【Les amies 結婚式は最高!】(2)

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北海道には、金曜から日曜まで滞在し、日曜の午後の便で羽田に戻る。この時一緒に、母・妹、母の妹とその娘さん(晃の従妹)の4人が同じ便で羽田に来た。晃の従妹は「可愛らしい晃お姉様の花嫁姿を見なくちゃ」などと言って、先月の段階では来る予定が無かったのを急遽来てくれることになったのである。
 
そして翌24日・月曜日、ふたりは朝から一緒に婚姻届けを出しに行った。双方の母に証人の署名をしてもらった。ふたりはこの日から来週の火曜日(2月1日)まで仕事は休む予定である。
 
結婚式を挙げるのは明日なので、その日は特にすることは無いはずと思っていたのに、何だかんだで、その日は忙殺されてしまった。婚姻届けを出した後は一緒に美容室に行き、ふたりとも髪をセットする。晃は内村さんに、小夜子は店長にしてもらった。そのあとお昼はふたりで一緒に伊勢丹の中華の店で食べたが、その後はバラバラの行動になり、ふたりとも夕方かなりへばった状態で自宅に戻る。
 
その日の夕方は、小夜子の家に晃の母と妹だけ来て、5人で内輪の祝杯を挙げることにしていた。晃と小夜子も忙殺されていたが、五十鈴も親戚やお友だちからの問い合わせに対応したりでかなり忙しく、料理を作る時間がなかったので、晃がお寿司を買ってきて、小夜子もケンタッキーを買ってきた。しかし結果的には気合い入れて料理を作るよりもアットホームな雰囲気になった。晃の妹が北海道から「千歳鶴・吉翔」という日本酒を持ってきていたので開けて飲む。フルーティーで、なかなか美味しいお酒だった。
 
この日は晃も小夜子も普及品の型押しの振袖を着ていた。「きれーい」と言った妹にも適当なのをチョイスして着せてあげたら喜んでいた。3人並んで記念写真を撮ったりする。晃の母と小夜子の母はすっかり打ち解けて仲良くなってしまった。
 
明日は大変だしということで、19時でお開きにする。晃の母と妹はホテルに戻り、小夜子と晃は交代でお風呂に入ってから20時半には部屋に引き籠もった。
 
「さて、私たちの結婚初夜だよ」
「でもあまり遅くならないようにしようよ。明日がきつい」
「じゃ、3回で勘弁してあげる」
「あはは」
 
晃は小夜子にキスして一緒にベッドに入る。まずはシックスナインで小夜子を逝かせてから騎乗位で小夜子の征服欲を満足させる。愛撫でしばらく遊んでから対面座位で結合し抱き合ってしばし至福の時間をすごした。それから一休みして最後は正常位で一緒にクライマックスに到達した。
 
「おやすみー」と言って寝ようとしたら小夜子が「まだ2回しかしてない」と言う。
「え?4回もしたよ。シックスナイン、騎乗位、座位、正常位」
「でもアッキーが射精したのは騎乗位と正常位だけ」
「射精してないけど、シックスナインと座位でもボクは逝ったよ。サーヤも逝ったと思ったけど」
「もう一度射精しよう」
「タンクが空だよー」
「なせばなる」
 
そういう訳で最後にもう一度バックでしてから寝た。結局寝たのは12時過ぎだった。
 
「おしまい!もう立たない」
「男の子って不便ね」
 

翌25日は朝から貸衣装屋さんに行き、服を受け取る。昼は小夜子と晃は通りがかりのインド料理店で辛〜いカレーを食べた。
 
「でも香辛料ってエネルギー出てくる気がするね」
「一種のドーピングだろうけどね」
「アッキーは女性ホルモンのドーピングしてないの?」
「・・・・買ったことはあるけど飲まなかった」
「ふーん。買ったことはあったんだ?」
 
「男を辞める決断できなかったから。でもそのお陰でサーヤと結婚できた」
「あら、私はアッキーがもう女の子になってしまっていても、結婚したいと思ったと思うな」
「でも子供作れなかったけどね」
「まあ、それは仕方ないね」
 
運転手付きのマイクロバスを午後貸し切りにしていたので、自宅前まで来てもらって小夜子たち3人が乗り、ホテルに寄って晃の親族を乗せ、更に浦和駅に集結していた小夜子の親族を乗せ、それから着付け・メイクをしてくれることになっている美容室の同僚、内村さん・篠崎さんを乗せて、一緒にE市のH神社に行く。
 
挙式をする神社内の会館に入った。小夜子は白無垢、晃は黒引きを着た。今日は小夜子は篠崎さんの担当、晃は内村さんの担当ということにしている。
 
「アキちゃん、何だか完全に女の人の身体っぽいんだけど。実は手術してたの?」
と内村さんが訊く。
「してないよー。これは色々誤魔化してるの。女湯にも入れるかもって状態にしてるよ」
「おお、今度みんなで温泉にでも行こう」
「ああ、それはいいね」
 
「逮捕されても知らないよ−」と横から小夜子が声を掛ける。
 
今日は篠崎さんがまだ着付けの経験が浅く少し不安だということで、手伝えるように新郎新婦が同じ控え室で着替えている。
 
婚礼衣装を着て廊下に出て行くと、廊下で立ち話をしていた小夜子の叔母から
「晃ちゃんの黒い振袖はタキシードの代わりの黒だね」
などと言われた。
 

やがて式場に入場する。
 
巫女さんの先導で、最初に新郎新婦、それから親族と内村さんたちが続いた。真っ赤な内装の式場が厳かな雰囲気だった。晃の親族が少ないので内村さんたちはそちらに並んだ。
 
全員入って着席したところで祭主が入場する。祭主は最初に祓え言葉を唱えてお祓いをした。
 
続けて全員起立して祭主が結婚の祝詞を奏上する。祝詞の中では「○○が長男晃と○○が長女小夜子、婚嫁礼(とつぎのいやわざ)執り行わんとす」としっかり、男女の婚礼であることを読み上げられていた。
 
そして祝詞が終わると結婚式のクライマックス、三三九度である。
 
最初に一の杯にお酒が注がれ杯が黒引き振袖を着ている晃に渡される。これを一口飲んで巫女さんに返すと巫女さんは白無垢を着ている小夜子に渡す。小夜子は(妊娠中なので)これを口を閉じたままお酒に付け飲む振りをして巫女さんに返す。晃が残りを飲み干す。
 
次に二の杯にお酒が注がれ白無垢の小夜子に渡される。小夜子は飲む振りだけして巫女さんに返し、巫女さんは晃に渡す。それを晃がほとんど飲み、少しだけ残して巫女さんに返す。その少しだけ残った酒を小夜子が飲む。
 
最後に三の杯にたっぷりお酒が注がれ、晃が半分くらい飲んで、小夜子は口を付けるだけにして、最後晃が残りを飲み干す。
 
小夜子が妊娠中なので二の杯のお酒をちょっとだけ飲むことにして、他は晃が飲むということを神職さんとも話し合って決めたのだが、さすがにこれだけの酒をひとりで飲むと晃はクラクラとする気分だった。
 
三三九度の後、お酒が親族にも注がれて一緒にそれを飲む。その後、新郎新婦が玉串を捧げ、神職さんの太鼓と巫女さんの笛、もうひとりの巫女さんの舞で神楽が奉納され、それから結婚指輪の交換をした後、新郎新婦が結婚の誓詞を一緒に読み上げる。
 
最後に祭主さんがお祝いの言葉を述べて、式は終了する。祭主が退場し、その後巫女さんの先導で、新郎新婦に続いて親族が退場した。
 
会館の中の記念撮影場で神社出入りの写真館の人に記念写真を撮ってもらう。出席していた親族にもたくさん記念写真を撮ってもらった。
 
そのあと新郎新婦はいったん服を脱いで、全員で小夜子の叔母のビストロに移動した。
 

披露宴の出席者は結局30人。ビストロの定員いっぱいである。オーナーも出席者なので料理は全部先に作っておき、ドレスを着て席についた。披露宴は平日会社が終わってから来る人もいるので夕方18時半から始まった。小夜子の会社の同期の同僚で3月に結婚予定の井深寿子さんが司会をしてくれた。
 
みんなが席についた所で新郎新婦が入場する。みんなが拍手で迎えてくれる。今度はふたりとも振袖である。お正月に着たのと同じ組合せで、小夜子が加賀友禅の『雅の鳥』、晃は京友禅の『春花』を着ている。指には小夜子はマリッジリングとエンゲージリングを重ねて付け、晃もマリッジリングを付けている。
 
メインテーブルにはきれいなお花が活けてある。昨夜小夜子が活けたものである。小夜子はお花の先生の免状を持っている。
 
最初に司会の寿子が挨拶する。
「えー。司会を仰せつかりました、新婦の同僚で井深と申します。新郎も新婦も花嫁姿なので、どちらが新郎でどちらが新婦か分かりにくいですが、鳥の模様の超豪華な振袖を着ている方が新婦、お花の模様で金色の刺繍が華やかな振袖を着ている方が新郎です」
 
と「新郎と新婦の見分け方」を解説する。一瞬笑いかけた人もあったものの性別のことをあまり言うのはよくないのかな?という雰囲気で笑わずに留まる。
 
司会者の挨拶が少々長く続く。
 
「私と新婦は今の会社で社長と専務を除けば最古参になってしまいました。私は昨年夏に結婚を決めてこの3月に結婚・退職する予定になっています。それで新婦も年末に突然結婚を決めて、やはり3月に挙式するというので驚いたのですが、彼女が3月22日、私は3月12日ということで、一応私の方が先だなと思ってたのに、妊娠しちゃったから今月結婚しちゃうと、年明けてから唐突に言われて『サヨリンずるい』などと言っていたところです」
 
と朗らかに言うので、とうとう会場内から失笑が漏れた。寿子も今日はエンゲージリングを付け、振袖を着ている。成人式の時に着たまま9年間箪笥の中に眠っていたのを引っ張り出してきたと言っていた。
 
「それでは少し話がずれた所で、新郎の上司・小比類巻店長より、新郎新婦の紹介をお願いします」
 
黒留袖を着た店長がマイクの所に行きふたりの経歴を簡単に紹介して祝辞を述べた。そして小夜子の叔母と晃の叔母の祝辞を受けて、ケーキカットとなる。
 
ケーキは前日に晃が(小夜子がお花を活けている間に)頑張って焼いたスポンジケーキである。ふたりでケーキナイフを持ち一緒に入刀すると、たくさんカメラのフラッシュが焚かれ、拍手も起きる。それから小夜子の会社の社長の音頭で乾杯して、食事・歓談タイムとなる。
 
何人かがスピーチをしてくれる。ふたりの仲をやきもきして見守ってきたという小夜子の高校時代からの親友・愛美(めぐみ)がふたりの馴れ初めから、今まで14年間のふたりの愛について語る。ふたりが最初出会ったのが学校の女子トイレの中だった、などという話をバラすと、何だかみんな納得したような顔をする。小夜子は笑っていたが、晃はその件については少し抗議したい気分だった。
 
「でも大学出てから少しして会った時に、サヨリンが浜田君と付き合ってると言ってたから、てっきりそのまま結婚するかと思ってたのに、こんなに時間が掛かるとは思ってもみませんでした。このふたりって恋をしている最中に時折長期休暇を入れてる感じですね。もう結婚したんだから愛を休んではダメよ」
などと愛美は言っていた。
 
小夜子の友人でもあり、また晃とは中学と高校の剣道部で一緒だった望乃(のの)は
「しかしこの披露宴、出席者が美事に全員女性ですね。ついでに新郎新婦もふたりとも女性だし。アキは中学生の頃から、けっこう女性的な雰囲気持ってましたよ。性格はかなり男らしくて、それで美形で優しいから中学の時は剣道部の女子達の間で憧れNo.1だったんですけどねー。でも浮いた噂が一度も無かったし、高校に入ってからサヨリンと親しくなっても友だちという線を越えてなかったから、、私などはひょっとしてホモではと思っていたんですが、こうやって、ちゃんと結婚したからホモではなかったんでしょうね」
などと過激なコメントをする。
 
もうひとりの高校の時の同級生・美遙(みはる)は
「ふたりは高校時代にも、ただの友だちだって強調してたけど、見た目には凄く仲の良い恋人に見えてました。成績も同じくらいで志望学部も同じということだったから、同じ大学に行くのかな?なんて思ってたら浜田君は茨城県の大学に行くというし、サヨリンは女子大に行くというし、ちょっと呆れてたんですけどね。その後、大学出てから交際復活したと聞いたので、やっとこれで仲が進行するかなと思ったら、1年もしない内に別れたと言うし。それでまたまた去年の秋に復活したというから、じゃ今度こそ結婚するの?と訊いたら、ううんただの友だちとか訳の分からないこと言うし。とにかく、このふたりのんきすぎます」
などと言っていた。
 
いろいろ余興も入る。晃の美容室の同僚が歌を歌ってくれる。年齢の高い4人が安室奈美恵の「Can you selebrate?」、若い2人が西野カナの「Best Friend」
を歌ってくれた。小夜子の同僚も2つのグループでウルフルズの「バンザイ」、ローズ+リリーの「甘い蜜」を歌う。テーブルにデザートが配られる。そして最後にビストロのオーナーの娘さん(小夜子の従妹)がピアノ弾き語りでMISIAの「EVERYTHING」を歌った。
 
ここでいったん新郎新婦がお色直しのため退場する。新郎新婦不在の間は、ビストロのオーナーさんが箏で、おめでたい『初鶯』と『春の海』を弾いてみんなを楽しませてくれた。むろん着替えている新郎新婦にも聞こえている。
 

やがてお色直しが終わった新郎新婦が戻ってくる。今度の服はウェディングドレスである。小夜子は純白のプリンセスラインのウェディングドレス、晃はピンクのマーメイドラインのウェディングドレスを着ていた。
 
このドレス姿でふたりはキャンドルサービスをして回る。出席者のひとりひとりと改めて言葉を交わしていく。
 
「アキ、胸の谷間があるじゃん。豊胸してるんだっけ?」
などと望乃から言われる。
「してないよー。これは偽乳(にせちち)を付けてるんだよ」
 
「結婚式に先だって、ちゃんとお嫁さんになれるようにお股を女の子の形に改造したという噂も聞いたんだけど」と美遙が言う。
「そんな馬鹿な。そんなことしたら、新婚初夜にHできないじゃん」
「あ、じゃ新婚旅行が済んでから手術するとか?」と愛美。
「タマはもう取ってるんだよね?」と望乃。
 
「しないしない。タマも取ってない。ボク女の子になるつもりない」と晃。
「女の子になるつもりがない人が花嫁衣装着て結婚式するのはあり得ない」
と望乃が言うと
「アッキーには2人目の子供ができるまでは男性機能を維持してって言ってるの」
と小夜子。
 
「あ、じゃ、2人目が出来たら性転換するんだ?」と美遙。
「しないよー」と晃。
「おっぱいはいつでも大きくしていいからね」と小夜子。
「大きくしたりしないよー」と晃。
 
「でもきっと1年後くらいには、もうおっぱいくらいは大きくしてるよね」と望乃。「あ、してるしてる」と愛美。
 
新郎新婦がメインテーブルに戻ったところで
「キスして〜!」という声が掛かったので、晃が小夜子の両肩に手を置いて熱い口付けをする。歓声が上がる。
 
その後、祝電が読み上げられる。それから新郎新婦からそれぞれの母に花束贈呈。そして各々の母が謝辞を述べて、披露宴は中締めとなる。
 

新郎新婦が退場するが、退場し際に小夜子はブーケを「行くよ」と言って司会の寿子に投げ、寿子もしっかりキャッチする。
 
「次の花嫁さん、頑張ってね」
「ありがとう。再来月は司会よろしくね」
 
3月の寿子の結婚式の時は小夜子が披露宴の司会をする約束である。
 

「しかし、普通の結婚式・披露宴と変わりませんでしたね」
と小夜子の母が晃の母に声を掛けて言った。
「ほんとですね! 今朝まではもうどうなることかと思っていたのですが」
と晃の母。
 
「晃お姉ちゃん、凄く可愛い花嫁さんだった」と晃の従妹。
「むしろサーヤの方が新郎さんぽかったね」などと小夜子の従妹。
 
「花嫁さんふたりって、割と絵になるね。花婿さんふたりってのはあまり想像したくないけど」と晃の妹。
「私、それを覚悟してた時期もある」と晃の母。
 
「私、そういう結婚式に出たことあります。出席者がほとんど男の人ばかりで、女の子3人くらいしかいなくて、ちょっと居心地が悪かった。会場が男の人の体臭で満ちてたし」
と小夜子の別の従妹が言う。
「においは辛いな。それでも愛のキスとかするの?」
「してましたよ。本人たちが良ければそれもいいのでは」
「確かにね−」
 

新郎新婦が退場し、司会の寿子も振袖を脱ぐために退場した後、余韻を残すようにしばらく歓談が続いた。20時半なので、帰宅する人もいる。ビストロには小さな和室もあるので、そこを更衣室にしていた。まだ帰らない人もそこで着替えて普段着になる。
 
やがて新郎新婦も着替えて戻って来て、そのまま二次会となった。残っているのは、従妹たち、同年代の同僚たちや高校時代の親友など15人であった。披露宴の司会をしてくれた寿子も平服に着替えて残っているがエンゲージリングは付けたままで格好の話のネタにされていた。本人もたくさんおのろけ話をして彼氏との写真をたくさん見せていた。
 
小夜子と晃はお揃いのVictorian Maidenのドレスを着ている。ほぼ同型の服だが、晃の服は全体がネイビーで襟は白、小夜子の服は全体が黒で襟はシナモンである。ただお店の照明がそんなに明るくないので、ちょっと目には同じ配色のようにも見える。メイクも服に合わせてロリータ風のお人形さんっぽいメイクに変更していた。このメイクも内村さんと篠崎さんが手分けしてやってくれた。
 
「ふたりとも、そんな服にメイクだと、二十歳(はたち)くらいに見えるね」
などと言われるが
「それはさすがに言い過ぎ」
と小夜子が言う。
「でも姉妹だとしたら、やっぱサヨリンがお姉さんで、アキが妹って感じね」
などと愛美は言う。
「あ、それは前からそうだなと思ってた」
と小夜子は答えた。
 
料理は冷製パスタ、フライドチキン、ピザ、などを自由に取れるようにテーブルごとに大皿で置き、アルコール類も披露宴がワインと日本酒・水割りだったのに対してビール・チューハイなど軽めのものにしている。女性ばかりなので、最初からもっぱらウーロン茶という子もけっこういた。
 
「赤ちゃんの予定日はいつですか?」
「9月10日。大きなお腹抱えて夏を過ごすのがちょっと大変そう」
「そんなタイミングで妊娠させたアキにも少し責任取らせなきゃ」
「そうねぇ、何してもらおうか?」
 
「サヨリンの代わりにスカート穿いてお化粧して営業に回るってのは?」
「そんなの本人喜んでやるに決まってるじゃん」
「あ、全然罰にならないか!?」
 
「やはり、代わりに出産してもらうのがいいよ」
「そうだなあ。2人目はアッキーに妊娠してもらおうかな」
「アキお姉さまなら、妊娠できるかもね」
 
宴はゆるやかに続いていき、22時頃から電車の都合で少しずつ抜けていく。最後は24時過ぎに5人になったところで解散となった。最後まで残った3人は夜通しカラオケに行くなどと言っていた。晃と小夜子はタクシーで今夜泊まる予定のホテルに移動した。
 

一緒にシャワーを浴びてからベッドに入り、抱き合う。たくさんキスする。
 
「今日は結婚式初夜だよ」
「昨日は結婚初夜。こないだは同居開始初夜もしたね」
「何度もできるのは良いことだ」
 
「でも今日はずっと女の子だったのね」
と小夜子が晃のタックを触りながら言う。
「女子の同僚に服を着せてもらうから、変な物付いてたらやばいでしょ」
「ふーん。それって変な物なんだ?」
「あ、ごめん。サーヤには大事なものかな? タック外すね」
 
「あ、そのままでいいよ」と小夜子。
「それに別に私はそれ大事でも無いよ。無ければ無いで何とかなりそうだし」
 
「でも初夜だし」
「初夜前に妊娠しているというのは凄いな。処女懐胎だったりして」
「だったらまた凄いね」
「取り敢えずタックはそのままでいいよ。昨日男女セックスだったから今日はレスビアンセックスしよ」
 
小夜子は晃にキスをして、足を開くように要求する。そして180度近く開いた晃の股間(タック中)に自分の股間を押し当てて晃を抱きしめた。レスビアン的正常位だ。股間の密着度は高くないもののしっかり抱き合えるのが気持ち良いのでふたりは多用していた。抱き合いながらお互いの手と口で相手を愛撫し続ける。
 
先月18日以降、ふたりの夜の生活では、晃の男性機能を使う日と、タックして女の子同士になって楽しむのとが半々くらいの感じになっていた。以前交際していた時は、いつも晃の男性機能を使っていたのだが、今回は発端が「女友達」
感覚で付き合い始めたので、晃にしても小夜子にしても、こういう夜の生活の仕方の方が快適に思えていたし、レスビアンセックスは終わりが無い感じで、長時間に及ぶことが多かった。ふたりはレスビアンの体位もかなり研究した。
 
晃としても激しい運動で体力を使う男性としてのセックスより、優しく愛撫し続けて脳で逝くレスビアンセックスの方が楽にしかも長時間エクスタシーを感じることができて気持ち良かった。その中に時折、男女型セックスを混ぜていたが、それが性生活のスパイスのように感じられた。
 
「やっぱりアッキーのおちんちんが無くなっちゃっても、私たちやっていけるね」
「そうかも。ビアンがこんなに気持ちいいって思わなかった。でも取る気は無いよ」
「うん。あと1人子供ができるまでは取らないでよね。でも豊胸しちゃいなよ」
「しないもん」
「だって、おっぱいあるの楽しいじゃん。おっぱい大きくしたら、産まれた赤ちゃんに吸い付かせてあげるよ」
「う・・・それはちょっと興味持ってしまう」
 
その日晃はDカップサイズのブレストフォームを付けたままであった。
 
ふたりはその後、バックスタイル(小夜子が四つん這いになって晃が後ろから自分の股間を接触させ、指で小夜子を刺激する)、側位(横に並んで寝て足を組合せ股間を密着させる。案外密着度が高い)、シザースタイル(頭を逆方向に向け足を組合せて股間を密着させる)とやって最後にまた正常位で楽しみ、そのあたりで夜が明けてきたので、寝ることにした。さすがにお互い疲れたので、昼近くまで寝ていてホテルのモーニングを食べ損ねた。
 

レイト・チェックアウトの限界の1時ギリギリにチェックアウトした。
いったん自宅に戻ってから、荷物を車に積み込み、新婚旅行に出発する。車は晃のフィットでは狭いので、小夜子のウィングロードを使用する。目的地は明確には定めず、のんびりと旅をしようという魂胆である。
 
最初は晃が運転した。取り敢えず首都高に乗り、東京IC方面に走る。
 
「ウィングロードは運転しやすいしパワーがあっていいね」
「1800ccだからね。買う時はこんな巨大な車買わなくてもミラとかタントとかでもいいじゃん、って随分言われたけど、パワーの無い車は嫌だと言って。でも大きいと言っても3ナンバーは田舎の細い道に入っていけないし、駐車場で3ナンバーお断りの所が結構あって困るしね。このあたりが落とし所」
 
「ステアリングシフト(パドルシフト)も気に入った」
「いいよね。それも田舎道には必須の装備」
 
「うん。実は今乗ってるフィットでいちばん不満なのがそれ」と晃。
「坂道・曲がり道はCVTの泣き所だもんね」
「前乗ってたデュエットはATだから手動でシフト切り替えてたからね」
「深夜のドライブ、だいぶやったよね」
 
6年前に交際していた時は夜落ち合って車でドライブデートするのがデフォだった。だいたいは1〜2時間ドライブして戻って来て晃のアパートでセックスしていたが、遠出して夜明けに戻って来たりしたこともあったし、狭いデュエットの車内でHすることもあった。
 
「碓氷峠もいい思い出だね」
「あれ絶対運転してる方が楽だと思って途中で運転代わってもらったから」と小夜子。
「うん。助手席のほうがきついよね、あれ」
「軽井沢に到着してコンビニで買って食べたスパゲティが美味しかった」
「面白いもの記憶してるね」
 
「当時アッキーと別れちゃってから3ヶ月くらいした所で無性にドライブしたくなって、それでカルタスの中古を20万で買ったけど、8ヶ月でお釈迦にしちゃったもんね」
 
「事故った話をノノから聞いたからお見舞いに行こうかと思ったけど本人は無傷だって言うし」
「お見舞いに来てくれても良かったよ」
「そうだね」
「それで、やっぱりリッターカーじゃダメだと思って、これ買ったんだよね」
「事故るとなんか悔しいよね」
「そうそう。これ買った当初は毎日1時間深夜に運転して腕を磨いたよ」
 

首都高が事故でもあったようで超渋滞していて、浦和南ICから東京ICまで1時間半くらい掛かってしまった。疲れたので、取り敢えず港北PAで休憩してトイレに行く。
 
「こないだから思ってたけど、一緒にトイレに行けるのって便利ね」
「そうだね。ボクも何か平気で女子トイレに入れるようになってしまった」
「その格好で男子トイレに行ったら、『女トイレが混んでるからってこっちに来るなよ、おばちゃん』とか言われるよ」
「それ、しょっちゅう言われてた」
 
今日は晃はOLIVE des OLIVEの可愛い花柄のブラウスと膝下スカート、ピンクのセーターを着ている。小夜子はフェリシモのシンプルなワンピースの上にチェックのセーターを着ている。長旅なのでふたりとも靴はウォーキング・シューズだ。お化粧はふたりともナチュラルメイクにしている。
 
トイレを出た後、おやつと飲み物を買って車に戻る。
 
「ねえ、少し休憩していこうよ」
と言って小夜子は車の窓に日除けとカーテンを取り付けていく。
「そうだねー」
 
ふたりは後部座席に行き、着衣のまま抱き合った。
 
「ね、提案。このあと休憩は基本的にPAにしようか」
「いいね。施設からできるだけ遠い場所に駐めるんだよね」
「そうそう」
 
結局服を着たまま、お互いのショーツだけ下げてスカートをめくって愛し合った。晃は昨日タックしたまま外していないので、女の子同士である。まだ疲れが溜まっていたようで、愛し合った後はそのまま眠ってしまう。
 

起きたら18時だったので、またまたトイレに行ってからフードコートで食事をし、そのまましばらくPA内でおしゃべりをしてから7時頃に出発した。
 
今度は小夜子が運転する。海老名SAも足柄SAも富士川SAも停まらずに日本平PAまで行く。まだまだ交通量が多いので、小夜子にしては珍しく流れに合わせた比較的上品な走り方をして20時半頃到着した。
 
「ここコンビニもあっていいね。このまま今夜はここで泊まろうか?」
「うん。やっぱり式で疲れが溜まってるしね」
 
窓に目隠し代わりの日除けとカーテンを貼る。前の座席を一番前まで押し出す。大きなバランスボールを3個出して来て空気を適度に入れ、後部座席の足を置く部分に並べる。バランスボールと座席にまたがるようにプラダンの板(通常は折りたたんで収納)を渡し、その上に敷布団を置きシーツを掛ける。ウィングロードの場合、前の座席を一番前まで押しておけば、ここに普通のシングルサイズの敷布団を敷くことができた。枕と毛布、掛布団も出す。ふたりとも裸になり、汗拭きシートで身体を拭いてから布団の中に潜り込んだ。
 
「タック外さなくてもいい?」
「モーマンタイ。ビアン・ソン・ビアン(Biennes sont bien:レスビアンは素敵)」
 
フラット化しているので、さきほどの休憩ポイントで、単純に座席の上で愛し合ったのに比べるとスペースにゆとりがあるものの、それでも晃は小夜子のお腹を圧迫したりしないように、体位に気を配った。最初にシックスナインをした後、側位でしたところで小夜子が寝てしまう。そっと唇にキスして晃も寝た。
 

晃が起きたのは27日午前2時だった。だいたい予定通りだなと思う。
 
小夜子にトイレに行ってくるよう促し、その間に寝具を片付け、フラットを解除し、前座席を元の位置に戻す。小夜子が戻ってきたら後部座席に座らせシートベルトを付けて毛布を掛けてあげると、また眠ってしまう。晃は自分もトイレに行ってきてから車をスタートさせた。
 
1時間半運転して岡崎市の美合PAでいったん休憩。小夜子はまだ寝ているがシートベルトを外して横にしてあげる。晃は前座席で横になり少し寝た。
 
4時すぎに起きだして小夜子をまた座らせシートベルトを掛けてから出発。豊田JCTで伊勢湾岸道に分岐する。そのまま名古屋都市圏の港湾部を走る。四日市JCTから東名阪に入り、御在所SAで短い休憩をした後、紀伊半島の東岸に沿って南下していく。伊勢関ICからは伊勢自動車道になる。
 
多気PAに6時に到着した。ここで小夜子を起こし、一緒にトイレに行く。
 
「まだ夜が明けてないじゃん」と小夜子。
「だから神宮で夜が明けるんだよ」と晃。
 
小夜子も助手席に来て出発。伊勢ICで降りて、外宮(げくう)の駐車場に入れた。
 

車の中でふたりとも黒いフォーマルドレスに着替える。靴もパンプスを履く。(玉砂利の上を歩くことになるので)ヒールのほとんど無いタイプである。
 
「晃が男の子だったら、ブラックスーツだよね」
「そんな服着て、神様の所に行きたくない。神様の前では真の自分を晒さなきゃ」
「そうだね。晃の真の姿は、女の人の姿だろうからね」
「うん、それはそうだと思う」
 
一緒に境内を歩き、お札などを売っているところで特別参拝の手続きをする。そのまま正宮へ行き、ふつうにお参りをしてから、黄色い参宮章を提示して神職さんに案内され玉垣の中に入る。まだ薄暗い中、素朴な神殿が美しい。
 
神職さんの指示に従い一緒に二拝二拍手一拝でお参りをした。
 
退出してから小夜子が大きく息をつく。
「ここ、凄いところだね!」
「うん。ボクも思った。この場所の空気に圧倒された」
「私、赤ちゃんの無事を祈るつもりだったけど、ここでお願い事なんて、できないよ」
「ここはお願いする場所じゃ無いね。ただ純粋な祈りを捧げる場所だよ」
「ここが無事である限り、日本は何が起きても無事だね」
「うん。そう思った」
 

小夜子にあまり階段は登らせたくなかったので多賀宮はパスさせてもらい、風宮・土宮だけお参りして駐車場に戻る。そのまま内宮(ないくう)へ行く。車を駐車場に駐め、宇治橋を渡ろうとしたところで日の出となった。
 
「おお、明るくなった」
「でも空気が清々しい」
 
日の出の写真を撮ろうとカメラをスタンバイさせている人たちを横目に橋を渡り、参道を行く。
 
「参道が長いよ−」
「きつかったら休む?」
「そこまで辛い訳じゃない」
 
正宮に行くには階段を登らなければならない。晃は小夜子に自分の前を歩かせた。何かあったら後ろから晃が支えるつもりである。しかし無事何も起きずに参拝する場所まで辿り着く。ここでも普通にお参りした後、神職さんに黄色い参宮章を提示して中に入る。外宮と同じように玉垣の外を歩いて横の門から入り、神殿の前でふたり一緒に二拝二拍手一拝でお参りをした。
 
そして帰りは、外宮では来た道を戻ったのだが内宮ではそのまま前面の門を通って宿衛屋の所に戻った。あ、楽でいいなと思う。小夜子に玉砂利の上を歩かせるのはかなりヒヤヒヤなのである。特別参拝したあと、1〜2分少し身体を休めてから、脇の階段を降りた。
 
例によって荒祭宮へは階段が大変そうなのでパス。風日祈宮も橋が滑りやすそうな気がしたのでパスして坂を登ったところにある子安神社に参拝してから出口に向かう。内宮に入ってきた時はまだお日様の光量がそれほどでもなかったのが、戻る時はかなり明るくなっている。宇治橋を渡って外に出ると、太陽が宇治橋の右手すぐの方向に見え、きれいな構図だった。ふたりはしばらく見とれていた。
 

 
車内で小夜子を休ませておいて晃はおはらい町を歩き、赤福の本店まで行く。赤福を1箱買って車に戻り、一緒に食べた。一休みしてから二見浦に行く。
 
「きれいな場所だね」
「倭姫があまりの美しさに二度振り返って見たという場所だからね」
 
その日の午後は鳥羽水族館を見学し、そのあと鳥羽市内でのんびりと夕食を取ったあと瀧原の道の駅へ移動して車中泊する。
 
翌28日は朝、日出少し前に車を降りて瀧原宮・瀧原竝宮まで歩いて行った。ちょうど聖域に入るあたりで日の出となる。小夜子は思わず歩みを停めて、日の出とともに変化して行く空気を楽しんだ。
 
「ここ空気が物凄くきれい」
「物理的な意味でと霊的な意味でとだよね」
「そうそう」
 
昨日、外宮・内宮で体験した澄み切った空気の感覚を、ここ瀧原で再度味わうことができた。そして何と言っても町中にある外宮・内宮に比べて、山の中の瀧原は物理的に空気が美味しい。ここが伊勢の原点だと言っていた人がいたのに納得する思いだった。
 

その日は国道42号をゆっくりと南下。午後から新宮で熊野速玉大社に寄った後、(神倉神社は階段なのでパスして)那智勝浦の温泉旅館に泊まった。この旅で最初のホテル泊である。
 
「この旅館で忘帰洞に入りに行くチケット買えるみたいよ」
「あ、行こう行こう」
 
忘帰洞は、天然の洞窟に作られた温泉で、湯に入りながら外の景色を見ることができる。
 
「うん。じゃチケット買ってくるからサーヤ行っておいでよ」
「アッキーも一緒に行こうよ」
「いや、だってボクはちょっと・・・・」
「ああ・・・今女の子仕様になってるのか」
「そもそもこの格好で脱衣場に入った時点で追い出されそうな気がする」
「うーん。。。男湯の脱衣場からは追い出されるだろうけど、女湯なら問題無いんじゃない?」
「えー!? それは大いに問題ありだと思うけど」
 
「じゃ、アッキーがその格好で入口を尋ねたら、男湯の脱衣場を案内されると思う?女湯の脱衣場を案内されると思う?」
「女湯の脱衣場だろうね。ボクってトイレの場所訊いたら絶対女子トイレの場所教えられるもん」
「で、アッキーが服を脱いだら男と思われる?女と思われる?」
「まず女と思われると思うけど」
「じゃ、女湯に入れるじゃん」
「うっ・・・」
 
「一緒に入ろうよ。チケット2枚買って来てよ」
「うん・・・・」
 
晃は旅館の帳場でチケットを2枚買ってきた。メイクを落としマリッジリングを外してからお風呂セットを持ち、桟橋から船に乗って5分ほどでホテル浦島に着く。今夜は那智勝浦の温泉に入ろうと今朝瀧原で決めてネットで予約した時、実はこのホテル自体に泊まることも考えたのだが、1泊2万3千円という料金にビビったのである。しかし他のホテルに泊まっても入りに行けるというのは知らなかった。温泉だけ入りに行くのなら1人1000円である。
 
手をつないで一緒に忘帰洞の方へ行く。入口を入って手前に「女湯」、奥に「男湯」の看板が掛かっている。女湯の脱衣場に上がる階段の前で小夜子はチラっと晃の顔を見た。ああ、不安がってる、不安がってる、面白ーい。小夜子はこれは強引に女湯に連れ込まねばと思った。
 
「さ、入ろう」と手を取って言う。
「う、うん」
 
晃もこんなところで躊躇ったり抵抗したりしたら不自然だと思ったようである。脱衣場の中に入り、服を脱いで棚に置いて行く。晃も少し躊躇ったようだが、脱がないのも変だと思ったようで脱ぎ始める。小夜子が先に裸になってしまったが、晃もブラを外し、ショーツを脱いで全裸になる。うん。ふつうに女性の裸に見えるよね〜。ああ、この不安げな顔がたまらない。押し倒したいくらい!
 
「中に行こう」
「うん」
 
ふたりは裸になり、タオルだけ持って浴室に入った。
 
「わあ、きれい」
浴室の向こう側に熊野灘が見えている。ふたりはつい端の方まで行って景色を眺めてしまった。それから掛け湯をし、身体を簡単に洗ってから湯船につかる。さすがにここまで来ると、晃も開き直ったようである。
 
「こういうところでお風呂に入るのって気持ちいいね」
「開放的な気分だよね」
「ここ、夕日見えるのかなあ」
「あ、ここは朝日が見えるので有名だからね。東を向いているはずだから夕日は無理」
「うーん。残念」
「でも充分きれいだよ」
 
などという会話をしていたら、近くで湯船に浸かっていたおばちゃんが
「遙峰の湯からなら、夕日が見えるよ」
と言う。
「わあ、ありがとうございます。ここからどのくらいかかるかご存じですか?」
「10分くらいだよ。あんたたち若いから7〜8分で行くかもね」
「よし、アッキー、行こう」
 
ふたりはおばさんにお礼を言ってから浴室を出て脱衣場に戻り服を着ていったん本館に戻ってから名物の150mある大エスカレータで山上館に行く。そしてそこの遙峰の湯まで行った。
 
脱衣場で服を脱ぎ、中に入る。晃もさすがに今度は2度目なので、もう躊躇わずに脱衣場に入り服を脱いだ。
 
ここはお風呂自体は普通のお風呂だが、紀州の山の方を向いている。着いた時はもう夕日が山陰に落ちていくところだった。ふたりはその景色をギリギリで見ることが出来た。
 
そのあと、ふたりは女性専用のハマユウの湯に入ったあと、もうひとつの洞窟温泉である玄武洞にも行ってみた。もうすっかり日が落ちて暗くなっている。
 
「ここはまた別の趣があるね」
「ここも雰囲気いいね」
 
「でもすっかり女湯に慣れたでしょ?」と小夜子は小声で訊く。
「慣れた訳じゃ無いけど、今日はもう完全に開き直り」
 
「だけど一緒に温泉に入れるって、私、アッキーと結婚して良かったな」
「まあ新婚旅行で一緒に温泉に入れるカップルってレアだよね」
ふたりは小声で会話をして、微笑み合った。
 

外来の入浴は19時までなので、ふたりはこの玄武洞で入浴を切り上げ、自分たちの旅館に戻った。入浴の記念に絵ハガキももらった。旅館では夕飯の時刻を微妙に過ぎていたようであったが待ってくれていたので広間に行き食べる。同様に遅めの夕食になったグループが2組あったようで、あまり気がとがめなくて済んだ。
 
「なんか豪華な夕食だね〜」
「うん。とっても美味しい」
 
海の幸をふんだんに使った料理が素晴らしかった。隣の女性3人のグループとなんとなく会話が成立してしまう。向こうはこちらを女性2人の友人同士の旅と思っているようである。
 
「ああ、そちらは今日熊野三山を巡ってきたんですか?」
「ええ。良かったですよ。特に那智の滝が素晴らしかった」
「わあ。私たちは今日新宮に行って、明日那智と本宮に行くんですよ」
「那智ではめはり寿司食べてくださいね。美味しいですから」
「めはり寿司?」
「高菜でくるんだおにぎりなんですけどね。那智の食堂で食べられますから」
 
彼女たちとの話ははずんだ。
 
「ねぇ、お聞きしていい? ふたりって凄く仲良い感じだけど・・・」
「へへへ。実は恋人、というより夫婦なの」
「きゃー、ビアンカップル? あ、じゃそのマリッジリングも」
「うん。実は3日前に結婚式を挙げたのよね」
「わあ、素敵〜!」
「女の子同士でも結婚式挙げちゃうんだ?」
「どちらがタチですか?」
「あ、私たちは結構リバ。途中で交替したりもするし」
「へー」
 

その夜は車中泊を2日続けた後だったこともあり、夕食時に彼女たちにたくさん祝福され少々煽られた(キスまでさせられた)こともあり、ふたりともかなり燃えて、熱いセックスになった。晃はずっとタックしたままでレスビアンモードなので明確な終わりの無いまま長時間プレイが続いていく。ただ、あまり防音性のよくない日本旅館だから声は出せないしあまり音も立てられない。しかし声を出せないことが、更に燃え上がらせる感じだった。
 
結局その夜は休憩をはさみながら3時間ほど楽しんで12時すぎに寝た。旅の疲れとセックスの満足感で、ふたりとも熟睡した。
 

29日は朝から車で熊野那智大社へ行き、お参りした後で道に沿って並んでいる食堂のひとつに入り、昨夜遭遇した女の子たちから勧められた「めはり寿司」
を頼んで食べる。
 
「ちょっと面白いね、これ」
「うん。なんてことないおにぎりだとは思うけど」
「まあ、名物ってそんなものよね」
「だけど美味しいよ」
「うんうん」
 
その後坂道を降りて行き、森の中に入って行く道を歩いて那智の滝まで行く。
 
「よくさ、ここの飛瀧神社を那智大社と思い込んで、向こうに行かずに帰っちゃう人いるらしいね」
「わあ、もったいない。でもバス停で降りたら、目の前にここに来る道があるから、那智大社の方には気付かないっての、あるかもね」
「やっぱり旅は事前調査が大事だね」
「なんか徒然草に似た話があったね。男山八幡で麓の摂社だけ見て帰っちゃったって話」
「まあ、知らないとそんなものかもね。情報は大事だよ」
 
やがて大滝が見えてくる。食堂の付近からも遠景で見えていたのだが、間近で見ると迫力が違う。ふたりは思わず息を呑んで立ち止まった。
 
「滝って、何かを飲み込んでいくようだと思うことよくあるけど、ここも凄いね」
「なんかパワーが凄まじいよね。アッキーも雑念を捨てよう」
「ところでさ、これ、あれに見えない?」
「うん。見える。ここは間違いなく女神様だね」
「良かった。これ雑念じゃないよね」
「うん。純粋な発想だと思うよ。女神様のお膝元だから、アッキーも自分の中の女らしさを強めてもらおう」
「そうだね・・・・」
 
「ん?」
「ボクさ・・・もしかしたら1年後にはおっぱい大きくしてるかも」
「ああ、それは多分してると思うよ」
「そんなことしちゃったらごめんね」
「生殖能力さえ維持してくれていれば無問題」
「ということはホルモン使わずにシリコンかなあ・・・」
 
お参りしてから記念写真を撮ろうとしたら、カメラの電池が切れてる。
「そんな馬鹿な・・・今朝入れたのに」
「まあ切れたのはしょうがない。新しいの持ってる?」
「うん。持ってる」
と言って晃は電池を交換してから記念写真を撮った。
近くの人がふたりが並んだ記念写真も撮ってくれた。
 
那智大社を出た後、ふたりは車でいったん勝浦まで戻ったあと国道42号で新宮まで行き、国道168号に入る。途中大きな滝があったので車を停めて見物し、記念写真を撮る。あとで調べたら「葵の滝」別名「那智の裏滝」というものだと分かった。那智の滝のちょうど裏手くらいの位置になるらしい。
 
更に車を進めて30分ほどで熊野本宮大社に到着した。神社前の道の駅に車を駐めお参りする。ここでお参りしてから記念写真を撮ろうとしたら・・・また電池が切れてる!
 
「絶対変だよ」
「まあ切れたものは仕方ない。新しいの持ってる?」
「うん。持ってる」
と言って晃は電池を交換してから記念写真を撮った。
 
お参りした後、旧社地の方へも歩いて行く。
「新宮(熊野速玉大社)ではすんなり撮れたのにね」
「まあ、いろいろあるんだよ。気にしない気にしない」
 
旧社地でお参りした後は道の駅でしばし休憩する。それからまた168号で新宮に出て、国道42号を南下、串本まで行き、更に国道を走って夕方、南紀白浜に到着した。
 

今朝ネットで予約しておいたホテルにチェックインする。2日続けてのホテル泊だが、たぶんこれがこの旅最後のホテル泊である。
 
「目的地定めずに埼玉を出たつもりだったけど、結局ここに来ちゃったね」
「まあ、私たちにとっての記念の場所だもんね」
 
荷物を置き、お茶を飲んでから、ふたりは「思い出の場所」を探しながら散歩した。そこはすぐに見つかった。
 
「あの時と全然変わってない」
「田舎って、時の経過がゆっくりしてるからね。東京はめまぐるしく変わっていくのに」
「そこの岩だよね」
「うん。ここで座ってお話したよね」
 
「そしてそこの木の陰」
「うん。この木もあの時のまま」
 
ふたりはその木の陰に行き、熱い口付けをした。
 
実は以前この木の陰でふたりは初めてのキスをしたのである。
 
冬の冷たい風が容赦なくふたりに吹き付ける。しかしふたりはしばし時間を忘れるかのように、お互いをしっかり抱きしめ、キスを続けた。
 
10分近くしてからやっと唇を離す。
「寒いね、さすがに」
「冬だもんね」
「海水浴はできないね」
「それは無理だね」
 
ふたりは微笑んで、ゆっくりとホテルの方に帰り始める。
 
「あの時、なんか可愛い女の子がいるなあ、と思って眺めてたら、アッキーであることに気付いたんだよね」
「別にボク女装はしてなかったと思うけど」
「うん。女装はしてなかったけど、女の子にしか見えなかった。でもあの当時から、アッキーってしばしば女装してたんでしょ?」
 
「してないけどなあ」
「アッキーって、去年の12月頃まで、これは女装ではない、なんて主張してたよね」
「うーん。さすがにそう主張するのは疲れた」
「じゃ、女装だと認めるのね?」
 
「えっとね。11月頃までは単にファッションとして女物の服を着ていたから、女装じゃなかったと思うんだよね。でも先月くらいからは自分の意識が女にシフトしてきたから、女が女の服を着るのは女装ではないという意味で、やはり今は女装してないよ」
「意味が分からん!」
 

30日はひたすら帰ることにする。白浜を出て少し走ったところで南紀田辺ICから阪和自動車道に入った。
 
「勝浦も南紀勝浦と言ってたよね。白浜も南紀白浜、ここも南紀田辺。南紀って南紀州、和歌山県南部ってこと?」と小夜子。
「あ、それよく誤解されるけど、南紀は南海道の紀州って意味。だから南紀は和歌山県全体」
「えー!?」
「正確には紀州全体だけどね。紀州の南半分という場合は南紀ではなくて紀南」
「なるほど」
「もともとの紀州は今の和歌山県より広いんだよね。今は三重県になっちゃってる紀伊長島のあたりまでが紀州だけど、和歌山県側は田辺付近から南、三重県側は熊野市付近から南が紀南で、それより北が紀北。でも紀南も紀北も南紀」
 
「なるほど。でも廃藩置県の時に、ぶん取られちゃったんだ」
「明治の頃って境界がけっこう揺らいでるよね」
 
「アッキーの性別も揺らいでる?」
「うん。揺らいでる。でもわりと女の方に振れて来たかなあ・・・」
 

この日は白浜から岸和田SAまでを晃、そこから天理PAまでを小夜子が運転してそこでお昼を食べてしばし休憩する(阪和・西名阪)。
 
晃が運転して午後2時頃天理を出発し、名阪・東名阪・伊勢湾岸道と走って、夕方湾岸長島PAで休憩する。仮眠して起きたら6時過ぎだったので夕食を取る。そのあと小夜子が運転して豊田JCTを直進して東海環状道に入り、土岐JCTから中央道に分岐。小黒川PAで車中泊した。
 
31日は朝起きてから小夜子が運転して岡谷JCTを長野道に分岐して梓川SAまで行って、朝ご飯を食べる。そのあと晃が運転して更埴JCTから上信越道に分岐。甘楽PAで休憩する。
 
「今回は軽井沢は通過だったね。また下道で行こうよ」
「碓氷峠だよね。でも赤ちゃん産まれた後だよ。妊婦をあそこに連れて行きたくない」
「うん。それは言えるね。でも今度碓氷峠行く時は全線私に運転させて」
「いいよ」
と晃は少し投げやりに言う。碓氷峠はドライバーの方が助手席より楽である。
 
ゆっくり休憩の後、お昼を食べ、小夜子の運転で藤岡JCTから関越を南下し、所沢ICで降りて、あとは下道を走って自宅に帰還した。
 
「こんなに走って料金1000円って凄いね」
「本来なら9000円くらいの料金だよね」
 
「だけどさ。なんかここはもっとスピードを出せるのに!と思うような区間はたいていアッキーが運転してた」
「新婚旅行中に切符切られたくないからね」
「う・・・・わざとか」
 
「1万2千円もあれば、美味しい御飯が食べられるからね〜」
「ああん、あれ取られると悔しいよね」
 
「でもアッキー、旅行中はタックをずっとしたままだったね」
「なんか女の子でいたい気分だったんだよね」
「今夜も女の子?」
「どちらでもお好みで」
「じゃ、女の子のままでよろしく」
 
しかしその日はさすがに疲れが溜まっていたので1回セックスしただけで眠ってしまった。そして翌2月1日はHもせずに、ひたすら寝ていた。
 

ふたりは2月2日の水曜日から仕事に復帰した。
 
小夜子の予定日が9月10日ということで、約1ヶ月前の8月から半年後の3月まで約8ヶ月間休職することで、会社とは話がまとまった。また体力的に無理させないようにということで、4月から7月までは原則内勤で緊急時以外は残業無しにすることになった。また、ルート営業は小夜子の部下の子たちに基本的に任せ、大事な商談にだけ出て行くようにすることにした。
(小夜子は営業部長の肩書きを持ち、部下の営業部員が3人いる)
 
小夜子も晃も仕事が終わるとそそくさと帰るので、周囲からけっこう冷やかされる。
 

小夜子の同僚で3月12日に挙式を挙げる予定の寿子は2月いっぱいで退職した。結婚式まで、彼氏の住んでいる宮城県のN市で過ごす。2月28日は職場のみんなで送別会をした。
 
「これで経営陣以外では私がいちばんの古株になっちゃう」と小夜子。「そろそろ常務くらいにしてもらいなよ」と寿子。
 
この会社は今の社長と専務のふたりで始めた会社で、もうひとりの役員は社長の妹さんが実質名前だけ貸している状態で運営されている。一応、社長と専務という肩書きではあるが、ふたりはどちらも代表権を持っていて権限も対等である。基本的には社長が営業面と管理面、専務が技術面・運用(オペレーション)面を担当している。小夜子は営業部長、寿子は運用部長の肩書きになっている。寿子が辞めた後、当面は運用部長は空席にするらしい。
 
「いや、役員は拒否する。そもそも社長と専務のツーカー感には割り込めないよ」
と小夜子。
 
「私、入社した時、社長と専務って恋人なのかと思った」と小夜子の部下の藤咲さん。「私はレズじゃないよ」と専務が笑って答える。
「ちゃんと男の人と結婚しましたもんね」
 
専務は2年前に結婚しているが、結婚してもバリバリ仕事をこなしている。出産の時も一週間前まで仕事をし、出産後2ヶ月で赤ちゃん連れで!仕事に復帰した。この時、オフィスの一角に仕切りを設置して授乳室を作った。実際には女ばかりの職場の気安さで、専務はけっこう平気で仕事しながらおっぱいを露出して授乳していた。この授乳室はふだんは通常の休憩室として使っている。
 
「私もレズじゃ無いよ」と社長。
「男性の恋人が5人でしたっけ?」
「いや私は7人いて曜日ごとに別の家に帰るんだと聞いた」
「そんなにいたら面倒だよ。今は3人だよ」と社長。
「すごーい。嫉妬されないんですか?」
「たっぷり愛してあげてるから大丈夫」
「わあ」
 
「嫉妬って自分への愛が無くなるのではという不安だからさ。日々たくさん愛してあげれば問題無いんだよ。あと3人という数も大事。2人だと対抗心持たれる」
「へー、覚えておこう」と若い社員。
「ただの開き直りだよ」と専務が言う。
 
「運用部長の彼氏って、お仕事は何しておられるんですか?」
と別の若い社員から質問が出たが
「旅館でしたよね」
と別の子が答える。
 
「うん。一昨年までは東京で倉庫会社に勤めてたんだけど、お父さんの体調が悪くて、去年から実家に戻って実質切り盛りしてるんだよね。だから私は3月からは若女将ということで。正直、私みたいな無愛想な人間に客商売が務まるか不安なんだけどね」
 
「海の近くだって言ってたね」と専務。
「ええ。近くに海水浴場もあって夏にはけっこう人が来るんですよ。今の時期はシーズンオフで、客が少ないのよね。そのあたりが経営上の課題っぽい。戦後間もない頃に建てた古い旅館だからなあ。結局は建て直さないといけないんじゃないかって、彼は悩んでる」
「建て替えるとすると、建設費用以上にその間の収入が途絶えるのが辛いね」
「そうなんだよね。結構累積赤字が凄いみたいだし」
 

翌3月1日の朝、小夜子と社長・専務、寿子の部下の川島さんの4人で東京駅で新幹線に乗り宮城に行く寿子を見送った。
 
彼氏の家が旅館なので、披露宴もそこでやるし、こちらから行くメンバーの宿泊もそこになる。小夜子たちは11日の夕方の新幹線で仙台に行き、その旅館に泊まることにしていた。
 
「しかしトシちゃん居なくなるのは寂しいね」と社長。
「まあ、騒がしい子だったしね」と小夜子。
「でも、部長のあの性格に、私随分助けられました。どうしよう?って時もいつも元気だったから」と川島さん。
「まあ、何とかみんなで頑張っていこう」と専務。
 
その時はみんなまさか10日後に、あんなことが起きるとは思ってもいなかった。
 
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