【受験生に****は不要!!・承】承諾なんて無用?

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美夏が街に出るから一緒に出ようと誘った。ボクは恥ずかしいから嫌だと言ったが、今更何言ってるの、恥ずかしいと思うくらいなら逆に慣れなきゃと言われ、強引に外に出された。
 
「スカートは以前から履いてたんでしょう?」「ううん。こないだ突然女の子の服を着るように言われて、でも外に出たのはこないだ美夏と一緒にF市からここに引っ越してきた時だけだよ」「じゃ、全然練習できてないじゃん。私、てっきり、きっとずっと前から女装はしてたんだろうと思ってたのに。決めた。春紀、毎日これから私と街を歩こう」「えー、だって恥ずかしいのに」「だから、それがだめだって。学校始まったら、ずっとその格好で出歩くかだから」
それはそうなんだけど。
 
バス停でバスを待つ。近くを歩いている人たちが皆自分を見て変に思ってるんじゃないかとビクビクしていた。やがてバスが来てボクらは乗り込む。前乗りのバスだ。先に料金を入れるバスというのはF市にはなかったから、変な感じ。美夏に言われてなかったら、小銭の準備などしていなかったところだった。
 
バスを降りて商店街を歩く。都会は人が多い。恥ずかしい。ボクはつい俯いてしまったが、美夏に「だめ。ちゃんと前を見て。あのね、あまり注目されるような行動をしないでよ。普通に動いていれば、誰も一人一人のこと気にしないんだから」と注意された。
 
美夏はアクセサリーの店に入った。ボクがもじもじしていると「何してるの」
と中に引き込む。何だか居心地が悪い。でも、こんな店今まで入ったことなかったから、棚に並んでいるものが面白い。ひとつひとつの商品がボクには何なのかよく分からなかった。美夏は「何か」を買っていたが、それが何なのかボクには分からなかった。
 
次はファンシーショップに連れて行かれた。「春紀も何か買いなよ」と言う。何だか見たことのないキャラクターのノートやレターセットとか、小さな何の用途に使えるのか分からない布製のバッグとかが並んでいる。ボクは何を買っていいのか分からなかったので、適当にカエルのキャラクターの付いているノートとシャープペンシルを買った。「可愛いの選んだじゃん。それ学校で使うといいわよ」と美夏が言った。
 
そして次は.....美夏はランジェリーショップに入っていった。「ねぇ、このブラ可愛いと思わない?」と美夏が言う。ボクは正直、この店の中で目のやり場に困っていた。「こっちと、こっちと、どちらが似合うと思う?」と聞く。そんなこと尋ねられても....ボクはドキドキしながら「こちらかな」とオレンジの単色のものを指さした。「そうね。じゃこれにしよう」と言って「春紀、あまり可愛いショーツ持ってなかったでしょう。数枚買っておけば」と言われた。「え、それって」「うん、自分で選ぶ、選ぶ。もう高校生なんだから下着くらい自分で買えなきゃだめよ」ボクは覚悟を決めて、ショーツの並んでいる所に行った。美夏は可愛いのを買えと言っていた。正直、今部屋のタンスの中に入っているものの中にはイチゴ模様のものとかフリルの付いたのもあるのだがそういうのを履くには抵抗感があって、できるだけシンプルなものを履いていた。美夏がなぜそれを知っているかというと、毎日スカートをめくられてチェックされていたからだ。
 
美夏に「可愛いの」と言われたので「可愛い」という線で、自分で履く勇気を持てそうなものを選ぼうとした。が値段を見てびっくり。どうしてこんなに高い?結局、ボクは比較的安いものの中で可愛いものを選んでしまった。実際問題としてこれを履く勇気があまりないが、美夏の前で買った以上、履かないと注意を受けそうだ。ふう。
 
ランジェリーショップが終わると「そろそろお腹空いたね」と美夏が言う。たしかにそろそろお昼になる。レストランなどに行くならあまり混まないうちのほうがありがたい。ボクらはデパートの中の食堂街に向かった。が、途中で、美夏は「あ、トイレに行こうっと」と言い出した。「春紀は?」「あ、うん」
実はそろそろ行きたくはなっていたのだが、外でトイレに行くのはちょっと....
 
「じゃ一緒に行こう」と言って一緒にトイレのサインのある方向に歩いて行った。そして、入口のところに来て.....ボクの足が止まる。しかし美夏は「なにしてるの。入るんでしょ?」と言う。はぁ。ボクはまた勇気を奮い起こして、美夏と一緒に女子トイレの中に入った。
 
また混んでいたら面倒だなと思ったが、幸い空いていた。美夏が何か嬉しそうな顔をしている。「どうしたの?」「うん。恋人と一緒にトイレに入れるのって何だかお得だなと思って」と言う。確かに男女の恋人ではトイレは別々になってしまう。「それはボクも嬉しいな」「ね、一緒に中まで行こう」「え?」
美夏はボクの手を引っ張って一緒にボックスの中に入ってしまった。
 
「で、どうするの」「春紀、お先にどうぞ」「美夏が見てる所で?」「いいでしょ。私たち恋人なんだから」「うん」ボクは相当恥ずかしかったが、仕方ないので、スカートの中のパンツを降ろし、しゃがんでおしっこをした。トイレットペーパーを取ってあそこを拭く。そして水を流した。
 
「じゃ、次は美夏の番だよ」「うん」「どうしたの?」「ねえ、先に出てて」
「え?」「だって、おしっこする所見られるの恥ずかしい」「ボクのは見といて?」「春紀、声がやばいやばい」ボクは小声に切り替えて繰り返した。「だって恥ずかしいんだもん。さ、出てて出てて」と美夏はドアを開けてボクを押し出してしまった。
 
ボックスの外はもう列が出来ていた。ボクが出てきたのに、中にもう一人入っていてドアが閉められたので、列の先頭にいた人が変な顔をしている。ボクはその場にはいられないので、いそいで手を洗ってトイレの外に出た。
 
「もう、美夏って」と怒っても仕方ない。
 
ボクはこのあと毎日美夏に「外出の練習」として連れ出され、いろいろと女の子しか近づけないような場所を連れ回された。そして女子トイレに一緒に入るというレッスンが必ず何度か組み込まれていた。もっともボックスの中まで一緒に入ったのは最初の時だけだ。しかし美夏はボクが別に行きたくない時でも必ず一緒に入ろうと言う。どうしてと聞いたら「女の子は一緒に行きたがるものなの」と言われた。
 

その日は叔母さんは外出中だった。ボクは美夏に眉毛をカットしてもらいアイメイクの練習をしていた。「だけどスカートって便利だね」「何が?」「汗をかいた時にスカート脱がなくてもパンツだけ交換できるし、トイレでもスカート履いたままでいいし」「確かにズボンじゃ、そういう訳には行かないよね」ボクは少しずつ女の子ライフが楽しくなってきていた。
 
「春紀、おっぱい大きくしないの?」美夏が突然聞いた。「えー?何のために」
「だって、高校生にもなって、この程度の胸では」以前美夏に誤って飲まされてしまった薬のお陰で少しだけ胸が張っているような感じがしたのだが、美夏に言わせれば「男みたいに胸が無い」状態らしい。「でもどうやったら大きくなるの?」「手術してシリコンバッグ入れるか、或いは女性ホルモンを使うか」
「うーん、何だかどちらも気が進まないな」
 
しかし美夏が物凄く乗り気なので、ボクは何とかしなくちゃかなという気になり、おちんちんの切断手術をした母のお友達の桜木先生に電話してみた。すると一度おいでと言われたので、美夏と一緒に電車に乗り出かけていった。ちなみにボクは、自分の母のことを「ママ」というのをやめてしまった。人前では「母」と言い、本人に対しては「母さん」と呼んでいる。自分の心の中に急速に芽生えてきた自立心が「ママ」ということばを使う自分から卒業させてしまった。
 
桜木先生はボクの身体をいろいろ健診していたが、やがて美夏も中に入れて一緒に説明してくれた。
 
「性器の取り外しが3ヶ月間だけのつもりだったので何も処置はしていなかったんだけど、3年間このまま取り外したままにするのなら、結論から言えばホルモンを補充しておかないと良くないわね。性ホルモンには骨の発達を促す作用があるから、それが欠如していると骨折しやすくなったり、将来骨粗鬆症になる場合もあるの」
 
「男性ホルモンでも女性ホルモンでも構わないのだけど、これから高校3年間女の子として生活するのなら、女性ホルモンを補充しようか。その方が顔つきなんかも美形になりやすいから、彼女としてもガサつい顔付きになられるよりいいでしょ?」
 
そこで美夏が質問した。「顔つきだけじゃなくて身体つきもですよね?確かに肩のはった、どう見ても男体型で女の子の服着ている人と一緒に歩くのは少し抵抗があるかも。女の子の格好してるんだったら、顔つきや身体付きも女の子らしい方がいいですね。でも、ひとつだけ教えて下さい。3年後、間違いなく春紀の性器はちゃんと、くっつくんですか?」
 
すると先生は即答した「全然大丈夫よ。アメリカの病院にいた時に何度も経験しているから」しかし、その後、先生が小声で「3年後に本人がくっつける気になるならだけど」と言ったのを、美夏は聞いていたが、ボクは聞き逃していた。
 
ボクはその日は注射で女性ホルモンを打ってもらい、後は毎日飲むようにと、経口のホルモン剤を4ヶ月分処方してもらった。「代金はあとで、あなたのママに請求するから、あなたたちはいいよ。時々状態を確認したいから、次は一学期が終わって7月の下旬くらいに一度いらっしゃい。その前でも近くに来たら寄ってね」と言われた。
 
注射のホルモン剤が強く効いたようで、ボクはその晩にも胸がムズムズするのを感じた。その後学校が始まるまでの一週間、今度は飲み薬の方を飲み続けたが、さすがに一週間では身体に大きな変化は見られない。しかし自分としてはやはり胸が張る感じ、そして少しシコリがあるような感じで、乳首も敏感になっていた。ブラジャー無しでキャミソールなどを着ると乳首がかすれて痛い。
 

やがて学校が始まる。ボクらは新しいカバンに希望を詰め込んで、入学式に出かけた。ボクは少し上等なブラウスとチェックのプリーツスカート。高校生らしく、ということで美夏が選んでくれた。美夏は可愛いセーラー服タイプの制服だ。
 
この10日くらいの間に女の子の服での生活に強制的に慣れさせられたので、通学路は平気だったが、校門を通ってから急に不安な気持ちになった。しかし開き直るしかない。体育館での式を終えて教室に入る。担任の先生が副担任の先生と共に入ってきて、授業のやり方や届け出の出し方、また校内での行動などについて説明する。それから最初の出欠が取られた。ここは男女混合名簿方式のようだ。
 
ボクの名前が呼ばれた時、ここ数日でだいぶ鍛えられていた女の子らしく聞こえる発声法で「はい」と返事をすると、先生はアレ?という顔をしてボクを見る。そして「あ、すまんすまん。春紀って男の名前にも見えるから間違って男子の方に入れていた。ちゃんと直しとくから」と言って、少し何やら書いていた。これで、ボクはこの学校では女として扱われることが決定した。確かに春紀という名前は女でも何とか通じる。便利な名前だ。
 
お陰でボクは、男女別の授業でも、保健体育・技術家庭は女子のクラス分けで学ぶことができるようになった。トイレも堂々と女子トイレを使う。これも、美夏にずいぶん強引に練習させられたお陰で、抵抗無く順番待ちしながら他の女の子たちとおしゃべりしたりすることもできるようになっていた。
 
体育の時間の更衣室。さすがに女子更衣室だけは初めての体験だが、できるだけ気にしないようにして、無事さっと着替えをすることができた。進学校なので体育の授業は1年の1学期だけらしい。その程度は誤魔化しきれるだろう。女子としての体育の授業は少し戸惑うことも多かったが、みな違う中学の出身だから多少変なこと言っても奇異には感じられていないように思う。
 
家庭科は参った。中学時代、被服・調理は全然やっていなかったので、うまくできないことが多かったが、他にも下手な子はたくさんいたので、全然目立たなかった。しかし服を縫う作業などは意外に楽しい。男の子にも教えればいいのに、という感じがした。
 

しかしやはり高校に入って苦労したのは、女の子としての生活より勉強だ。もとより単にマグレだけで入った学校だから、みんなのレベルが高い。しかしボクはどうしても分からない所など、参考書を読み、クラスの人に聞いたり、家に戻ると美夏にも聞いたりして、必死に勉強した。
 
おちんちんが無い上に女性ホルモンを採っているから、余分な性欲はほとんど無い。美夏はその内女の子としての性欲が出てくるかもと言っていたが、まだその段階には到達していなかった。美夏のことが好きなのは変わらないし、実は伯母の目を盗んで毎日1度はキスするのが日課になっていたが、ボクの私生活の時間のほとんどは勉強に費やされ、その成果あって4月末くらいには授業の内容が、そのまま理解できるようになってきた。
 
学校はゴールデンウィークのお休みに入る。たっぷり宿題が出されたのでボクはそれを必死で片づけて伯母の家にずっと滞在を続けた。美夏は最初は自宅に戻るつもりだったようだが、ボクが勉強しているのを見て、それに付き合ってくれた。この頃、ボクの身体にもようやく変化が現れ始めていた。
 
胸は明らかに膨らみ始めた。それからお尻の感覚が変わった。お尻に脂肪が付き始めている感じだ。自分では分からなかったけど、美夏によればボクの体臭も変わったという。伯母が留守の時間帯にボクは美夏に裸にむかれて彼女の「診察」を受けた。「ボディラインが女の子っぽくなりつつある。普通の女の子なら、こういう変化は小学校の5〜6年生で現れ始めるのだけど、約4年遅れくらいで始まったというところかな」
 
「診察」が終わった所でボクは思い切って言った。「ボクを裸にしただけで、終わりなの?その4年後どういう身体になるのかを実地に検分させてくれないかな?」すると美夏は「いいよ」と言って自分も服を脱いで、ボクの上に乗ってきた。ボクらはお互いの身体をむさぼるようになぜまわした。
 

それはボクらにとってはもうBじゃなくてCという感じだった。おちんちんを入れるという作業がなくても、ボクたちは確かに結ばれた。お互いにそんな気持ちになった。
 
ボクたちの表情に変化があったのだろうか、翌日の昼、伯母さんから聞かれた。「あなたたち、しちゃったでしょう?」ボクたちは無言でうなずいた。「これだからね、若い子は歯止めが利かないから。でも好きなんだから仕方ないよね。でもお互いの身体をちゃんと思いやることは忘れないでね。それから、ちゃんと付けてしてる?」ボクたちが顔を見合わせると伯母さんはやれやれという顔をし、小さな箱を午前中に行ってきた買い物袋から取り出した。
 
「そうかも知れないと思って買って来たわ。する時には必ずこれ付けること、いいわね」ボクはちょっとだけためらったが素直に「はい」と返事をした。
「使い切ったら、薬屋さんに売ってるから自分たちで買いなさい。恥ずかしいことじゃないんだからね、大事なことだから」「分かりました」「それから、やりすぎると、お互い勉強に差し支えるから、週に1度を限度にしておきなさい。そのくらいは自制できるでしょ?」「はい」ボクらは一緒に返事をした。
 
ボクらに関係ができてしまったと分かると、それまでお互いの部屋には入るの禁止だったのが、その時に相手の同意がある場合との条件で1日に1度だけは一緒の部屋に入ってもいいというお許しが出た。ただし鍵はあけておくというのも条件だ。美夏は居間から戻るといきなりその権利を行使した。
 
「それ、どうやって使おうか」「これコンドームでしょ?初めて見た」「1個取り出して見てよ。私も見てみたい」「うん」
 
「使い方がよく分からない。おちんちんにかぶせて使うんだよね」「うん、多分」
「うーん」ボクらは実物のおちんちんが無いので、今ひとつ感覚が分からず悩んでしまった。「そうだ、あれなら。とにかく今日は使えないから、来週の日曜日」
 
そう言ってその日は美夏は部屋に引き上げた。ボクはその開かれていないコンドームを袋に戻し、箱に戻して机の引き出しに入れた。
 

ボクは学校から出た宿題は5月2日までに全て仕上げてしまった。それでは物足りないので町に出て問題集を何冊か買ってきた。当然美夏も付き合う。「美夏も問題集買うの?」「ううん。でも選ぶの手伝ってあげるよ」「美夏は最終的にどこの大学狙ってるんだっけ」「今のところW大かな。でもうちの学校のみんなのんびりしてるからなぁ。先生も何だかやる気無さそうだし。テンション維持するのには春紀を見ている方がいいなって感じ」「そういう春紀はどこ行くの?」「O女子大....というのは冗談で、今の自分の感覚を維持できたらひょっとしたらH大くらい行けるかもという気分になってきている」「すごい、頑張ってね。O女子大でもいいよ」「それはさすがにバレるって。それに3年後には男に戻るんだし」「ふーん」「何?」「春紀、このまま女の子になっちゃうのかと思ったのに」「どうして。女の子同士じゃ結婚できないじゃん」
 
「春紀、もしかして知らないの?世の中には男同士、女同士で結婚する人たちもいるんだよ」「え?ほんとに。そんなこともできるんだ。女同士って、二人ともウェディングドレス着て結婚式するの?」「さぁ、どちらかが男役って場合もあるだろうし、その辺はいろいろだと思うな」「ふーん。でもウェディングドレス二人は華やかでいいけど、タキシード二人の結婚式って、何だか変」
「変じゃないと思うよ。当人達にとっては」「そうか。それで好きなら、それでも構わないのかな」「そうよ」
 
ボクが最初に選んだ問題集は大学の入試に出た問題を集めたものだったが、美夏はそれを戻して「今の春紀にはこっちの方がいい」と別のを取った。それは易しい基礎演習を集めたものだった。「難問を解くのは受験技術の問題だけど、それより前に自分の基礎実力を充実させた方がいいんだよ。基礎がしっかりしている所に受験技術を付けることで、点数は大きく伸びるの。基礎が50しかなくて技術でそれを無理矢理90までのばしてもそれは不安定。テストの度に点数が大きく変動する。でも基礎が80あってそれを技術で90まで伸ばした場合、点数は安定して出る。春紀は特に中学時代あまりちゃんと出来てなかったから中学の範囲も少し復習させてくれるような問題を今はやっておいた方がいいよ」美夏の言うことはもっともだった。
 
ボクらは本屋さんを出た後、お化粧品コーナーで安いマニキュアを物色し、それからアクセサリーショップで髪飾りを見てから、美夏がひとりで捜したいものがあるからというので、ボクだけ先に戻った。
 
さっそく問題集に取り組むが、確かにやってみると自分がまるで基礎ができていないことが分かる。その問題集には、各分野の問題の前に基本的な事項がまとめてあったので、それを確認した上で取りかかることにした。分数の計算など、まるで分かっていなかったが、こないだ美夏が分数同士のわり算のやり方と約分の仕方を教えてくれていたので、今まで勘?で解いていたような問題が納得して解けるようになっている。因数分解も公式で覚えるのではなく、理屈を理解して解きなさいと言われていたので、そうやってみる。時間はかかるけど、何とか解けていくのを見て、ボクは自分の進歩を感じていた。
 
古文も、美夏が「これだけは絶対覚えなさい」と30個くらいの単語をリストアップしてくれたものをしっかり頭に入れると、ウソのように文章を読んで意味が取れるようになってきていた。中学時代は全てが曖昧なままだった。それでようやく動詞の活用形などが頭に入り始めていた。ボクは夢中になって問題集を解いていたので、美夏が帰ってきていることにも全然気づかなかった。ドアを随分叩かれて「伯母さんが御飯だってよ」という美夏の言葉で、やっと我にかえった。こういう集中力というのは、おちんちんが付いていた頃には経験がなかった。
 

ゴールデンウィークが終わりまた学校が始まる。中旬には中間試験があるが、その前に身体検査があった。ボクは何とか女の子に見える体つきになってきているので「4月すぐでなくて良かった」という感じだったが、その日の朝美夏にそのことを言うと「メンスのこと聞かれたら、半月くらい前にあったことにしておくといいよ」と言われた。
 
「メンスって?」とボクは何も考えずに聞くと美夏は天を仰いた。「お願いだから『メンスって何ですか?』なんて人前では聞かないでよね。バレちゃうよ。メンスは月経、生理。1ヶ月おきに女の子に来るお月様の使者よ」「あ、月経のこと。メンスともいうんだ」「ドイツ語でメンス。正確にはメンシュトルアチオンだけど、それは長いから略してメンス。明治の女学生あたりが言い出したんじゃないかな。昔の女学生って学があったから。で、メンスは定期的に来ていますか?と聞かれたら『はい』と答えておけばいいから」
 
「メンスって定期的に来ないこともあるの?」「十代の内はまだ女としての体がきちんとできあがってないからね。不安定な人もよくいるよ」「あぁ、それが生理不順という奴?」「そう。10日で来ちゃったり、60日くらい来なかったり」「妊娠すると来なくなるんだよね」「そう。でも元々生理不順の人の場合は、さっぱり分からないよね」「あ、ボクこないだ美夏を妊娠させてしまってないかな」美夏はまた天を仰ぐ。「おちんちんが無いんだから妊娠させられる訳無いでしょ」「あれ、そうなんだっけ」「今日帰ってきたら、ゆっくり性教育してあげるから、今日は頑張って行っといで」
 
実際、美夏に事前教育を受けていたおかげで助かった。実際に定期的に来ているかは尋ねられた。しかし女子の身体検査はいい。男子の場合、中学の時は、みんなパンツひとつにされてズラっと並ばされたが、さすがに女子の場合は着衣で並び、身長と体重は着衣のまま量る。そして健診は一人ずつカーテンの中に入って、一人前の子が健診を受けている間に次の子が服を脱ぎ、服を着ている間に次の子の健診が始まるという流れでボクのヌードは前後の女の子だけにしかさらさずに済んだ。ボクの後ろの子・西川さんなどチラっと見た感じ、ボクよりも胸が小さい感じだった。
 
その西川さんから放課後つかまってしまった。
「鶴田さん。私、鶴田さんのオッパイ見ちゃった」
「ボクも西川さんのオッパイ見たよ」
「ね、オッパイ小さい子同士で仲良くしない?」
「それは構わないけど、先に大きくなったら御免ね」
「うん。それはいいよ。この年までこの胸だったということで連合よ」
「じゃ連合」
「中学時代はいつもペチャパイって馬鹿にされてたから」
「ボクは全然気にしてなかったけど。あ、春紀って名前で呼んでいいよ」
「うん。私も玲子って名前で呼んで」
「うん」
「でも春紀っていつも自分のことボクというの?」
「うん、小さい頃からそうだったから」
「いいな。そういうの。ボーイッシュで」
「親が気にしなかったからだろうね。それから胸の大きさなんて人それぞれだし。特に、十代の内は身体の成長速度がみんな違うから、今小さくても将来巨乳になる人もあるかもよ」
と、これは美夏からの受け売りだ。
「そうだよね。私ももっと自信持って良いのかな」
「そうそう。男子なんて皆ペチャパイだよ」
「ほんとだ」
西川さんは少し嬉しそうだった。
 

その夜は、美夏が実家から持参していた百科事典の人体解剖図の所をボクに見せながら、女の子の性器の構造と仕組み、月経が起きる仕組みと妊娠の仕方、その前段階としての性交についてなど1時間くらいかけて説明してくれた。「じゃ、ボクには子宮も卵巣も無いから妊娠できないんだね」「そうね」
「美夏を妊娠させるには冷凍保存しているおちんちんと睾丸をくっつけてもらってから、性交をしないといけないんだ」「そうね」「じゃ女の子同士で結婚しても子供はできないのね」「そうよ。やっと分かってきた?」「じゃ、男同士や女同士の結婚が少なくて、たいていみんな男と女でしているのは、子供を作るため?」「うーん。子供目的で結婚する人もいるけど、むしろ男と女で好きになることが多いからじゃないの」「どうして?男は男同士、女は女同士の付き合いの方が多いのに」「多分、人間の本能に組み込まれているのよ」「そうか。結局人間って案外本能に忠実なんだね」
 
「ところで、こないだのコンドーム使ってみようよ」「え?どうやって?」
「じゃーん」美夏が取り出したのは鉛筆型の大きな消しゴムだった。直径が2cmくらいある。「ちんちんって多分このくらいの大きさだよね」「うーん、もう少し大きいかも」「うそ、もっと大きいの。しまった。でもこれをチンチンと思ってかぶせて見ようよ」
 
ボクは机の引き出しからこないだのコンドームを取り出し、封を切っているものを中からとりだして、かぶせてみようとしたが、最初は上下を間違い、うまく付けられないな、などと苦労した。その内逆であることに気づき、無事、消しゴムはコンドームをかぶせられた。
 
「難しいんだね」「多分なれればサッとできるようになるんじゃないかな」
「ヌルヌルしてるよ」「入れやすくするためでしょ。摩擦があったら入れられる側が痛いもん」「そうか」「じゃ入れてみよう」「どこに?」ボクは美夏の提案にびっくりした。
 
「もちろん春紀のあそこによ」「え、でもボクは膣ないよ」「もうひとつ、その近くに穴があるでしょ」「えー?まさか」「直腸と膣は元々発生学的にはおなじものが分離してできているの。同じ組織でできているから、入れられるんだよ」「ちょっと待って。だってあんな物が出てくる場所に」「だからコンちゃんも付いてるし。それとも、私の膣に入れた方がいい?」「そんなのダメ。そこはボクのおちんちんが戻ってくるまで進入禁止」「だったら、春紀のそこに入れるしかないよ」「ひゃー」ボクは諦めて美夏に全てを委ねた。ボクはそのあと2日くらいお尻が痛かった。
 

中間試験は自分なりにうまくできた気がした。ただ時間が足りない感じで半分くらいの問題しか解くことができなかった。結果は学年325人中で254位。入試の状態からすると大きな進歩だ。成績表はひとりずつ個室で手渡されたが、解いた問題の正答率が高いことを褒められた。
 
中間試験が終わって間もない頃、ボクはまた新しい体験をした。廊下を級友と歩いていた時、曲がり角から突然男の子が飛び出して来て、ボクに白い封筒に入った手紙を差し出した。「えっと」とボクが戸惑っていると「読んで下さい、ということよ」と級友が言う。ボクは訳が分からずに受け取って封を開けると、中には白い便箋があり、太い油性マジックを使いゴツい下手な字で「好きです。付き合ってください」と書かれていた。ラブレター!ボクはやっと分かったけど、これは受けられない。「御免。ボクもう付き合っている人がいるから」
男の子はショックを受けたようで、すごすごと引き上げていった。撃沈したな、などという別の男の子の声がしていた。
 
しかし男の子からラブレター貰うなんて。ちょっとドキドキする体験だ。そういえば中学時代、自分でラブレター書いたことはないけど、クラスの男の子が告白しようとしているのをみんなで応援したことなどはあった。あんな感じなのかな。「へー、鶴田さん、付き合っている人いるんだ」と一緒にいた級友が驚いたように言う。「うん。ほとんど婚約しているというか。でも、高校卒業するまでは封印中」あまりその点は突っ込まれたくない問題だ。「すごーい。もうHした?」「うん、まぁ」そのあたりもあまり突っ込まれたくない問題だ。「すごい!勇気あるんだね」ボクは曖昧に微笑んでおいた。しかしボクに付き合っている人がいる、ということにしておけば、男の子との面倒なことにもできるだけ巻き込まれずに済みそうだ。こういう噂が広まるのは問題ない。
 
家に帰ったら、母が来ていた。「あなた、ゴールデンウィークも帰ってこなかったから様子を見に来てみたのよ」と言う。「うん、宿題がどっさりあったし」
「うん、勉強しているのはいいことだわ」「美夏がすごく勉強の仕方の要領、教えるのうまくて、それで中学時代にもよく分かっていなかったことが少しずつ分かるようになってきたんだ。中間試験も、時間が足りなくて全部は解けなかったけど、解けた問題はほとんど正解だったんだよ」「すごい、本当によく勉強してるね」「うん、集中してできてるよ。そう、そもそも最近ものすごく集中できるんだ。そのことが一番大きい感じ」母は満足そうだった。
 
「それにしても、あなた随分女の子っぽくなったんじゃない?」伯母さんが口をはさむ「そうそう。私も男の子だということを、時々忘れてしまいますよ。美夏ちゃんと一緒にお化粧なんか練習しているみたい」「美夏ちゃん、大事にするのよ」「うん、大事にしてるよ」
 
伯母が台所に立っている間に、母はボクのそばによってきて胸にさわった。「かなり、こちらも成長してるわね」「うん」ボクはちょっと俯いて返事した。
「大丈夫。ユミからも聞いてるし。あ、薬の代金は払っておいたから。でも、私も汚らしい息子より、可愛い娘のほうがいいわ。このままずっと女の子のままで、いてくれてもいいわよ」「美夏と結婚したいから、3年後には戻るよ」
「仕方ないわね.....あぁ、美夏ちゃん、いっそあなたが女の子のままで結婚してくれないかしら」「そんな無茶な」
 
結局、母はボク用にといって、可愛らしいワンピースやスカートを数着置いていった。「確かに、こういう服を着れるというのはいいことだけど」とボクはその服を手にとって思った。男に戻るとこんな服も身につけられないし、お化粧とかもできないんだろうな。ボクは初めて、女の子の良さというものを考えていた。
 

6月には実力試験がある。中間試験や期末試験はその時期に授業でやった内容が出るが、実力試験はそれとは無関係に出題され、また全国の姉妹校で一斉に行われてその中でのランキングも発表される。ボクは手応えとしては中間試験と似たような感じだったが、やはり範囲が限定されていないことで、あまりできなかった人が多かったようだ。点数自体は中間試験より少しいいくらいだったが、ランキングは校内で94位、全国では3408人中765位だった。参考合格可能校として国立大学を5ランクに大別した内の4番目のグループが挙げられており、校内のランキングで2桁が出たことも合わせてボクは自信を深めた。
 
美夏は相変わらず勉強の仕方をよく教えてくれる。美夏としてはボクに教えることで自分の勉強と、また勉強のための刺激にもしている感じだ。「美夏の学校ではどんな雰囲気?」「進学する気のある子自体が少ないみたい。行く気のある子にしても、あまり上の方は狙ってないね。2年になれば進学考えている子をまとめて1クラス編成するみたいだけど1年の間にどれだけテンションを維持するかは課題だぁ」美夏はボクが受けた実力試験の問題も見て、自分で解いてみていた。そして一緒に問題について検討する。おかげでボクは時間が足りなくて解いていなかった問題もよく勉強することができた。
 
二人のナイトライフ?のほうも順調だった。ボクらは毎週土曜の晩を睦み合う日にしていた。その日だけは美夏がボクの部屋に来て一緒に抱き合って寝る。ボクらはキスし合い、体中を触り合って気持ちいい雰囲気にひたった。やがて美夏は指だけでなくお互いの口で刺激し合うことを提案してきた。大人の人達って、そういうこともするらしい。最初はすごく抵抗感があったけど、されると気持ち良かったから、美夏にもしてあげた。ボクらは色々な体の姿勢も試してみていた。美夏がどこで調達したのか「ビアンの体位」と書かれた写真入りの雑誌の切り抜きを持ってきてボクらはそれにも挑戦した。貝合せというのは優雅な名前の割に疲れるだけであまり面白くなかった。シックスナインというのは気持ち良かったが上に乗っている側が疲れる。ボクらはジャンケンで下になる方を決めた。しかし結局は普通に身体を合わせて指や舌で相手の敏感な部分を刺激し合うのが一番楽しかった。
 
「ところでビアンて何?」「女の子同士で愛し合うことよ。レスビアンの略で昔はレズと略してたんだけど、差別的に使われることが多くて、最近はビアンと略すのが正しいと言われてるの」「そうか、ボクたち女の子同士だもんね」
「うん。でも春紀、クリトリスがあるわけでもないのに、やはりこの辺感じるんだね」と美夏が面白そうに言う。
 
そう、美夏の割目の中、上の方に一ヶ所コリコリした感じの部分がある。美夏が人体解剖図の女性生殖器の所の図を見せて、これがクリトリス、日本語では陰核、俗語ではサネというものだと教えてくれた。それが男の子のおちんちんに相当するもので一番感じやすいんだって。確かに美夏のそこを指や舌で刺激してあげると、美夏は本当に気持ち良さそうにしている。ボクにはそんなもの付いていない。割目の中にはおしっこが出てくる部分があるだけだ。でもそのボクでも、女の子のクリトリスのある付近を刺激されると確かに気持ち良かった。ひょっとしたら切り取ったおちんちんの付け根があった付近で神経が集中してるのかも知れないと言われた。ボクは一度一人でその付近を指で刺激してみたけどよく分からなかった。気持ちいいような気もするけど、美夏にされる時ほどじゃない。
 
土曜の晩のボクたちの熱い時間はいつも2時間くらい続いていたような気がする。いつも最後はボクがいつの間にか眠っていて、朝起きた時には美夏は自分の部屋に戻っていた。だからボクはいまだに美夏の寝顔を見ていない。
 
ボクのバストは順調に育っていた。5月頃はまだAカップのブラジャーが少し余っていたけど、それが6月の下旬頃には少しきつくなってきた。そろそろBカップ買わなきゃかな、という気がしてきていた。体つき全体も自分の感覚として変わってきた。以前より少し筋肉が落ちて手足が細くなった気がする。それでいてあちこちに脂肪が付いて、全体的に丸みを帯びた身体になってきた。ボクのヌードを毎週見ている美夏も「どんどん女の子らしくなってきて、可愛いよ」と言ってくれた。時々自分が本当は男だということを忘れてしまいそうだ。
 
ヒゲは4月頃は毎日丁寧に抜いていて、自分で抜きにくい所は美夏に抜いてもらっていたのだけど、それがめっきり少なくなってきた。女性ホルモンを取っているからといって直接ヒゲには関係ないらしいけど、やはり何らかの影響はあるのだろう。生えてくる毛自体も細くなってきていて6月末頃には「女の子の産毛の処理と同程度だね」と美夏に言われるほどになっていた。手足の毛はもともと薄かったが、この頃には週に1度程度の処理で構わない程度になってきていた。
 

7月期末試験。この頃にはボクは授業の内容はほぼ完璧に理解できるようになっていた。授業中に当てられても、だいたい的確な答えができることが多かったし、当てられた人が分からないと言った時にピンチヒッターとして指名されることも科目によっては出てきた。
 
試験は例によって解いた問題についてはかなりの自信が持てた。中間試験の時は半分くらいしか解く時間が取れなかったけど、今回は8割くらいまで解くことができた。少しずつスピードアップしているようだ。結果は323人中で140位。前回より100位以上も成績をあげていた。だいたい全体の真ん中付近か。このハイレベルの学校の中でこの成績というのは、中学時代のボクからすると考えられないことだった。
 
やがて終業式を終えて夏休みに入る。夏休みも補講が開かれるので、出る手続きをしたが、始まるまで約2週間ある。ボクは美夏と一緒に帰省した。そして今回は母と一緒に桜木クリニックを訪れた。
 
「かなり女の子らしい体型になってきたね。順調順調。今はだいたい中学1年程度の女の子らしさだけど、このままホルモンをとり続けていれば、今年中には今の年齢の女の子らしさに追いつけそうだね」
 
ボクはちょっと複雑な気分だが、母は何だか嬉しそうな顔をしている。
 
「ブラジャーは今何付けてる?」「Aです」「もうBを付けていいよ。寄せて集めればちゃんとBが埋まるから。多分正しいブラジャーの付け方はあなたのママより美夏ちゃんの方が知ってるだろうから習うといいね」「あ、はい」
 
「ねぇ、ユミ、この子の喉仏なんだけど」「あぁ、邪魔よね。これだけ女の子らしければ誰も気にしないだろうけど、変に思う人が出てこないうちに取っちゃおうか」え?え?
 
「先生、それ取ってから後で戻せるんですか?」とボクはおそるおそる聞く。「戻せないけど、別に喉仏なんて要らないでしょ。さ、手術手術」ボクは有無をいわさずベッドに寝せられ、麻酔を打たれた。
 

手術後、数日間はあまり声を出さないようにと言われた。ボクは退院したあと家でお風呂に入り、あがったところで自分のヌードを大きな鏡に映してみた。
 
本当に体型がとても女の子らしくなってきている。胸は膨らんでいるし、肩はもともとなで肩のほうだったし。おまたの茂みの中におちんちんは無い。その中で実は自分としては唯一自分が男の子である証と思っていた喉仏も削られてしまった。今のボクを見て、男と疑う人は誰もいないかも知れない。ボクは大きくためいきを付いた。ボクこのままどうなっちゃうんだろうな。
 
ボクの部屋は母の手によってすっかり女の子らしく改装されていた。可愛いカーテンが引かれ、ベッドカバーなどもピンク系の花柄に変えられている。小型のドレッサーも置かれていた。でも美夏の叔母さん家のボクの部屋も、そちらは美夏の趣味で、似たような状態にされている。ボクはどっかと床に腰を落とすと、いつか無意識にドレッサーの鏡を見ながら、肩まで伸びた髪の毛を手で梳いていた。その自分を発見してハッとした。ボク、本当に男の子に戻れるんだろうか。でも、そんな不安よりも、自分の中にもっと女の子らしい生活を楽しんでみたいという好奇心も強く存在していた。
 
母は「女の子なら、こういうのも必要よね」などと言って、料理の基本を教えてくれた。家庭科では失敗ばかりして、ボクはもっぱら掻き混ぜたり皿に盛ったりといった作業ばかりしていたが、少し覚えてくると何だか楽しくなってきた。ボクがそう言うと、母はまた嬉しそうな顔をしていた。この頃になって、ボクはやっと母が自分を本当の女の子にしたがっているみたいと分かってきたが、今はそれに乗せられているのもいいかな、という気がした。
 

8月に入ると学校の補講が始まるのでボクはまたY市に出て美夏の伯母の家にお世話になった。補講は完全に成績別のクラス編成である。ただ、補講なので全員が受ける訳でもない。塾の合宿強化コースに参加している子も多い。特に上の方を目指している子ほど学校より塾を重視しているので、期末試験の成績はボクは140位だったが受講者中では58位ということで4つに分けられたクラスのうち上から2番目に入れられた。教材はそのクラスごとに水準が違う。旧帝大の医学部以外を受ける人向けということで、ボクが志望校に書いていた大学もだいたいそのレベルなので期待していたが、さすがに「難しい!」と思ってしまった。しかし、これが分かるようにならなければならない。
 
3日目、補講が終わってグッタリして下宿に戻ると、なんと美夏が来ていた。「どうしたの?」「うん、春紀のこと愛してるから追いかけてきた」ボクもこの程度の言葉のキャッチボールには慣れてきた。「ボクも美夏のことが寂しくて、夜眠れなかったよ」「寝苦しいのは暑いからじゃないの?」「美夏も実際はどうなのさ?」「それは....」
 
と言いかけた所に伯母さんが入ってきた。「あ、お帰りなさい。実はね、伯母ちゃん、急に旅行に行くことになって」「山川の叔母さんの所が夫婦で一週間九州に旅行する予定だったんだけど、叔父さんが風邪でダウンしちゃってさ。それでチケットがもったいないから誰か代わりにということで、遼子伯母さんが行くことになったのよ」「それで、一週間ここを留守にするから、誰かここのピンチヒッターをと思ったら、美夏ちゃんが一週間家事とかしてくれる、というから。だって、あなたのことを説明するのに他の人だと面倒だし」それは確かにそうだ。こんな遊びを太っ腹に許してくれる人はそうそういないだろう。
 
「じゃ一週間ボクと美夏と二人?」「そう。私も新妻の予行練習かな」「でも二人とも羽目を外しすぎないようにね。あれを......」「うん、伯母ちゃん、する時にはちゃんと付けさせるよ」「特に夏は開放的な気分になるからね。9月はどこの産婦人科も高校生の患者さんが多いというし」その心配だけは無いんだけどなと思ったが、まぁいい。
 
叔母さんが明日からの旅行用の買物に出かけたあと、美夏が補講の教材を見たがったので見せると「おぉハイレベルだ」と美夏もびっくりしているようだった。「全部分かる?」「実は先生の言っていることが半分くらいしか分からない」「だろうね。補講は毎日2時くらいまでなの?じゃ、そのあと私と一緒に勉強しようよ」美夏に教えてもらえるのなら万々歳だ。ボクはそれからブラジャーの付け方を教えて欲しいと言った。Bカップのブラジャーは向こうで母がたくさん買ってくれたのだが、普通に付けるとやはりけっこう余る感じがする。
 
上半身裸になるように言われる。「うーん、半月見なかった間にも着実に成長してるな。そのうち、私が追い抜かれるかも」などと言う。美夏はCカップを付けている。「それは無いと思うけど」と言うボク。でも確かに夏休みに入ってからも大きくなってきている感じはする。ちなみに帰省している間は飲み薬はやめて週に2度注射を打ってもらっていた。そして、こちらに来る時に12月までの分の薬をもらって来た。
 
美夏はボクに身体を前に倒すように言い、ボクは美夏に言われる通りその状態でカップにバストを納め、後ろのホックを留めた。そして、前のめりになったままの状態で、バストの周辺の肉をカップの中に集めた。「OK。それで起きてみて」なるほど。確かにこれだとカップが余っていない。まるで魔法のようだ。美夏にそう言うと「女の子はみな魔法を使っているのよ。春紀も少しずつ、そういう魔法を覚えていかなきゃね」と言われた。
 

それからの一週間は、美夏は朝ボクをキスで起こしに来て御飯を作ってくれ、午前中に買物に出かけて午後になってボクが戻ってくると一緒にその日の教材で勉強するという日々になった。夕食は美夏に教えてもらいながら毎日ボクが作った。夜は一緒のベッドに寝たが、敢えて「H」はしなかった。正直、ボクは美夏とくっついて寝て、そのまま朝まで美夏がいてくれるだけで、ものすごく嬉しかった。
 
美夏に教えてもらっているお陰で、最初は大きな壁に感じた教材も次第に理解が深まってきた。一週間後、伯母が戻ってきたが美夏はボクの勉強に付き合いたいと言って、そのまま居座ることにしてくれた。ただし伯母が戻ってきたので美夏にとっての「新妻の予行練習」は終ったようで、ボクらは夜は別の部屋で寝る生活に戻った。お互いの部屋に入るのも「1日に1度だけ」という制限についても、叔母さんはもう強制するつもりは無くなっているようだったが、ボクらは遵守していた。午後の二人で一緒に教材を勉強するのも居間を使ってしていた。美夏は午前中が暇なので、ファーストフードのバイトの口を見付けてきた。午前中、お店で仕事をして、帰ってきて一息付いているくらいの頃にボクが帰宅してくる。美夏にとっても充実した夏休みになっているようだった。
 
補講は夏休みが終わる一週間前に終わった。補講の最後には実力試験が行われたが結果が発表されるのは2学期だ。美夏はバイトを夏休みが終わるまで続けるというのでY市に残ったが、ボクは一週間だけ帰省することにした。
 
帰るとまた桜木クリニックで健診を受け、注射でホルモンを打たれた。正直、こちらの方が楽な気がする。飲み薬は毎日飲まなければいけないので結構面倒。
 
実家ではボクは母と二人で「母娘」を演じながら、夏休みの宿題を頑張って書いていた。宿題は1月半かけてする程度あったのだが、7月の内はまだ先があるからと放っておいた。ところが補講の間はそれで精一杯で手が回らなかったのである。ボクは朝から晩まで問題に取り組んでいたが、今までになくスムーズに解けていくのを感じていた。自分なりにかなり力を付けてきていることを意識した。
 

夏休みをあと2日残した所で、宿題はほぼ片づきつつあった。ボクはそろそろY市に戻ることを考えながら残る問題に力を入れていた。2時すぎに少し遅い昼食を母と取っていた時、突然玄関で呼び鈴が鳴る。「あ」という戸惑ったような母の声にそちらを見ると、なんとお嫁さんに行っている姉だった。
 
「仕事で近くまで来たから寄っちゃった」と言って勝手に上がってくる。「お盆には田代さんが忙しくて帰れなかったしさ」と言って居間まで来てボクと視線が合ってしまった。ボクは逃げようが無かった。今日も母の命令できれいにお化粧している。Y市にいる間は、基礎化粧品にリップクリームくらいなのだが、こちらにいる間はフルメイクをさせられていた。
 
「あ、御免なさい。お客さんだった。えっと誰だったっけ、この辺まで出かかっているんだけど」と姉が言う。見慣れた弟の顔だから見覚えがあるのは当然だが、まさか弟がお化粧しているなどとは思いもよらないだろう。しかも可愛いピンクのフリルの付いた服とフレアスカートを履いている。
 
「そうそう。春紀はT高校行ったんだって?よくあの子の頭で、あんな進学校通ったよね。でも、一番下でヒーヒー行って付いていってるんじゃないかって心配しちゃうわ」
 
と姉は母に向かって言いながら、バッグの中からおみやげらしきものを取り出す。そしてそう言いながらボクの方を見ていた。
 
「あ、ごめんなさいね。お食事中でしょ、食べてて、食べてて。私この家の長女で優子と言います。そうか、あなた、うちの弟に似ているんだ。あ、ごめんなさいね。男なんかと似ているなんて言って。あなた美人だし.....って、まさか春紀?」
 
姉はやっと気づいたようだった。ボクは大きく肩で息をして「うん」と頷いた。
 

母が、美夏さんと一緒の下宿に入れるのに女装させていると説明したが、姉はそんなお馬鹿な説明など一蹴した。
 
「単なるお母さんの趣味でしょう?それより、春紀あんた本当にそんな格好してていいの?」
「あ、結構気に入ってるよ」
 
姉は呆れたという顔をする。
 
「確かに赤ちゃんの頃は私のお下がりの女の子の服ばかり着せてたしね。4〜5歳頃はスカート姿で、それこそ美夏ちゃんたちと遊んで回っていたよね。そういう素質あったのかも知れないけど。でもまさか、その格好で学校行っているんでしゃないよね?」
 
「行ってるよ。一応女の子で通ってしまっているみたい。別にボクは自分で女ですなんて一度も言ってないけど、自然に体育なんかも女の子と一緒に受けさせられてるし」
「そりゃ知らなかったら、この格好している子を見て男とは思わないよね。で、あんたこのまま性転換でもしちゃう気?」
 
「高校に行っている間だけだよ。卒業したら男に戻るよ」
「ふーん。でもまぁ、あんたの人生なんだから自分でよく考えなさいよ。母さんの意志じゃなくて、あんたの意志で、男に戻るか女になっちゃうか決める。そうね。高校卒業するまでに。その頃までにどっちにするのか決めておかないと、その年齢より後で性別を変えるのはすごく大変らしいから」
 
姉は母を追い出して、ボクと二人だけで今のボクの状況について詳しく聞き出した。ボクは仕方なく全てのことを話した。おちんちんは今取られていて冷凍保存中であること、女性ホルモンを取っていてバストが結構膨らんできていること、でも美夏とは良好な関係を保っていること。姉は半ば呆れながら聞いていたようだったが、ズバリと重い一言を発した。
 
「あんた、もう女の子になる道をまっしぐらに歩いているね。多分もう男の子には戻れないよ」
 
と。ボクが高校卒業したらちゃんとおちんちんを復活させて男に戻り美夏と結婚するつもりだと言うと、姉は
 
「多分その頃はもうあんた男に戻る気なんか無くなっているって。正式の女性器を形成することになるんじゃないかな」
と言った。
「でも、ボク美夏と結婚したい」
 
姉はしばらく考えていた。
「私は美夏ちゃんの気持ちは分からないけど。確かに美夏ちゃんあなたのこと好きなんだろうね、そういう話だと」
と言ってから
 
「でも、あんたが男に戻る気がないと分かったら、気が変わるかも知れないし。その時に美夏ちゃんが別の男の子を選んだとしても、あんたにはそれを止める権利はないということだけは認識しておくことね」
と言った。
「でも美夏ひとすじで、彼女のことを信じ切っていてもいいと思う?」
と聞く。
 
「それは構わないし、そうしてあげるべきだね。少なくともあんたにはもう選択権は無い。美夏ちゃんの気持ちひとつ。だから、あんたは間違っても他の男の子あるいは女の子を好きになったりはしないこと。それも大事なことだよ」
「うん」
 
ボクは姉と話してすこし気持ちが楽になった気がした。
「それから、悩み事があったら母さんじゃなくて私に相談しなさい」
と言って姉は自分の携帯の番号を書いたメモをボクに渡した。
 
ボクは予定を1日早めて翌日の夕方Y市に戻った。美夏の顔を見るともう離せないという気持ちになり、思わず抱きしめて強いキスをした。
「どうしたのよ」
 
美夏は優しくボクに抱かれるままに任せてくれた。
「ボク美夏と結婚したい」
「私も春紀と結婚したいよ。でも男の子は18歳まで結婚できないから、高校卒業まで待とうね」
「でも今ボク女の子だよ」
 
「戸籍上は男の子でしょ。女の子に修正してしまう手も無いことはないけど、今度は女の子同士では結婚できないよ」
「でも女の子同士で結婚する人もいるって、美夏言ってたよ」
 
「それは事実婚ね。籍は入れられないの、日本の法律ではね。国によっては認められるんだけど、日本の法律はまだそこまで進んでないから」
「そうか。面倒なんだね」
ボクはちょっとだけ笑顔が出た。その夜美夏は自分が上になってシックスナインをしてくれた。
 
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【受験生に****は不要!!・承】承諾なんて無用?