 
「すみませーん」
 
「でもアクアちゃんにはスローなナンバーが無いもんね」
と川崎ゆりこが言う。
 
「そうなんですよ。みんな元気な曲ばかりで」
とアクア。
 
「今度、醍醐先生にお願いしてみよう」
 

午後の公演は13時から始める予定だったのだが、少し遅めに始めようということにした。
 
実はアクアの公演が長引いたので、場内の清掃などに少し時間が掛かっていたこと。それに万一葉月が予定通りに移動できなかった時に、ギリギリまで待てるようにするためである。
 
コスモスと私は、最悪の場合、トリの予定の桜野みちるが歌った後に葉月に歌わせるケースも検討した。その場合は、葉月でトリという訳にはいかないので§§グループ・オールスターのステージを30分入れて、それをラストにしようということにした。終了が19:30になってしまうが仕方ない。会場は演奏を21:15までに終えれば問題無い。撤収作業は今日は必要無い。
 
それで13:10にトップバッターの石川ポルカが、午前中にもアクアのバックで踊った信濃町ガールズと一緒に出て行き、元気いっぱいな歌声を披露した。
 
信濃町ガールズを一緒に出したのは、まだデビュー前のポルカが不安がっていたので、大勢と一緒なら心強いだろうということで急遽付けることにしたのである。
 
ポルカは予定通り25分間のパフォーマンスを終えて13:35に舞台袖に下がる。そして13:40に2番手の桜木ワルツが出て行く。このようにしてこの日のライブは本来の予定より10分遅れのまま進行していった。
 

桜木ワルツは自分の持ち時間を使って、
 
「みなさんにお願いがあります」
と言って、今井葉月のことを話した。
 
司会進行役の小風が説明してもよかったのだが、葉月の保護者のような感じになっているワルツが、自分に説明させて欲しいと言ったのである。
 
「高崎ひろかちゃんの次に歌う予定の今井葉月(ようげつ)あるいは“はづき”ちゃんなんですが、実は、あの子、先月受けた高校に全部落ちてしまいまして、今日急遽2次募集のあった所を受験することになったんです」
 
会場がざわめく。
 
「本人は今日のライブがあるから、そこは受けないつもりだったのですが、私やコスモス社長が、試験の後、こちらに移動してくるのでいいから、試験を受けておいでと勧めました。それで“はづき”ちゃんの演奏順序が予定より後になる見込みなので、よかったら了承して頂けませんでしょうか?」
 
観客から強い拍手がある。
 
「ご承認ありがとうございます。本人は到着したら元気いっぱい歌いますから御免なさいと言っていました」
 
ワルツは最初「ようげつ」「はづき」と両方発音してみたものの、明らかに「ようげつ」より「はづき」の方が観客の反応が良かったので、後は全部「はづき」で通してしまった。
 
どうも彼の名前は「はづき」ということで一般に認識されているようだと考えたのである。また性別問題はとりあえず棚上げにした方がよさそうと考えて、“彼”とも“彼女”とも言わず、“あの子”とか“はづきちゃん”という表現にしておいた。
 
 
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【夏の日の想い出・つながり】(1)